濱本康敬の独り言

広島市に住むサラリーマンの独り言です。独り言は、あくまで独り言です。(コメントは事前承認制)

広島大学統合移転20周年記念オペラ『リゴレット』にいきました。

2016年11月13日 | 音楽


ジュゼッペ・ヴェルディが作曲した全3幕からなるオペラ。以前から興味を持っていた(いや、総合芸術であるオペラなら何でも観たいと思っています)うえに、ひょんなことから券をいただき、これを逃す手はないとでかけていきました。もちろん、気になっていたのは広島大学統合移転20周年記念ということで、あの元広島大学長である原田康夫氏が準主役と言えるマントヴァ侯爵を演ずるということです。彼を持ち上げるだけのオペラ企画ならといったんは渋ったのですが、いただいた方の「(彼はともかく)他の歌手が一流どころが来ているから絶対行って損はないから・・」と言う言葉を信じることとしました。

結果、大満足です。

最初幕が開いた時は、正直テンションが下がりました。

オペレッタの「こうもり」など、幕が開いた瞬間の豪華な舞台が見せ場の一つとなっていて、それだけで気分が高揚します。しかし今回は、予算が限られ(多分)、1回きりの公演で、しかもオペラの上演そのものが基本的に難しいホールの制約などから、豪華な舞台ができるはずもありません。この作品でも幕が開いた時に貴族の館で華やかな祝宴が開かれているはずですが、舞台は驚くほどシンプルかつ質素で、「あれれ」という感じで失望感が広がります。やはり、セミプロ集団の地方公演なのか・・と。でも、次に現れたバレエダンサーによって、一転華やかな舞台となりました。ダンサーはいずれもスタイルがよく技術的にも水準以上です。バレエ教室の精鋭たちなのでしょうね。このサタケホールの舞台で練習を何度か繰り返したのでしょう動きはほぼ正確で、製作者の極めて制約された中で何とか鑑賞に耐える作品にしようとする熱意が感じられました。最初から期待感を持たせるオープニングです。

歌手陣は素晴らしいできでした。リゴレット(バリトン)、ジルダ(ソプラノ)はほとんど完璧です。これほどまでに日本の声楽のレベルがあがったのかと正直驚いています。全声域にわたって声が安定し発声に余裕があるため、彼ら(彼女ら)は演技者として登場人物の個性まで表現します。オペラをする以上当然と言えば当然なのですが、とかく、日本の声楽家は通常、歌曲やオペラのアリアを舞台で唄うことが多いためか、演技や個性の表現までは配慮できない(あるいはする必要がない)方々が多かったように思っていました。しかし、今回の彼らはオペラで間違いなく鍛えられた声楽家でした。

加えて、オケも満足のいくレベルです。元広響のコンサートマスターの上野さんがコンマスをされていましたから、メンバーにも広響の方々も多く、広大のオケとは名前がついていますが、そんなレベルではありません。過不足く音は鳴っていました。これくらい弾いてもらえれば、満足です。

重ねて書きますが、今回の舞台本当に制約が多かったと思います。厳しい予算(だと思います)、1回限りの公演、オペラ上演には明らかに不向きなホール、そして何より元学長の原田氏を起用しなければならない(もっとも原田氏を起用するからこそこのオペラ公演が実現できたのでしょうけど)・・・。 しかし、今回の作品にはそうした制約を理由に安易な作品にはしたくない、制約を逆手にとってでも素晴らしい作品にしなければいう、製作者側の気迫が随所に感じられました。原田氏の人脈を最大に頼ったのでしょう広響や小池バレエスタジオなど広島の音楽資産を十二分に活用しています。中央から連れて来たら、大金が必要だつたでしょう。

特に3幕のラストは感動的でした。

原田氏の「女心の歌 」が、制度と既得権益に守られたさまにお気楽で無責任男のマントヴァ侯爵の鼻歌のように聴こえ、低い身分故に雇主に道化師として長年屈辱にまみれて仕え、娘を辱められた上、やっと復讐を遂げたと思ったはずが最愛の娘がその侯爵を愛し身代わりなり、結果的に娘を殺すことになったという何重にも屈折したリゴレッとの苦悩(侯爵と対比することによって、リゴレッとの苦悩がキリスト教的な罪の意識と土着信仰的な「呪い」への恐怖、そして、貴族制度が崩壊し市民社会が実現する過程で生まれた自我の意識・・が複雑に絡んだものであったことがわかります。)を逆に深く際立たせていました。原田氏のマントヴァ侯爵の「女心の歌」が軽ければ軽いほど、リゴレッとの苦悩の深さが観客の胸を打つ・・・。それまで原田氏の歌唱力が気になっていたのですが、この時は彼のその歌唱力が演出効果を最大限に高めたのです。まさに、制約を逆手にとった素晴らしいラストでした。

それにしてもこの『リゴレット』、よく考えられた作品です。最初に呪いを暗示する序曲があり、最後は、呪いが現実となって終わります。人を殺そうとした報いが、自分が最も大切にしている娘の死という形で返ってきます。お気楽な「女は気まぐれ」を歌うマントヴァ侯爵と自分の娘を失ったリゴレットの悲痛な叫びが重なりあうラストは先にも書きましたが圧巻でした。

この作品の上演実現に向けて働いた方々全てに感謝します。いや素晴らしかった。お金を出しても惜しくない作品に仕上がっていました。日本のオペラ界の実力を再認識しました。

広島大学統合移転20周年記念オペラ『リゴレット』
11月13日(日) 開演:15:00
会場:広島大学サタケメモリアルホール
制作:海生能子
合唱:東京オペラシンガーズ
バレエ:小池バレエスタジオ

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