職場や学校で、誰もが直面する人間関係の悩み。「周囲の人に嫌われたくない」と考えて、自分の意見を押し殺して生きる人は少なくない。他人と自分を比較して劣等感にさいなまれて、自己嫌悪に陥る。自分の性格上の問題を、過去のトラウマに原因があるとして、不幸だと嘆く。

 そんな多くの人にとって気になる本がある。哲学者の岸見一郎氏が、古賀史健氏と著した『嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラーの教え」』だ。20万部を超えるベストセラーになっている。「人は変われる」「トラウマは存在しない」「人生は他者との競争ではない」「人の期待を満たすために生きてはいけない」「叱ってはいけない、ほめてもいけない」といったメッセージは刺激的だ。詳しい話を岸見氏に聞いた。

なぜ本のタイトルを「嫌われる勇気」にしたのでしょうか。

岸見:私はカウンセラーとして、様々な人の悩みを聞く機会が多いのですが、嫌われることを恐れる人が多いように思います。

 職場では、上司の顔色をうかがったり、上司によく思われたいと考えたりして、気持ちを曲げて発言する人がいます。同僚などとの横のつながりでも、自分がどう思われるのかをいつも気にして、嫌われないようにする。なるべく目立たないようにしようとする人も少なくありません。

 普及が進む「フェイスブック」などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも、メッセージを書き込む際に、「いいね!」を押してほしいと思って、“受ける”メッセージを書いてしまう。押してもらえないと残念なので、迎合して、自分の真意でもないことを書く。インターネットやスマートフォンが普及して周囲とつながる機会が増える中、嫌われることを恐れる人が増えているように思います。

 だからこそ、嫌われる勇気というタイトルが一番響くのではないかと考えました。「哲人と青年の新しい心理学を巡る対話」といったタイトルも候補でしたが、それでは手に取ってみようとなかなか思ってもらえなさそうです。編集者とも相談して、なるべく多くの人が読んでみたいと思うようなタイトルを選びました。

嫌われる勇気があると、人生において、どのようなメリットがあるのでしょうか。周囲と軋轢が生じることは避けられないような気がします。