ー 長男の嫁 ー
朝
近くにある大きな公園はウォーキングの経由地になっている。
散策に格好とあって、乳母車を押す若い母親も目立つ。片手にハンドル、片手にスマホは見慣れた格好である。
この中に長男の嫁は何人いるだろうか。
そんな思いが頭をよぎるのは、先々嫁ぎ先の親が寝たきりになった時、世話を焼くのは結局長男の嫁だろうと思うからである。
仮に、夫が義父より先に亡くなり、そのあと義父は寝たきりになったとする。そうすると大抵嫁が世話をする。「なぜ嫁の私が?」と聞くと、“ 長男の嫁 だから ” と言われる。日本ではこの “ 長男の嫁だから ” という、聞いた方が消化不良になりそうな言葉がやたらと幅をきかせている。
やがて義父も亡くなる。しかし、嫁は義父の相続人ではないから遺産はもらえない。下の世話までして尽くしたにも関わらず、1円ももらえないのである。一方で長男の兄弟姉妹はろくろく様子を見に来たこともないのに相続分の遺産はもらえる。
こういうのはよろしくないというので民法が改正され、長男の嫁は相続人に対してお金を請求することができるようになった。「特別寄与料」というらしい。2019年7月1日のことである。相続人である兄弟姉妹や義父の奥さんに対して、お世話した分のお代をちょうだいと言えるようになった(民法1050条)。
金額は嫁と相続人が話し合って決める。話し合いがまとまらない時は家庭裁判所に申し立てれば、裁判所が金額を決めてくれる。ただし、申し立ては亡くなった日から6か月内にしなければならない(同)。
さて、問題はここからである。
“ 弓、鉄砲 ” は提供してもらった。しかしこれに矢をつがえ、弾をこめていざ “ 戦場 ”に向かう嫁が何人いるだろうか。ウクライナでは若い女がスナイパーとして戦っていると聞く。そういう気概のある嫁なら家庭でも相続人を向こうにまわして談判くらいはするだろう。しかし、「自分さえ我慢すれば・・・」文化の日本ではどうだろうか。仏作って魂入れずに終わらなければいいが。
( 次回は ー ミミズ ー )