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カリスマ節税家の妹

盛岡市の南にあるシーウェイブ急便のオフィスに電話がかかってきた。
「あの、こちらはくらしの税金相談所という税金のプロ集団です。ただいま自動車関連の税金について緊急アンケート行なっています」
しかし電話に出たのはアローこと斉藤葵だった。
「もしかしておじさま…じゃなかった、社長にですか」
「そうです。昨今の原油暴騰に便乗して国はガソリン税など道路財源だなんだと金儲けに走るあまり…」
「今社長はいませんから」
「そうですか。わたくし井坂と申しまして、この度岩手県の皆さんにご挨拶に伺おうってわけなんですよ」
「はい、そうですか」
「いいんですよ。その気でしたらインターネットでも相談できますから」
「でもあたし、まだ高校生ですし」
「高校生もお金のことは勉強すべきですよ。税金のことも学べますから」
「そういうことじゃなくて…」
「それでは、社長さんによろしくお伝えください」

翌朝、葵は寝ぼけた顔で登校した。
「ふぁ~、眠い」
そこへエースこと荒川まどかが元気な顔でやってきた。
「ど~したの、弓道部員さん」
「まどか、元気じゃないの。って言うかさ、朝練ないの?」
「うん、今日はリーグ戦の谷間だから休んで勉学に集中しろって」
「よかったぁ」
そう言って葵はまどかに寄りかかった。
盛岡学園の3年B組、マッキーこと牧村環がクラス担任を勤めているクラスだ。と言ってもショパンこと横田夏子の補佐と言う形だが…
そのクラスに井坂優子と言う生徒がやってくる。今日編入したばかりの生徒だと言うのだ。
「今日は先生から大事なことをお知らせしなければなりません」
そう言って横田夏子はウイングこと高橋弥生と葵の間の空席を指差した。
「今日から新しい生徒が来ることになりました。井坂優子ちゃんです」
指を指された弥生と葵はぺちゃくちゃとおしゃべりを始めた。
「転校生…ワクワクしちゃう」
「ちょっと」
「あっ、来たっ」
井坂優子がやってきた。
「井坂優子です、よろしくお願いします」
生徒たちは拍手で出迎えた。そんな中葵だけはぼっと考えていた。
「井坂?確かくらしの税金相談所ってので昨日おじさんに電話したの…」
葵は昨日の電話の人が井坂と名乗っていたことを思い出した。
「はい、先生」
「斉藤」
「井坂…優子ちゃんよね。お父さんが税理士とかじゃないですか?」
「父は昨年亡くなりました。それで金融会社に勤めていた兄がそれを引き継いで」
「へぇ~、お兄さんなんだ」
井坂優子の兄は井坂達也、亡き父井坂哲郎は税金と経済の専門家として経済新聞などで論壇にも登場した人物だった。その父が昨年逝去し、達也は勤めていた金融顧問を辞めて父の後を継いだ。
「あの子、葵と馬が合いそうね」

井坂達也は盛岡市の菜園に事務所を構えていた。
「ご苦労さん、あとでお礼に行くよ」
ようやく長かった引越しも完了、事務所の看板の設置を確認してソファーに座っていた。
「これで一人前の税理士となったわけだ。父さん、今日から都会を離れて一国一城の主です」
そしてさっそく不動産の税金の本をぱらぱらとめくった。

昼休み、優子は葵と意気投合。
「よくわかったわね、お兄ちゃんのこと」
「こう見えても、あたしも休日は自宅兼会社の警備員なの」
「経済新聞とか読んでるのね」
葵はうなづいた。
「お兄ちゃん好みかな」
「達也さんに会わせてくれるの?」
そして放課後、菜園の事務所にやってきた。
「お兄ちゃん」
「優子か」
達也はドアを開けた。
「お帰り」
「今日はお客さん連れてきたの。斉藤葵ちゃん、クラスメートよ」
「昨日はお電話ありがとうございます」
「あ、シーウェイブ急便の斉藤社長の…」
「その節はどうも」
そして達也は税金の本を葵に見せた。
「法人税と一概に言いましても、大企業にかけられる税金は…」
「ま、あそこの会社なんてそんなに税金優遇されてんの?」
達也は井坂哲郎の遺影に向かって訴えた。
「そうだ、大企業の税金の額も世界一律じゃない。まして国の税金は本当に不公平すぎやしないだろうか?」
「お兄ちゃんは世界中を株式や金融市場のために回ってきたから、日本の税金がおかしいと思っているのよ」
「…確かにおかしいと思うけど」
翌朝、IGR盛岡駅で葵とホワイトこと白澤美雪が優子と一緒に登校した。
「おはよっ」
「葵ちゃん、この人は?」
「A組の白澤美雪ちゃん」
「美雪です」
「昨日から盛岡学園高等部3年B組に編入しました、井坂優子です。どうぞよろしく」
そして3人は厨川まで電車に乗った。

一方、達也は事務所で電話を受けた。
「井坂達也だな、明日までに250億円がほしいんだ」
「…そんなことできるか」
「税理士の先生なら簡単にできるかと思ったが、残念だ」
そして男は電話を切った。
「これじゃ脱税事件だ…大企業や役所の税金逃れか。最低だ」

さて厨川駅を降りた3人の後ろに2人組の男がやってきた。彼らは盛岡学園までついてきてしまったが、そこで男に声をかけられた。
「おい、何をしている」
「お前こそ」
「学校警備員だ、おとなしくしろ」
男はスティングこと原俊彦とバトラーこと国分繁治だった。
「わたしたちは、別に…」
「なんでもありません」
しかしバトラーは容赦なく叩きのめした。
「女子校生を厨川駅から尾行してただろ」
「知りません」
「本当にですか?誰かにハングタンの正体を明かすよう頼まれたのですか」
スティングは大男のスーツの襟をつかんだ。
「ハングタン?」
「知らないようだ、自由にしてやる」

業間時間を利用してスティングとバトラーはマッキーと話をすることに。
「葵ちゃんと美雪ちゃんがいたけど、もうひとりは?」
「井坂優子ちゃん。斉藤、あの子と出来てる」
「はて、井坂…どっかで聞いたことが」
「税理士でカリスマ節税家と言われている人だよ。お父さんも大企業の税理士だったらしい」
「そう言えば聞いたことあるな、井坂哲郎って税理士」
理事長室でゴッド・大谷正治理事長が井坂哲郎の話をしていた。
「大企業の脱税を告発して週刊誌に載った事で、時代の寵児となった。惜しいことに昨年急逝したが…」
「その息子が岩手に来たってことですが」
「実はそのことで噂を耳にした」
「噂、ですか?」
ゴッドは週刊誌の記事をメンバーに見せた。そこには井坂哲郎の息子が競馬騎手の脱税を指南したと言うことが書いてあった。
「これと井坂優子がどういう関係が」
「わからないか。井坂哲郎の名声を悪用して、井坂の名を騙りあくどい脱税計画を練る奴がいるということだ」
「これ、みんな地方の騎手ですよ」
「ほんとだ。ユタカさんとか松岡君がいない」
「和田も藤岡も川田もいないよな」
「そこが井坂の名を騙る集団のあくどい所だ。そしてその魔手は東北の中小企業に迫っている」
「えっ?」
「このまま行けば岩手県の、いや、東北の経済は破滅だ。そして井坂優子はその犠牲の十字架を一生背負うことになる」
「…井坂をこんな目に遭わせたら末代までの恥よ」

しかし昼休み、マッキーとショパンが目を離した隙に優子はある男に誘われた。男は刑事の板垣と名乗った。
「実は、250億円の横領事件にお兄さんが関与しているかも知れないんです」
「そんな、あたし知りませんよ」
「じゃあこんなことされてもいいんですか」
板垣が優子に乱暴しようとしたそのとき、バトラーが板垣に蹴りを入れた。
「何が横領だ、横着じゃないか」
その光景をマッキーと生徒たちも見ていた。
「で、あとはどうするの」
「実は朝の男たち、それにさっきの偽刑事、みんな盗聴器仕込んであるんだ」
バトラーは勝ち誇ったように言った。

夜、天川商事と言う会社で板垣たちさきほどの男たちがボスに叱られていた。
「井坂達也の妹を拉致する計画はどうした。そうしなければ東北各地の中小企業の総額250億の所得隠しが…」
「250億円はどうするんですか」
「そんなこと聞いてどうする。とにかく明日中にやるんだ」
しかしそれはハングタンたちに筒抜けだった。
「それより提案がある。実は…」
板垣はボスに耳打ちした。
「中小企業の250億の脱税??どこからそんなでたらめが」
スティングは仰天した。

翌朝6時、天川商事の車が事務所を見張っていた。
「井坂優子か、昨日アニキが逃がした女子校生の」
優子が階段を駆け下りた。しかしそこで踏み外してしまう。
「今だ」
そして車から二人組が飛び出し、優子を抱きかかえるようにして連れ去った。
「これで準備は万全」
「目一杯やるぜ」
そして車はどこかへと走り去った。それを達也も見ていた。
「あの車、天川商事の…優子、優子ぉ!」
そこへ電話が鳴った。電話の主は案の定ボス、天川商事の社長天野哲哉だった。
「天川商事の…どうしてここが」
「井坂税理士、警告する。大事な妹さんをこれから犯す」
「何だって」
「それがいやなら、250億円用意しろ。あんたたちが東北地方の中小企業を脱税させて着服した金だ」
しかし達也は拒否し、天野に反論する。
「それはあんたたちが」
「そうか、じゃ仕方ないな」
そう言って天野は電話を切った。
一方盛岡駅で今日もアローは優子を待っていた。しかしいくら待っても優子が現れない。
「遅いわね、もう次の電車出ちゃうじゃない」
そこへマッキーがやって来た。
「どうしたのよ」
「先生、優子が来ていないんです」
「えっ?」
ここにホワイトとエースもやってきた。
「どうしたの?葵」
「優子がまだなの、どうしちゃったのかしら」
その優子は板垣の運転する車で雫石川の河川敷に連れ込まれた。
「どうするつもりなの?」
「カリスマ節税家の妹がレイプ、しかも当の兄は中小企業支援を謳い250億円の脱税となれば我々は万々歳だ」
「そんなこと…いやっ」
優子は川岸に近い場所でスティングに詰問された大男に羽交い絞めにされた。
「ちょっと離して」
「上野、きつすぎるぞ」
「しかし、緩めたらいつ逃げ出すか…」
「もうそんな体力はないだろ」
「はい」
上野は板垣の命令できつく締めた。そのたびに優子は喘ぎ苦しむ。

3年B組のホームルームでショパンは優子の欠席を伝えた。
「今日、どういうわけか井坂さんが来ていません。お兄さんからも連絡がありません」
というわけで、急遽アローが公欠扱いにされた。
「斉藤、井坂と仲良しだったんでしょ?助けに行かなくちゃ」
そこへ理事長直々の連絡。バトラーから盗聴器が優子の喘ぎ声を拾ったと言うのだ。バトラーはすでに学園の校門に待機しており、バトラーの車にはスティングも乗っていた。
「先生、葵ちゃん」
「井坂優子はとらわれの身だ。おそらく誘拐したのは昨日盗聴した天川商事と言う会社の連中だ」
「調べたところ、板垣と木村という男が浮かんだ。彼らは中小企業相手の無尽金融を謳っているが、250億近い焦げ付きがあるようなんだ。ところが中小企業に井坂式節税法を教えてやろうとしたら、かなりピンハネできたはずだよ」
「で、そのお金は?」
「多分投機マネーとして消えただろう、あるいは原油とか食糧とかに…」

そして雫石川の河川敷(盛岡インターの近く)でバトラーたちは優子を発見した。
「助けて」
か細い声で助けを求める優子にスティングは気がついた。
「優子ちゃん、助けに来たよ」
「この前の人…また助けに来たの」
「よぉし、乗ってけ」
バトラーはスティングに優子を任せた。優子は泣いた。
「あの人たち、お兄ちゃんを狙ってるの。お兄ちゃんに脱税の罪を着せて、そのお金でいろんなところの石油や穀物を買い占めてるの」
「それで、その人たちの手がかりは」
「わからない」
スティングのジーンズに優子の涙が染み付いた。
「むごいわ」
ハングタンの怒りがこみ上げた。

優子は病院に運ばれた。そしてウイングが見舞いに訪れた。
「優子ちゃん…」
「あ、弥生ちゃんだっけ」
「そ。でも辛かったわよね」
ウイングは優子の手を取った。
「あたしもこっちの人じゃないから、気持ちはわかるよ」
「どこなの」
「博多よ」
そこへ知らせを聞いた達也がやってきた。
「優子、怪我は…やられなかったかい」
アローが達也を落ち着かせようとする。
「達也さん」
「斉藤さん、優子は、優子は…」
「医者は大丈夫だと、それに処女膜の破瓜も認められませんでした」
「明日にはもう通学できるみたいですよ」
それを聞いた達也は安心した。
その頃マンションの一室、「大谷」の部屋に残りのハングタンとスティング、バトラーが集合していた。
「間違いなく今頃菜園の事務所に…」
「いや、それはない。それに病院にかけつけた達也さんを狙おうにも、病院の警戒に引っかかるだろう」
バトラーは立ち上がった。
「僕が念のため菜園の事務所見てきます」

そう言ってバトラーは菜園の事務所へ。しかし井坂達也も天川商事の関係者もいなかった。実は天川商事の面々は近くのバーで酒盛りをしていたのだ。バトラーは仕方なく天川商事へ向かうことに。一方天川商事の面々にはスティングとショパンが迫っていた。
「井坂に250億円の金つくれるか。俺たちの金だぞ」
「ほほぉ、じゃ競馬騎手の脱税指南なんてことも…」
スティングは上野と木村を競馬のステッキで打ち払った。
「井坂さんに250億円擦り付けるなんて、ひどいわ」
「じゃ、しゃべってもらいましょうか」
天川商事のビルにバトラーのツーリングワゴンが。
「仕上げは天川商事の社長、天野だけか」
バトラーとホワイトは天野が250億円を井坂からたかる必要はない、と原油先物の目論見書を見せた。そして翌朝10時に井坂が待つと予告した。

朝陽が差し込んだ病室で優子は目を覚ました。それをウイングが見ていた。
「よかったね」
そしてアローから10時に大通りに集合という連絡。さっそく合流することに。

天野たちは縛られ、内診台に乗せられた。体育座りと言うべきか、M字開脚と言うべきか、とにかく恥ずかしい格好をされていた。
「250億円、欲しいんでしょ」
「あ、ああ。そうだ」
「天川商事へ250億円の小切手差し上げますよ」
「いや、切手切らなくてもいい」
「おやおや、どうしました?250億円の現金(なま)なんてめったやたらにありませんよ」
しかし天野も板垣も白を切る。
「それでは木村さん、上野さん」
そしてナースキャップをかぶったウイングとエースがお医者さんごっこで金の玉を抜き取ろうとした。
「どうして抜き取るんだ」
「いやなら昨日のことを話してね。お・ね・が・い…」
木村も上野も何も話そうとしなかったが、ウイングとエースは理由もなく去った。
「じゃあこれはどうかしら?」
そして金塊と一万円札の山を見せ付けた。
「欲しかったら昨日の井坂優子強姦未遂事件、その前の中小企業への悪徳融資と脱税示唆、さらに地方競馬騎手やJリーガーへの脱税指南、原油高騰の元凶の大量投機など、すべてしゃべること」
それを聞いたらもう部下たちは黙っていない。とうとう誘惑に負けた板垣は社長の投機資金のために企業や芸能人、スポーツ選手の脱税指南を働いたと自供。木村と上野も自白してしまった。
「嘘だっ!」
天野はあくまで白を切るつもりだったが、ここでマッキーが必殺の一言。
「バッキャロー!」
これで天野は内診台の上で恥らう姿をさらされたばかりか、カリスマ節税家井坂達也の名を騙って県内企業から資金をたかる悪徳組織のボスと屈辱的な汚名を着せられたのだ。その瞬間を井坂兄妹も見ていた。

数日後、マッキーは特別講義を行なった。世界史と投機マネーについて、大航海時代からオイルショックまでじっくり勉強したハングタンたち、しかしアローは経済新聞をカンニングペーパー代わりにしていたのでマッキーに叱られた。
「ま、経済新聞を読むのは大したもんだけど」

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