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「トップがいくら旗を振っても、社員一人ひとりの意識が変わらなければ、顧客満足度は向上しない」。日経が今年5月に実施した「第10回顧客満足度調査」の調査票を読み解くと、極めて当たり前の事実に気付かされる。
ここ数年、ITベンダー各社は全社を挙げて顧客満足度(CS)向上に取り組んできた。その取り組みが実を結び、各社の顧客対応のレベルは、確実に底上げされている。
結果として、今回の顧客満足度調査は、上位グループと下位グループの差が以前に比べて小さくなった。例えば「システム構築関連サービス」。現在とほぼ同じ方式で調査した第7回(2002年4月実施)は、ランキング対象企業の首位と最下位(8位)の間には、21.1ポイントの差があった。これが今回は9.3ポイント差に、ランキング対象8社がひしめいている(情報サービス会社の場合)。
もちろん、すべてのユーザー企業が満足しているわけではない。それどころかユーザー企業がベンダーを見る目は、いっそう厳しさを増している。
1535社の回答企業から寄せられたコメントを見ると、ユーザー企業の怒りの声の多さに驚く。全体的に対応レベルが上がった結果、ユーザー企業はベンダーの担当者のミスや不誠実な応対をこれまでのように看過せず、非常に厳しい評価を下すようになった。
今後は第一線の担当者一人ひとりの言動が、顧客満足度を左右する比率がいっそう高まる。ベンダー各社は「現場のつまらない失点を防ぐ」という観点から、全社のCS向上に向けた取り組みをもう一度見直すべきだろう。一方、ユーザー企業はベンダーの名前だけにとらわれず、担当者の力量や過去の実績を、冷静に評価する必要がある。
今後の顧客満足度を左右するポイントを、システム構築・運用サービスからハード/ソフト、ネットワークに至る全22分野の結果と合わせて報告する。
担当者の言動が満足度を左右
「嫌われるベンダー」と「好かれるベンダー」の分かれ目はどこにあるのか—。第10回顧客満足度調査で1535社から寄せられた回答をもとに、ユーザー企業の評価を左右するポイントを探ってみた。
見えてきたのは、直接ユーザーと接する担当営業や担当SEの言動が、そのベンダーの評価を大きく左右するという事実である。
自由意見欄には、「担当者の手腕一つでその会社全体への信頼度は決まる。技術力云々以前に“人”の教育、育成に力を入れてほしい」(従業員数299人以下)、「スキルの高低は、会社より個人によるところが大きい。どんな立派な会社でもはずれの担当者に当たったらオシマイ」(従業員数500人以上999人以下)といった声が多数寄せられた。
ユーザー企業にとって、担当の営業やSEは、そのベンダーの「顔」だ。どんなに優れた製品/サービスを提供していても、担当営業/SEがきちんとした応対ができなければ、そのベンダーに対する顧客の評価は地に落ちる。最悪の場合、「二度と付き合いたくない」と厳しい評価が下される。
知識とスキルは絶対に必要
ユーザー企業の回答や自由意見から「嫌われるベンダーの条件」をまとめ、図1に示した。
図1 こんなベンダーは嫌われる 調査結果から、「嫌われるベンダー」の条件が見えてきた
回答企業が真っ先に挙げるのは、担当SEの知識とスキルの不足。なかでも自社の業務内容に対する理解不足を糾弾する意見は多い。「3年前から当社担当になったSEは業務内容をまったく知らないにもかかわらず、いっこうに身に付けようとしない」。
取材に応じてくれた、ある建設業(従業員数1000人以上2999人以下)の情報システム部長は、こう嘆く。「今のSEは自分の事情を優先する余り、顧客の立場でシステム開発に取り組む気概が乏しくなった」と続ける。
SEの技術力の低下を指摘する回答者も多かった。特に障害が発生したときの対応には、技術力の優劣が如実に現れるだけに、復旧に手間取るとユーザー企業の印象は一気に悪化する。最悪の場合、「(付き合いのあるベンダーは)トラブル時の初動が遅い上に、2回に1回は原因を解明できない。本当にいい加減にしてほしい」(従業員数1000人以上2999人以下)との印象をユーザー企業に与えてしまう。
「売りっぱなし」に厳しい目
受注至上主義の営業姿勢を批判する回答企業も多かった。「契約を取る前は調子のいいことばかり並べ立てる。もう少し真摯な姿勢で臨んでほしい」(従業員数1000人以上2999人以下)。
営業に対しては、次のような意見もあった。「契約がすんだら、まったく顔を見せなくなり、保守サービスの請求書だけが毎月送られてくる」(従業員数1000人以上2999人以下)。顧客と継続的な関係を築こうとしない営業といつまでも付き合うほど、今のユーザー企業は甘くはない。
営業担当者、SEを問わず、ビジネスパーソンとしての“常識”が欠落している担当者は、ユーザー企業にとって困った存在である。技術力だけでは顧客の信頼は得られない。
回答の中には「コミュニケーション能力に難のあるSEが多すぎる。何かあると、すぐにITの専門用語を振り回して、客を煙に巻こうとするのは何とかしてほしい」(従業員数500人以上999人以下)といった意見が散見された。
ここまで読まれた読者のなかには、「不満を持っている企業は、たまたまレベルの低い担当者に当たっただけではないか。うちが付き合っているベンダーは問題ない」と思う人もいるかもしれない。だが、極端に厳しい意見が多いという事実を踏まえると、いつそのような担当者に当たってもおかしくはない。
担当のSEや営業は、ユーザー企業にとってITベンダーとの唯一の接点。現場の対応が悪ければ、そのベンダーには悪いイメージが定着してしまう。
次回(11月8日掲載予定)は、特定のベンダーに特に悪い印象を持つに至ったユーザー企業のエピソードを紹介する。極端な事例と思われるかもしれないが、それほど特別なケースではない。
22分野のトップ3のランキングは、次ページに掲載しています。
(福田 崇男、玉置 亮太=日経コンピュータ)
※この記事は日経コンピュータ8月8日号に掲載したものです。
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※ランキングの詳細データは、日経コンピュータWebサイトから閲覧、ダウンロードできます。