ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

E.D.E.N. 4

2007-06-05 18:14:42 | 病みキラ闇アス(戦後)(完結)
 戦中、キラはザフトに在籍していなかった。
 そのため労災は降りなかったが、代わりにイザークの計らいで勤務時間の指定を受けた。
 朝出勤し、退勤時間ぴったりに上がる。
 週に一度の通院の日を休日とし、体調が悪いときなどはある程度融通を利かせる。
 障害者認定を受け、仕事を取り上げることも可能だが、キラを一人で家に居させるよりも、誰かがいる軍本部にいさせたほうがいいだろうと、アディも言っていたのだ。
 仕事をいきなり取り上げるのは、虚脱感を誘い、欝の症状を悪化させる。
 障害者認定は、本人に強く「自分は病気なのだ」と自覚させる。それが逆効果になることもある。
 本人の意思や、体調が本格的に悪くなるなどの大きな理由がない限り、生活環境は変えないほうがいい。
 なにより、軍本部にはアスランが居る。
 なにかあったときにすぐ駆けつけられる体制を取ることを優先させた。
 話を聞いて一番慌てたのがシンだった。
 シンの中のキラは気丈な、英雄でしかない。
 一時は敵対心も大きかったが、今では信頼する人となっているキラの不調に動揺した。
 シンはいま、キラが日中行動を共にする唯一の人間でもある。
 ルナマリアはヤマト隊の広告塔としてあちこちを走り回り、キラと行動を共にすることは少ないのだ。
 そして女は、こういうとき冷静だった。
 シン、ルナマリア、ラクス。そして、躊躇いもしたがカガリにも知らせた。
 ラクスはどこか、予想していた様な表情で。
 カガリはただ、心配するだけだった。
 アスランの直接の上司であるカガリに許可を貰い、勤務時間と休日をキラに合わせる許可を貰った。
 部下には申し訳ないと思ったが、数人の部下はキラとも面識があり
 「具合でも悪いんですか?」とキラの心配をしていた。
 その日の夜、早めに帰ると、フラガから通信が入った。
 「風邪こじらせたって?」というフラガに風邪ではないと返せば
「欝は心の風邪つってな、特効薬もない、ずるずる引きずる病気だって言われてんだよ」
 という説明を受けた。
 今はフラガ夫人となり、妊娠3ヶ月のマリューも心を痛めているという。
 妊婦に不安ごとはよくない、あまり気にしないで普通にしてやってくれ と言うと、フラガも頷いていた。
 その後キラの母から電話があった。
 どうやらラクスが連絡したらしく、「ちゃんと食べて、よく眠って。泣きたい時は泣きなさい」という母の言葉にキラは泣いていた。
 誰もが、キラのことを気にかけていた。
「愛されてるな、キラは」
 母との通信を終えたキラの肩を抱いて言えば、キラは鼻をすん と鳴らして
「アスランの場合でも、みんな一緒だよ」
 と涙目で言う。
 それが愛しくて。
 その夜は薬を飲ませず、キラが気絶するまで抱いた。
 愛していると、うわ言のように囁きあいながら。

 一週間も経つと、キラは薬に慣れた。
 朝食の後慣れた手つきでシートから薬を取り出すキラに、アスランは複雑な心境を隠せなかった。
「そう。食事は、少しは食べているのね?」
「アスランが作ってくれるから、ちょっとだけ」
「吐き気や胃痛は?」
「ない・・・と思う」
 年上には敬語を使うことを常とするキラは、不思議とアディには軽い口調で話す。
 診察は今日で三回目。
 あれから三週間の時が流れ、キラは薬の効果で落ち着いていた。
「眠れる?」
「時々、眠れなくて、アスランに寝かせてもらう」
「あら、仲のいいこと」
 微笑むアディに、アスランは複雑な心境になる。
 気を許すのはいいが、許しすぎだ。
「怖いことはない?」
「あるよ」
「なにかしら。教えてくれる?」
 アディにそう言われると、キラは隣に座るアスランをちらりと見た。
「なに?」
「アスランに聞かれたくない」
「え?」
 弱みを見せることを、いまさら拒絶されるとは思わなかった。
「アスランくん、少し、席を外してもらえる?」
「アディには言えて、俺には言えないのか」
「うん。やだ」
 きっぱりと言うキラに、アスランは不満を隠せない。
 いまさらなぜ隠し事など と思いつつ、部屋から出る。
 部屋は防音なので、話し声は外に出てしまえば一切聞こえない。
「不安ごとは、アスランくん?」
 アスランが部屋を出るのを確認して、アディが切り出すと、キラはうーん と伸びをして
「アディはさ、ずっと一緒にいたいって思う人、いる?」
「そうね。たくさん」
「じゃなくて」
「今はパートナーはいないわ」
「今は?」
「昔はね。でも、私は男でしょう? 結婚を望む人には、ね」
 アディの言葉に、キラは表情を曇らせ
「それなんだよね」
 と呟く。
「僕とアスランも男同士でしょ? 僕はもうプラント国籍だから、同性婚はできないんだ」
 オーブ国籍であれば、一定の条件を満たせば同性婚はできたのだ。
 それを、自分は捨ててしまった。
 一度捨てた国籍を元に戻すことは、不可能に近い。
「結婚はできない。当然子供もできない。僕とアスランを繋ぐものは、これしかない」
 そう言って、キラは首から提げていたペンダントを摘んだ。
 誕生日に貰ったアスランとの揃いのペンダントに、「恥ずかしい」と着けられないままの指輪が通っている。
「アスランは自分の家庭が欲しい人なんだ」
 キラの言葉を、アディは慎重に聞いた。
「小さいころから仕事人間の両親で、僕の親に育てられたみたいなものだし。戦争で両親亡くしちゃって天涯孤独」
 ぽつぽつと、キラは話す。
「家族が、欲しい人なんだ」 
 僕はどうやってもアスランの「家族」にはなれない。
 養子縁組などの手段もあるが、それは本意ではない。
「八方塞。駄目なんだ、どうしても」
「アスランくんが、信じられない?」
「いつかアスランに好きな女の子とかできたり、遊び心で手を出した女の子に子供とかできちゃったらさ」
 アスラン、絶対そっちに行くよ。
 キラの言葉は、アスランへの裏切りにも思えた。
 だからキラはアスランに聞かれることを嫌がったのだ。
 「自分は貴方を信じていません」。
 そう言っているのと同じだから。
「過去に、アスランくんに裏切られて、辛かったのね」
「すごく。怖かった。死んじゃいたかった」
 目の前真っ暗。
 キラは笑って話す。
「おかしいでしょ。あの頃僕らはまだ『親友』だったんだよ?」
「でも、キラくんはずっとアスランくんのことが好きだったんでしょう?」
 アディの言葉に、キラは考え。
「うん。たぶん、ずっと、子供の頃から」
 アスランには内緒ね。
 キラが言うと、アディは「わかってるわ」と微笑み、外で待っていたアスランを呼んだ。

 その日処方された薬は、以前より少し弱いものだった。
 お試し期間 だ。
 軽い薬で症状が治まるなら、それに越したことはない。
 強い薬は身体への負担が大きいのだ。
 それが逆効果だった。
 薬の効力が弱まったせいか、キラが不安を自覚したせいか。
 キラの食欲はぐっと落ち、食べたものの半分は吐いてしまう。
 寝付けない夜は続き、アスランが切れて3日目でアディに連絡を入れ、緊急に診断、薬の再処方がされた。
 薬が元にもどれば、キラはけろりとしていた。
 弱ったキラの身体を気遣いセックスを避ければ、キラは不安がりアスランに強請る。
 夜毎痩せたキラの身体を見せ付けられ、アスランは自分が欝になりそうだと思った。

 コーディネイターは強い肉体を持つ。
 キラは、「完全なるコーディネイター」。
 そうは言っても、人間は人間。
 キラが倒れたのは4週間目の金曜日だった。
 キラが会議中に倒れ、病院に緊急搬送された という連絡をシンから受け、アスランは仕事を放り出して病院に駆けつけた。
「アスランさん!」
 こっち! とシンが大声を上げれば、通りがかりの看護師に「院内は静かに!」と叱られた。
「様子は・・・」
「貧血とか過労とか、あとは心因性だって」
 貧血は予想のしていたことだ。
 栄養剤でも補いきれないほど、キラは痩せていたのだから。
 病室のドアをそっと開けると、キラが静かに眠っていた。
 その傍らに、アディが。
「アディ、キラは・・・」
「点滴で強制的に栄養を摂らせてはいるけど・・・」
 アディが言葉を濁し、
「普段、服に誤魔化されていたわ。痩せすぎよ、彼」
 報告しなかった、アスランの責が問われた。
「アスランくんと話がしたいの。キラくんをお任せしてもいいかしら」
 不意にアディがシンに目を向ける。
 シンはアディを女性と思い込み、その美貌に圧倒されながら「はい!」と元気よく答える。
「点滴が終わったらナースコールを押して。もし目が覚めたら、少し水分を摂らせてね」
 すぐ戻ります。
 そう言って、アディはアスランを伴って病室を離れる。
 通された先は、いつものアディの部屋だった。
「キラくんには口止めされてるんだけど、緊急事態なのでお話します」
 普段の微笑みは消え、医師の顔つきになったアディにアスランも自然と緊張する。
「キラくん、貴方のことで悩んでいるのよ」
 え? と聞き返すと
「わからない? キラくんの不調は、貴方の過去の行いが大きく影響しているわ」
 過去の行い と言われて、思い当たるものはいくつもあった。
「俺の、キラへの裏切り、ですか」
「そうね。軍のこと然り。女性関係然り」
 過去の女性関係は、キラに問い詰められて話したことがある。
 キラはそのときも「自分のせいだ」と言っていた。
「どう、償えばいいですか」
「キラくんの国籍を戻すことは、難しいわね・・・」
 アディの言葉の意図を、アスランは感じ取る。
「俺は、信用に値しないとでも言っていましたか?」
「信用していないわけではないの。信じたいの。でも、現実がこうでしょう?」
 手を取り合うことを許されない現実。
 確かなものを得られない現実。
 過去の行いからくる、逃げ切れない不安。
 追い詰めたのは、アスランだ。
「イザークの言葉は、当たっていましたね」
「え?」
「キラがああなったのは俺のせいだと。本当だ・・・」
 アスランは俯き、自嘲的な笑みを浮かべる。
「たとえばの話だけど」
 落ち込むアスランに、アディはふと思い出したように話し出した。
「私の想い人はね、男と居るのよ」
「男性では?」
「そうよ」
「俺たちみたいなのが、このプラントにもいましたか」
 婚姻統制の引かれたプラントでは、同性同士そういう関係でいることは許されない。
 アスランとキラはそれに逆らって共にいる。
 周囲の目を避け、デートに出かけても手を繋ぐことすらできず、誰かれかまわず恋人を自慢することもできず。
 キラは「ザフト本部とオーブ軍の一部は知ってる」と言うが、それでもいい目をするものは少ない。
「その人はね、批難されてもかまわないと言うのよ」
「よほどの自信家だ」
「立場ある人だから、周囲にバレれば立場を危うくするのに、それでもいいと言うの」
 ただ
「ただ、その人といることが、幸せなんだと」
 アディの口ぶりで、アスランは直感的にそれが誰のことを言っているのかわかってしまった。
 あの銀色。
 そんな惚気を吐いていたのか。
「でも、確かなものがないことは、お互い不安なのですって」
 不安? あいつが?
「だからいつも傍にいて、存在を確かめて、言いたいことを言い合う。そういう約束を、しているって」
 言い出したのは大方あの金色だろう。
「共有できるものを、たくさん作ろうと、約束したんですって」
 貴方たちは、何を共有している?
 そう訊かれて、アスランは戸惑った。
 キラと共有しているものが、思い当たらなかったからだ。
 思い出。
 それすら、すれ違うものが多い。
「確かなもの。それを、キラくんは望んでいるわ」
「たしかなもの・・・」
「なんでもいいの。貴方の、一番大切なもの。それを、キラくんに半分別けてあげることはできない?」
 そうは言われても、アスランが持つものは少なかった。
 戦中、いつも肌身離さず持ち歩いていた、幼い頃キラと撮った写真は、リビングに飾ってある。
 過去からアスランが持っていた私物は、そのほとんどを一度目にザフトを裏切ったときに処分されていた。
「考えてみて。それが、キラくんを救うかもしれない」
 そう言って、アディは部屋から出て行った。
 残されたアスランは考える。
 アスランは何もかもを捨ててキラを選んだ。
 それが仇となってしまったのだ。
 過去の自分の軽薄さに、嫌気が差した。

 血に汚れた手は、同じだ。
 殺した数はわからない。
 戦闘能力を問われれば、アスランのほうが劣るかもしれない。
 それでもキラは。
 自分との間に、確かな溝を感じていたのだ。


PC内のファイル名が違うので、更新のとき戸惑う罠。
ファイル名変えよう。そうしよう。
ここらへんから、アスが闇んできます。