
昔なじみの鮨屋が電話をよこしてきて、どうやら今年最後になりそうな『のれそれ』が入ったのでお知らせしましたという。
夏の日盛りに喉を気持ち良く滑り落ちる『くずきり』にも似た、その食感は、日本の季節の微妙な狭間を感じさせてくれるものだ。『のれそれ』を食べる機会を逸した年は、夏の猛暑に見舞われる頃まで忘れ物をしたような気持ちが尾を引く。『初鰹』や『かすご(春子)』を食べそびれても、そんな気持ちにはならないのだが...。なにか自分の知らない因縁があるのかもしれない。
ということで、例年どおり水口イチ子を誘って出かけるのだが、ぼくがそれにこだわるわけを彼女は未だに知らない。ぼくは蕎麦だの饂飩だの、細くて長い物が好きだから、『のれそれ』もその細くて長い物というくくりの延長にあるとでも思っているのだろうか。
David Pack / That Girl Is Gone