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土曜ゴールデン劇場「音楽教師夏子・非情の調べ」

朝、肌寒くなった盛岡の街はもう落ち葉が道を埋め尽くしていた。ショパンこと横田夏子はマンションの秘密の部屋でピアノを弾いていた。
「すっかり朝は冷え込むようになったわね。あたしもちょっとあったかくしないと!」

横田夏子は音楽教師である。しかし、それは表の顔に過ぎない。彼女にはもうひとつの顔があるのだ。
彼女は盛岡学園理事長、大谷正治からの特命を受けてさまざまなトラブルを解決し、続発する凶悪な事件の真相を暴く「ザ・ハングタン」の一員なのだ。

ある日、盛岡学園の生徒・岩井智之の父、岩井勝彦が心中した。遺書には社会に疲れたと書かれてあったが、それが本人の筆跡かどうかは判明しなかった。
「父さん…」
智之は泣いていた。翌朝、智之は数人の生徒にぼろくそに言われていた。
「お前の親父はリストラされて死んだんだ」
「ヤーイ、お前も弱虫」
そんな言葉を耳にした智之はどうすることもできなかった。そこへ夏子が立ちはだかり、智之を野次る生徒たちを一喝。
「おい、てめぇ人の心を勝手に傷つけるんじゃねぇ!もうこれ以上言ったらこの子死んじゃうよ」
それを聞いた生徒たちは一目散に逃げ出した。
「大丈夫?」
「先生…ありがとう」
そう言って智之は去っていった。

昼休み、理事長室で夏子は大谷に岩井の父の不審な自殺の話をした。
「確かなことはわかりませんが、岩井智之君のお父さんは自殺していないと思います。多分…」
「偽装自殺、そしてリストラの核心は会社の重要機密か」
「岩井勝彦は確か滝沢の鵜飼だったな。念のため家庭訪問を頼むよ」
「はい」
こうして夏子は岩井勝彦の死の真相を暴くことになった。大谷は夏子の去った後にどこかへ電話した。
「わたしだ、よろしく頼む」
「わかりました」

岩井家は滝沢村の鵜飼、滝沢ニュータウンにあった。滝沢村は日本一の村として知られ、果物の栽培もさかんなところである。夏子は滝沢ニュータウンのバス停で降り、
「わざわざ学校からおいでくださって、ありがとうございます」
「実は岩井さんは自殺ではないと…」
夏子が岩井勝彦は自殺ではないと言うと、妻(=智之の母)のさちこは泣いてしまった。そこへ一人の初老の男がやってきた。
「来杉さん」
夏子はこの男に見覚えがあった。来杉章、盛岡学園の理事である。
「横田君、どうしてここに来たのかね」
「はい、理事長に呼ばれまして」
「来杉先生、ご焼香を」
さちこの案内で来杉は祭壇へ。夏子はすれ違いざまに岩井家を去った。

さて、来杉章は秘書兼運転手の桜井貴久とともに事務所へ。それを一人の若い男が見張っていた。彼こそ夏子の知人でさきほど大谷が電話した相手、スティングこと原俊彦である。
「あれが村議で盛岡学園理事の来杉章か…」
俊彦は来杉の資料を読んでいた。滝沢村内の地主らしく、その土地に商品価値が生まれたために大金持ちになったという。現在はキスギ開発という会社にケイワンという商品流通会社を設立。村長選挙にも出馬経験がある。
「村の名士というわけか。地主で運び屋」
来杉と桜井は事務所の2階へと消えた。そして俊彦も事務所の中へ。俊彦は来杉に取材と称して接触、地域経済のあり方について問うと言うタイトルで俊彦は来杉に話をした。
「とにかくミクロだマクロだ言っても、経済の本質と言うのはね…」
「失礼します」
「おっと、お客様だ。失礼するよ」
来杉はそう言って別の来客に対応した。この来客は福田直也と言う盛岡銀行の滝沢南支店長だった。福田は来杉の後援会の幹部が自殺したことに心を痛めていた。
「岩井さんがあんなことになって、お気の毒です」
「いや、別に」
来杉は平静を装ったが、俊彦は岩井勝彦の死の真相の鍵を握る男イコール来杉章とこの段階で考えていたようだ。だがここはビジネス優先で
「社長、地域経済の本質を教えてください」
「おお、そうだった。ちょうどいい先生がいるので、教えてあげましょう」
来杉は地域経済の本質は民力にありと解く人だった。民力とは金だけでなく心の力、情熱なのだと来杉は力説した。俊彦はそんな来杉に感銘を受けた。
「確かにそうですね。わたしもスポーツライターとかやっていますけど、確かに民力は大切だと思います」
「ありがとう」
そう言って俊彦は事務所をあとにした。


夏子は学園に戻り、音楽室で一人ピアノを弾いていた。
「岩井君、かわいそう」
夏子は朝の岩井智之の件が胸から離れなかった。
「せんせ、どうしたの」
音楽室に入っていったのは高橋弥生、夏子のクラスの生徒だ。
「弥生ちゃん、どうしてここに」
「ちょっと放課後にこんなことしてるったら、せんせしかいないじゃないの」
「こらっ!」
夏子は弥生の頭を叩いた。

夜、盛岡市内の公園から一人のOLが出てきた。そこへ一台の車が走り、そのOLをはねてしまった。そしてOLのバッグから男が何かを取り出した。
「あのことがバレてみろ、すべてがフイになるぞ」
「わかりました」
そして男はバッグのピンを左手で閉め、その左手でゴミ箱にホールインワン。

翌朝、夏子はテレビのニュースでひき逃げ事件を知った。
「亡くなったのは市内の会社に勤務している上村美幸さん、23歳で…」
「ひゃ~、ひき逃げ事件かぁ。おちおち歩くのもめんどくさいわよ」
そこへ部屋を間借りしている同僚の牧村環が。
「あたしの車、今日はお姉ちゃんが運転だからね」
「わかったわよ」
そこへ電話が鳴った。なんと電話の相手は俊彦。上村美幸の父親と話をしたところ、どうやら美幸は事件の少し前に遅くなるからと連絡があったらしい。
「ところで上村ってもしかして」
「住所は滝沢村の狐洞上山…役場の裏山だな」
「えっ?滝沢村」
また滝沢村だ。俊彦は滝沢村で何か起きていないか調べるので、あと何かあったらと夏子に言ったが、夏子は上村美幸を知っているようだった。
「それで上村がどうしたって?」
「上村美幸の弟、2年にいるのよ」
「ええっ」
「上村賢一君と言って結構いい子なの」

その上村賢一は姉の死に泣いていたが、授業中はそれを隠すのに精一杯。
「やっぱりショックみたいね」
夏子には何も出来なかった。ただひとつできることは姉を殺したひき逃げ犯人が逮捕されることを祈るだけ。
一方、上村家に電話が入った。来杉章の後援会からということで上村次郎、つまり美幸と賢一の父にお悔やみの電話だった。
「このたびは、娘さんのことでお悔やみ申し上げます」
しかし次郎はふてくされた顔で電話を切った。

俊彦は盛岡ジャーナルの関本編集長と会っていた。
「来杉さんの話は参考になりました」
「そうか、ケイワントランスはうちも広告出しているから」
「では、よろしく」
そして俊彦が去ろうとしたとき、関本は話を持ちかける。
「実は盛岡銀行の福田さんと話をすることになっている。日時は3日後の夜7時、大通りのバーで」
「わかりました」
このとき俊彦は二つ返事で了承したが、これが思わぬ方向に進むとは誰も予想しなかった。俊彦はさっそく夏子に連絡した。
「ちょっと気になる人がいるの」
「どういうこと?」
「最初の事件の岩井さんち、あそこに来てた人が怪しいの」
「先生はそっち頼む」
「わかったわ」

そして夏子は上村美幸が盛岡銀行で働いていたことを知り、そこで深田と言う営業二課の課長に会った。
「深田です、どうぞよろしく」
「深田課長は主にどういうお仕事を」
「地元企業の貸し借りですね」
「それじゃ、かなり大変ではないんでしょうか」
深田は夏子に何か指摘されるんじゃないか、と冷や汗をかいていた。
「地元でも有名な企業とかとお付き合いがあるんじゃないでしょうか?」
「そ、そりゃもう。今なんか滝沢村の来杉さんとことか…」
「そうですか」

夏子はその足で来杉の事務所をたずねることに。夏子は大谷理事長からの紹介と言うことで秘書になることにした。
「不束者ですが、どうぞよろしく」
「横田君、君のようなきれいな秘書が欲しかったんだ。さぁ」
ということで、さっそく仕事に取り掛かった。と同時にピアスの盗聴器もスイッチオン。
「さっそくだが、盛岡銀行との取引の書類を保管金庫に収めてくれ」
「わかりました」
そう言って書類を入れたが、それは実は桜井ともう一人の男が上村美幸のバッグから奪った書類だったのだ。
「ん?少し変だぞ」
夏子は違和感を覚えたが、来杉の命令だから仕方なく金庫へ入れた。
「書類の収納は完了しました」
「おお、そうかい」
来杉と桜井はそれから二階のベランダで岩手山を眺めていた。

翌日、夏子は金庫からその書類をすりかえた。
「これでいい?」
それから桜井の運転する車で盛岡市内へ。目的地は何と紺屋町の盛岡銀行本店だ。出迎えた行員はなんと深田だった。
「これは桜井さん、それにその女性は?」
「あっ」
「まさか、横田さん」
「深田さん」
そう言って深田は専務に会ってくるからと去っていった。それはともかく、夏子と桜井は専務の藤原秀治から話を聞いた。そしてそこへまた深田が。
「深田君、二人にお茶を」
「はい」
「でも、ここでは粗相のないように」
夏子は藤原専務、深田、桜井にお茶を出した。
「ところで話と言うのは?」
「実はうちへの特別融資の件…」
「わかっています。そのことで滝沢南支店にも連絡を」
その話を夏子も立ち聞きしていた。
「桜井、よかったな。これで先生も一安心だ。副頭取に頼み込んだ甲斐があったよ」
「タカはそういうところはうまいからな」
そう言って深田と桜井は喜んでいた。
「副頭取?どういうことよ」

事務所に戻った来杉たち、ちょうどここに福田がやってきた。
「先生!」
「支店長、ちょうどよかったですな」
そして来杉と福田はしばし歓談、その中で金の受け渡しが行なわれていた。

「で、何かわかったかい」
「ええ」
そして俊彦のノートパソコンに夏子が拾った音声をダウンロード、それを二人で聞いていた。
「来杉さん、県議選頑張ってくださいよ」
「わかってますよ」
俊彦はおかしいと思っていた。が、とっさにあることを思い出した。
「もしかして…」
俊彦は東北日報の記事を夏子に見せる。岩手郡選出の県議会議員が辞職したために補欠選挙が行なわれることになったのだ。
「地元の町長選挙出馬と、県庁不正に関与というわけだ」
「なるほどね」
「それで来杉が出馬することに?」
「そういうこと。県議選の資金稼ぎとか、スキャンダル隠しのために殺人を…」
「そういえば盛岡銀行の営業二課の深田さん、福田支店長と運転手の桜井さんと仲がいいらしいの。昔同じ職場だったからって」
「何?福田支店長」
俊彦は夏子に関本との約束を話す。
「実は、明日福田に会うことになった。ついては先生にも手伝ってもらいたい」
「本当に?」
「午後7時、大通りのバーということで」

夏子は俊彦の段取り通りに大通りのバーでピアノを弾いていた。そこへ福田がやってくる。関本と俊彦も一緒だ。
「関本さん、うちが大広告出すってことを知って…」
「いや、彼が言ってきたもんですからね」
関本は俊彦を褒めた。
「でも福田さんって昔は一高のエースだったんでしょ?」
「そうだ」
「確か桜井も青森の…そうだ、板垣高校のサウスポーってことで当時は話題になったんだっけ。野球部ではエースだったけど、廃部したと同時に会社辞めちゃって」
福田と関本が談笑している中、俊彦は福田の行動に目をやった。福田は携帯電話の着信があったことを知り、どこかへ電話する。
「あ、来杉先生。どうもです」
それを聞いて俊彦は夏子のほうへ。
「そうか…読めた」
夏子はノクターンを弾いていた。それが終わってから俊彦は夏子に福田のさきほどの行動を耳打ちする。
「来杉って、うちの学園の理事よ」
「そして滝沢村議会議員。岩井も上村も後援会の幹部だったんだよ」
「でも選挙関連でないとしたら?」
「あってもなくても、スキャンダルは問題だろ」
「もし桜井のひき逃げの一件からすべて公になれば…」
そして夏子は自分が襲われそうになった場面を思い出した。確かにあそこに書かれていたナンバープレートの数字は、来杉が所有し桜井が運転する車のナンバーだった。
「桜井は左利きだ。多分ひき逃げの車も、先生襲ったのも来杉の車だろう」
「…そんなぁ」
そして俊彦は夏子に勝負は明日だと告げた。つまり明日、いわて花巻空港から大阪経由で海外に行く前に来杉と福田をとっちめるわけだ。
「時間は午前10時だ」
「了解」

そして来杉がフランスに向けて旅立つ日だ。この日にまさか夏子と俊彦が空港で罠を張っているとは思っていなかった。
「来杉さん」
「横田君、これはどういうことだ」
夏子が秘書の姿でやってきた。そして事務所から掠め取った書類を見せ付けた。
「この書類はすでに空港中にばら撒かれています」
実は俊彦の指示でアテンダントに扮した教え子たちが俊彦の書いた告発記事と証拠の書類のコピーを空港のコンコースにばら撒いたのだった。
「観念してください」
「し、しかし」
「あの書類だけで不十分でしたら…」
そして夏子は服を脱ごうとしたが、ここで福田が思わずしゃべってしまう。
「盛岡銀行の使い込みはうちの副頭取が首謀者なんだ、俺はただ深田の言いなりになっただけだ」
「なるほど、深田高之さん」
「どうしてそれが」
福田はうなだれた。
「深田は俺をクビにするとか言ってきた。自分たちのやってきたことを俺に着せて、自分たちはのうのうとエリート面するつもりなんだ」
「まぁ」
「そのことを知った上村美幸を殺そうと決意したのは、この桜井なんだ。桜井も元々は…」
「知ってるわよ。そして来杉さん、あなたが選挙のためにお金が欲しいこともね」
「横田君、君が何しているかわかっているのかね。理事のわたしを失脚させようとして、事件をでっちあげたんだ」
「でっちあげ?はぁ!?」
そしてビラまきを終えた環と教え子たちもやってくる。
「バッキャロー!!」
夏子がそう言って福田に攻撃。深田と桜井も弥生に抑えられた。

夏子はその足で藤原に会うことに。
「藤原さん、ちょっとお話があります」
「君は…」
「横田です」
「どうしてわたしに話などと」
「ただいまから、中津川の河川敷でショーをお見せします。ぜひお越しください」
そして藤原は中津川の河川敷にやってきた。そこには岩井智之も上村賢一もいた。
「それでは、ただいまから音楽を流します」
夏子はピアノに合わせて歌を歌った。相変わらず音痴なのだが、それが悪人たちにはかえって効いたみたいだ。
「助けてくれ、社長の選挙資金捻出のために仕方なくやったことなんだよ」
「金出し渋った岩井と上村を脅迫したのは福田支店長だ」
「それもこれもあんたの差し金だ」
「しかし一番悪いのは深田君、君だろ」
「そりゃ副頭取の指図だから仕方なかったんだよ」
それを聞いた藤原は顔面蒼白、中の橋から逃げようとした。一方河川敷では野次馬が罵倒しまくり。智之も賢一も激しく野次った。
「父さんの仇」
「姉ちゃんを奪いやがって!」
それを見た夏子は笑顔を浮かべながら中の橋通り(つまり河南)の方へ歩いていった。

「でも大変だったわ。今回の事件は」
夏子は俊彦のいきつけの地酒バーで俊彦、環と飲んでいた。
「あんな民衆の味方を謳う人が、後援会に金たかって、挙句人殺し。残念です」
「本当よ」
「学園関係者なら盛岡学園の生徒の身内をターゲットに出来る。それを悪用したんだから、本当に許せませんね」
俊彦は怒っていた。

数日後、滝沢の墓地で岩井智之が父の、上村賢一は姉の墓参りをしていた。そこへ夏子と弥生がやってくる。
「岩井君、上村君、遊びましょ」
「うん」
夏子は弥生を見送った。そして岩井さちこと一緒に岩井家の墓に手を合わせていた。夏子はそのあと弥生、智之、賢一と一緒に雪がはっきり見える岩手山を見上げた。

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