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食物繊維 不足すれば免疫力低下、大腸がんリスク増も

腸内環境を整える


腸内環境を整えるカギは食物繊維(写真/GettyImages)

「第二の脳」「健康のバロメーター」ともいわれる腸。腸内環境を整える最善手はやっぱり「食物繊維」だ。その「食物繊維」は、どんな役割を果たしているのだろうか。【前後編の前編】

 2020年の厚生労働省の発表によれば、18〜64才の食物繊維の摂取推奨量は、1日あたり女性18g以上、男性21g以上。キャベツ100gあたりの食物繊維量が1.8gなので、野菜で摂取しようとすると、かなりの量を食べなければならないことになり、基準を満たす量を摂取するのはなかなか難しい。

 事実、日本人の食物繊維摂取量は年々、減っているという。『腸スイッチを入れて排便力アップで長寿を手に入れる』などの著書がある、松生クリニック院長の松生恒夫さんによれば、日本人が充分な量の食物繊維を摂取できていたのは1950年頃まで。

「当時は、1人あたり1日平均20g以上の食物繊維を摂っていたとされています。ところが1970年頃になると、1日平均15gまで急減。20年間で5gも減ってしまっています。そして現在の平均摂取量は1日あたり14g前後と推定され、さらに減っています」(松生さん)

 ここまで急激に落ち込んだ理由の1つはやはり「食の欧米化」だ。みなと芝クリニック院長の川本徹さんが指摘する。

「戦後、米と野菜中心の生活から肉類中心の食生活へと移行したことが、大きな要因です。また最近の傾向としては、糖質制限をはじめとするダイエットの影響が考えられます。食物繊維は野菜だけでなく炭水化物にも多く含まれるため、糖質を控えようと主食を抜くと、米やパンから得ていた食物繊維が摂れなくなります」

 自粛太りを解消しようと糖質制限をしている人は、さらに食物繊維の摂取量が減っているはずだ。もしいま自粛太りや便秘に悩んでいるなら、運動不足や食べすぎなどではなく、糖質制限のしすぎなどによる、食物繊維不足が原因かもしれない。

糖尿病も、感染症も食物繊維が防いでくれる

 いまでこそ便秘の改善に役立つなどと注目されている食物繊維だが、消化酵素で分解されず、エネルギー源にならないことから、かつては「栄養素ではない、体にとって必要ではないもの」と考えられていた。

「食物繊維が脚光を浴びるようになったのは、第二次世界大戦後です。アフリカで活動する欧州の医師が、便秘や大腸がんがアフリカでは極端に少ないことに気づいた。その後、英国の医師がアフリカ人と英国人の便の量を調べたところ、アフリカ人は英国人の5倍の量で、便秘の人もほとんどいなかった。さらにその理由を探ってみると、食物繊維の摂取量に大きな差があることがわかったのです」(松生さん)

 食物繊維が便秘の解消に役立つのは知ってのとおりだが、近年の研究では、そのほかにもさまざまな健康効果があることがわかっている。岡山大学大学院教授の森田英利さんが解説する。

「食べたものの栄養素は、主に小腸で分解・吸収されます。そうして大腸に届くときには、食物繊維だけが残る。これが大腸に棲む腸内細菌にとって唯一ともいえるえさになるのです。大腸の腸内細菌は食物繊維をえさにすることで、短鎖脂肪酸などさまざまな有益な代謝物をつくり出します」

 短鎖脂肪酸は、腸の細胞を刺激して「インクレチン」というホルモンを分泌させる作用がある。インクレチンはすい臓を刺激し、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンの分泌を促す働きをもつ。

「世界中で60年以上使われている糖尿病治療薬の『メトホルミン』は、余分な糖を便として腸に排出させ、それによって腸内細菌が働くことで糖が短鎖脂肪酸に変換されている可能性が示されました。海外では水溶性の食物繊維を原料にした糖尿病治療薬も開発されています」(松生さん)

 食物繊維が腸で作用すると、血糖値の改善も見込めるのだ。一方、食物繊維が不足すると、免疫力が低下することもわかっている。

「腸管の上皮細胞はムチン層というネバネバした“バリア”で守られており、有害な細菌が体内に侵入するのを防いでいます。ところが、ムチン層で共生している腸内細菌は、えさとなる食物繊維が不足すると、代わりにムチン層を食べてしまう。するとバリアが薄くなり、腸管の炎症を起こしたり、感染症にかかりやすくなったりして、免疫力が低下するのです」(森田さん)

 私たちが腸内で“飼っている”腸内細菌は、食物繊維というえさを与えなければ、死んでしまうか、代わりのえさを求めて暴走する。どちらにせよ、健康を害することは明白だ。食物繊維は、ヒトと腸内細菌が共生関係を築くための必需品というわけだ。腸内環境が悪化すると、真っ先に体に表れる不調は、やはり便秘だ。

「日本人の3人に1人は痔だといわれており、その原因は腸内環境の悪化による便秘です。排便でいきむことを『怒責』といい、これは便が硬いことで起こります。腸のぜん動運動が弱まることでいきむ時間が長くなり、排便のたびに圧がかかるのが原因です。努責を繰り返していると次第に直腸の周りの静脈がうっ血し、それが膨らむことで痔になります」(川本さん・以下同)

 一度痔になれば、痛みによってさらに排便がスムーズにできなくなり、便秘は悪化する。その悪循環で腸内環境はますます悪くなり、腸内には悪玉菌が増えていく。すると今度は「大腸劣化」につながるという。

「食物繊維を意識的に摂取すると、腸内環境は早くて2週間ほどで改善し始めるといわれています。ところが、大腸が劣化するスピードはそれよりもはるかに速い。大腸が劣化すると、糖尿病や高血圧、脂質異常症、ひいては動脈硬化など、さまざまな生活習慣病を招きます」

 その最たるものが大腸がんだ。詳細なメカニズムや確たるエビデンスは明らかになっていないが、食物繊維が不足すると、大腸がんの発生率が上がることがわかっている。現在、日本人女性の13人に1人、男性の11人に1人が、一生のうちに大腸がんと診断されている。しかも、男女合わせて年間約5万人もの人が、大腸がんで亡くなっている。

 1998〜2016年にかけて行われた、国立がん研究センターの追跡調査によれば、男女とも、食物繊維摂取量が多いほど総死亡リスクが低下していることが明らかになっている。食物繊維摂取量が少ない人の死亡リスクを1とすると、日常的に充分な量の食物繊維を摂っている人は、女性0.82、男性0.77まで下がった。食物繊維が不足すると、便秘や痔ばかりか、がんリスクや死亡リスクまで上がるのだ。

※女性セブン2022年9月29日・10月6日号
2022/09/17 16:15 (NEWSポストセブン)

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