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オレンジレンジな日々

創作小説を、日々、更新していきます。

落陽 ~SP Thanx side story~(1)

2005年03月07日 | 落陽
 この町に初めてきた時のことは今でもはっきりと思い出せる。
私はパパとママと3人で、パパの故郷であるこの町に来た。
私は小さな赤いバックを肩から下げて、ママと手をつないでいた。
私とママの前を少し離れてパパが歩いていたく。その時の私はとても不安な気持ちと、初めての景色に興奮して弾むような気持ちの間を行ったり来たりしていた。
 東京の学校では、転校する私のためにお別れ会をしてくれた。
向こうにいっても元気でね、
私たちのことを忘れないでね、
たくさんの小さな手が一斉に私に向かって振られた。
でもそんなことがもうずっと前のことのように、私は目の前に広がる、初めて見る景色を眺めていた。
東京からずいぶん長い時間電車に乗った。降りた駅は、東京とそんなに変わらない、大きな駅だった。
そこへ、パパの知り合いの人が車で迎えに来てくれていた。
パパを見て、お帰り、とにっこりと笑う。
私たちは、その人の車に乗り込んだ。
車が走っていくうちに、空の色が変わって、開けはなった窓からしょっぱい匂いのする風が入り込んできた。緩やかにカーブする道が開けた時、目の前に海が広がった。
とても穏やかな海だった。青く澄んでいて、太陽の光を受けて、キラキラと輝いていた。
東京近郊の海は灰色だった。それでも磯の香りや、にぎやかな海水浴に来た人たちの声を聞くと胸が弾んだ。でも、あの日、目の前に広がった海の青さは、空と海の境目がわからないくらいに透き通っていた。
頬に当たる風がとても気持ちよかった。
私はあの時、ちらちらとパパの横顔ばかり気にしていた。ママは私の手を握ったまま、パパはポケットに手を突っ込み、時々タバコをくわえながら、お互い何も話をしなかった。パパが小さく咳払いをすると、私はどきりとした。何か面白いことを言って、2人を笑わせたかったけれど、その時の私には何も思いつかなかった。
結局私は外の景色をずっと見ているしかなかった。青い海に白いしぶきが立っていた。その白さは私の目に焼き付いている。
 
 私の一番古い記憶は、ママと2人きりの生活だ。
私は保育園の門でママとバイバイをする。ママが私に手を振り、背中を向けて足早に出かけていく。そんな記憶がぼんやりと残っている。
ママと2人で暮らしていた部屋は、とても小さいものだった。小学校に上がると、ママが帰ってくるまで部屋で一人待っていた。
寂しいというよりも、一人での自由な時間がそこにはあって、ゆったりと時間は流れていた。
 パパはそんなママとの2人の生活に、いつの間にか加わっていた。
私が学校から帰ってくる時間にママが家にいるようになって、そのうち、
この人が今日からミカのパパになるのよ、
といわれた時も、自然に、そうなんだと、受け入れていた。
パパの生まれた町に帰るよ、といわれた時も、新しい場所で暮らすことにウキウキした。
学校の友達と離れることは少し寂しかったけれど、それでも、見たこともない場所へ、パパとママと3人で行く期待のほうが大きかったかも知れない。
 これからどうなるのか、どんな場所へ行くのか、そんなことは何もわからず、ただママの手を握りしめ、目の前の「パパ」を見つめていた。

 細い道を入り、車が止まった。パパがドアを開けてくれる。
ここが、3人で暮らす新しい家だよ、
今まで暮らした小さな部屋ではなくて、ちっちゃな庭のある一軒家だった。
うわーっ、
私はうれしさのあまり声を出した。不安なんて一気にどこかへ行ってしまって、私の胸はどきどきと高鳴った。それを見たパパがにっこりと笑ったのを覚えてる。
小さかった私の頭を優しくなでつけて、いつまでも笑っていた。
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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (coccoacoco)
2005-03-08 16:59:59
SP Thanxと同時進行で、「落陽」が始まります。ミカ側からのお話です。

SP~もまだまだ続きます。

良かったらおつき合い下さいね
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Unknown (マリ)
2005-03-08 18:23:09
ミカ側のヒロキへの気持ちがほんっとに気になります 「落葉」、楽しみにしてまーす
返信する
Unknown (coccoacoco)
2005-03-10 10:34:44
いつも読んでくださって、ありがとうございます

ミカのヒロキへの気持ち、・・・大切に描いていこうと思ってます。楽しみにしていてください。
返信する

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