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記者の目:尖閣の紛争が問いかけるもの=辻康吾

2010年09月28日 00時11分08秒 | 保管記事

 

 尖閣諸島をめぐる日中間の紛争は中国漁船の船長釈放で決着することが期待されたが、中国は引き続き謝罪と賠償を要求、菅直人首相はそれには応じられないとし、長期化は避けられないようだ。4人の“人質”(身柄を拘束したゼネコン社員)をとった形の中国側の姿勢は日本だけでなく、国際的にも中国への不信感を激化させている。

 事態がここまで紛糾した段階で、少なくとも71年まで中国も日本の領有権を公式に認めていたという事実を確認しておくべきではないか。少し長い引用になるが、53年1月8日の人民日報「資料」欄は冒頭で次のように記している。

 「琉球群島はわが国の台湾東北部と日本の九州島西南部の間の海上にあり、尖閣諸島、先島諸島、大東諸島、沖縄諸島、大島諸島、トカラ諸島、大隅諸島、など七つの島嶼(とうしょ)で、それぞれに多くの小島があり、総計五十以上の名のある島と四百余りの無名の小島があり、(中略)その内側はわが国の東海、外側は太平洋の公海である」と地理的説明を行い、さらに「自由、解放、平和を求める琉球人民の(反米・基地)闘争は孤立したものではなく、日本人民の闘争と切り離せないものである」と述べている。

 ◇53年「人民日報」日本領と認める

 つまり問題の尖閣諸島を中国呼称の「釣魚島」ではなく日本呼称で呼び、「内側はわが国(中国)の東海(東シナ海)、外側は太平洋」と日本領であることを事実上、認めている。しかも日本のいわゆる「新聞報道」とは異なり党中央機関紙の記事であり、しかも一般記事以上に正確を期すべき「資料」欄に掲載され、それだけに中国の公式見解ととらえるべきである。

 それを71年の中国外務省声明と、92年になって新規に制定した領海法で整合性を欠いたまま領有権を主張するのはあまりにも唐突であり、それに基づいて今回のような事件が発生したとすれば、日本に対する一方的「侵略行動」だと見られても仕方がない。

 急激な経済的発展を遂げ、大国化を達成した中国は「海はあっても、洋がない」、つまり大陸周辺の黄海、渤海などの「海はあるが」、太平洋やインド洋など「洋」に出られないと嘆いてきた。最近の海軍力の拡大を背景に、南シナ海への積極的進出、太平洋への通路に当たる琉球諸島をより自由に通過することを意図してきた。

 また中国の領有権への主張は海底資源の魅力にひかれたものというのが定説である。日本領有を認めた人民日報「資料」があることは中国国内では報道されず、日本でもこの事実は最近になって多少報道されてはいるが、今後のためにも正確に再確認しておくべきであろう。

 ところで事件発生後中国をしばらく訪問し中国の友人たちと話し合った。9月20日前後の中国の街の雰囲気はまったく平静で、デモなどが起きてもそれは官製デモでしかないと思われた。むしろ中国の友人たちは自分たちの政府の強硬な態度に驚いているようだった。尖閣問題について意見を交換していると、まずは「困ったものだ」という点で一致した。

 とはいえ、よい解決策も思い当たらず、ああだ、こうだと言っているうちに突然中国語の「不了了之(プリャオリャオチー)」という言い回しに思い当たった。終わらずにして終わらせるという意味で、日本語の「棚上げ」、「うやむやにする」にあたる。

 ◇中国側にも選択肢多くない

 中国外交ではしばしば解決困難な原則問題が発生した場合、無理せず、機会がくるのを待って何事もなかったように関係を改善する「不了了之」がある。自民党政権時代にも尖閣をめぐる紛争が起きたが、中国側は言葉こそ当初は大げさだが、慎重な日本側に呼応するように事を荒立てず、一方で空前の日中経済協力を実現してきた。

 72年の日中国交正常化に際しても直前まで大声で叫んでいた「日本軍国主義打倒」のスローガンがなんとなく消えてしまった。国内でも60年代の「文化大革命」当時に絶叫した「階級闘争の永遠の継続」というスローガンを「文革」が終わるとさっさと取り下げてしまった。中国で「不変の原則」と大声で言っても実際は当座の政治的駆け引きの一つだったという例は多い。

 もちろん今回は一部対日輸出制限、日本人の身柄拘束、各種交流の中断などの難しい問題がでているが、一定の時間が経過することで「不了了之」となるのではなかろうか。というのも中国の友人たちに「それじゃ戦争か?」というと誰もが「とんでもない」と口をそろえた。もはや「戦争はできない」という日中関係において、中国側が持つ選択肢もそれほど多くはない。(現代中国資料研究会代表・元北京支局長)

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