汐見の森の天の邪木

20数年前に書いた童話のタイトルです。子供たちが、森に迷い込んだときから、愉快な物語が始まります。

よねくら橋

2017-10-08 10:50:19 | 童話

 中部地方のある山あいの町に、よねくら橋と書かれたちいさな橋がある。となりには少し大きめの真新しい橋が架けられており、交通の要所となっている。
 小さいほうの橋は、子供たちがもう何年もの間、通学路として使っていて、すぐ横にはお地蔵さんが、子供たちを見守るように立てられていた。
 もうずいぶん古い話になる。ここは昔から河童が出るという言い伝えがあり、かっぱ橋と名付けた古い木の橋が架けられていた。向こう岸には、学校や保育所や診療所もあり、住民にとっては掛け替えのない大切な橋だった。そんなある日のこと、集中豪雨がこの町を襲い、山が崩れ大量の土砂がこの町を呑み込んだ。多くの犠牲者が出たという。勿論その時の災害で橋は流され、住民は不自由な生活を強いられる事になったのである。
 住民の復興へ掛ける願いは、根強いものがあった。
「あの橋は住民の大切な宝物だ。何をおいても復旧を急いでいただきたい」こうした住民の願いを、町長は次のように語ったと伝えられている。
「壊れた道路や家屋の撤去と、ライフラインの復旧が最優先だ。橋の修復はもう少し待っていただきたい」居合わせた老人は、即座に応えた。
「それは困る。あの橋が無ければ診療所はおろか、子供たちも学校に行けない」
 この抗議に、町長は次のように返した。
「向こう岸に渡る手段は他にもある。3キロ下流に行けば、別の橋だって有る」
 この災害直後、町は子供たちの為、スクールバスを出すことを決定した。それでも住民の不満は収まることがなかった。
「老人はどうする。診療所へも行けない。路線バスだって無いし、まさか老人に6キロもの道のりを、歩けとでも言うのか」
 この抗議に町長は頭を痛めた。予算のめどが立たない。橋を造るとなれば、想定外の出費が予想される。国に陳情したとしても、決定されるには長い歳月がかかる。さてどうしたものかと思案した。
そんな時、ある噂が町中を駆けめぐった。
「半年ほど我慢すれば、橋が出来るらしい」
 住民の間で、まことしやかにささやかれた。
噂によれば、遠くの町に米倉物産という会社があり、そこの会長が、この工事の資金を出すというのだ。
会長を知るある人物がこう言った。
「まさか、あの会長がそんな事を言いだすなんて、にわかに信じがたい」
 一代で財を築いた知る人ぞ知る、頑固者で名の通った会長だ。おいそれとお金を出すような人物ではない。しかし住民の予想に反して、工事の準備は着々と進められたのである。驚いたのは住民ばかりではない。
「まさかそんな、信じられない。地獄で仏とは正にこの事だ。ありがたいことだ」  
町長は米倉物産がある方向にむけて、深々と頭を下げたという。
じつはこの米倉物産、会長の娘がこの地に嫁いでいて、孫の喜ぶ顔が見たいというそれだけの理由で、お金を出す事を決めたらしい。 
広報誌に、彼のこんな記述が載っている。
“私は地域で暮らす多くの人々に支えられ、今の自分があるのだと実感している。会長となった今こそ、世の人の為に、少しでも恩返しが出来ればいいと考えている”
 たくさんの子供たちに囲まれ、豪快に笑う彼の姿も、この誌は同時に伝えていた。
やがて時は過ぎ、いつしか橋はあらたな装いに姿を変え、再建されていたのである。
古くから伝えられた河童伝説も、人々の口からは聞かれなくなった。
 あれから十数年。米倉会長を語る人々も今はなく、橋に刻まれた名前から、わずかにその面影を忍ぶことができる。
 ふと誰かが呟いた。
「あれは子供たちが好きだった河童の化身に違いない」
後に子供たちと手を繋ぎ、嬉しそうにこの橋を渡る、米倉会長によく似た人物が、たびたび目撃されているという。 

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朝はせわしくて

2017-07-24 03:39:25 | 童話

 8月は夜明けがとても早く、未明には肌寒ささえも感じられ、今が夏であることを、一瞬忘れてしまう事がある。
 私(佑香)はその日、たまたま朝早くに目が覚めて、起き上がるとすぐに、階段をふらふらと下りて行った。その時トイレの明かりが灯いているのに気が付き、そのまま私はリビングに行き、朝食を作っている母の傍の椅子に座った。
「あらおはよう。佑香今日は珍しく早いのね」
「うん。・・・ねえ今誰かトイレに入ているの?」
「さあ誰かしら?」
 窓の外は、露に濡れたアサガヲの花びらが、朝日に映えてキラキラと輝いていた。
「そういえばお父さんは何処?」 
 父は朝6時前に目が覚めると、毎日新聞を読むのが日課だった。
「あら、お父さん何処にも居ないわねえ。トイレかしら?」
 リビングのソファーにも居ないし、テーブルにも新聞すら無い。
「やっぱりトイレかもね」
 母は困った表情でトイレの方へ行った。
「あなた!トイレの中にいるのでしょ。早く出てくださいな。佑香が困っていますよ」
 するとガサガサと音をたてて、重い返事が返ってきた。
「うん、そうか、今出るよ」
 ガチャンと扉が開くと、新聞を畳みながら父は出てきた。
「悪かったな、佑香」
「うん、気にしてないからいいよ」
 このところの父は、よく新聞を手にしながら、トイレに入る事がある。勿論新聞を持ち込むのが悪いわけでは無い。問題なのは長時間居座るところにあるのだ。
 先日、私の兄(智)十七歳は、あろうことかゲーム機をトイレに持ち込み、ゆうに一時間は出てこなかった。
「まだ休みの日だったから良かったけど、平日だったら困るからね」
 私(佑香)が不機嫌そうにすると、兄(智)は、へへんと照れ笑いをして・・・
「そういう佑香だって、トイレの中でメールしていたじゃないか!」
「まあ売り言葉に買い言葉ね」
 母はさらりとかわした。ところがその後父が突然やって来て。
「この間は母さんが家計簿を手に持って、トイレから出てきたのを見たよ」
お呼びでない父が、話に割り込んだことで、話の収拾がつかなくなった。
「だったらさあ、ルールを決めればいいんだよ。そうすればもめないと思うよ」
 兄はこんな事でもめるのは御免とばかりに、吐き捨てるように言った。
「そういうお前こそ、一番トイレが長いんだからな、ルールはお前が決めろ」
ルールが守れそうにない人間に、ルールを作らせる事で、そのルールは無視出来ないものとなり、守るようになると、ある記事に書かれてあった。
自分で作ったルールを守らないのは、自を否定する行為となり、自己の崩壊を意味する。多分父はその事を伝えようとしたのだろう。
「私もお父さんの意見に賛成。こういうのは律儀なお兄ちゃんが一番向いていると思うからね」
 すると兄は得意げな顔で、じゃあ俺がとばかりに、自分の部屋からカレンダーのめくり終えたものを持ってきて、裏返して太めのマジックペンでなにやら書き始めた。
一、 トイレに新聞は持ち込まない。
二、 トイレにゲーム機を持ち込まない。
三、 トイレの中でメールをしない。
四、 トイレで家計簿はやらない。
五、 トイレで食事はしない。
 こう書かれた掲示物が、トイレの横に貼り出された。その後5番目の規則について、議論が白熱した事は言うまでもない。
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山下さん宅のサル

2017-07-20 20:01:41 | 童話
ある朝お寺の和尚さんが庭のお掃除をするために、竹ボウキを手に持って寺から颯爽と出てきた。すると畑が荒らされている事に気が付いた。
「なんじゃこりゃ。誰がこんなひどい事をした!」
大切な畑が荒らされた事に、和尚さんはひどく腹をたてた。
 寺の境内のすぐ横には畑があり、働き者の和尚さんが丹精こめて育てた大切なサツマ芋が、根こそぎ盗まれていたのだ。
 その時、ガサガサと庭木が揺れたので、見上げると、手入れのよく行き届いた松の木のてっぺんに、一匹のサルがいるのに気が付いた。
「こらーっ!おまえかぁ!畑を荒らしたのは」
 和尚さんは力の限り叫んだ。するとサルは自分ではないという仕草で、手を顔の前で大きく横に振った。
「この野郎!お前でなくて、一体だれがこんな事をするって言うのだ」
 大好物の芋を盗られたっていうので、和尚さんカンカンに腹を立て、汚い言葉でサルをののしった。
「畑が掘り返されて、そこにサルが居りゃあ誰だって疑うよ、このサル野郎!」
 和尚さんは近くにあった竹竿を手に取り、木の上のサルを叩き落とそうとした。しかしはるか木のてっぺんに居るサルに届くはずもない。
「ここに降りて来い。とっ捕まえて見世物にしてくれるわ!」
 松の木のてっぺんに居るサルには、下で怒鳴り散らす和尚さんの声が、きっと滑稽に思えたに違いない。
 しばらくの間にらみ合いが続き、沈黙の時が流れた。やがてサルは自分の顔の前で、再び大きく手を横に振った。
「もしかして、お前さん人間の言葉がわかるのか?」
サルはうなずいた。和尚さんの声が少しだけ和らいだ。
「ほう・・・じゃあ誰がこんなひどい事をしたか、知っているのか?」
「キキーッ」
 サルは近くにそびえる笠置山を指さした。
「なるほど笠置山か、まーあり得る話だな」
 ここからほど近いダム湖の向こうに、笠置山は有る。車が行き来出来る大きな橋も架けられており、野生のサルも生息していることがよく知られている。
「話はよく分かった。じやぁ一つ聞くが、お前さんは一体どこから来た?」
「キキキーッ」
 見た目は丹精で、小柄なかわいらしいニホンザルで、人馴れしている様子がうかがわれた。その仕草は、まるで自分がいた場所を、一生懸命伝えようと身振り手振りしているかに見えた。その時、表の通りから一人の年配者が寺にやってきた。
「これは和尚さん。あんたさっきから一人でなにやっとるかね?」
 訪れたのは、近くに住む自治会長の田村さんだ。
「さっきから向こうで見ておったが、なんで竹竿なんか振り回しとったかね?」
 声を掛けられ、和尚さんはふと我に返り、いつもの優しさを取戻した。
「あっこれは自治会長の田村さん。お早うございます」
 手で持っていた竹竿はさっと片付けられ、何事もなかった様な顔をして話を続けた。
「いやはや畑がごらんの有様でね、それで木の上にサルがおったもんで、それで・・・」
 その話を聞きながら、田村さんはお寺の門をくぐり抜け、境内の中から庭木をぐるりと見回した。
「あっ、あれは山下さん宅のサルだよ!」
 首のところに付けられた、ピンクの首輪を田村さんは見逃さなかった。
「えっ、山下さんというのは何処の誰ですか?」
「隣町に住んでいる、わしの高校時代の同級生だよ」
「そうですか、それで人馴れしていたって訳か」
“なるほど、どうりで人間の言葉が理解できた訳だ”このとき和尚さんはそう思った。
 その後すぐに田村さんは、同級生の山下さんに電話を掛けた。ほどなくして山下さんが車で駆けつけた。
 やってきたのは痩せぎしで小柄な男だった。
「どうも初めまして、隣町に住んでいる山下と申します」
 山下さんは開口一番、ぺこりと頭を下げた。
「うちのミッキーがご迷惑をお掛けしたそうで、申し訳ありませんでした」
 そう言いながら、前かがみで手をこすりながら山下さんは境内に入てきた。
「いやいやご心配無用。お宅のサルは何もしていませんよ。ただ木に登っただけだから」
 そう聞いて山下さんは、肩の荷が下りたようだった。
「ミッキーおいで!」
 山下さんの呼ぶ声を聞くと、サルは木を一気に駆け下り、その肩に飛び乗った。
「へえ、良くなついているね。可愛い、可愛い」
 和尚さんは、ちょっと待ってくれと言い残し、寺の中に駆け込み、二本のバナナを手にして出てきた。
「疑ってすまなかったな」
 そう言いながらバナナを二本サルに手渡した。
するとサルは山下さんの肩にしっかりしがみ付き、バナナを手にしてこちらを振り向くと、アッカンベーをしながら門を尻目に、車の止めてある方行へと消えて行った。

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クマが遭遇した悲劇

2017-07-18 05:08:46 | 童話
 みさきのお父さんが、ある日庭木の手入れをしていると、突然携帯が鳴った。
「はい山田ですが­、ええ、はい、えっ!みさきとはぐれたって?」
 瞬間お父さんは、梯子から落ちそうになった。寝耳に水とは、まさにこの事だ。
”これはえらいことになったぞ”
「大変だ!母さん。みさきが山でみんなとはぐれたらしい。すぐに出かけるぞ!」 
 この日みさき達4年生は、子供会数人でわらび採りに出かけていた。中根さんは役員の方で、夫婦で子供たちを引率していた。電話はこの中根さんからだった。
「まあ大変、あなたすぐに探しに行きましょう」
 奥から、お母さんが飛び出してきた。取るものもとりあえず、2人は車に飛び乗った。
「でどんな状況なの?」はやる気持ちを、お母さんは必至で静めた。
「南山だよ。展望台の近くらしい。車ならここから30分と掛からない、3時半くらいには着くはずだ」
 やがて車が南山の入り口付近に差し掛かると、電車の踏切があり、その向こうに電車が停止しているのが見える。
 3~4人の人達がなにやら車両の周りを見回している。聞けば何かを撥ねたらしいが、何なのか分からないと言う。
「それよりも先を急ごう。みさきが心配だ」
 急な坂道を忙しくハンドルを切り、いっきに駆けあがる。予定どおり3時半には展望台に着いた。辺りを見渡すと車が数台止まっており、一番奥のトイレの横に赤いスポーツカーと、その隣に中根さんのワゴン車が止まっていた。
 車の近くには数人の人だかりが見える。
「ご迷惑をおかけします。でどんな状況ですか?」 お父さんは青白い顔で、よろける様にワゴン車に近づいた。車の傍に立っていたのは中根さん夫婦だった。
「私達もみさきちゃんを探しながら車で移動して、今ここに帰ってきたばかりなんです」 
 申し訳なさそうに女性が言った。
辺りは芽生えたばかりの青葉が、ここちよく風に揺らいでいた。と次の瞬間トイレの扉が、勢いよくバタンと開いた。
「パパ!みさき、ここにいるよ!」
 お父さんは跳び上がって驚いた。
「わーっ!びっくりした!おまえこんなところで何しとる?」
 驚いたのはお父さんばかりではない。
「あーよかったわ! でもあんたトイレの中でなにしとった?」
 お母さんと中根さん達や、同級生みんなも不思議そうな顔をしてみさきを見ている。
 みさきは照れくさそうにして­­­・・・
「ねえ、ちょっと聞いてよ。展望台の帰りにわらびを取ろうとして、道をそれたらクマがいた。でトイレに逃げ込んだの」
「わっ!みさき大丈夫なの?あんた」
 お母さんは震えあがった。その時赤いスポーツカーの若いカップルの男が、すかさず話しかけてきた。
「ついさっきがた、ここでそのクマを車で撥ねてしまったらしいんです」
 若いカップルは車の傷を、たいそう気に掛けている様子だ。
「でクマはそこの草むらから、下のほうに転げ落ちていったの」と女のほうが言った。
「そういえば山を下る時、目の前を黒い物体が落下して来て、そのまま土手から落ちて行ったけど、あれがもしかしたらクマだった訳か?」
 中根さん夫婦は、少し興奮気味だった。その話を聞きながら、お父さんはある事に気が付いた。それは来る途中に止まっていた電車の事である。
「であなた達がクマを撥ねたというのは、何時ころの話ですか?」
「ああ、3時頃だったと思いますよ」
「えっ、そうですか」
“なるほど、これで謎が解けた。つまり電車が撥ねたのは、ここで車にはねられ、転落していったクマという事になる。再びクマは電車にも撥ねられたという事か・・・”
 お父さんは、ここに来る途中で見た電車の話を、みんなに説明した。わが子の無事を喜ぶと同時に、なんだかクマがとてもあわれに思えてきた。
「それにしてもあの電車の運転手さん。まだあそこにいるのだろうか。いるとしたら事の真相を伝えなければ」
 大急ぎで山を下りると、案の定電車は止まっている。そのすぐ横の場所からダム湖を見下ろすと、クマによく似た生物が水面から草木にしがみつき、奇妙な腰つきで這い上がろうとしているのが見えた。 
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満天の星空の下で

2015-12-30 20:39:40 | 童話


 祐太くんと真紀ちゃんの幼い2人の兄弟は、ある夜バルコニーから満天の星空を見上げていました。
 空気のよく澄んだ10月の空は少し肌寒くて、キラキラと光る星座の煌めきは静寂の中で、いっそう
美しさが際立ち幼い2人を魅了します。
「ゆうくん。まきちゃん。いいかげんに家の中に入ったらどうなの? 寒くなってきたでしょう」 
 そろそろ寝る時間がきたというので、お母さんは窓から2人に声をかけたのですが、2人はいっこうに
部屋へ入ろうとはしません。時刻はもうすでに9時を回ろうとしています。
「ほら、風邪ひいたらどうするのよ!」 お母さんは2人の手を引いて、部屋へ入れようとしたその時です。
「あっ!あれ!」 真紀ちゃんの指差す視線の先に、一瞬淡く白い一筋の光が過ぎりました。
「まあ、流れ星!・・・あんた達、運がいいわねえ」 このタイミングをのがしたら、2人を部屋へ入れる
口実が見付からないというので、お母さんは子供たちを説得します。
「ほらほら、今日のところはもう寝ようね。流れ星さんだって見えたのだから」
 ところがどうした事か・・・・
「今日はここで寝るよ」
祐太君が平然として言いだしました。とつぜん飛び出した言葉に、お母さんは困惑します。
「えっ、嘘でしょう? 何馬鹿なこと言っていんのよ、こんなところで寝られる訳ないじゃない!」
「いやだ!今日は絶対にここで寝るから」
 一度言い出したら後へは引かない祐太君。お母さんは困り果て、お父さんを呼ぶことにしました。ところが
何故かお父さんは子供達が言うがまま。
「まあ、祐太がここで寝るって言うのなら、仕方ないな」 ”って嘘でしょ” こんなところで寝られる訳
ない。とお母さんは必至で訴えます。
 バルコニーの広さは畳1畳半程、テントは有るものの設置するには狭すぎます。どうしたものかとお父さん
は思案します。
「うん、あれしかないな・・・」
 お父さんはブルーシートを持って来ると、建物とバルコニーの間を屋根として包むようにして、ガムテープ
で固定します。露をしのぐにはこれで十分です。後は寒さ対策ですが、時期的にはまだ早いのですが、なにぶん
外ということもあり、ふとんを敷いた上に電気敷き毛布を用意しました。準備するのに1時間ちょっと要した
ので、子供たちはもう寝る時間です。 そうこうしている間に、夜もとっぷりと更けて行きました。
 深夜1時、2人はぐっすりと眠っています。一方お父さんの方はといえば、心配でぐっすり眠る事が出来ません。
朝方4時ごろ、2人の様子が心配なお父さんが、部屋の窓を開けてビックリ! なんとガムテープで止めた
はずのブルーシートの屋根が、全て外れ2階のバルコニーから、1階の土間に落ちているのが見えました。
 幼い2人の兄弟は満天の星空の下、野宿同然で眠っています。すぐに屋根を付け直そうとしたのですが、
その騒ぎを聞きつけてやって来たお母さんは・・・・
「あらまあ!いやだ・・・なんという事でしょう」
手で口を塞ぎながら、笑いをこらえるも、おもわず吹き出してしまいそうなお母さんでした。
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あれ~?あんな処に街がある

2015-10-25 21:46:10 | 童話
みほちゃんは、切り開かれた道沿いの丘から、眼下を見下ろしています。すぐ横には、止めた車から降りてきたばかりのお父さんがいます。
「ねえパパ、あんなところに街って有ったっけ?」
 うだるような夏の暑さが、まるで嘘の様に、辺りはひんやりと静まり返っています。
「ああ、あれはね、蜃気楼っていうんだよ」
「えっ、しんきろうなの ???」
 夏祭りの夜店に行くにはまだ早すぎる、というので、お父さんは少しだけ寄り道をすることにしたのです。
 この辺りは昔から、海が空に浮かんで見える山里として、新聞の記事にとりあげられた事がありました。
「でもパパ、しんきろうって何?」
 周りを山に囲まれたこの丘は、夜ともなれば人気もなく静かで、時折遠くから聞こえて来る車の音だけが、心地よく耳に響きます。
「蜃気楼というのはね、みほ・・・」
 お父さんは目に見える街が、実際にはそこに無い事や、昼と夜の温度の差で空気の層が乱れ、光の屈折によって起こる、光学現象であることを一生懸命説明したのですが、小学生のみほちゃんには、少し難しかったようです。
「本当はあそこには、街が無いってことなんでしょうパパ」 みほちゃんは、少しだけ理解したようです。
「うん・・・まああそこには無いけど、あれは実際に存在する風景なんだよ」
 目の前に広がる光景は、目線を水平にした状態から見えるもので、5~600メートル先に、大きく真っ直ぐ伸びる道路が見え、その先には交差点があり、信号機が点滅していました。
 ライトを付けた何台にも連なる車の列が、まるで手に取るように見えて、その街がこの辺りのものではない事が一目で分かりました。この高台の山里は、隣に愛知県があり、遠くには三河湾が広がっています。昼間に見える景色は、連なる山々の稜線だけが、幾重にも重なって見えるだけの山あいの里なのです。
「でもねみほ、ここはパパがまだ若かったころ、新聞で取り上げられたことから多くの見物客が訪れて、すごかったんだよ」
「へえ、そうなんだあ・・・」
「今は、あの頃とは随分と状況が変わってしまったけどね・・・」
その頃の様子が、今ではすっかり変わってしまった事に、お父さんはがっかりしていました。もう随分前にこの辺りは開発の手が入り、当時の面影は有りません。今はゴルフ場の芝が広大に広がる大地となり、人々の口から蜃気楼の言葉さえ聞かれなくなりました。
 ここの地名は古くから、遠くにある吉良の街が見える事から、吉良見と名付けた。と伝えられています。

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ひろきの秘密の隠れ家

2015-10-25 12:19:31 | 童話
 薄暗い地下室の隅っこで、ひろきは今来たばかりの友達三人で、秘密の隠れ家を造ろうとしていた。
「外の様子はどうなっている?」
 人の気配が、ひろきは気になるようだ。かん太が天井にあいた隙間から外を眺めると、バケツやボールを持った大人達が、あわただしく走り回っている様子が見えた。
「ひろくん。外は大変な騒ぎになっているよ」
「やっぱりそうか、父ちゃんが言っていたとおりだ。こりゃ忙しくなるぞ」 
そう言ってひろきは、一階につながる階段を上がって行こうとしたその時、上からエプロン姿の母親が、忙しそうに駆け下りて来た。
「あらまあ、いやだ。なんでこんなところで遊んでいんのよ。ひろき!父ちゃんに見つかったら怒られるよ!」
 ひろきは振り向きざまにこう言った。
「エイリアンの侵略が始まったぞ。ここはひとまず退散だ」
 三人は階段を駆け上がる。
「ちょっと待った!誰がエイリアンだって?」母親の顔つきが、怒りの形相に変わる。
“まずいぞ”
「にげろ!」とひろきが叫ぶと、一目散に三人はにげだした。 
ひろきの家は、代々伝わる味噌蔵の名家だ。子供の頃からひろきは、地下室の味噌蔵が唯一の遊び場だった。だが今日の所は仕方なないので、三人は外で遊ぶことにした。
 駆け抜ける途中で、父親とすれ違った。
「おう、ひろき! 遊んでばかりいないで、たまには仕事を手伝ってくれ」
「また後でやるから!」
「おう、それじゃあまた後で頼む」
 走りながらその場を後にした三人は、なんとか難を逃れたのだが------。
「ねえ、外で遊ぶと言っても、一体どこで遊ぶのさ?」
 無口なとしおが、重い口を開いた。周りを見回しても民家ばかりで、子供たちが遊べる場所など何処にも無い。
「よし、もう一度あの地下室に戻るぞ」
 三人は元いた場所へ引き返す事に決めた。前方に立ちはだかるのは、大人たちの群れだ。
「まずいぞ! エイリアンがいっぱいいる」
“見つかったらどうしょう”
 みんな垣根の陰に身を隠した。かん太は言った。
「ひろくん、他に入り口はないの?」
「車の出入り口なら下に有るけど、カギがかかっているよ」
「う~ん、カギかぁ----」
 しばし考えるも、いい案が浮かばない。味噌蔵の前には売場があり、その横にトイレが見える。
「よし! あのトイレから侵入するぞ!」
 売り場の前には大勢の人だかりがあり、その傍には父親の姿が有った。
「ちょっと待った!」
「どうしたの?」
「まずいぞ! エイリアンのボスがいる!」
とっさに、みんな垣根の陰に身を隠したが、父親からは丸見えだった。
「おーい、ひろき! ひまなら奥の倉庫から味噌樽を運んでくれ。たのむ!」
「え~っ、そんなぁ」
 こうしてひろきの遊びは、わずかな時間で終わった。親しい友達ともしばしのお別れだ。重い足取りで、ひろきは店の奥へと消えて行く。上空には銀色に輝くUFOらしき物体が、東の空へと飛んで行くのが見えた。

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水場のある風景

2015-10-25 06:15:07 | 童話
 それは校舎がまだ木造だったころの話です。
 今から50年ほど前のこと、この山あいの学校では当時、2つの校舎の間に、屋根の付いたコンクリート製の通路が設置されていました。勿論その通路の屋根は、雨をしのぐ為だけに有るもので、渡り板は敷かれてあるものの、冬場なんかは吹きさらしの状態です。ですから先生も子供達も寒さの中で、小走りで駆け抜ける光景がよくみられました。
 その当時はまだ水道が無い時代なので、学校には井戸が有り、大型の手押しポンプが設置されていました。水場はこの渡り板の通路に、沿うようにして造られていたのです。
 この水場、手押しポンプが高い位置に設置されていた為に、それを操作するのに大きな踏み台が置かれていました。そして吐き出し口には水槽があり、そこから長い配管がひかれていて、水を出すための穴がいくつも開いていたのです。                               
 この手押しポンプ、小さな子供でも操作できる様、ハンドルレバーが長めに出来ていました。ですからハンドルを両手で持ち上げ、踏み台を蹴ってジャンプしてぶら下がると、ハンドルレバーが下がってきて、ちょうどいい具合に水を汲みあげる事ができます。
 この水場は夏になると、それまでとは様相が一変して、活気がみなぎります。もともとは小中合同の学校なので、放課後なんかは、部活の中学生が水分補給にやって来て、水場の周辺で遊んでいた小学生が、水汲みをしている事がありました。そして中学生は流れ出る水を、ひたすら飲みます。時には先生方も子供達に混じって、水を飲んでいる事がありました。
「お~い、水が足らんぞ。どんどん漕いでくれ!」 こんな会話が、何処からともなく聞こえてきます。
遠い昔の楽しくも懐かしい、ほのぼのとした風景です。
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幸せを呼ぶ黄色いフリスビー

2015-10-23 06:38:01 | 童話

 そのとき高台の丘から、一枚のフリスビーがUFOさながら風に乗り、道路の上空を過ぎって草むらに消えていった。
 翔太は、山を一気に駆け下りると、ガードレールの所まですっ飛んで来た。
「うわーっ、あんなところに落ちている。どうしよう」
 買ってもらったばかりの、大切な黄色いフリスビーは、五十メートルほど下の草むらに落ちているのが見える。
「お兄ちゃん、フリスビー見つかった?」
 可奈ちゃんも、息を切らせ、あわてて駆けつけた。
「うん、ほらあそこだよ」
「うわー、霧が出ている。どうするお兄ちゃん?」
「どうするって、取に行くしかないよ」
 ぞうき林の急な斜面を、二人は小枝を掴みながら降りて行く。
「白くて、何にも見えないよ」
「気を付けて、お兄ちゃん」
「うん、わかっている」
 すぐに降り切ったものの、辺りは靄に包まれて、フリスビーはどこにも見当たらない。
「へ~っ、ここ思ったよりも広いみたいだよ、それに垣根だってある」
 翔太が向けた視線の先に、かすかに人の気配がした。
「君たち! 何をしている!」
 突然声をかけられ、二人は驚いた。
「わっ、ご、ごめんなさい!」
 見上げると、すぐそばに白いカッターシャツに、黒いスーツ姿の紳士が立っている。すぐ後ろには大きな窓ガラスの、レストラン風の建物が霧の中に霞んで見えた。
「困るねえ、無断で入いてもらっては・・・でも・・・今日は特別の日だから、許してあげよう」
 辺りはいつの間にか靄も消え、広大な庭園がその姿を現した。
「へぇ~すごいね。でもここ、上から見た時は、こんなんじゃなかった気がする?」
 可奈ちゃんは不思議そうに、辺りを見回した。
「あのう、ぼくたちフリスビーを探しに来ただけなので・・・」
 紳士は怪訝な顔をした。
「そんな事はどうでもいい。それより君たち、食事でもして行きたまえ」
「でもお金ないよ、僕たち・・・」
「わっはっは! 今日は特別の日だと言ったはずだ。新装オープンだよ、だから今日は全部ただ! つまり、食べ放題って訳だ」
 この店の店長と名乗る紳士風の男は、二人を店先に案内した。入り口には新装オープンと書かれた立札がある。
 可奈ちゃんは、とても嬉しそう。
「うわーっ、ひんやりして涼しい。それに広くてきれい」
 中に入ると、明るくてゆったりとしたソファーも有る。
「ここはミシュランの、三ツ星を獲得したレストランだ。さあなんでも好きなものをたべてくれたまえ」
 メニューには沢山の山の幸を使った料理が書かれてある。その中でも一番のおすすめが、イワナのムニエル風スパイシー炒めだった。そこで二人は欲張って、二人前ずつ注文した。
 それはほんのりチーズの香りがする、とてもおいしいものでした。二人はあっという間に二人前を、たいらげてしまった。
「あーおいしかった」
「うんうん、そうだろう、そうだろう、うんうん」
 黒い服の紳士は上機嫌で笑った。
「一つ質問があります」 と翔太が言った。
「ほう、なんだい? 」
「こんな山の中に、なんでレストランがあるのですか?」
 紳士は眉をひそめると、かすかに笑みを浮かべた。
「うむ、いい質問だね。それは自然が豊かで、食材が豊富に手に入るからだよ。さっき出したイワナも裏の川で釣ったものだ」
 大きな窓の外には、右下にゆったりと流れる川が見える。
「ふ~ん、でも他にお客さんがいないのは、何故なの?」
「そんな事はどうでもいい・・・今に分かる事だ」
 その顔からは、かすかな笑みが感じられた。そうこうしている間に、もう帰る時間だ。紳士風の男は微笑みながら、優しく見送ってくれた。二人は気分よく店を後にしたのだが、途中振り返ってビックリ、もうそこにはレストランは無く、黄色いフリスビーだけが草むらの中にひっそりと置かれていた。
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クチクチ・スウ・ライと二本の銀杏の木

2015-10-18 05:23:26 | 童話
クチクチ・スウ・ライと2本の銀杏の

それは遠い昔の話です・・・・
東農地方のある山あいの里に、小さな学校が有りました。その学校は昔の事なので、小中合同という、今ではあまり見かけないような感じの学校でした。 児童数・生徒数を合わせると、その数は300人をゆうに越していました。ですからグラウンドなんかは放課後、中学生の野球部が使えば、もうそれだけでいっぱいとなり、小学生なんかは外野手の合間をぬって、遊んでいました。
 いつ飛んでくるのか分からないボールに、気を配りながら遊ぶ訳です。そんな中で子供たちに1番の人気は、四角いグラウンドの片隅に対角に向き合い、離れて立つ2本の銀杏の木でした。
 外野手のライト側に雄の木が1本と、レフト側(校舎側)に雌の木が1本、ちょうどいい具合に立っているのです。ですからいつもここから鬼ごっこが始まるのです。野球が行われている最中にこれが始まるのですから、たまったものではありません。でも大丈夫、もともと狭いグラウンドなのだから、野球部員も文句は言わないし、小さな子供達もそこのところはよく理解しているのです。時には自転車だって外野手の合間を駆け抜けます。
 実はこの銀杏の木、そうとう古いもので、小学生が一人では抱えきれないほど大きくて、背丈は校舎の屋根をゆうに超えていました。   
秋口にはその実が落ちて、グラウンドを汚します。でもこの一角はとても人気がありました。時には大人たちだってギンナンの実を拾いに来ることがあるのです。各学年の体育の時間にも、この銀杏の木はよく利用され、クチクチ・スウ・ライという2本の木を陣地として競う、対戦型鬼ごっこが盛んに行われていました。
※クチクチ・スウ・ライとは銀杏の木などを陣地として、2チームに分かれ行う対戦型鬼ごっこです。帽子を正面に被ったライ(各チーム1名)を大将とし、クチ(帽子のひさしを右もしくは左に被る)と、スウ(帽子のひさしを後ろ向きに被る)がチームワークをとり、ライを守りながら、相手をタッチして捕えるゲームで、ライはスウから追われ、スウはクチから追われ、クチはライから追われるというルールです。捕えられたら相手側の木に1列につながれ、味方の助けを待ちます。そしてタッチされたと同時に一目散に逃げ帰ります。味方の陣地の木に触れているときは相手のタッチは無効となり、ライが捕まったらゲーム終了。
 こんな感じで、参加人数などにも制限はなく、とても楽しめる遊びでした。この対戦型鬼ごっこ、いつの頃だったか転任の先生がこの学校に伝えたもので、とても人気がありました。勿論のこと、この鬼ごっこは2本の銀杏の木が無ければ、これほどまで人気にはならなかったはず。先生方からもその存在を認められている銀杏の木、風になびかれその枝を大きく揺らしながら、誇らしげに立つその姿は、学校のシンボルとでもいえるもので、ここから多くの子供達が巣立って行ったのです。ですからこの銀杏の木も、きっと思っていたに違い有りません。 
”数えきれないほど、多くの子供たちに囲まれて幸せだったと・・・“
 あれから長い年月が過ぎ、そこにはもう学校も、2本の銀杏の木も有りません。その後校舎も新しく移転されたのですが、少子化が進み、やがて学校も廃校となってしまったのです。
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文鳥のモモちゃん

2015-09-18 06:43:02 | 童話
5月のある日の事、えみちゃんは両親と一緒に、遠くの町のバードセンターまで行く事になりました。誕生日のお祝いに、文鳥のひな鳥を買ってもらう約束になっていたんです。
年間を通しても、この時期でなければひな鳥は手に入りません。(秋口にも少しだけ入荷することが有る様です)えみちゃんはこの日が来るのをずーと楽しみにしていたのです。
店の中に入るとは文鳥のひな鳥が箱の中にいっぱいいます。生まれて3週間程というので、体毛も産毛で、成長してからの毛の色は分からないということです。
 鳥かごと餌入れ・お水の器など、必要なものは全てそろいました。店のおじちゃんに教わったひな鳥の餌付けの方法など、今日からは全てえみちゃんの仕事です。
「ねえパパ、箱から出していい?」 帰りの車の中でえみちゃんは、ダンボールの穴から僅かに見えるひな鳥に触りたくてしかたありません。
「家に帰るまで我慢しなさい」 おじちゃんから教わった話を、お父さんは車内で、えみちゃんに言い聞かせます。(慣れるまでは、明るい所に出してはいけないそうです)その間も、ずっと箱の中を覗き込んでいました。家に帰ってからは本格的な餌付けの始まりです。最初は流動食で、緑色の粉末をぬるま湯で溶いたものを注射器の様なものでひな鳥の口に入れます。ひな鳥は常に口をあけているので、慣れれば誰でも簡単にできます。大変なのは4~5時間置きに餌やりをつづけなければならないことです。生まれて初めての体験なので、えみちゃんはどんな苦労も厭いません。むしろ小鳥に触れられることの喜びのほうが大きかったに違いありません。
 努力の甲斐があってか、やがてひな鳥は手を差し伸べると、指に乗る様になったのです。
「ねえママ見て、可愛いでしょう」 夕食の支度をしているお母さんがいる台所まで、文鳥を肩に乗せたままで、えみちゃんがやって来ました。
「ほらぜんぜん怖がらないよ」 ひな鳥は、すっかり人に慣れたようです。
 真っ白でくちばしはピンク、ひと月程で見違えるくらい成長したのです。
「目がくりくりして、ほんと可愛いわね。よかったね、えみちゃん」
 それからのえみちゃんは、毎日が楽しくて仕方ありません。学校から帰ってくると、真っ先に鳥かごの所に行き、しばらくの間小鳥と遊びます。名前をモモと命名し、とても可愛がりました。家族みんなが部屋にいるときは、モモちゃんも一緒です。人を怖がらないモモちゃんは肩から肩へと飛び移ります。
 家族の一員として、なくてはならない存在となった頃の事です。えみちゃんが、文鳥のモモを肩に乗せたまま、家の外へ出て行ってしまったのです。
「だめよ!えみちゃん。外に出してはいけないって言われてるでしょ」 お母さんが後を追っかけて玄関をとびだしました。お父さんも2階のベランダから声をかけます。
「外へ出してはだめだよ。えみ」
「パパ大丈夫よ、ほらっ」 掛け声と共にモモちゃんを空高く放り投げたのですが、その時はすぐにえみちゃんの手元に戻ってきました。
 お母さんもお父さんも、その様子を見てすっかり安心したのですが、気を良くしたえみちゃんは、そのまま表の通りまで行ってしまいました。その時1台の車が、激しい音を立てて猛スピードで目の前を通過したのです。
「あっ!」 えみちゃんの悲鳴と共に空高く舞い上がったモモは、そのまま木の生い茂る林の中へ飛んで行ってしまいました。
 一瞬の出来事に、身動きひとつ出来ないえみちゃんを残したまま、モモは、林の奥深く飛んで行ってしまったのです。ガックリ肩を落とすえみちゃんに、両親は優しく語りかけます。
「大丈夫だよ、鳥は帰巣本能があるからきっと帰って来る」
「そうよ、えみちゃん。大丈夫・大丈夫。ほらモモちゃんの鳴き声がきこえるでしょ」 
 耳を澄ますと、遠くでピヨピヨと鳴く声がします。でも姿は全く見えません。
「私達の姿を見れば、きっとモモちゃんは又肩に飛んでくるはずだから」 お母さんは、淡い期待を持って林に入て行きます。そこでみんなで少し林を歩いてみたのですが、鳥の鳴き声はいたる処から聞こえてきて、モモちゃんの声なのか野鳥の声なのか見当つきません。やがて林の中も薄暗くなってきたので、今日のところは諦めて、また明日探す事にします。
 家族の一員をなくした淋しい夜が暗い影をおとします。えみちゃんは、懐中電灯を手にして家の前の林を見つめます。夜遅くまで、何度も何度も飽きずに見ています。生まれて間もない人馴れした文鳥には、この自然は厳しすぎます。 
 えみちゃんは、いつしか疲れ果て、眠ってしまいました。それからというもの次の日も、またその次の日も、ずーと探しつづけ、来る日も来る日もモモの帰りを待ちつづけました。やがて長い月日が過ぎ、いつしか悲しみも薄れ、辛かった日々が、ようやく楽しかった思い出に変わりました。

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川のほとりで

2015-05-23 22:29:33 | 童話
 その時、車の後ろの席で、わたしは両親の会話を静かに聞いていました。気になる場所があるというので、

父は大きな川の、道沿いの空き地に車をとめました。

「うん、ここに間違いない。絶対にここだよ」
 
 父が視線を向けた先には、ゆったりとした川の流れと、向こう岸には水面から突き出た大きな岩が見えま

した。

「小さい時に親父に連れられて、あの岩場に来たことがある」
 
 父は懐かしそうに、向こう岸を見つめています。

「でもお父さん。あそこって人が行けるような所じゃないよ。橋だって無いみたいだし」
  
 川の向こう岸は、後ろに急斜面の山があり、人が居られる場所などどこにも有りません。

「まあ見た目はそうだけど、あの山には裏道があって、その道沿いに下りて行けるんだよ」

 父がいうには、昔はそこに山道があり、人がよく行き来していたというのです。

「わたしも、ここの景色はよく覚えているわ。あのころは随分と水が白く、濁っていたわね・・・」

 母には当時、この付近に親戚があり、ここへはよく来ていたといいます。

「佑香が生まれるより、ずっと昔のことだったからね」

 わたし(佑香)は両親の会話を聞きながら、若かりし日の2人を、心の中で思い描いてみました。
 
「あれは確か、暑い夏の日だったなぁ・・・ あっそうだ、あの岩だよ、あの岩によく座っていた。

親父がそばで魚釣りしていたから」

「あら偶然、わたし昔見たわよ、釣りをしていた親子を・・・」 

 母の表情からは、遠い昔の記憶を、思い巡らせている様子が伺えました。

「そういえば俺もあの時、川の向こう岸に、人がいたような・・・でも気のせいかも」

 父は少し小首を傾げました。

 春の日の昼下がり、車の窓越しに見える川のせせらぎは、暖かな日差しを浴びてきらきらと輝いてい

ます。2人共なにやら考え事をしたまま、身動き一つしません。と・・・次の瞬間!

「あーっ! あなたもしかしてあの時の!・・・」

「そ、そんな、おまえなのか!」

 ほとんど同時でした。わたしのそばで2人が叫んだのは・・・。

「あなた石を投げつけたわねえ! あの時、わたしに向かって!」

「えっ、何の事だよ! 俺、知らないよ!」

「しらばくれないでよ。わたしちゃんと覚えているわよ、あなたが石を投げつけて来たのを」

 突然の2人の会話に、わたしは困惑しました。

「お父さんもお母さんも、訳の分からないことで喧嘩しないでよ! お願いだから」

 父はわたし(佑香)に向かって、ひたすら弁明します。

「あの時、向こう岸にカラスがいたんだよ。そのカラスが魚を狙っていた。だからつい俺は・・・」

「まあ、呆れた。カラスのせいにするのね。あなたは」 

 咄嗟にまずいと感じたわたし(佑香)は、2人を必死でなだめます。

「運命って事だよね。2人の出会いは」 “きっと神様の巡り合わせだよ”と・・・

「なるほど、運命か・・・」

 父は納得したようです。

「そうよね、きっと運命よ。でなけりゃ佑香だって生まれてこなかった訳だし」

 母は優しくささやきます。

 そのとき川の浅瀬には、どこから飛んできたのか、二羽の白い鳥がいました。 

 運命的な出会いは常に私たちの身近にあって、ひとが気付かないままに見過ごしてしまいそうな、そんなもの

なのかも知れないと、そのときわたし(佑香)は、ひそかに思ったのです。
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ダックスフンドのチョコちゃん

2015-02-26 17:56:39 | 童話
 チョコちゃんは、生まれて8か月のメスのダックスフンドで、とても人なつっこいワンちゃんです。

このチョコちゃんが敦君の家にやってきたのは生後3か月目に入いた頃の事、ですからもうかれこれ

5か月くらいは敦くんと一緒に過ごしたことになります。

 金髪がかった薄茶色で長毛種のチョコちゃんは、顔がすこし長めでつんとおすましした感じのかわ

いらしい犬です。敦君が行くところへは何処でもついて行きます。ちなみに首輪はしていますが、紐

なんてのはまったくいりません。なぜならとてもさみしがり屋のチョコちゃんは、誰かがそばに居な

いと、いても立っても居られないほど落ち着きがなくなり、どこにいても名前を呼べば忽ちの内に駆け

つけます。そんなチョコちゃんに、ある日信じられないような災難が降りかかります。それはとても

良く晴れた5月の日の事、敦君と妹の香奈ちゃんは両親とともにチョコちゃんをつれて、お出かけし

ました。行先は茶臼山高原です。

 ここは愛知県と長野県にまたがる高原で、標高1320メートル程あり、冬場はスキー場としても人気

があります。5月のこの時期はリフトで頂上に上がれば色とりどりの芝桜が訪問客を出迎えてくれます。

 チョコちゃんにとっては初めての遠出となる為、思った以上にストレスがあったようです。到着す

るや否や人の群れにおびえ、鳴きやまなくなってしまいました。ワンワン、ワンワンと吠えまくり、

抱き上げると泣き止むも、下すとまた鳴きだす始末、どうにか抱っこして頂上までは行ったものの手に

おえず、すぐさま帰り支度。でも本当の災難はこのすぐ後に起こりました。

 下山する途中、いくつものカーブを回った先の左に大きめの貯水池がありました。その大きさは公

式のプールほどあるもので、水田を流用したような感じのもので底が見えないほどに黒ずんでいて、

常にさざ波がたっていました。辺りを見ても誰ひとりいないので、ここで少し休憩することにしたの

です。

 ところが両親が景色に気を取られていると、突然 『バッシャーン!』 とけたたましい音がします。

振り向くと水の中に頭までずぶ濡れで、必死になって泳いでいるチョコちゃんがいました。

「あっちゃん!あんたチョコを水の中に放り投げたでしょう!なんでそんなことするのよ」 とっさに

お母さんが叫びます。

「ぼくじゃないよ!なんでなの?」

「じゃあだれがあんなひどいことを?」

 すぐさまお父さんが水の中から抱き上げ、大事には至らなかったのですが、全身ずぶ濡れになった

チョコちゃんをタオルで拭きながら・・・なんでこんな事になったのか、チョコちゃんが落ちたすぐ

そばに立っていた敦君に、お父さんが訪ねたのですが・・・

「ぼくは知らないよ」というばかり。

 そこで少し離れたところにいた香奈ちゃんに聞いたのですが、見ていなかったから知らないといい

ます。偶然なのか、その現場を誰も目撃していなかったのです。

 水ぬるむ5月とはいえ、高原の水はとても冷たくて、時折吹き付ける風に震えの止まらないチョコ

ちゃん。後から敦君に聞いて判ったのですが、その時貯水池を背にして敦君が、チョコちゃんを手招き

したといいます。するとチョコがもう突進して来たらしいのですが、恐怖を感じて敦君が、とっさに身

をひるがえしたという事でした。目標を見失ったチョコは勢い余って、そのまま水の中に飛び込んだ

というのが真相らしいのです。

 足が短いダックスフンドは、長い胴をくの時に折り曲げながら、見た目以上に足が速いんです。大人

の足でも追い着けないほどに速く、低い姿勢から突っ込んでくる様は恐怖を感じることもあり、敦君の

話も、あながちありえないものではないと、お父さんは感じたといいます。

なにはともあれ、今日もダックスのチョコちゃんは元気よく庭先を駆け回っています。






 
 
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空からの贈り物

2015-02-21 07:20:18 | 童話
「おかあさーん!ただいまー」 小学生で末っ子のほのかちゃんが、学校から帰って来たようです。

「お帰りほのか、早かったわね・・・」 台所でお母さんは、なにやら煮物をしている様です。

 東海地方でもここは山間部に位置し、統合などにより、ほのかちゃんは遠くの学校までスクール

バスで通わなければなりません。ですから帰りの時間などはいつも3時半すぎと決まっています。

「あれーっ、お母さんお芋をむしているんだ!」 小学3年生のほのかちゃんは、少しお腹がすい

ているようです。

 午後4時10分ほど前、という事で日暮れまでにはまだかなり時間があります。

「ほら、今日はお月見でしょ・・・だから・・・」

 ところ変われば品変わる、ということで、この辺りは古くからお月見にはサツマイモを蒸し

てお供えする風習があります。むかしは何処の家でも縁側があり、ススキにサツマイモや団子な

どがお供えしてありました。

「お腹すいたでしょう?おやつあるわよ」 お母さんはほのかちゃんに、子供の頃見ていた光景

を話し聞かせます。それは今みたいに子供が家に居て勉強したりテレビを見たり、ゲームをする

のではなく、月が明るい満月の夜は人々が夜遅くまで出歩いていた事や、何処の家でもお月見と

もなれば窓が開け放たれ、お供え物がひっそりと飾られていた事など、お母さんにとっては掛け

替えのない想い出などをあれこれと・・・・

 そうこうしてる間にやがて日は暮れ、東の空には大きくてまん丸い月が姿を現します。お母さん

と一緒にみる月はとても優しくて暖かくて、なによりも安心感がありました。その夜ほのかちゃん

は、夢をみました。

 ほのかちゃんが縁側で寝ていると、お月様が庭先まで下りてきてこう語ります。

「私はこの地上に人が誕生するよりもず~と前からあの空の上に居て、この地上での出来事を見て

きたのです。そして人が現れて、その人々に愛が有り、愛を育んだ歴史が有った。なのに・・・・」

―――なのに何故人々は争うのか、何故戦争がこの世から無くならないのかを嘆いていると言う

のです。人には英知が有るのだから、言葉の壁を乗り越えて、世界中の人々が手を携える日がいつか

必ず来るはずです。

 何世代にもわたって人々と関わってきた月、何億年もの間その姿を変えることなく、人々の想

い出と共にあるこの月は、実は身近で有りながらとても遠い存在です。地上と陸で繋がる事のな

い唯一の聖地であり、人間の開発の手の遠く及ばない偉大なる存在といえるものなのです。
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心やさしき人々

2015-02-15 09:12:03 | 童話
 愛知県は渥美半島の先端に伊良子岬が有ります。ここは太平洋の玄関口としてもよく知られたフェリー

乗り場があり、すぐお隣には家族ずれに人気の海水浴場がある為、夏場の観光スポットとなっています。

 地形的には、ここは湾の入り江に位置し外海の様に白波を立てる様な荒い波は無く、小さい子供ずれの

家族などが多くここを訪れます。とは言えお隣のフェリー乗り場からは大型の船が頻繁に出入りする為、

うねりを伴った緩やかで大きな波が打ち寄せます。それはそれで大変心地よく感じられるもので、その事

が反って人気スポットに拍車をかけているのだと思われます。

 すずかちゃんとそのご両親は、ここへは何度か来たことが有るのですが、あんな体験は初めてです。

それはお父さんとお兄ちゃんのゆうたくんが、パラソルの下で涼んでいる時の事です。 向こうの方から

すずかちゃんとお母さんが、食べ物らしきものを手にして駆けてきます。到着するや否や開口一番・・・

「アー怖かった!」お母さんは息を弾ませながら、今すぐそこで、体験した事を話そうとします。

事の成り行きがまったく解らないお父さんは首を傾げます。

「今あの海の家に恐いおじさん達が居た!」 肩で大きく息をしながら必死で胸を撫で下ろします。

 お母さんの話によると、その怖いおじさんらしき人物は体格も大きく、黒いサングラスをしていて、若い

衆を5~6人従えていたといいます。ドッカリと腰を下ろし、その周囲を若い衆が行き来して食べ物を運ん

でいたのですが、その様子をまだ幼いすずかちゃんは、立ち止り見ていたといいます。

 すると、突然!

「なんだ?これが欲しいのか!」 すずかちゃんに向かって、そのサングラスの男は語尾を強めます。

 次の瞬間、子分らしき者になにやら命じていたらしいのです。

 お母さんはすぐさま何かを察知したらしく・・・・

「あっ・・あのう、・・・自分で買いますので・・・」 恐くて恐くて、思うように声が出ません。

「うん!」 男は振り向くと、お母さんを睨み付けました。

「おまえに買ってやるんじゃ無い!これはこの子に買ってやるんだ・・・」 そう言いながらテーブルの上の

食べ物を食べ始めました。お母さんはそれ以上なにも言えなかったそうです。

やがて子分らしき若者がソフトクリームとフランクフルトを持ってきて、すずかちゃんに手渡してくれました。

そして若者はお母さんとすずかちゃんに優しく耳打ちします。

「怖がらなくていいからね」 何度も何度も頷きながら、やさしく諭してくれます。

 一瞬、場が和みます・・・・

 恐そうでいて、実はとっても優しい人たちなんだな~って、お母さんは後からしみじみ感じたそうです。


  





 
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