バックパッカー 中南米編(想い出)第一話

2016-02-14 14:11:42 | 旅行

旅立ち前

ニューヨーク市クイーンズ区にあるラ・グアディア空港から中南米の旅に出発(で)たのは1978年7月13日で、満37歳の誕生日から1ヶ月後だった。

アメリカに来て7年目、久々の海外旅行である。
計画では、、、と云っても無計画の計画だが一応出発(で)た日を思い出しやすくするために誕生日に決めていた。
だが、誕生日の次の日が土曜日で、友人がパーティをやるから来ないかと云うのだ。当時私はマンハッタンに住んでおり、わざわざ遠くへ行くのはあまり気が進まなかったし、予定の変更もしたくはなかったが、私の送別会と誕生日会を兼ねて“カワイイ娘”も声をかけてあるからのという話に心はすっかり惑わされあっさり承諾してしまった。
これが後、災難となる。
ニューヨーク(マンハッタン)からまずニュージャージー州のニューワークまで行き、言われた通りの電車を乗り継いでだ。
しかし何個目の駅か聞かなかったために必死で止まる駅、止まる駅に目を凝らしながらようやくに着いた。

私が最後の到着者で初めての顔が4、5人居た。(残念ながら約束のカワイイ娘は見あたらなかったが)
紹介が終わりパーティはまずテニスから始まった。近くの短大のコートが簡単に使用できるのだ。軽くプレイ後、戻ってバーベーキュー。
酒もフードも一段落したところで再度テニスをしようと云うことになりまた足を運んだのだが、私は連日の壮行会の呑み疲れと食べ疲れも重なり金網の外で見学。
ダブルスも盛り上がりを見せている中、一人が疲れたから交代をしてほしいと言って来た。雰囲気的に断れず付き合ったのが運のつき、で1ゲームが終わり惨敗。
持ち前のスポーツ精神が出てしまい、今度は自ら2ゲーム目を申し込んでしまったのだ。
すっかりムキになってしまいコートを走り回っていたが酒酔いではブレーキが利かず金網を巻き付けてある鉄柱に激突!!! 
金網デスマッチの様相になってしまった。
額から頭部にかけてカギ裂きにポッカリと割れ、白いTシャツからパンツ、そして白い靴まで真っ赤な鮮血でアッという間に染まり、頭部はタオルで押さえてはいるものの、頭部でしかもアルコールが入っているため恐ろしい勢いで血が吹き出てくるのだった。
みんなオロオロしている中、友人に救急車を頼んだが彼の車で病院へ運んでもらった。
救急車で運ばれていないのでなかなか診てくれない。
文句を言いたいのだが頭がガンガンと連続的に投打されている如く割れるように痛くそれどころではない。
付き添いの二人は3世で言葉にまったく不自由はなく、彼らに早く診てくれるよう頼むのだが順番だからと何もせずにただ黙って不愉快そうな顔をしながら座っているだけだった。
痛みは増すばかりで、イライラも頂点に達し、「もう死にそうだからと何とかしてくれ」と怒鳴り込むように自分で頼みに行ったらようやくに振り向いてくれた。
が、今度は過去の病歴、ケガの状況説明、アレルギー等々の問診が始まった。
もともと英語力が乏しい上に読むのも聞くのも、話すのも容易ではない状況だ。しかも医学用語ときている。
付き添いの二人は無関心に座っているだけ。とにかくいい加減に答えるわけにもいかず、力を振り絞って、必死になって何とか答え問診は終わった。
付き添ってくれた二人にはうっとうしいほどに何だか腹が立ち、素っ気無く「ありがとう」とだけ言って帰ってもらった。
暫くしてようやくストレッチャーに乗せられたが、これからがまた大変だった。
まずこのまま廊下に2時間以上放置された。ようやくに病室に入れられたがそこでまた2時間以上放置。

強烈な頭痛は相変わらずだったがとにかく目をつぶっているしかなく気をまぎらすことばかり意味も無いことを考えていたが、そのときパチッ、パチッと音がするではないか?
何事かと目を開けるとジーンズに白衣姿の男がカメラを手にしきりと私を撮っている。
驚きと怒りの声で彼に聞いた。
” What(何を) a(やって) hell(いるんだ) doing(この) here(やろう)? “ 
いきなり目を開けて怒鳴った私に彼は、びっくり!!「えっ 何!?」と云う顔をしたが、自分の胸元にある名札を指で挟んで少し持ち上げるようにしながら私の目の前にかざし平然と答えた。「俺はここの医者だよ」「保険のことがあるから撮っているのだよ」
と言って、私が次の質問に移ろうとする時には病室から出て行った。

それからどれくらい時間が経過したのかわからないが、かなりの時間が経過した頃男性看護士がやってきてこう告げた。
「もうすぐドクターがやって来るよ」「今日は君が最後のサージュリー(手術)だからきっと丁寧にやってくれるよ」「じゃあ」と言い残して出て行った。
今度は割合早く、その看護士とドクターがやって来た。
「サァ始めようか」と言うと局部麻酔をし、縫い始めた。と同時に二人の会話も始まった。
「なぁ、あの〇〇階のブルーネットでショートヘァーの彼女、名前は… なんだったけなぁ?」
「ほら、○○をやっている背の高いスタイルのいい女(こ)だよ」
「ああ、00にいつもいる女(こ)でしょう?」
「そうそう、あれいい女じゃない?」
「ウム、でも彼女もいいけど… ほらあの○○の… 」 
そんなやり取りが暫く続いて一段落した後、看護士がちょっと用があるからと出て行った。
なんとドクターまでが後を追うように「ちょっと失礼」と出て行ってしまったのだ。
すぐ戻ってきたがまた暫くするとまた出て行く。
3、4回繰り返した。頭部には針と糸が付いたままだ。
“ Hey(おい)! What’s(何を) happened(やっているだんだよ)? ” 
しかし彼は「うん、ちょっと」と言うだけだ。私も早く終わってほしいのでそれ以上は聞かない。
そして、そして、ようやくに手術は終わった。  まるで大手術のようだ。
「何針縫った?」彼は素っ気無く ” Many(たくさん) ”「帰っていいよ」
 
まったくもってあきれるばかりで恐れ入りましたとしか云い様が無い。
廊下に出ると人影はまったくなく、友人に迎えに来てもらうために電話を掛けに行って時計を見て愕然とした。
なんと深夜の1時。病院に来てから9時間も経過していたのだった。



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