【漢検】失った常用漢字を取り戻そう!&戯れ言日記

戯れ言日記と、常用漢字を楽しく(?)維持するためのブログ。

弟1回 将棋プロ棋士の世界と「瀬川問題」の概観

2005-06-22 19:49:03 | Weblog
《瀬川問題》

この言葉を聞いてピンとくる方は、将棋通であろう。
現在、将棋界で大事件(?)となっている騒動である。


今回から数回にわたって、私が高校生の時からファンとして見守ってきた将棋界について、今回の騒動に関する自分の私感を綴っていきたいと思う。
普段、将棋について全くご存じない方にとっても分かるように書きたいと思いますので、もし、興味がある方は、これを機会に読んで下さると幸いです。ただし、ちょっと長いので、集中力と読解力が必要になりますw

【予定内容】

弟1回 将棋プロ棋士の世界と「瀬川問題」の概観

第2回 瀬川氏のプロ編入試験の裏・・・



《夢は若者だけの特権?》

一般に言う「若者」とは、具体的にどの年齢層までを指すのか分からないけれど、少なくても、10代はそれに属するだろう。

そして、若者には夢がある。

「将来、医者になりたい」

「看護婦になりたい」

「甲子園で実績をあげたから、プロの道に進みたい」

「美容師になりたい」

「役者になりたい」

といった具合に。

例えば、最初に挙げた医者という職業であれば、まず大学の医学部に入学しなければならない。
これ自体が非常に難関(特に国立)であることは周知の事実だが、仮に受験が失敗に終わったとしても、その若者の「夢」が完全に潰えたわけではない。年齢制限を設けている大学などないからだ(防衛医科・自治医科・・・等は除く)。
本人の意志と経済的理由が許されるのなら、来年、再来年と挑戦することができる(大抵は2浪でやめる?)。また、社会人になってから、再び医者を目指す人も珍しくない。

しかし、中にはいつまでの挑戦することが出来ない世界もある。つまり、年齢制限がある世界。

その一つに、棋士の世界が挙げられる。若者だけが挑戦できる世界。


《プロ棋士になるためには?》

奨励会(プロ棋士養成機関)を受験。*受験資格は18歳まで。
(*受験者の殆どは小学生で、県代表クラスの実力をもつエリート)

        ↓

     奨励会に合格
(俗に東大に入るより難しいと言われている)

        ↓

奨励会は、6級~三段で構成され、既定の成績をクリアしながら昇級・昇段する。
二段までは、関東・関西に分かれて行われる。
(*奨励会6級とは、アマチュアでいう三~五段クラスに相当する。小学生の時点でこの棋力がないとプロ棋士になるのは厳しい。)

        ↓

三段まで達すると、関東・関西あわせての三段リーグ戦こちら参照)を行い、上位2名が四段に昇段し、プロ棋士としてデビュー。
(*囲碁界の場合、初段からプロとなる。プロ棋士になるシステムは全く異なる)

《年齢制限の壁》

なお、この奨励会にはいつまでも在籍できるわけではなく、次の二つの条件を満たせなければ自動的に強制退会させられ、永遠にプロ棋士の道を絶たれる

①満23歳(※2003年度奨励会試験合格者より満21歳に変更)の誕生日までに初段に昇段しなかった場合、退会。

②満26歳の誕生日を含む三段リーグ終了までに四段になれなかった場合は退会(たとえば、リーグが行われている最中に26歳の誕生日を迎えた場合、そのリーグ終了までは有効。昇段できなければ退会)。



たとえば、中学を卒業して高校にも行かず朝から晩まで将棋の勉強に専念し、将棋一本できた人間にとっては、突如、社会という大海へ放り出されることを意味する。あまりに厳しい現実。

《瀬川問題》

冒頭の「瀬川問題」であるが、この瀬川とは、瀬川晶司(35歳)のことである。
そして、その瀬川氏こそ元奨励会員であり、上記の既定をクリア出来ずに退会させられた人物その人である。つまり、永遠にプロ棋士になる道を絶たれた人間。そして、現在は普通の会社員として働いておられる。

事件はここからである。
その瀬川氏が今年の2月に将棋連盟へ嘆願書を提出した。
その内容とは、もう一度プロ棋士への道を開いて欲しいというものである。戦後始まって以来の前代未聞話である。早い話が、現行制度以外に、プロ棋士になる別の道を作ってくれということになる。

虫がいいといえば虫がいい話である。奨励会経験者でないのならともかく、一度、勝負の世界に敗れた人間が、奨励会を卒業せずプロにならせてくれというのだから、現行制度そのものの秩序を乱す行動に値することは言うまでもない。

しかし、この嘆願書提出の舞台裏にはそれなりの理由がある。

プロとアマチュアが戦える一部の公式戦において、驚異的な実績を残しているからだ。

6月3日時点で、プロ棋士を相手に17勝7敗


この「瀬川問題」は随分前から騒がれていたが、経営諮問委員会はこの申し出を重く受け止め(その背景には、瀬川氏の実績以外に、今後の将棋界発展も加味されていると思われる)、5月26日に開かれた通常総会において、プロ編入試験(正式名:フリークラス編入試験)が決定した。

そして、先日の6月17日にプロ編入試験要項(試験方法)が発表。

参考資料①
参考資料②
参考資料③
参考資料④


ちなみに、瀬川氏は奨励会時代に三段まで昇段を果たしている。つまり、上記②の既定により退会されたということになる。
本当にあと一歩の所で夢が潰えたわけであるが、瀬川氏だけに限らず、長い奨励会の歴史の中でこれまで数多くの奨励会員がこの厳しい三段リーグを駆け抜けることができずに涙をのんでいる。


《中年にも夢を?》

こうして正式に瀬川氏のプロ編入テストが決定(戦後初の特例中の特例)されたわけであるが、このことに関しては当然、賛否両論がある。

反対派は、大きく2種類に分かれる。

一つは、プロ編入試験そのものを認めない反対派と、編入試験は認めるものの試験方法に問題ありの反対派

後者については次回に触れる(あまり突っ込まない)として、ここでは前者についての賛否両論を考えたい。

まず、賛成派意見として多いのは次の二つに集約できる(賛成派支持者は我々将棋ファンが多い)。

①現行制度(*)は厳しすぎる。もっと他にもプロへの道を開くべきだ。それが今後の将棋界発展にも繋がる。
(*半年でそれぞれ2名。つまり、年間で4名のプロ棋士誕生)

②プロ棋士相手にこれだけの実績(17勝7敗)を残しているのだから、プロになれないのはおかしい。



さて、ここからは私の意見であるが、上記二つの意見ともやや説得力に欠けると思う。

まず①について。
たしかに、この制度は厳しすぎるだろう。もっと他にアマチュア界からも進出できる道があってもいいかも知れない。
しかし、現行制度が厳しいのは、突き詰めれば日本将棋連盟の経営上の理由による。
もし、プロへの道が緩和され、プロ棋士大量輩出時代に突入してしまうと、現況の将棋界の収入では賄っていけない。
従って、産児制限的な意味合いで三段リーグのような厳しい制度を作る必要があり、またそれは必然であった。

仮にアマチュア界からのプロへの道が開かれたところで、針の穴をくぐり抜けるような倍率を勝ち抜かなければならない。これはこれで厳しくなるだろう。いずれにしても、いつ第二の瀬川さんが現れてもおかしくない状況下であり、事態はさほど変わらないのではないか(でも、やらないよりやったほうがまし?定員はそのままで)。

このような皮肉な結果は、他の世界についても言える。
たとえば、現在、司法試験を巡る制度はめまぐるしい状況下にある(私にとっては全く無縁な世界なのだが、友人で目指している方がおられるのでちょっと詳しい)。
これまであった現行の司法試験制度以外に、法科大学院制度ができたからだ。

法科大学院については、当初の発表であった卒業者の8割が合格するという予定から一転して3割に変わった。
これについては、批判・苦情が相次いだわけだが、結局同じことだと考える。
つまり、合格者が8割になったところで、今度は法科大学院に入学すること自体が超・難化するだろう。
いずれにしても、どこかで客観的な一線を引かなければならないのだから、これは将棋界にも還元できる話である。


次に②であるが、瀬川氏に限らず、アマチュアがプロ棋士に勝つのは、昨今に於いて何も珍しい光景ではない。
インターネットの普及により、最先端の情報がすぐさま手に入り、また、プロ棋士との対局機会も飛躍的に増えたからだ。
とは言え、アマチュアの対プロ対戦成績を見る限り、5人のアマチュア代表者の中でも瀬川氏が抜群の成績を収めていることは事実である。

しかし、プロ側にとって可愛そうなのは、瀬川氏に関する情報が何もないということである。つまり、棋譜(将棋の差し手を残した記録)があまりないため、どんな棋風(戦いのスタイル)なのか一切分からない。一方、瀬川氏は、対戦前から相手の情報を容易に手に入れることが出来る。この差は大きいように思う。もちろん、プロ棋士なら、相手の棋風がどうであれ、どんな状況でもアマチュアには勝つべきだ、という意見もあるだろう。しかし、それを差し引いても、元奨励会員三段を相手にこの情報戦の優劣は大きい。また、精神的な優劣でもプロ側がかなり不利なのは自明である。

こう考えると、17勝7敗という成績だけで「プロになれないのはおかしいと」断言するのは、やや言い過ぎではないだろうか。せめて3桁単位で判断したいものである。

野球界にたとえて考える。
もし、トップクラスのアマチュア社会人チームと、プロ野球チーム数球団とで真剣勝負の交流戦を行ったとする。
殆どプロ野球チーム側が勝利するだろうが、中には、プロ球団に対して勝ち越すアマチュアチームが出てきても特別不思議ではないだろう。それが野球というゲームの性質。
では、プロに勝ち越したチームは、それだけで、プロ野球界への参入資格が得られるか?という議論である。

プロ側にとっては、何も情報がない中で戦わなければならない。誰にいつ走塁されるのか、どんな球種が苦手なのか等の事前情報戦はすべてアマチュア側に権限あるのだから、

「この勝利だけで全てを決めないでくれ」

というのがプロ側の本音である。

今回の瀬川問題についても、プロ編入試験そのものを認めない反対派は、プロ棋士、並びに、現在厳しい環境の元で戦っている現役奨励会員達であり、「あいつだけ特別扱いはおかしい」というのが本心なのだ。

ところで、ここまで読んで下さった方は、私がプロ編入試験そのものを認めない反対派支持者と思われたことだろう。

しかし、そうでもない。

「面白いもの見たさ」という安易な考え(他にも理由はあるが、これが第一)から、賛成派を支持したい(おぃ)。

これが小論文なら、論理が矛盾しており0だろうが、ここは私のブログなのでご勘弁。

と言うか、いわゆる本音と建て前ですな。要するに・・・



私ってそういう人間なんです_| ̄|○


なんか最後のまとめ方がおかしかったが、疲れてきたのでこの辺で区切りにしておく。次に期待(?)


なお、瀬川氏のプロ編入試験に関する米長会長の記者会見の様子をBIGLOBEストリームにて無料で見ることが出来ます。


最新の画像もっと見る