三年付き合って、結婚の約束までした女を、ふった。
「いったい、なんだって言うのよ!」
と女は叫ぶ。
理由は単純だ。
もっといい女といい仲になったからだ。
男だったら乗り換えるのは当たり前だろう。
「プロポーズしてくれたじゃないの!」
確かにしたが、それは夜のベッドの上での口約束だ。
「そんなことを言った覚えはないなあ」
女が掴みかかってきたが、逆に殴り返し、倒れたところを何度も蹴り上げた。
何回蹴ったのかわからなくなった頃、もがき、苦しみ、叫んでいた女が静かになった。
女をそのままにして立ち去ろうとした時、女が言った。
「呪ってやる」
小さくか細い声だったが、そう聞こえた。
俺は思わず笑ってしまった。
俺はもともと呪いとかそういう類のものを、信じていないのだから。
しかしその日から、俺を取り巻く環境が大きく変わった。
最初は気のせいかと思った。
狼一号
ちょっと目を離した隙に、マグカップの位置が変わっている。
閉めたはずの戸が開いている。一人住まいなのに、時折妙な音が聞こえてくる。
しかし次第に、気のせいではすまない状況になった。
押入れが開き、そこから血まみれの女が顔を出す。
気付けば少女の首がテーブルの上で俺を睨んでいる。
首のない男の子が走り回る。
そのうちホラー映画のゾンビのような奴も出てくるし、なんだかわからないぬめぬめした大きな化け物まで出現する始末だ。
夜になると現れるそいつらは、俺が部屋にいようが人ごみの中にいようが、どこにいても集団で付きまとってくるようになった。
周りの人には見えていないようで、そいつらに反応する者は誰一人いなかった。
おまけに見えるだけではなく、頭を殴ったり、髪の毛を引っ張ったり、耳を噛んだりと、物理的な接触まで絶え間なく仕掛けてくるのだ。
新しい女との夜の儀式の最中にもかまわずやってくるので、それどころではなくなってしまう。
「もう、いったいどうしたのよ」
何度も失敗し、呆れた女は俺の元を去った。
壮根精華素
ここにきて初めて、俺は前の女が「呪ってやる」と言ったことを思い出した。
俺は女に連絡を入れた。もちろん、こんなことを止めさせる為だ。
「俺が悪かった。だからこれをなんとかしてくれ」
女が鼻で笑うのが、携帯ごしに聞こえた。
「私はもういいかなと思ったんだけど、おばあちゃんが、こいつは一生許さないと言ってるわ」
「おばあちゃん?」
「そう。死んでからも私をずっと守っていてくれるおばあちゃんよ。今はあんたの所にいるわ」
「おばあちゃん……だけか?」
「そう。おばあちゃんだけよ。あんたの所へ行ったのは」
「でもなんかいっぱい、出てきたぞ」
「おばあちゃんはね、一つだけ特別な能力があるの」
「能力?」
「そう。よくないものを好きなだけいくらでも集めることが出来る、と言う能力がね」
そう言うと、女は笑った。
「いったい、なんだって言うのよ!」
と女は叫ぶ。
理由は単純だ。
もっといい女といい仲になったからだ。
男だったら乗り換えるのは当たり前だろう。
「プロポーズしてくれたじゃないの!」
確かにしたが、それは夜のベッドの上での口約束だ。
「そんなことを言った覚えはないなあ」
女が掴みかかってきたが、逆に殴り返し、倒れたところを何度も蹴り上げた。
何回蹴ったのかわからなくなった頃、もがき、苦しみ、叫んでいた女が静かになった。
女をそのままにして立ち去ろうとした時、女が言った。
「呪ってやる」
小さくか細い声だったが、そう聞こえた。
俺は思わず笑ってしまった。
俺はもともと呪いとかそういう類のものを、信じていないのだから。
しかしその日から、俺を取り巻く環境が大きく変わった。
最初は気のせいかと思った。
狼一号
ちょっと目を離した隙に、マグカップの位置が変わっている。
閉めたはずの戸が開いている。一人住まいなのに、時折妙な音が聞こえてくる。
しかし次第に、気のせいではすまない状況になった。
押入れが開き、そこから血まみれの女が顔を出す。
気付けば少女の首がテーブルの上で俺を睨んでいる。
首のない男の子が走り回る。
そのうちホラー映画のゾンビのような奴も出てくるし、なんだかわからないぬめぬめした大きな化け物まで出現する始末だ。
夜になると現れるそいつらは、俺が部屋にいようが人ごみの中にいようが、どこにいても集団で付きまとってくるようになった。
周りの人には見えていないようで、そいつらに反応する者は誰一人いなかった。
おまけに見えるだけではなく、頭を殴ったり、髪の毛を引っ張ったり、耳を噛んだりと、物理的な接触まで絶え間なく仕掛けてくるのだ。
新しい女との夜の儀式の最中にもかまわずやってくるので、それどころではなくなってしまう。
「もう、いったいどうしたのよ」
何度も失敗し、呆れた女は俺の元を去った。
壮根精華素
ここにきて初めて、俺は前の女が「呪ってやる」と言ったことを思い出した。
俺は女に連絡を入れた。もちろん、こんなことを止めさせる為だ。
「俺が悪かった。だからこれをなんとかしてくれ」
女が鼻で笑うのが、携帯ごしに聞こえた。
「私はもういいかなと思ったんだけど、おばあちゃんが、こいつは一生許さないと言ってるわ」
「おばあちゃん?」
「そう。死んでからも私をずっと守っていてくれるおばあちゃんよ。今はあんたの所にいるわ」
「おばあちゃん……だけか?」
「そう。おばあちゃんだけよ。あんたの所へ行ったのは」
「でもなんかいっぱい、出てきたぞ」
「おばあちゃんはね、一つだけ特別な能力があるの」
「能力?」
「そう。よくないものを好きなだけいくらでも集めることが出来る、と言う能力がね」
そう言うと、女は笑った。