秋紀 芳慧 (Yoshie Akinori)

呼吸について

あきのりがワークショップでレクチャーしている呼吸について意識的になったのは、もう10年以上前になります。

 

その当時毎日を忙しく過ごして、自分自身に余裕がなくなり、精神的に厳しくなりました。いわゆる『病んで』いました。

毎日朝から夕方まで会社員として好きでもない仕事をこなし、退社後はいろんな身体表現を習いにいき、帰ってから家事をこなして食事をとって寝る生活はとてもハードでした。

しかも自分だけのオリジナルのダンスや音楽をやりたいと考えているのに、身体から出てくる表現は習ったり知っていることばかりで、独自の表現が出てこないことにとても思い悩みました。

そのうち体の不調が続くので、ダンスの先生からのすすめもあり精神科医に受診することにしました。そしてこのままの忙しくて余裕のない生活を続けていくことに限界があることを知ったあきのりは、会社を退職し、それまで習っていたバレエやHIPHOPや俳優の教室もやめてしまい、そこで築いた人間関係も見直していくことにしました。

ある日から毎日の生活スタイルが変わるということは、新鮮でもあり、またストレスでもあります。当時のあきのりは、処方される精神の薬を飲みながら毎日近所の空き地で踊る練習をしたり音楽を作ろうともがいていました。

そのうち、自分の身体から出る表現が人から見聞きしたりして知っていることばかりでは、もうアーティストとして生きることはできないかもしれないと思いつめていきました。その時に、ただ立って呼吸すること、それが自分だけのオリジナルの表現であるのではないかと思い至りました。立っているだけでも身体ごとに現れてくるものは違うし、それに身体からなにか表現が出てくる直前の状態をしっかりとリセットできたら、そこから自分なりの表現が生まれるかもしれないと考えたのです。

そこで裸になって、自室の中でまっすぐ立ちました。呼吸は苦しく、じっとしてられません。フラットに身体が立てる状態にまでずっと立ち続けました。それを何日も続けました。

 

その経験から得たことがなにだったのかはうまく言葉にあらわすことができません。ただ、そこで自分だけのオリジナルの表現に近づくことはできたような気がします。

自分の内部から何かを生み出すこと。それは頭だけでできることではなく、身体も一緒になって取り掛からないとできないということだとあきのりは考えています。それは楽ではありませんし、孤独でもあります。

しかし何かを生み出すというのは、呼吸をしてただ立つ。それがあきのりにとってとても大事だったといえます。


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