この夏の旅のために買った、大きな革のトランクだが、丁度、身近に置ける小さな本箱を探していたこともあって、普段も仕舞い込まず、そういう使い方をしてやろうと考えた。都合良く、非常持ち出しもできそうだ。
文筆に携わる人が、よく、手近な資料をまとめておく本棚を机周りに据えるが、ぼくの目的はちょっと違っていて、胸を患って自由に起き上がれなくなった晩年の堀辰雄が、いつも身近に置いておきたい愛読書を集めた本箱を枕元に用意したが --- まさに枕頭の書である --- あの真似をしてみたいとかねてから目論んでいたのだった。
トランクは相当大きく、いきなり一杯にはできそうもないが、とりあえず頭に浮かぶ収蔵書を書き抜いてみることにする。勿論、順不同である。
『スウィス日記』『ハイランド』 辻村伊助
『ロラン・バルトによるロラン・バルト』 ロラン・バルト
『鳴り響く星のもとに --- ヴィルヘルム・ケンプ自伝』 ヴィルヘルム・ケンプ
『写真の秘密』 ロジェ・グルニエ
『アーロン捕虜収容所』 会田雄次
『論理哲学論考』 ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
『イワナの夏』 湯川豊
『シナリオ構造論』 野田高梧
『聯隊史』 陸軍歩兵第五十八聯隊
『バーナード・リーチの日時計』 C・W・ニコル
『氾濫』 伊藤整
『能登 / 人に知られぬ日本の辺境』 パーシヴァル・ローエル
『晩夏』 堀辰雄
『帰りたくない!』 茶木則雄
『霧の旅』 松井幹雄
『軍隊調理法』 陸軍省
『澁江抽斎』『北條霞亭』 森鴎外
自分の読書体験とは、こんな程度ものだったかと思う反面、こんな程度に留めておいて良かったとも思う。
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