汐見の森の天の邪木

20数年前に書いた童話のタイトルです。子供たちが、森に迷い込んだときから、愉快な物語が始まります。

クマが遭遇した悲劇

2017-07-18 05:08:46 | 童話
 みさきのお父さんが、ある日庭木の手入れをしていると、突然携帯が鳴った。
「はい山田ですが­、ええ、はい、えっ!みさきとはぐれたって?」
 瞬間お父さんは、梯子から落ちそうになった。寝耳に水とは、まさにこの事だ。
”これはえらいことになったぞ”
「大変だ!母さん。みさきが山でみんなとはぐれたらしい。すぐに出かけるぞ!」 
 この日みさき達4年生は、子供会数人でわらび採りに出かけていた。中根さんは役員の方で、夫婦で子供たちを引率していた。電話はこの中根さんからだった。
「まあ大変、あなたすぐに探しに行きましょう」
 奥から、お母さんが飛び出してきた。取るものもとりあえず、2人は車に飛び乗った。
「でどんな状況なの?」はやる気持ちを、お母さんは必至で静めた。
「南山だよ。展望台の近くらしい。車ならここから30分と掛からない、3時半くらいには着くはずだ」
 やがて車が南山の入り口付近に差し掛かると、電車の踏切があり、その向こうに電車が停止しているのが見える。
 3~4人の人達がなにやら車両の周りを見回している。聞けば何かを撥ねたらしいが、何なのか分からないと言う。
「それよりも先を急ごう。みさきが心配だ」
 急な坂道を忙しくハンドルを切り、いっきに駆けあがる。予定どおり3時半には展望台に着いた。辺りを見渡すと車が数台止まっており、一番奥のトイレの横に赤いスポーツカーと、その隣に中根さんのワゴン車が止まっていた。
 車の近くには数人の人だかりが見える。
「ご迷惑をおかけします。でどんな状況ですか?」 お父さんは青白い顔で、よろける様にワゴン車に近づいた。車の傍に立っていたのは中根さん夫婦だった。
「私達もみさきちゃんを探しながら車で移動して、今ここに帰ってきたばかりなんです」 
 申し訳なさそうに女性が言った。
辺りは芽生えたばかりの青葉が、ここちよく風に揺らいでいた。と次の瞬間トイレの扉が、勢いよくバタンと開いた。
「パパ!みさき、ここにいるよ!」
 お父さんは跳び上がって驚いた。
「わーっ!びっくりした!おまえこんなところで何しとる?」
 驚いたのはお父さんばかりではない。
「あーよかったわ! でもあんたトイレの中でなにしとった?」
 お母さんと中根さん達や、同級生みんなも不思議そうな顔をしてみさきを見ている。
 みさきは照れくさそうにして­­­・・・
「ねえ、ちょっと聞いてよ。展望台の帰りにわらびを取ろうとして、道をそれたらクマがいた。でトイレに逃げ込んだの」
「わっ!みさき大丈夫なの?あんた」
 お母さんは震えあがった。その時赤いスポーツカーの若いカップルの男が、すかさず話しかけてきた。
「ついさっきがた、ここでそのクマを車で撥ねてしまったらしいんです」
 若いカップルは車の傷を、たいそう気に掛けている様子だ。
「でクマはそこの草むらから、下のほうに転げ落ちていったの」と女のほうが言った。
「そういえば山を下る時、目の前を黒い物体が落下して来て、そのまま土手から落ちて行ったけど、あれがもしかしたらクマだった訳か?」
 中根さん夫婦は、少し興奮気味だった。その話を聞きながら、お父さんはある事に気が付いた。それは来る途中に止まっていた電車の事である。
「であなた達がクマを撥ねたというのは、何時ころの話ですか?」
「ああ、3時頃だったと思いますよ」
「えっ、そうですか」
“なるほど、これで謎が解けた。つまり電車が撥ねたのは、ここで車にはねられ、転落していったクマという事になる。再びクマは電車にも撥ねられたという事か・・・”
 お父さんは、ここに来る途中で見た電車の話を、みんなに説明した。わが子の無事を喜ぶと同時に、なんだかクマがとてもあわれに思えてきた。
「それにしてもあの電車の運転手さん。まだあそこにいるのだろうか。いるとしたら事の真相を伝えなければ」
 大急ぎで山を下りると、案の定電車は止まっている。そのすぐ横の場所からダム湖を見下ろすと、クマによく似た生物が水面から草木にしがみつき、奇妙な腰つきで這い上がろうとしているのが見えた。 
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