風俗嬢いちねんせい

イメクラ風俗嬢いちねんせい「ありみちゃん」と不思議な世界・お客様・女の子等々との日々をつらつらつらと。

風俗嬢という病/マユの場合(12)

2005-05-08 | 風俗嬢という病
何も返信ができないまま、二日が経った。
もうわたしにできることはなにもない…。

♪♪♪マユからの、メールだ!!!
別れた前の彼にね連絡したらね、おいでって。
全部おまえの今までのこと、わかってやるって。
風俗やめて、借金返せたら結婚しよう、それまでも2人でずっと暮らそうって。
前通ってた病院にももう一度通い直すよ。

ありみちゃん、いままでありがとう。
荷物は彼の家に着払いでお願いね。あっスニーカーだけ先でもいいな。まずは仕事がしたいんだ!
ありみちゃんはげんき??


ありみ「そういうわけだよ、ほら見て、荷物がすっきりしたよ」
トコさん(同居人)「おつかれさん。
 でもこれからは自分を大事にして生きるんだよ
 死にそうな君を見てて私まで参っちゃったからね 絶対だよ」
ありみ「はは、ごめん あやまるよ 心労おかけしました 申し訳ない」
トコさん「ほら他人に謝る前に、早く休みなさい、薬飲んで寝なさい」
ありみ「どーも…ありが、と…」

--5月。
♪♪♪♪♪♪♪!
あ、マユ!
「ありみちゃん、げんき?」
「マユ!」声を聞くのは何ヶ月ぶりだろう。「元気そうだね!」
「うん、今日ね、今働いている雑貨屋さんで契約社員になれることが決まったんだよ!」
「ほんと!?雑貨屋で働いてるんだ?」
「うん、マユ、昔大きい100円ショップで仕事しててね、そこでの経験を買われちゃったみたい。今のお店、田舎でちっちゃいからね。結構頼りにされてるんだよ!
あたし、普通の仕事絶対出来ないと思ってたけど出来るんだね!
このことをね、まずありみちゃんにいわなくちゃって電話したの!」
「おめでとう…ありがとう。身体はどう?彼氏とは仲良くやってる?」
「どんどん元気になっていくよ。食べててるしもう吐かないよ。ちゃんとご飯作ってるし、彼氏もたまに作ってくれるしね。もう洋服のお買い物もしてないよ。欲しくなくなったんだ。それに田舎で何も買えないんだもん(笑) 病院も行ってるしね。
それでね、彼氏がとりあえず金融会社の分だけ払い終えたら、籍を入れようって約束してくれたんだ!」
「そうか、そうなんだ…!幸せになるんだよ、もう絶対幸せになるんだよ!」
「うん、もう前みたいにありみちゃんとか周りの人をを、裏切ったりしたくないから!
ありみちゃん、ここまでこれた。ありがとうね。」
「いいよ。…ちっちゃくても結婚式には呼びなさいよ!」
「うん、わかった、じゃあね!」


---マユとありみのお話は、ここでひとまず、終わり。

うつになると周りの元気な人にあまえたくなる
食べて吐いてしにたいとさけんで手首を切るのはさみしくて心配してもらいたいから
たくさんの睡眠薬をいちどに飲むのはいますぐ目の前の現実と自分に目を背けたいから

うつを治すのは他人の言葉でもたくさんのくすりでもない
むしろ依存してしまうひとのなんて多いこと
「病気で不幸だからみんなあたしをなぐさめてくれる、このままでいたい」
それでは永久に治らない

「わたしはびょうきを治して、げんきに幸せになりたい」
どうかそう思ってください。自分を幸せにしてください。
あなたが幸せになっても人に見捨てられることなんてない、
むしろあなたをすきな人を幸せにするんです。きっと。

今まだミイラ取りで治療中のわたしがおもうのは、そんなことです。


95%以上ノンフィクション、日本にはこういう女もおり、世界もあるということを少しでも発信したいという気持ちで書きました。
何か、お読み下さった方に考えていただける部分があれば、これ以上嬉しいことはありません。
このような拙く長い文章を最後まで読んでくださり、応援して頂いた皆様、本当に有り難うございました。
心より御礼申し上げます。
2005 ありみ拝
(p.s. 僭越ながら、このお話を読みやすくどこかにまとめてアップしたいなー、とも思うのですが…適当なサイト、方法等おもいつきません…現在考え中です。)
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(お仕事はこれからもバリバリやるヨ!風俗嬢バカ一代!)

風俗嬢という病/マユの場合(11)

2005-05-06 | 風俗嬢という病
手紙を書く。
1枚目は、DCのママ宛だ。マユと友人サヤの病状を書き連ね、「この2人はもう風俗が出来る身体ではありません。普通の仕事に戻るようにママ様からも言って下さい。」としたためる。

2枚目は、マユ宛の手紙だ。
私も二択を迫ってやろうじゃないか、私の家にどっさりと置いてある君の大好きなお洋服と引き替えだ。

「ありみよりマユちゃんへ

 マユちゃんが最初、わたしのうちに来るときに、『うつ等の病気をきちんと治療して、リタリンは二度と飲まないで、借金も計画的に返して、貯金する。自立してヘルパーになると言う夢をかなえるために、ありみちゃんにお世話になる』って約束したよね。この約束、たくさん破られてすぎて、、私の力不足なのかなと思って各専門家に相談しました。でも「この件は問題が多すぎて、普通の一個人であるあなたひとりで解決できる問題ではありません。専門家でも難しいくらいです。責任を取ろうとしてもあなたの生活がつぶされてしまいます。きちんとそのお友達に専門の機関に行って貰ってください」と言われました。

 なので、専門家さんの言うとおり、マユちゃんがきちんと「専門家に相談してもらう(女性相談センターか近くの福祉事務所)」が、私の責任の取り方だと思っています。ここで新しい住居(施設)、仕事、治療などを決めて下さい。それが判りましたら、そちらの方へ荷物を送ります。
 
 この条件が無理なら私が貸している81000+9000(布団洗濯代)=90000円を今月(3月)中に返した上、一人暮らしをして住居を決めて住所を教えて下さい(友人の家は不可です)。そこに荷物を送ります。期限に間に合わなければ、マユちゃんが最初に誓った約束全部を破り、私を完全に裏切ったものと絶望して、荷物は全て処分して借金の返済にあてます。」


3月が終わるまであと5日。『5日で今の彼女が9万円を用意するのは絶対に不可能』という考えの元での二択だ。金融会社に借りるにも、マユは保険証すら無くしていて、何も身分証明証がない。

マユが東京に帰り着く前にと急いでこの2つの手紙をしたため、マユ勤務先のDCホテルに走った。フロントの窓をたたく。
「すいません、この2つの封筒、クラブAのママに預けて下さい、よろしくお願いします。」
ママと長いつきあいというフロントの熟年女性は分かりました、と言って受け取ってくれた。
さて、どうなるか…。

♪♪♪♪♪♪♪♪!!
朝9時、遅番の私には早すぎる時間に携帯で起こされた。
誰だ、マユ……?ちがう、DCのママ!?
「はい、ありみです、ママさんですか?マユが何か?」
「ありみさんですね、朝早く失礼ですが、今朝ちょっと事件がありましてねえ。マユちゃん、あの子、今朝近くのサウナで窃盗容疑で捕まっちゃったのよ。なんでも同じ部屋で泊まってたご婦人のカバンを探ってたとかで。」
「ええ!?」
「幸い良い方でね。結局未遂だからいいですって、警察には厳重注意だけで済んだんですけどね、そのサウナにはもう出入り禁止になったわ。うちのホテルに泊まれないからって行ったらしいんですけどもね。」
「は、はい…」
「それに、あのお手紙も見ましたわ。病気のこととか、ちっとも知らなくて驚いたわよ、だってスカウトの方からは『ちょっと体が弱い子なんですよ』としか聞いていませんからねえ…だからちょっとお休みが多いのかしらって…、そういうわけでね、ここは辞めさせていただいたわ。本人は続けたがっていたけれどもねえ…あれではねえ…」
「わかりました、ご迷惑をおかけしました」

くそ!本当に9万円を用意する方に考えたのか!?バカにも程がある!
急いでマユに電話をかけてみるものの…
「……はい、なに?」
出たのはサヤだ。
「ありみです。電話返してもらってたんだ。ねえ、マユどこにいるか知らない?」
「知らない、新宿あたりじゃない?あたし、もうあいつに会うこともないと思うよ。昨日オーバードーズ(※over dose、睡眠薬の薬物過剰摂取。リストカットど同種の自傷行為。)して眠いんだ、じゃね」
電話は切れた。

どこにいったのマユ。
刻々と3月が終わりに近づいてゆく。今日も連絡はない。元彼にも連絡したが無駄だった。
どこにいったのマユ。今何をしているの??君の服、CD、お化粧品、こんなにたくさん全部、この家にあるのにこのまま消えちゃうの?
あちらが携帯を持っていないのでこちらから連絡を取ることもできない。携帯を取りあげたのは失敗だったんだろうか…

4月1日になった。連絡は来なかった。ねえマユ、捨てていいの?
自分が書いた約束なら荷物を処分する日だが、頭が痛いし面倒だ。

ひどい鬱状態のまま次の日を迎えた。もう、彼女のことは考えない方がいいんだ。会うこともないんだ……。
♪♪♪♪♪♪♪♪!!
電話だ!しかも発信名はマユ?!
「マユ!?あたしだよ!?いまどこにいるの!?この電話は!?」
「新宿だよ、機種変更したんだ、0円のやつに…」
「そうだったのか、今新宿で何をしてるの?住むところは?」
「新宿で援交とかして、サウナで寝てる…お金はたまらない…ねえ、9万円もうちょっとだけ待って…」
声は弱々しい。まともな生活はしていないんだろう。
「なんで相談機関に相談しなかったの?手紙まだ持ってるでしょう!」
「まだしてない…どういう風にすればいいかわかんなくて…」
「しなさい!いますぐしなさい!内容は私があげた手紙と大体同じ事を言って困ってることを訴えればいいから!まだ間に合うから!」
「うん、やってみる……」

このあと、わたしたちはメールでやりとりをするようになった。以下。

マユ:女性相談センターっていうところにお話、全部聞いてもらったよ。今から施設に入れるかも
マユ:もう風俗はしないでまじめにやり直して病気も治すよ。頑張るから見てて!
マユ:施設はいいところだよ。ご飯もまあまあだよ。でもいずれ出ていかないといけないの…
マユ:地方の就職面接にいったよ
マユ:面接おちちゃったよ…

ありみ:地方就職というと3交代の劣悪な住み込み工場労働が多いって聞くしね。知ってる病院も遠くなるから落ちて良かったとおもうよ、もっといいのみつかるよ
マユ:実のお父さんと暮らすことになったよ。都内に住んでるみたい
ありみ:そうか、親子で幸せに暮らせるといいね。
(幼い頃に離婚したから何年も会ってないだろうし…生活保護を受けてるって聞いた気がする…大丈夫かな…。
それにしても施設はとにかく引き取り手を探して追い出したい様だな…。マユはすぐ自立出来る身体じゃないのに、分かって無いのかな、施設も…)

マユ:お父さんにせまられた…おそわれそうになったから逃げて施設に戻ってきた…

私は、何と返信すればいいか、分からなかった。


次回、最終回。
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追伸:
ギャグも何もない、暗い話が続くにもかかわらず、読んでくださり皆様本当にありがとうございます。95%以上ノンフィクション、日本にはこういう女もおり、世界もあるということを少しでも発信したいという気持ちで書いています。何か、お読み下さった方に考えていただける部分があれば、これ以上嬉しいことはありませんm(_ _)m。
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風俗嬢という病/マユの場合(10)

2005-05-04 | 風俗嬢という病
マユを追い出す形でなく、兄夫婦の迎えを頼るでもなく、大嫌いな実家に行かせる方法…
♪♪♪~♪♪~♪♪~♪~
ふと、聞き慣れた派手な着信音が流れた。マユの携帯だ。彼女は微動だにせず眠り続けているが。
携帯。マユが家に来てからというもの、1時間以上この携帯が静かだったことははないだろう。アドレスにはサヤはじめ風俗嬢友達、バンド友達、仕事先のママ、スカウトマン、何人ものホスト、今までの顧客様、援助交際相手のオジサマ、テレクラ、etc.etc.…が入っているんだろう。
また鳴った。うるさい。苛ついたので勝手にマナーモードにさせてもらった。

そうか。

--7,8時間位経ったころ。夜。
「ありみちゃん!ありみちゃん!アタシの携帯知らない?」
「んん…あたし、今具合悪いの…何…?」布団に潜り込んだまま顔を合わせずぼそぼそと答える
「携帯!!充電器もないんだけど!?」
「ああ…それならさっきお兄さんから電話があってマユを実家に帰したいって電話があったんだ。来たがらないだろうから、携帯をこっちに送ってくれ、それなら取りに来るだろう、って言われてさあ…」
「なっ……信じらなんい!!人の…勝手に…何考えてんの!?!?超信じられない!!なにそれ!?!?」
予想以上に超・ご立腹の様子のマユ。
文句を言おうにも私は寝込んでいるし(フリだけど)、実家の電話番号も覚えていないようだ。
「行って来る!ちっくしょう!!」
バタンバタンと派手な音を立てて、マユは出ていった。

「………もしもし、こんばんは、お兄さんですか、ありみです。」
「ああ、ありみちゃんか、どうした?マユが何かしたのか?」
「マユは今、そちらに向かっています。明日の朝には着くと思います」
「え、どうやって!?」
「携帯をお兄さんの指示でそちらに送った、と言いました。彼女の命の綱ですから必死に取り返しに来ると思います」
「なるほどね!本当に送ったのか?」
「いえ、こっちの手元に隠して電源を切っています。そちらでは要求を呑まないうちはお兄さんが隠している、ということにしてください。とりあえず、私はお兄さんの指示で動いているということで、悪者にして申し訳無かったのですが、迎えに来るお手間は無くせたかと思います。」
「分かったよ。はは…君、面白い、冴えてる子だね。」
そんなことはどうでもいい。
「ありがとうございます。とにかく、では、マユをよろしくお願いします。」

次の日、マユは実家に着いたようだ。兄の話によると、家族で話し合った結果、マユに二択を迫っていると言うことだった。
一つめは、
「実家に住む。衣食住は保証する。自己破産して、風俗も辞めてまっとうな仕事を始め、治療も受けることが条件。」
二つ目は
「実家に住まないのなら、ここの家族含む全ての血縁と絶縁する。二度とこの家には近づかないし連絡もしない、頼らないという念書を書かせる。」
絶縁か…極端な二択だ。
一つ目を選ばせたいが、マユの気持ちを考えると……何が正しいのか分からない。

メールが来た。サヤからだ。
「サヤです。ありみちゃん、なんでマユを追い出すようなことするの!?ひどい、信じられないです。マユは私が守りますから!」
守れるものなら守ってみろよ、借金ヤク中女。字面すら忌々しくなって私はすぐメールを削除した。

音沙汰もなく二日間が過ぎたあと、私は深夜、突然鳴った自分の携帯に起こされた。
知らない携帯の番号だ。私はPHSを使っているのでいわゆるワン切りとは考えにくい。
…出てみる。
「……ありみちゃん?」
蚊の鳴くような声。
「マユ!?どうしたの?ていうかどうやって?」
私も声をひそめる。
「こっちくるときDCのホテルに寄ってね、サヤちゃんの二台目のケイタイを借りたの。」
なるほどサヤからメールが来たあたりで、そのあたりは予想できたはずだ。
「そっか。それで今どうしてるの。」
「眠れない…ケイタイも返して貰えないし…もう3日寝てない…」
「そっか。家族で話し合いとかしてるんでしょ?」
「うん、でもやっぱりここじゃ眠れないし嫌だ。おばあちゃんは好きだけど、マユ、ここ出てくって言った。」
絶縁を選んだのか。
「そっか……」
いいとも悪いとも私には答えられない。
「ありみちゃんもだいぶ具合悪いんでしょう。マユのせいだよね。何にもアテはないけど、とにかく、明日東京に戻るよ。じゃあね…」
電話は切れた。

家族とマユが住むのは、お互い無理なんだろう。もうそれはそれで仕方がない。でも東京に戻ったら行く先は… また風俗嬢を続けさせるわけにはいかない!
次の日起きるとすぐに私は、手紙の執筆に向かった。

1枚目は、DCのママ宛だ。今までのマユの病歴、自殺未遂、借金、現在の病状を全て書き連ねてやる。さらに、友人で同僚のサヤも同様に自傷癖、リタリン中毒であることも追記。最後に「この2人はもう風俗が出来る身体ではありません。普通の仕事に戻るようにママ様からも言って下さるようお願いいたします。」

2枚目は、マユ宛の手紙だ。
私も二択を迫ってやろうじゃないか、私の家にどっさりと置いてある君の大好きなお洋服と引き替えだ。

つづく。
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追伸:
ギャグも何もない、暗い話が続くにもかかわらず、読んでくださり皆様本当にありがとうございます。95%以上ノンフィクション、日本にはこういう女もおり、世界もあるということを少しでも発信したいという気持ちで書いています。何か、お読み下さった方に考えていただける部分があれば、これ以上嬉しいことはありませんm(_ _)m。
お気に召しましたら、当特集を、他の風俗嬢系サイトさん等にもご紹介していただければ幸いです。

風俗嬢という病/マユの場合(9)

2005-05-02 | 風俗嬢という病
自己破産させるにしろ、強制入院させるにしろ、親族の力は必要になる。

3月半ば某日。
私はマユの実家に初めて電話をした。マユの義姉、ユカさんが出た。

「ご無沙汰しておりますユカさん、ありみです。」
「ああ、どうしたの」
共に暮らしてからこれまでの経緯をざっと説明する。
「実は…………こういう訳です。」
「捨てちゃいなよ」
吐き捨てられた。
「え?」
「あんたアイツに裏切られたんでしょ?裏切らないとか抜かしてたクセにさあ。もう見捨てて無視しなよ。ヤツの嘘吐き癖にはウチらもウンザリしてんだよ。オカシクなっては『あたしの中には17歳と5歳のあたしがいるのぉ。だから急にわがまま言ったりとか赤ちゃんになったりするのぉ』とか泣いてほざいてさぁ。アンタにも言ってたろ?」
「あ、はい………」
そういえばマユは、わがままをわめき散らした後、言い訳のように何度かそんな話をしていた。
「何いってんだって感じだよ、何年も何回も、こっちもいい加減うんざりだ。ようするに甘えてんだよ。」

病気やトラウマの一部としか思っていなかったが、…一理ある。
病気を言い訳にして、治す意志も放棄して周囲に堂々と迷惑をまき散らす精神科患者は、残念ながら存在する。

「と、とにかく色々と法的手段を取るのはご親族の力が居るんです。私の勝手ですが、『捨てる』というのは…あまりに後味が悪いですから」
「あんたもあんただ。ヤツの『責任を取る』って言ってたじゃん。いまさらだよ。」
「申し訳ありません…正直ここまで重症とは思いませんでした。自分を過信した私も甘かったです。」
「………わかったよ。
 じゃあ、あたしじゃなくてヤツの兄貴、うちのダンナに話してみな。夜にいるから」
「ありがとうございます。」

電話を切って、私は床へへたり落ちた。疲れた。
お義姉さんの言うことも合理的でもっともだ…。あの家族は家族で彼女のためにこれまで苦労してきたのだろう。そんな苦労も知らない一般人の若造が突然やってきて、なにが『助ける』だ。そんな侮蔑もあったのだろう。


結局更正に失敗して、今は自分まで精神科通いだ。言い訳の余地もない。

夜。再びマユの実家へ電話。お兄さんにつないでもらう。
「初めまして、夜分申し訳ありません」
「ああ、君がありみちゃんね。はいはい」
事情をもう一度話す。
「……なるほどね。」
「もうお兄さんだけが頼りです。お願いします!」
もう演技だろうがなんだろうが、泣き落としである。
「俺は自己破産に詳しい知人もいるし、強制入院の権利はマユの実の母が持ってる。なんにしろ、マユをいちどこっち(実家)に連れてこないと話にならないなあ」
「それが難しいですね」
「おばあちゃん子だからな。急に病気になったとか言って」
「難しそうですね。おばあちゃんは彼女の味方で携帯もお持ちだし…迎えに来ていただけませんか?」
「それこそ難しいね。クルマで強制的にうちに拉致するにも、俺も忙しいんだ。東京に行くような休みがないんだよ。仕事とヤツだったら仕事の方が大事だしね。子供も今度2人になるし、余裕がないんだよ、余裕が。できて、4月過ぎかなあ。」
「わかりました。またお電話します」

兄夫婦にとって、「マユは厄介者でしかない」という雰囲気が言葉の端々から伝わってくる。この状態に返してもお互いぎくしゃくして、マユが精神的に安らげるとは到底思えない。しかし、あの田舎に帰せばとりあえず風俗の仕事は出来なくなり、ご飯くらいは出して貰えるだろう。それに、4月まで私の精神も持つかどうか危うい。どうしよう……

そんな時。
突然マユがホテルから帰ってきた。
「私稼げないのに、ママがこんどからホテルに泊まるのにお金を取るっていうの。無理だよ、ごめんね、ここで寝させて、おねがい…」
言い終わるかどうかのうちに、バッタリとマユは布団に倒れ込んだ。

「ありみさん、マユさんと距離を置かないと、あなたまで共倒れになりますよ。冷たいようですが、もう一緒に住むのだけは辞めなさい」

駆け込んだ精神科の言葉を思い出す。
そう、もう無理だ。最近の私は彼女と会話をしているだけでめまいを覚えるのだから。

彼女を追い出すのでなく、兄夫婦の迎えを頼らずに、大嫌いな実家に行かせる方法…
何か……ないだろうか………

つづく。
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追伸:
ギャグも何もない、暗い話が続くにもかかわらず、読んでくださり皆様本当にありがとうございます。95%以上ノンフィクション、日本にはこういう女もおり、世界もあるということを少しでも発信したいという気持ちで書いています。何か、お読み下さった方に考えていただける部分があれば、これ以上嬉しいことはありませんm(_ _)m。
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風俗嬢という病/マユの場合(8)

2005-04-30 | 風俗嬢という病
三月半ばの私の処方箋より、一日量。

パキシル(SSRI抗うつ剤)10mg 2錠
アモキサン(三環系抗うつ剤)10mg 2カプセル
リーマス(抗躁薬)100 3錠
セルシン(抗不安剤)2mg 3錠
デパス(精神安定剤)1mg 3錠 
マイスリー(催眠鎮静剤)10mg 1錠
サイレース(催眠鎮静剤)2mg 1錠

こんなのマユに比べれば全然弱い。マユはアナフラニール、レスリン、レキソタン、ハルシオンetc.etc.…もう覚えていない。
それでも、私、ありみは国から「精神障害者」との認定を受け、医療費を補助される身分となった。(参考:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第32条)
まさにミイラ取りがミイラ。
副作用で日中も頭がぼんやりする。目は虚ろになる。
ブログはおろか、お客様から来たメールのお返事も書く気力が沸かない。私にはやらなければいけないことがたくさんあるのに。マユも放りっぱなしなのに。私は何もかも中途半端でダメな人間だ…。

ホテル暮らしのマユからは、相変わらず点々と近況を伝えるメール、留守電が入る。
「膣内(性器の内部)に炎症を起こしたみたいです。いたいです。ますます稼げない(;_;)」
「池袋で一番大きなキャバクラに面接に行くよ!」「やっぱり面接ダメだったぽい…」
「ウツがひどいです、もうお客に身体を触られるのがイヤだよ」

そして夜中に突然の電話。
「マユとみんなはLOVE&PEACEだよ、ずっと仲良くしてね!」
言いたい事だけ言うと、何か言おうとする前に電話はブツリと切れた。後はずっと話し中。

次の日、お店に出勤するなり同僚の子にいきなり真剣な顔で聞かれた。
「ありみちゃん!マユからのアレ、遺言?!」
あのメッセージをマユは彼女のアドレスにある全ての友人-私のお店の子含む-に電話で叫び回ったらしい。色々な噂で騒然とする店内。

「………店長、そういう訳です。お騒がせしてすみません。本人はけろっとしてるんですよ…」
「いや、ありみちゃんのせいじゃない。元はといえばマユをスカウトしたうちが悪い。まあ正直--彼女はうちに入れるような子じゃない。スタッフHがスカウトしてきたから入れた。Hは仕事も全然出来なかった。もう逃げたけどね。」
「マユは携帯の名義をHさんに貸したままです。彼の分の通話料はこちらで払わされました」
「それは悪かった」
店長は万札を多めに手渡した。
「Hと彼女を雇ったこちらにも非はある。なにせ彼女が甘えすぎだ。君は、…もういいだろう」

わたしはやっと、各専門機関へ相談した。
(今思えば最初からそうすれば良かったのだが)

精神科医
→小さな病院ではもう対処できない。入院施設のある公立病院に行き、借金等も含めケースワーカーなどに相談をしてじっくりと治療が必要。また、精神的・肉体的にも風俗業は一刻も早く辞めるべき。
東京女性相談センターへ相談。
→各地域の福祉事務所、保健所に専門の保健士、ケースワーカーがいるので、早急に相談した方がよい。病院の借金は残るが、自己破産を勧める。


とはいえ私が勧めても彼女が自分から相談するとは思えない。私が相談しても「他人」なので(警察の時がそうだったように)あまり効力がない。
そうなると……親族。あまり頼りにしたくはなかったが、連絡し協力を仰がないわけにはいかない…。

つづく。

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追伸:
ギャグも何もない、暗い話が続くにもかかわらず、読んでくださり皆様本当にありがとうございます。95%以上ノンフィクション、日本にはこういう女もおり、世界もあるということを少しでも発信したいという気持ちで書いています。何か、お読み下さった方に考えていただける部分があれば、これ以上嬉しいことはありませんm(_ _)m。
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風俗嬢という病/マユの場合(7)

2005-04-28 | 風俗嬢という病
3月某日の朝、いつものように私はマユを迎えに行った。

マユ「友達から助けを求めるTelがあったので出かける!私が行かないと死んじゃうかもしれないんだよ!」

「友達…?」「ほらこの前言ってたTくんだよ!」ああ、あの18歳のホストか。マユは年下のホスト男の友達が多い。常にメール受信で携帯は鳴りっぱなしだ。
ガキが。要するに甘えたいだけなのだ。『死にたい』なんて女に言って死んだホストなんているのか?大体、『死にたい』悪いけど、私も君から聞き飽きたよ、その言葉。言ってる奴ほど死なないんじゃないか。最近思いたくないけどそう思うようになってきた。

「君も疲れているでしょう」私は言って、マユを家に引っ張った。
マユは私を罵った。
「ありみちゃんは友人少ないでしょ。それに人の心が理解できない人だよね。」
「悪いけどかなり友人多いよ。」まっとうな、ね。「それに他人の思考読解力もそれほど低いとは思わない。」
冷たく言い放った。マユは無言になった。帰宅後、2人で寝て、私が気が付いたときにはマユの姿はなかった。

夕方、私は仕事に出かけた。おや、こちらに向かっている手を組んだ2人はマユと若い男だ。このピンピンしているのがTくんか。
「ありみちゃんー、2人でラーメン食べてお金が無いし、ありみちゃんの家に居場所が無いの。交通費ちょうだい。デートクラブのホテルに服とか持ってく」
「…早く寝ろ、それとそこの男Tくん?」「は、はい」恐縮して答える男。
「死にそうだったんだっけ?」「は、え、えーと…」
「彼女の方がヤバいんだから甘えるなバカ!判ったねガキ!」
「は、はい…すいません…」男はカクカクと頭を下げた。

--9歳も下のガキに怒鳴るなんて私もガキだ。

夜マユから電話があり、今度はデートクラブのホテルに呼びだされた。
昭和から建っているような場末の暗く汚いホテルだった。
入り口で待っているとエレベータからマユ出てきた。
笑顔でさっきの男とべったりと腕を組んでいた。
男は私を見るとそそくさと逃げ出した。
「ねえ、薬が欲しいから持ってきて。お金もあたしで管理する。
ありみちゃんの家に帰るのは怖いの。ありみちゃんへの約8万円の借金は返すから…」
「薬が欲しいならあたしの家にちゃんと帰りなさい。
病気を治すのと服買うのとどっちが大事?何回約束破った?」
「服……」
「ああそう」

夜更けにマユからメール。
「ごめんなさい帰ります、薬は私にやっぱり必要です、お金も返します」

朝にマユは帰ってきた。
「なんであたしの友達にあんなこと怒鳴るの!?人でなし!」
わたしに文句を言いたいだけ言うとバタリと寝た。

マユは次の日からDCのラブホテルに寝泊まりするようになった。

--自分が心の病に侵されていく。確実に影響されているのは認知していた。
--知っていますか?鬱は伝染病です。
--今、日本中にじわじわと広がっています。死人が1年に3万人くらい出ています。


またある日の夜、突然にマユから電話。
「手持ちのお金がないの!服を売りたいけど身分証明書がないの。大急ぎで新宿まで来て!」
行ってやった。山ほどのブランド服は6000円にしかならなかった。

帰りの新宿駅、マンガに出てくるようなグラサンチンピラの男に声をかけられる。
「遊ばない?」当然無視して改札へ急ぐ。と、マユの姿がないのだ。
「!?」 まさか、いややっぱり。マユはチンピラにつかまっていた。
「ちょっとマユ!バカ!行くよ!」無理矢理手を引いて改札を抜ける。
「なんで?あのひと誘ってくれたのに…」
「あんなのに引っかかるほど自分を安売りしたら終わりだよ、マユ」
「ありみちゃんはさみしくないの…?」
「さみしくなってもそこまで落ちぶれたくないからね。
 マユもあたしも同じ、お互い風嬢だけどさ、プライドは持とうよ。」
もっとも、マユはいつだって「寂しくて人恋しい病」
携帯無しで生きられない、よくある人種、重病。
こんな一言ですぐ治ったら苦労しないんだけど。

ふたり無言のまま、列車は到着。
「マユ、明日は予約してた神経科とHIV検査の日だから、1時に池袋で待ち合わせだよ」
「うん、きょうはありがとう、わかったよ」
「出られなかったら迎えに行くよ、約束だよ」

次の日マユは2時になっても電話がつながらなかった。
DC仕事先のホテルに様子を見に行くと鍵もかかっていない部屋にマユは寝ていた。
起こそうとすると「眠いんだってば!」と怒鳴り私をを追い返した。
その後、文句のメールが来た。
「ホテルにまで来てママ(クラブの経営者)に怒られたじゃない、もうあんなことしないでよ。近づかないで。」

--自分が心の病に侵されていく。だからといってマユを放り出す方法も勇気もなかった。

つづく。

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追伸:
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風俗嬢という病/マユの場合(6)

2005-04-26 | 風俗嬢という病
彼女の旧友であり鬱病のサヤがマユと同じ店に入店して数日後。
マユ「私、ありみちゃんと行ってる病院の先生、合わないような気がする。」
最初何を言っているのかと思ったが、すぐに分かった。

「その薬袋は何?」薬は私がすべて管理しているはずだ。
「サヤちゃんと…サヤちゃんが行ってる病院に行ってきて貰ってきたの。いい先生だよ。お金は(マユの金は私が管理している為)サヤちゃんに出してもらったけど…」
「薬は何を貰ったの?」マユはびくっとした。
「いつもと…同じだよ」
「その別にカバンに入れてる白い錠剤は?」
「ビタミン剤だよ」
「ふうん…」もうとっくに失望はしていた。

忘れるはずもない『CG|202』の白い錠剤。リタリン-チバ。

「リタリンだよね。何で嘘をついたの?」
「リタリンって言ったらありみちゃん怒ると思って…」
「もう飲まないっていう約束、どうして裏切って破ったの?」
「サヤちゃんのお医者さんが出してくれたもん…」
「だったらサヤちゃんに治して貰おうね。ここにいちゃいけないよ。」
「ダメだよ…サヤちゃんは実家だし一人暮らしするお金ないし…でもマユには大事な友達だよ。でもちゃんとお金ためてマユはサヤと二人暮しするよ。一緒に(彼女らの趣味のビジュアル系)ライブに行ったり服買ったりするんだ…」
「そう…」

予想通りすぎる悪影響と相乗効果だった。その晩、サヤからメールが来た。
「Dear ありみちゃん☆
サヤです。リタリンはわるいくすりじゃないよ。
ちゃんときめてのめば仕事もがんばれるし
マユもがんばりたいっていってるからみとめてあげてください。」


何が『Dear』なのか。私は心の中で唾を吐いた。
勿論マユの『CG|202』は所持品中すべて調べて取り上げ処分した後だった。またこの女から貰うんだろうけど。

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マユの仕事は23:00~7:00(DC。本番デートクラブ)。
終わってからはすぐ休み、よく寝るようにと医者に言われている、しかし。
メールで友人の誘いがあればそのままフラフラ遊びに行ってしまう。次の日疲れて仕事をサボることも多々。
またある日は3万円稼いだ朝の帰り道、ホストに捕まって無理飲みさせられ、持ち金全額をふんだくられて帰ってきた。

-私は朝7時に彼女を迎えに行くことにした。
-自分の仕事もキツイっていうのに何をやっているんだろうか、私は。

またある日。
マユ「私、自分で薬やお金の管理をしたい。ありみちゃんだって大変でしょ?あたしね、サヤちゃんみたいに、お金も返しながら、自分へのごほうびに服も買ったりして普通の女の子みたいに生きたいの。」

普通の感覚なら
食費も何も出さない居候で、金融会社も私への借金も返せず、稼ぎ額が目標金額に全然到達しない。自分へごほうび?君はどんな偉いことをしたの?
と聞き返したくもなるが、そんな感覚は彼女に通用しない。

それに、マユは先日、仕事後にサヤの買い物に付き合い、春のコートを予約して、買ってしまった後だった。日々の稼ぎ額に嘘を付き、稼いだ額の半分だけ私、残りはサヤに預からせていたからだ。
流石に私も本音が口から漏れた。

「最初に誓ったことは何だったのかな…。私はどれだけ裏切られればいいのかな?」
「なんでお母さんみたいにあたしを縛るの!?
やめてよ!私はありみちゃんのあやつり人形なの!?」

逆ギレして泣き出した。

泣きたいのはこっちだったが、泣ける相手は居なかった。
事実、私の過剰な保護と束縛は、彼女に安心感と同時に、甘えと、実母の虐待・監視の恐怖の記憶etc…複雑すぎる影響を与えていたのを感じていたからだ。

つづく。
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追伸:
ギャグも何もない、暗い話が続くにもかかわらず、読んでくださり皆様本当にありがとうございます。95%以上ノンフィクション、日本にはこういう女もおり、世界もあるということを少しでも発信したいという気持ちで書いています。何か、お読み下さった方に考えていただける部分があれば、これ以上嬉しいことはありませんm(_ _)m。
お気に召しましたら、当特集を、他の風俗嬢系サイトさん等にもご紹介していただければ幸いです。

風俗嬢という病/マユの場合(5)

2005-04-24 | 風俗嬢という病
マユはありみ在籍のイメクラを退店。数ヶ月前に処方された抗うつ剤を再び飲み始めながら、就職活動をスタートした。

まず普通の喫茶店のバイト面接に行った。…落ちた。
予想の範囲内だ。こういった強力抗うつ剤常用者は視点が定まっておらずフラフラして目線を合わせられないことが多い。接客業の人間にはすぐ「無理」と見抜かれるのが厳しい現実だ。

「これじゃ、借金が返せないね…」
いたしかたないと結局風俗、それも激安ソープ店(総額15000円)に行った。
店の指示で各サイズのコンドーム、グリンス消毒液、イソジンうがい液、ローション、タバコ(10種程度)等の消耗品一式を買った。
しかし身体の傷、体型etcの理由で客の受けが悪く、すぐ解雇。また別の激安店に行く、解雇。激安店は、実際ソフト風俗等よりよほど生き残りが厳しいということを、マユも私も知らなかった。繰り返しは1,2週間続いた。

「マユは風俗はだめなんだよ、きっとキャバの方が向いてると思うの!あたし!」
今度は、マユはキャバクラ嬢を目指し、いきなり派手なカツラやドレス、ヒールを買ってきた。
カツラ。マユにはストレス性の大型の円形脱毛症があったのだ。
しかし面接に行ってみると最初に聞いたのと全然違う条件。
「一日2組以上客を呼べなかったら、その時点で解雇とします。それでもいいですか?」「体験入店?ここは今日、結構女の子が多いんだ。他の系列店に行ってみる?」
ようするにやんわり「面接落ち」という意味なのだ。
10万近く投資したドレスたちは、すべて無駄になった。

そして、マユは私の知らないうちにテレクラで援助交際を始めた。
しかし、ヤリ逃げされたり帰りに服を買ったりして、1円も貯まることはなかった。

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私の家でのマユ。
マユは薬の副作用で夜尿が止まらなくなった。私は毎日シーツの洗濯をさせられた。大人用のおむつを買ってやって履かせた。敷き布団は尿の臭いが抜けなかったから、後に丸洗いして約9000円かかった。どうでもいいことだけど。
それでも「ありみちゃんの家はよく眠れる。ごはんもおいしい」と言ってくれたのでわたしは多分嬉しかった。

マユははいわゆるビジュアル系バンドやゴスパンクが大好きだ。楠本まきのkissxxxxも大好きと言ってヒマさえあれば眺める。優しい男の人の声が好き。キレイな詩の世界がすき。そして何より可愛いピンク色のお洋服が大好きだ。

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3月。
マユはスカウトマンの紹介で、安いデートクラブ(売春斡旋クラブ、通称DC)に入店した。本番ありで一本¥6,000、1日どれだけ客が来ても頭打ち¥30,000。ホテル待機型なのでどちらかといえば「ちょんの間」に近いかもしれない。でも、少しずつお金は入るようになった。

ここでわたしは、これでやっと、うまくいくと思った。でも。

マユにはサヤという友人が居る。自殺未遂の時も入院に駆けつけてくれた親友だという。
同じく重病の神経症だ。買い物依存症で多額の借金持ち。リタリンに依存していて過食嘔吐、ほとんど水分しか摂らない。在籍するSMクラブのサイトには「スレンダー美女!」といううたい文句で病的にガリガリの身体が載っていた。でも最近、店内でリストカットをしてクラブをクビになったという。

このサヤが、マユのすすめでマユと同じデートクラブに入った。嫌な予感がした。

つづく。

風俗嬢という病/マユの場合(4)

2005-04-22 | 風俗嬢という病
住む場所が無くなり、わたしの家に来たマユ。
そして、私は初めて、マユの真の惨状を知った。

-マユの半生-

母はマユが生まれてすぐ離婚、再婚。
マユとその兄は母に「前夫に似ている」等の理由で木刀で殴られる等の虐待を受けて育つ。(この母自身も父(マユ祖母)に虐待を受けて育っている。)
兄は中学で非行に走り、祖母の方へ養子に出される。マユへの母の監視が強まる。
高校卒業(?) 後、家出。が、一人暮らし先兼仕事場の工場(?)で集団レイプにあう。
上京し風俗嬢に転身。一時期は予約が取れないほどの人気嬢となる。
ビジュアル系ライブを通じ、彼氏もできて同居する。しかし鬱・自傷癖は悪化の一途をたどり、昨年、夏に都内のホテル浴室で動脈を切り、自殺未遂。丸一日後に発見され一命を取り留めるが全身に長時間水中筋肉圧迫によるを重傷を負う。体中に火傷跡が残り、片足が多少不自由となる。
彼氏に年末、風俗業をうち明けるが、理解は無く別れる。

現在、某県にある実家は実兄とその嫁、娘(姪っ子)、祖母が暮らす。実兄・嫁は風俗に理解があるが祖母は知らない。実母はまた離婚し、別な男と暮らしている。しかしたまに様子を見に実家へ帰るのが怖くて、マユは帰れない。実母に会えば怒鳴られる。恐怖の記憶が蘇るから。

-マユの借金-

<金融会社等、他人に頼まれての貸し、買い物等によるもの>
・A社に40万円弱 → 月¥12,000返金、うち元金¥2,000(何ヶ月かかるのか?)
・T社に25万円弱 → 月¥11,000返金、うち元金¥4,300(何ヶ月かかるのか?)
・Mデパートに30万円弱 → 既に3ヶ月滞納。月¥30,000返金予定
<携帯通話料金の滞納>
・AU ¥44,000(解約、ありみ立て替え中)
・ドコモ ¥36,000(ありみ立て替え中) 
<治療費>
・A病院 ¥50,000 → 滞納中
・B病院 ¥2,000,000 → 月々¥20,000返金(昨年の自殺未遂によるもの)
合計 約300万円

マユ「ごめんなさい。再出発がしたい。荷物が実家に残ってるの」

私は、引っ越しの手伝いにマユの実家に一緒に行った。
東京に隣接している県内にもかかわらず、東北にある私の実家より、辿りつくのによほど時間がかかった。それくらいへんぴな何もない田舎だった。バスは一日4便。まだ下水は通っていなかった。
マユ兄のお嫁さんがいた。一児を持ち、妊婦であるにもかかわらず元ヤンの切れ味が落ちていない姉御肌の女性だった。
「マユ、この子はいい子だ。裏切っちゃ駄目だよ」
「裏切らないよ、お義姉さん…」

そしてマユは誓った。
「うつ等々の病気をきちんと治すよ。リタリンはもう飲まない。借金も計画的に返して、貯金して自立したい。夢はヘルパーになることだから。薬・お金・カードは自分でもっていると勝手に使ったりして自制が効かないから、ありみにちゃんに管理してもらう。風俗じゃなくて、ちゃんとした仕事につきたい。」


こうして、マユと私の共同生活が始まった。

つづく。

風俗嬢という病/マユの場合(3)

2005-04-20 | 風俗嬢という病
仮眠室のあるイメクラ廃墟、Nビルは警備も鍵も人の気配も無く、初めて来た私も気味が悪いほどあっさり入れた。電源オフの自動ドアーを無理矢理押しひいて、薄暗い中に入る。

「マユちゃん!マユちゃん居る!?」
叫んでも返事はない。だが、奥に明かりの漏れるドアを見つけた。部屋の中はマユの私物らしき服、鞄、CD、菓子パン、etc.etc.…が布団の周りにグチャグチャに重ねられていた。
そして、赤く染まったティッシュがゴミ箱に無造作に丸めて捨てられていた。枕元には新品のカッターナイフ。
「マユちゃん!」
「……ダレ?どうしたの~?あれ、ありみちゃんじゃん?なんでここにいるの?」
すっとぼけた調子のマユがトイレから出てきた。
「どうしたのじゃないよ! 『もうしにたい でもしねない たすけて』 こんなメール送って!みんな大騒ぎだよ!」
「……あれ?そんなの送ったっけ?ごめん良く覚えてナイ。ここ3日間ほとんど寝っぱなしだったからさあ~おなか痛くて全然食べてないし~」
「食べてない!?水分は取ってる!?摂らないと死んじゃうよ!」
「水分は…下に自販機があるから…」
「まあいいからこれ!」ドスンと差し入れのスポーツ飲料を置く。
「ありがとう…でも大丈夫だよ…」「大丈夫じゃないよ。回復したらご飯も食べるんだよ」
「…食べたくない。太るもん。
 あたし、太ってるからお客が付かないんだ。だから痩せるの。
 食べても吐くよ。いつでも吐けるよ。知ってる?菓子パンって一番吐きやすいんだよ

「それじゃ仕事できる体力ができないじゃない。」
「リタリンがあればマユは元気になるもん。全然大丈夫だよ。」

心配されたくて自傷するくせに来てやってみればこうだ。

「…こんなところに居ちゃ神経も参るよ。実家に戻ったら?」「戻りたくない」
「うちに来る?少しは部屋が空いてる」「平気だよマユは。心配しすぎだよありみちゃんは。」
「来なさいよ」「いいよ。それよりアタシもう眠いからまた寝るね。」「……。」

1月末、このイメクラ廃墟Nビルに工事が入った。マユは住む場所が無くなった。
メールを受信。「マユです ありみちゃんちに行ってもいいですか」

つづく。

風俗嬢という病/マユの場合(2)

2005-04-18 | 風俗嬢という病
マユは新入りの店のスタッフHが、デリヘル「クラブ_Z」からスカウトされてきたそうだ。正しくはHがマユに惚れ込んでしまったのが原因と言うべきか。

マユの前店、デリヘル「クラブ_Z」は、いわゆる相当な悪質店だった。
いわゆる求人誌等には決して載っていない。ヘルスから適当な金に困っていそうな娘に声をかけ、高額な保証と支度金で巧みにスカウトする。そして一度入店したら最後、24時間働かせる。給料は月末に渡すと言い、休んだら高額の罰金を課す。逃げないように、待機所、いわゆるマンションの一室に監視。そしてとどめに強烈な脅迫(逃げたら実家に知らせる、ヤクザがバックにいる、契約通りの月数働かなければ裁判を起こす等)を行っていると言う。
マユの話を聞くに、居たたまれなくなり、お節介心で私は警察に相談をした。しかし、本番行為の強要や18歳以下の就労が目に付くわけでもない。そして当の被害者達は脅迫の恐怖心で硬く口を閉ざしている。
「どうして余計なことをするのよ!」マユの電話越しに知らない女が私を怒鳴りつけた。
「手の出しようがないんだよ。第三者の相談だけじゃあね…こんな話は今年になってもう30件はうちに来て居るんだけどね…」
今も、このクラブには、マユの友人が妊娠したまま働いているという…


マユが入店して1,2週間。マユはほとんど喋らず、待機所で寝てばかり居るようになった。客が全然付かないのだ。オープンラストで居ても新人なのに1,2本がせいぜい。仕方ないと思う。だって容姿、体型の点で他の新人に比べ、圧倒的にレベルが下なのだから。
彼女の武器は、長年培ってきたプロの技、スマタ・マット等々。だがここは素人専門店だ。悪いけど自分が客なら入ろうとはまず思わない。
「スカウトしたくせに全然入らないじゃない!どういうコトですか!?」
スカウトしたHが無能なのだが、その責任者である店長はさすがに本音を彼女には言えない。
「ごめんよ…バイブ(本来¥4000)とかのオプションを無料とかにしてお得感出すとかどうかな?」
「……はい」
かつて痩せていた頃、来る日も来る日も予約でいっぱいの看板嬢であった時代もあったという。風俗嬢としてのキャリアが全ての彼女にとって相当の屈辱だっただろう。

だが、提案も空しくその後マユは、「4日連続のお茶引き」という風俗歴上、最悪の体験をした。

「もうここで寝たくない…寝られない」
目の下を真っ黒にした彼女は睡眠薬をぎちぎちに詰め込んだブランドの鞄を手に、仮眠室を間借りした。
仮眠室--というか、元イメクラビルの廃墟の一室だ。窓も無く鍵もかからないベッドだけの部屋。水も止まっていてシャワーも使えない。男性スタッフなどが主に使っている。
そして、彼女はぱったりと店に来なくなった。体調不良だという。
無事の確認のメールをすると、半日後にぼつぼつ返信メールや留守電が返ってきた。

「ウツです。ごめんなさいまたリタリンを飲みましたでもまだウツが治りません」
「今日はYちゃん(別な新人の子)と泊まりました。Yちゃんもうつだからいっぱいしゃべったよ。でも2人で過食嘔吐してしまいました。」
「もうやだ お菓子万引きしちゃったよ Yちゃんにあげちゃいました ごめんなさい」
「もうしにたい でもしねない たすけて」
この文と一緒に手首に赤い線が3つ入った写メールが送られた。
わたしだけではなく、メアド交換した店の女の子全員に、同時に。
店の空気が凍り付いた。

わたしは、仕事が終わると同時に、仮眠室の入った廃墟ビルに駆けだした。

つづく。

風俗嬢という病/マユの場合(1)

2005-04-16 | 風俗嬢という病
マユがうちの店に来たのは1月くらいだったろうか。
第一印象は「派手なファッション、太め、肌荒れ、病的なハイテンション」
そして風俗歴4年のベテラン。
素人がウリのうちの店では、『いかにも』な彼女は明らかに浮いていた。
それでもまあ、周りの女の子はつかず離れず打ち解けて軽い馬鹿話をするようになった。

気がつくと待機室は彼女の荷物で埋まっていた。
聞けば、実家が遠くの県なのでなかなか帰れない、いつも待機室で泊まりなんだそうだ。
マユはよく得意げに周りに言った。
「あたし、うつ持ちで、分裂病質性人格障害で、不眠症で、過食嘔吐で、自傷癖持ちだから!」
自分の戦歴を自慢するように楽しげに言っていた。
思えばこの時から関わらなければ良かったのかもしれないが。
マユの両腕にはひじを越えるほどの灰色の傷跡が何十と走っていた。

マユは常に、十袋近い白い薬の紙袋を手にしていた。
わたしは嫌な予感がして、聞いた。
「そんなに飲んでるんだ」
「うん!リタリンとかね!すごく元気になるよ!」
嫌な予感が当たった。わたしは胸が黒くズキリとした。

リタリン。

中枢神経興奮剤。使用によって爽快感や多幸感が得られる場合があり、また、離脱作用として、やめるとパニック状態や中等度または重度のうつ状態をひきおこすことから、乱用依存につながる原因になっている。乱用によって覚せい剤乱用と同様の幻覚妄想などの副作用をひきおこす。
薬理作用からは覚せい剤、アンフェタミン類に分類されるが、医療薬として処方される薬物であり、法律上も覚せい剤ではなく、向精神薬として扱われる。ただし向精神薬として認めているのは日本のみ。


二度と聞きたくない単語だった。また聞かされるとは思ってもいなかった。
過去、この薬物で、わたしは三人もの近しい人間が廃人にされかけたのだ。

「…!いますぐやめなさい!」
 わたしは彼女の横っ面を引っぱたいていた。
 軽い衝撃だったが室内に良く響いた。
「もうわたしはコレで廃人になっていく人間は見たくない!」


普段大人しいわたしの豹変振りに待機室が無言になった。
驚いて声も出ない彼女を尻目にわたしは問答無用で薬袋を取りあげた。

マユにインターネット等でリタリンの悪影響、自分の目で見てきた副作用を説明すること数時間。
「ありみちゃーん仕事だよ~」
「じゃあ、もう飲んじゃ駄目だよ!」「うん………約束する」
わたしはリタリンの薬袋全部を待機室のゴミ箱に突っ込んで出かけた。

わたしが仕事から戻ると、マユは居なくなっていた。
「マユは?」「友達のところに行くって」「そう…」
「…ありみちゃん、アイツ、何言っても無駄だよ。さっきゴミ箱からリタリン漁ってまた持っていったもん」

嬉しくはないが、予想の範疇だった。何せ「合法覚醒剤」なのだから。
マユにメール。
「リタリン、ゴミ箱から持っていったの知ってるよ。約束破ったね、かなしいよ」
すぐに返信。
「ごめんなさい、だってリタリンないと、ウツになるもん。マユ、仕事できないよ」

過去にも何度も聞かされたセリフだった。
予想の範疇なのに、わたしはまたズキリとした。

つづく。

参考ページ:リタリン乱用について