書評「精神世界の本ベスト100」

瞑想、ヨガ、セラピー、ヒーリング、ニューエイジ、深層心理学、イスラム密教、神秘学等いわゆる「精神世界の本」の書評ブログ

● [48] 病は心で治す/リサ・ランキン(河出書房新社)──健康と心をめぐる驚くべき真実

2015年03月29日 | 書評
 私は、以前から生活習慣と病気の関係について、どうしても腑に落ちないことがありました。
 なぜ、タバコを吸い、酒を飲み、めったに運動もせず、肉が好きで、とくに食事に気をつけているいわけでもないのに、病気もせずに元気で長生きしている人がいるのか。
 その一方で、有機野菜を食べ、肉や加工食品を避け、毎日運動をしているにもかかわらず、病気になり長生きできない人がいるのか。
 もちろん、前者のような人よりも、食事や生活習慣に気をつけて生活している人のほうが、健康で長生きする確率が高いことは確かです。
 しかし、私の周りには、前者のように生活しながらも、病気ひとつせず、元気で長生きしている友人がいることも事実です。なぜでしょうか。

 そんな疑問を持っていた矢先に出会ったのがこの本です。著者のリサ・ランキンは次のように言っています。
「私は純粋に肉体的、生化学的な領域(食事や運動や毒物の回避などによる肯定的な影響によって恩恵を受ける部分)は、健康をもたらす方程式の一部分でしかないと信じるにいたった。もちろん、それらは大きな部分であるが、構造全体ではないのだ」
 つまり、彼女は体に注意を払うことは、健康にとって最重要事項ではない、他にもっと重要な要素があると言っています。いったい、それはどんな要素なのでしょうか。
「多くの患者を診た経験から、病気になるか健康を保つか、自分で自分を癒すか病気のままでいるかは、どれほど『健康にいい』ことをするかよりも、患者の人生で起こっているありとあらゆることに影響される部分が大きいのだろうと、私は信じるようになった」

 ここで述べている「患者の人生で起こっているありとあらゆること」とは、いったい何を指すのでしょうか。
 彼女は、次のように述べています
「彼らが健康を害したのは、遺伝子や生活習慣に問題があったからではなく、人間関係の軋轢による苦しみや、仕事のストレスや、金銭問題によるパニックや、ひどい抑うつのせいでした。否定的な感情が心を満たし、ストレスホルモンが体をめぐっている状態では、採食もどんなサプリメントも運動も、体に有害な影響を及ぼすストレス反応には適わなかったのだ」
 だから著者は、食事や運動以上に心の在り方こそが、もっとも重要な要素だと述べています。
「病気から回復した人は、薬やサプリメントではなく、生きるうえでのストレスを減らして心と体をリラックスさせ、夢を追い、愛を見つけて、健康をうながすホルモンを体に満たし、有害なストレスホルモンを除いたからだった。彼らは愛と笑いとやりがいのある仕事に恵まれ、金銭的な問題はなく、創造性を発揮し、性的に満足し、円満な人間関係を楽しんでいる」

 そういえば、歌手の加山雄三(77歳)が、「俺は好きな音楽をやって、好きな友人たちと一緒に仕事をしているから、年も取らないし、病気にもならない。夢は80歳までにヨットで7つの海を制覇することだ」と言っていましたが、なるほど彼はストレス反応とは無縁の人だと思いました。

【おすすめ度 ★★★★】(5つ星評価)

● [47] 打てば響く/竹村文近、大友良英(NHK出版)──音の力、鍼の力

2015年03月19日 | 書評
「私は、患者さんに触って鍼(はり)をひと刺ししたら、その人の身体のリズムだけではなく、生活環境や性格、生き方まで見えてきます」
 これは、本書の中で竹村氏(鍼灸師)が語っている言葉です。
 なぜ、彼には患者さんの「生き方」までが見えるのでしょうか。竹村氏は、診察の際に患者さんのどこを見ているのでしょうか。彼は、次のように説明しています。

「鍼灸は、まず気配を感じること。診察は、玄関の扉を開けたときから始まっています。患者さんが一階の待合室から二階の診察室に向かう階段の足音を聴くことも診察の一環です。どんな足音なのか、手すりにつかまっているのかいないのかなどで、患者さんの調子は、ある程度分かります。
 次に、診察室に入ってきたときに全体のシルエットを見て、声のトーンや口調を確認します。洋服や靴下を脱ぐ様子を見ます。腰のかがめ方や足の上げ具合などを観察すると、身体のバランス状態などの情報が入ってくるのです。
 そして、患者さんが治療台に乗って、うつぶせになったときに腰とうなじを見ます。そのときに、その人の身体のリズムというか、生活のリズムや育ってきた環境が大体分かるのです。気性や性格も身体に出ています。まさに身体は地図で、その人の生きてきた歴史、仕事への打ち込みようが刻まれています。どんな生活をしてきたのか、趣味や楽しみは何かなど、育ってきた過程と現状が見えてきます。その人の持つ身体のリズム(気)が自然な形で私の中に入ってくるのです」

 どうやら彼は、患者さんの「気配」を感じとる達人のようです。症状が出ている部分だけではなく、患者さんから発せられるあらゆる信号をキャッチしているわけです。そして、身体のリズム、つまり「気」(生命エネルギー)の乱れの原因を探っていきます。
 大友氏(音楽家)も「治療を受けると全部を見透かされてしまうようで、なんだかバレちゃうようで怖いです(笑)」と語っています。
 竹村氏は「こうした能力は、決して知識として教えられるものではありません。患者さんの身体に直接触れて学ぶしかない」と述べています。人間の身体は十人が十人、誰ひとりとして同じではないということ。実際の臨床では絶対といっていいほど、教科書通りにはいかないこと。だから、一人でも多くの患者さんの身体に触れることが重要なのだと力説します。

 本書の著者は、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の作曲で知られる大友良英氏と、芸能界・文学界・スポーツ界の著名人たちが、お忍びで通っているという鍼灸院の竹村文近氏。ジャンルの異なる達人同士が「生命の根幹にあるリズム」についての思いを、それぞれの体験を交えながら語り合っています。
「重要なのは、実はリズムというのは、歩くことや呼吸、心臓の音など、あるいは朝昼夜のリズムとか、そういうものからきてるってことです」(大友氏)
「鍼灸治療で鍼を打つ動作は、リズムがとても重要なのです。呼吸のリズムに合わせて鍼を打ちます。治療は一つのリズム、動作は一つのリズム、リズミカルに“気"を見ながら打つ。鍼灸治療は、何もかもがリズムにつながっているような気がします」(竹村氏)
 一見共通点がないように思える音楽家と鍼灸師ですが、この二人を繋げるものは「根源的な生命のリズム」に関わる何かのようです。
 
【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)