綾香は半ばフィルム一眼の購入は諦め、普及品のデジタル一眼を視野に購入を考えている。
「無理なものは仕方ない、諦めよう」
自身に言い聞かせるほかはない。店舗でローンの分割支払いの案内を見て佐々木に尋ねたが、
「ローンを組んでまで買うことは、先生も英子さんも反対するよ」
綾香から相談を受けた英子は、
「そうね、まず綾香が自分の力で出来ることって考えて出した結論であれば、それが正解ね。ただ、カメラ自体で考えるとね、フィルムカメラであれば、値段の高い、安いはそれほど問題でもないのね。今は高いのしかないけど、高いカメラは丈夫に出来てるだけ。写真を写すことに関しては、カメラよりレンズのが大切かなって思うの。ただ、デジタルの場合はそうじゃないのね。そこもしっかり考えて結論だそうね」
と答え、どうも綾香の選択肢は購入の先送りしかないようだ。
二人のやりとりを聞いていた敏也が、何かにやけた表情で口を挟んだ。
「私のカメラは現役だから、はいどうぞ、これ使って、とは言えないけど、ここに眠ってるフィルムカメラあるじゃない、英子さん。もう何年も防湿庫に入りっぱなしで、誰か使ってくれないかなぁ~って寂しがってるよ」
英子は、はっと忘れていた自分のカメラの存在を思い出した。かつて敏也も英子のカメラを触り写真を覚え、今がある。慌てて保管庫から取り出した懐かしいカメラに思わず涙が溢れそうだ。
「ねえ、綾香、私が先生の先生なのよ」
と英子は気を取り戻し、綾香にカメラの使い方から敏也に教えたのは自分であると自慢げに話してる。ニコニコとうなずく敏也を見て綾香は驚くばかりだ。
「綾香、よかったらこのカメラ使ってみない。明日、佐々木さんにメンテナンスしてもらって、レンズ買って」
手渡されたカメラはずっしりと重く、英子、敏也と引き継がれた思い出のカメラを綾香はより一層重く感じていた。
16
「家族」 思い、重い、カメラ 2
綾香は翌日ザックにカメラを入れ、写真館に自転車を走らせた。カメラのメンテナンスを佐々木に依頼し、レンズの選択に入っている。佐々木のアドバイスもあるだろうが、綾香がどんなレンズを買うのか、英子も敏也も楽しみにしている。
「これが、英子さんのカメラで、先生はこのカメラで写真を始めたんだ」
カメラを手にした佐々木が羨ましそうにカメラを見つめ、
「綾香ちゃん、このカメラ俺に譲って!」
と懇願している。さすがの綾香も苦笑いを浮かべ丁重に断り、
「ちゃんとお金払うんだから、しっかりメンテナンスしてくださいよ」
と茶目っ気たっぷりに受け答えをしている。
カメラはとても保管状態が良く外観にそれなりの使用感はあるものの、オーバーホールし経年劣化したゴム製部品の交換と、各部の汚れを取り除くだけで済んだ。
レンズの選択は綾香が何を選んで相談してくるか佐々木も楽しみで、レンズの特性はしっかりと教え込んだはずだ。
綾香は二本のレンズに絞りカウンターに持ち込み、自分のカメラに装着し覗き込んでいる。共に単焦点レンズで、広角24mmと中望遠85mmだ。佐々木は安易にズームレンズを選ばずにほっとした表情を浮かべ、
「後は、綾香ちゃんが何を撮りたいかだよね、風景なのか人物や身の回りの物なのか」
と最終のアドバイスをするだけで済み、佐々木の教えはしっかりと理解しているようだ。
綾香はやはり、被写体に風景をより多く選ぶであろうと、風景写真には外すことの出来ない広角レンズを選んだ。後は高性能レンズか普及レンズかで迷い、最終的に24mmF1.4(*1)の上代235,000円の高性能レンズを選んだ。そして、佐々木の勧めで、取り扱いには難易度が高いが、PLフィルター(の購入も決めたようだ。
店舗での5%の値引きと、後日、給与で反映される従業員割引を差し引いても、消費税合わせて20万円は裕に超えてしまう。しかし、広角でこれ以上のレンズはなく、写真を追究し続けるのであれば、普及レンズを買うことが無駄となる。正直、佐々木も16歳の少女が持つべきレンズなのか悩んではいるが、決めるのは本人だ。それに仮に今後写真と離れてしまうことがあるとしても、このレンズなら状態がよければ高価に買い取りもしてくれる。その点、普及レンズを買えば、買い取り値は限りなくゼロに等しい。
綾香は嬉しそうにレンズとフィルターをザックにしまい店を後にした。
「ただいま~、めっちゃ高かったよ」
とニコニコの笑顔に、英子も敏也も満足な笑顔を見せている。
「あ、フィルム買うの忘れた。写せないよ」
「無理なものは仕方ない、諦めよう」
自身に言い聞かせるほかはない。店舗でローンの分割支払いの案内を見て佐々木に尋ねたが、
「ローンを組んでまで買うことは、先生も英子さんも反対するよ」
綾香から相談を受けた英子は、
「そうね、まず綾香が自分の力で出来ることって考えて出した結論であれば、それが正解ね。ただ、カメラ自体で考えるとね、フィルムカメラであれば、値段の高い、安いはそれほど問題でもないのね。今は高いのしかないけど、高いカメラは丈夫に出来てるだけ。写真を写すことに関しては、カメラよりレンズのが大切かなって思うの。ただ、デジタルの場合はそうじゃないのね。そこもしっかり考えて結論だそうね」
と答え、どうも綾香の選択肢は購入の先送りしかないようだ。
二人のやりとりを聞いていた敏也が、何かにやけた表情で口を挟んだ。
「私のカメラは現役だから、はいどうぞ、これ使って、とは言えないけど、ここに眠ってるフィルムカメラあるじゃない、英子さん。もう何年も防湿庫に入りっぱなしで、誰か使ってくれないかなぁ~って寂しがってるよ」
英子は、はっと忘れていた自分のカメラの存在を思い出した。かつて敏也も英子のカメラを触り写真を覚え、今がある。慌てて保管庫から取り出した懐かしいカメラに思わず涙が溢れそうだ。
「ねえ、綾香、私が先生の先生なのよ」
と英子は気を取り戻し、綾香にカメラの使い方から敏也に教えたのは自分であると自慢げに話してる。ニコニコとうなずく敏也を見て綾香は驚くばかりだ。
「綾香、よかったらこのカメラ使ってみない。明日、佐々木さんにメンテナンスしてもらって、レンズ買って」
手渡されたカメラはずっしりと重く、英子、敏也と引き継がれた思い出のカメラを綾香はより一層重く感じていた。
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「家族」 思い、重い、カメラ 2
綾香は翌日ザックにカメラを入れ、写真館に自転車を走らせた。カメラのメンテナンスを佐々木に依頼し、レンズの選択に入っている。佐々木のアドバイスもあるだろうが、綾香がどんなレンズを買うのか、英子も敏也も楽しみにしている。
「これが、英子さんのカメラで、先生はこのカメラで写真を始めたんだ」
カメラを手にした佐々木が羨ましそうにカメラを見つめ、
「綾香ちゃん、このカメラ俺に譲って!」
と懇願している。さすがの綾香も苦笑いを浮かべ丁重に断り、
「ちゃんとお金払うんだから、しっかりメンテナンスしてくださいよ」
と茶目っ気たっぷりに受け答えをしている。
カメラはとても保管状態が良く外観にそれなりの使用感はあるものの、オーバーホールし経年劣化したゴム製部品の交換と、各部の汚れを取り除くだけで済んだ。
レンズの選択は綾香が何を選んで相談してくるか佐々木も楽しみで、レンズの特性はしっかりと教え込んだはずだ。
綾香は二本のレンズに絞りカウンターに持ち込み、自分のカメラに装着し覗き込んでいる。共に単焦点レンズで、広角24mmと中望遠85mmだ。佐々木は安易にズームレンズを選ばずにほっとした表情を浮かべ、
「後は、綾香ちゃんが何を撮りたいかだよね、風景なのか人物や身の回りの物なのか」
と最終のアドバイスをするだけで済み、佐々木の教えはしっかりと理解しているようだ。
綾香はやはり、被写体に風景をより多く選ぶであろうと、風景写真には外すことの出来ない広角レンズを選んだ。後は高性能レンズか普及レンズかで迷い、最終的に24mmF1.4(*1)の上代235,000円の高性能レンズを選んだ。そして、佐々木の勧めで、取り扱いには難易度が高いが、PLフィルター(の購入も決めたようだ。
店舗での5%の値引きと、後日、給与で反映される従業員割引を差し引いても、消費税合わせて20万円は裕に超えてしまう。しかし、広角でこれ以上のレンズはなく、写真を追究し続けるのであれば、普及レンズを買うことが無駄となる。正直、佐々木も16歳の少女が持つべきレンズなのか悩んではいるが、決めるのは本人だ。それに仮に今後写真と離れてしまうことがあるとしても、このレンズなら状態がよければ高価に買い取りもしてくれる。その点、普及レンズを買えば、買い取り値は限りなくゼロに等しい。
綾香は嬉しそうにレンズとフィルターをザックにしまい店を後にした。
「ただいま~、めっちゃ高かったよ」
とニコニコの笑顔に、英子も敏也も満足な笑顔を見せている。
「あ、フィルム買うの忘れた。写せないよ」