BETABETA

 頭のピンクい二人による期間限定すみれの蕾ブログサイト。
 ハルとトウワに愛が偏る予定。

ある小説家の恋06

2009-09-01 20:15:46 | 文章
 久々の文更新です。
 夏は・・・大変でした。


     *****


 ユキ君に自分の気持ちを言い当てられてから、私は日下部君の前では挙動不審・彼がいなくなると、彼の目の前での自身の行動に頭を抱える日々が続いた。
 後悔するくらいなら彼を見かけても声をかけずに隠れればいいのに、次にいつ会えるかわからないと思うとついつい追いかけてしまう。
 毎日同じクラスにいたのに何も言えなかった学生時代の純情な私はどこに行ったのか、それともこれが年を重ねてあつかましくなったということなのか。
 日下部君の人がいいのを良いことに、私はとうとう休日に家まで上がりこんで本を貸してもらうまでになっていた。

「これと、これは続き物だけど、単品でも面白いから試しに読んでみるのにいいと思う。あと……」
 本の話をする日下部君は、いつもより饒舌でそんな姿を見ているだけで結構嬉しいし、彼が「面白いよ」と薦めてくれた本にハズレはなかった。
 借りた本の感想を言い合い、たまには私も日下部君にお気に入りの本を渡して感想を楽しみに待つ。
 部活にいた時にもこういう風に話したかったなぁとは思うけど、それを言ったら贅沢というものだ。
 そもそも……
 そもそも、日下部君はどうして部活に来なくなったのか。
 一時期、部活に誰も来なくなったきっかけは東君と夜凪君の諍いだった。
 しばらくは日下部君も皆が部活に戻るよう結構積極的にしていたけど、ある日を境に部活に現れなくなった。
 いつの間にか何も変わりなく東君や夜凪君、ユキ君やカナデも気がつけば部活に戻っていて、日下部君がいなくても何も変わらないとでも言うように卒業の日を迎えた。
 あの時は各自わが道を行く部長副部長の二人に何かを言われ、嫌になって来なくなってしまったのだろうかと思っていたけど、再会して皆と仲良く話している彼を見ていると時々、不安にかられてしまう時がある。
 あの時、日下部君は私の気持ちを知って、それが迷惑で部活を辞めてしまったのではないかと。
 迷惑、というのは言い過ぎかもしれないが、好きな人がいるのに何とも思ってない相手から好かれても、優しい日下部君は困るだけだろう。
 そう、かもしれないし、違うかもしれない。
 どちらにしても、そんなことを確かめる気も無く、私は降ってわいたような常温の幸福を見失わないように、ただただ慎重に距離を量っていた。

最新の画像もっと見る