妄想ジャンキー。202x

あたし好きなもんは好きだし、強引に諦める術も知らない

『天皇の料理番』に『ごちそうさん』を思い出す。

2015-07-06 23:54:54 | 朝ドラ


昨日のレビュー、「『天皇の料理番』11話、接吻や唇芸で涙が止まらなかったことはなかった、昨日までは。」でもちょろっと触れたのですが。
俊子さんと篤蔵たち家族の別れ方で思い出したのが2013年の朝ドラ『ごちそうさん』でした。

さすが同じ森下脚本だけあるなとしみじみ実感。




その『ごちそうさん』16週はこんな話でした。

週の冒頭でめ以子(演:杏)の義父であり師匠でもある西門正蔵(演:近藤正臣)の病が予感されます。
「次の発作が起きたら死を覚悟してくれ」
と言われため以子と静(演:宮崎美子)。
「食事とか気を付けたほうがいいものとかあります?」
尋ねるめ以子に医師は
「しっかり機嫌良う食べることですな。お大事に」
それを言い残しお医者さんは帰ってしまいました。

そこでめ以子は思い切って正蔵に尋ねます。
「お義父さん、なにか食べたいもんありますか?」
それなりに元気を取り戻した正蔵はおどけて答えました。
「なんでもええんか?・いっぺん鶴食うてみたい!それと熊の手!」
「鶴?そんなん食べたら胃がびっくりするわ!もっと普通のもんないの?」
と静。





このときの正蔵と静の表情が何とも味があります。
美味しく歳を重ねて味を染み込ませてきた老人の顔。
こういう大人は『ごちそうさん』の時代にはいっぱいいたのかもしれないけど今は減りましたね。

しかし静は正蔵の本心を見抜いていたようで、2人きりになったときに問い詰めます。
「前の奥さんの料理なん?食べたいもん。正直に言い、怒らへんから」
「もう怒っとるやないか」
「料理上手な人やったんやろ?和枝ちゃん(演:キムラ緑子)見とったらわかるわ。言うて!」
正蔵が本当に食べたいものは、前の奥さんが得意だった柿の葉寿司でした。

※静は後妻。正蔵とはすったもんだの末に復縁した。
※和枝ちゃん:朝ドラ史上5本の指に入るいけずな小姑。和枝ロスが起きるほどの大人気いけず。

その話を静から聞いため以子は、さっそく柿の葉寿司を作ろうとします。
しかしうまくいかない。
それはめ以子が西門家の柿の葉寿司を知らないためでした。

め以子は和枝の嫁ぎ先を訪れ、柿の葉寿司の作り方を押してくれるように頼みます。
「農家思うたら囲炉裏一間かとおもたけど…何やこんな金持っとるんかいな。相変わらず考えがすけてみえまんな~」
相変わらずのいけずな和枝。
正蔵の事情を伝え、言葉もたじたじに頼むものの、
「どんだけ面の皮が厚いとそんな口聞けんのか想いましてな。」
「何で大事なお母ちゃんのお料理を何であんなてておやに」
と、けんもほろろに追い返されてしまいました。





時を同じくして行われる義妹の希子(高畑充希)と川久保啓司(茂山一平)の祝言。
希子もまた和枝の家を訪ね、祝言に出てくれないかと頼み込みますが、和枝はここでもいけずをいかんなく発揮。
「どないしてもワテに出て欲しいんやったらちい姉ちゃん、追い出してくれまっか?」
和枝と昔から親交のある倉田が尋ねても
『柿の葉が当日まで残っていたら出席します』
との手紙を渡して、追い返してしまいます。

あたふたしながら迎えた希子の祝言の当日。
和枝は現れました。
「今年はなにゃ一本だけ葉の落ちん柿の木がありましてな。今日まで落ちんかったら、きっとお母ちゃんが行け言うてはんねやろて思うてな」



そうしてはじまった希子の祝言、と思いきや。
「実はひとつ皆様に、私と川久保からお願いがございます。今日この場に置きまして私の兄と姉の祝言を挙げさせていただきたいと思います。」
め以子と悠太郎(東出昌大)は、和枝との約束で祝言をあげていませんでした。
このことを気にしていた希子がドッキリをしかけたわけです。
「だまし討にも程がありまっしゃろ!!」
もちろん激怒する和枝。
しかし希子も負けません。
「うちはお姉ちゃんに育ててもらった」
「ちい姉ちゃんに人生をもらった」

※オープニングで卯野家キャストが出てたことや座布団が余っていたこと、いろんな伏線が一気に回収されるのです。

「産みの親か、それとも育ての親か」
閉鎖的な西門家で厳格な和枝さんに躾られ口ごたえも許されなかった希子。
ある意味自由闊達なめ以子が希子に女の子も声を出していいんだよ、と教えたことで花開いた彼女の人生。
思えば焼き氷の頃から、希子は本当に素敵な女性になりました。
「お姉ちゃんに育ててもらって、ちぃ姉ちゃんに人生をもらった。二人とも大好きだから」
と土下座して説得する彼女を、和枝も否定する事はできなかった。
柿の葉も落ちた、お母ちゃんが祝言に行けと言っている。
だから「もうめ以子のことも許していいかな」と和枝自身も思ったのかもしれません。

そんな希子の気迫と涙に負けた和枝はやっと笑みを戻します。
そうしてはじまった、め以子と悠太郎の祝言。
「最高の心尽くしに感謝の気持ちに変えまして『ごちそうさんでした』」


(中の人たちも祝言あげました)

笑顔のまま祝言は終わりました。正蔵も
「しかし今日はなんや夢みたいな一日やったな。あんたらの祝言も見れて柿の葉寿司までついてきた」
と喜んでいましたが、その直後に正蔵が倒れてしまいます。
恐れていた2度目の発作でした。

正蔵の命が残りわずかと悟った西門家の人々は正蔵のために自分のやれることをはじめます。
希子とめ以子は和枝のレシピ(ミセスキャベジのRNでラジオに投稿していた)で料理を作ります。
静は得意の三味線で正蔵を和ませます。
め以子の子どもたちも干し柿、100点満点のテストなどでそれぞれ正蔵を喜ばせます。

ただ人見知りのふ久だけは考えあぐねていました。
正蔵は、幼いふ久に『見えない力』を教えてくれた、ふ久にとってはただのおじいちゃん以上の存在。
そんなふ久は正蔵のことを思い、
「お母ちゃん。うち一緒にご飯食べたい」
とめ以子に提案しました。
子どもたちと一緒に食事をして笑顔になる正蔵。
「おじいちゃん頑張らなアカンな」

※のちにふ久は腐ります(そういうこと言わないの!

一方、悠太郎は正蔵に対して何もできていない自分を不甲斐なく思っていました。
ある日、正蔵が倒れたことを知った悠太郎の上司・竹元(ムロツヨシ)が悠太郎に言います。
「お父上をここにお招しろ」
そこは完成前の地下鉄でした。



車いすで完成前の地下鉄工事現場に正蔵を連れ出した悠太郎。
「こういうとこ複雑やないですか?」
と悠太郎。
かつて鉱山で技術者として働いていた正蔵は、鉱毒事件をきっかけに現場から遠ざかっていました。
正蔵は父として技術者として、悠太郎に向き合います。
「開発やら技術の裏には、良心ちゅーもんが貼り付いてて欲しいんや」





技術や開発で傷ついた心は、また新しい技術や開発によってでしか救えない。
だからこそ開発や技術の裏には良心が貼りついていてほしい。
正蔵がずっと傷ついていたことが、息子である悠太郎が携わる新しい地下鉄の開発で生きる希望を改めて見出したのかもしれません。

思えば大晦日、逃げようとした正蔵に「そばでみとけ」と引き止めた悠太郎でした。
そんな甘えん坊ながら、正蔵と同じような仕事もできるようになった。
子供の成長が親孝行なんだなって思いました。
しかし正蔵の残り僅かの人生を思うと、子どもの成長を見ることのできないつらさ。
美しくも残酷な話です。

その夜、正蔵は地下鉄の話をふ久や泰介たちに自慢げに話しながら、め以子の作ったお汁を美味しそうに食べます。
何度も何度も味わうようにお汁をすする正蔵は、その特別な味に満足気な表情を浮かべていました。





「こんな幸せでええんやろか?最近ええ事ばっかりや」
「悪いこともぎょうさんあったから、とんとんやな」
「悪いことも良えことも腹いっぱいなお人やねあんさんは」
「せや、ごちそうさんな人生やな」
じみじみと人生を振り返る正蔵とお静。
「今日のお汁美味しかったな。明日なんやろな。」
「何やろね。」
正蔵は笑いながら眠りにつきました。


翌朝、朝食の支度をしていため以子のもとにふ久がやってきて言いました。
「おじいちゃん、まだ寝てる」
め以子と悠太郎、希子たちが慌てて正蔵の部屋にいくと、そこには横になっている正蔵とそばにたたずむ静がいました。

家族が集まり、静が穏やかな口調でめ以子に尋ねました。
「今日朝ご飯なんやった?」
「白和えと…お漬もんと…」
静は眠る正蔵に語りかける。
「せやねんて」
「朝起きたら・・オラへんようなってはった」

そのころ和枝は、穏やかな表情で柿の葉の最後の1枚が散っていくのを眺めていました。





「希子ちゃんええ祝言見せてくれておおきに」
「かっちゃん干し柿おおきに」
「泰ちゃん、100点おおおきに」
「ふ久、御膳おおきに」
「悠太郎さん、どえらいもん見せてくれておおきに」
「め以子はん、毎日毎日ごはんホンマに、おおきに」

「みんなのお陰でお腹いっぱいでごちそうさんって行きはった」
「大往生や!これ以上ない大往生やった。おおきにな…おおきにな…」



静の最初は穏やかな語り口がどんどん涙声になっていきます。

「明日のご飯は何だろうと、毎日楽しみだった」
ふ久のお膳、泰介の百点、活男の干し柿。
毎日の生活の中で起こる、自分をめぐる人々の小さな幸せや心遣い。
人の幸せを明日の希望と感じられる人生は幸福なことでしょう。
正蔵さんの最後の日々がそうでよかった。
別れの悲しみを超えた幸せの涙でした。

畳の上のターミナルケア、こんなに大往生で家族に見守られていて、「ごちそうさん」って満足できるなら幸せなんだろう。
今晩はお腹いっぱい、でも明日の朝ごはんはなんだろう、って笑顔を浮かべながら眠る。
たくさんの人の死を目の当たりにしてきたけど、こんな幸せな逝き方、終末期の生き方ができる人は、平成の日本に何人くらいいるんだろうか。

め以子は朝ご飯を食べさせてあげられませんでした。
悠さんは地下鉄の完成を見せてあげられませんでした。
希子ちゃんは自分の祝言は見せてあげられませんでした。
人を送るとき、どれだけやっても必ず悔いは残るという事があくまで淡々と描かれていたのが凄かった。

正蔵の葬儀を終えため以子と悠太郎。
正蔵の死を振り返りながら、2人で話しています。
「最高ですよ、明日のご飯考えながら逝ったなんて。僕の時もそうしてくださいね」
しばらく考え込んだめ以子は
「嫌ですね・・私より長生きしてくださいよ」
とめ以子。
「自信ないですね。あなた、長生きしそうですから」
切り返す悠太郎にめ以子から笑みがこぼれた。

この後に待ち受けるのは太平洋戦争です。
これから穏やかならざる時代を空腹で生き抜いていかなければなりません。
め以子にも悠太郎にも試練が待ち受けます。
しかし正蔵を穏やかに満腹で送り出す事が出来たことは、残された人達にとって、きっと生きていく力になったのでしょう。




『ごちそうさん』、『天皇の料理番』。
森下脚本の根底に流れる家族の愛を感じます。
平成の世では感じえない、大正から昭和にかけての家族の姿。
それも笑顔だけではなく、別れる悲しみや切なさを丁寧に描く作品だなあって思います。

『天皇の料理番』で残された篤蔵、一太郎たちは激動の昭和をどう生き抜いていくのでしょうか。







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