山崎元の「会社と社会の歩き方」

獨協大学経済学部特任教授の山崎元です。このブログは私が担当する「会社と社会の歩き方」の資料と補足を提供します。

【7月1日】新しい職場への適応について

2010-07-01 00:47:54 | 講義資料
 以下の文章は、転職の際の新しい職場への適応法について書いたものだ。
(リクルートエージェント社のサイトの「転職原論」第11回目。
 http://www.r-agent.co.jp/guide/genron/genron_11.html)
 (1)~(3)は、新入社員の職場適応にも当てはまる話なので、参考にして欲しい。

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● 新職場への適応について

(1)新職場のストレスを甘く見ない

 転職活動が実って、新しい会社への入社が決まった時点では、転職が成功だったのか失敗だったのかまだ不明だ。次の職場で順調に仕事をし始めたという実感を持つまでが、転職活動の範囲だと考えよう。

 また、新しい職場に慣れるまでの間は、精神的にそれなりのストレスがある。最初の数ヶ月は、本人が感じている以上に疲れていることが少なくないので、自分のコンディションを丁寧にウォッチしておくことが大事だ。

 新職場でのストレスの源は、転職者として注目されること、新しい人間関係を作らなければならないこと、新しい仕事に十分馴染むことが出来るか心配であること、などだ。

 中途採用は「現在の職場に足りないものを持っている人材を補う」という名目でなされることが多い。転職者を受け入れる職場の人々からすると、転職者は「優れた点を持っていて当たり前」でもあるし「自分(たち)よりも優れているかも知れない油断の出来ない競争相手)でもあるので、注目度は高い。多数く注目を同時に浴びるのは疲れることだ。

 加えて、当然のことながら、職場の誰がどんな人であり、それぞれの人に自分がどう接していくことがふさわしいのかが、よく分からないことが多い。新しい人間関係を構築して自分がそれに慣れるまで、精神的には緊張を強いられる。

 もちろん、新しい仕事そのものの勉強も必要だし、新しい会社のやり方に慣れる必要もある。しかし、中途採用の場合、全くの新人社員のように周囲の社員に何でも聞くことが出来る立場ではないことが多い。必要な勉強をしながら、これと並行して実際の仕事をこなしていかなければならない。

 ただ、最後の点に関しては、筆者も若い頃の転職ではそれなりに大変だった覚えがあるが、転職後の半年から一年間くらい緊張感を持って勉強をするおかげで、仕事に関連する学習が随分捗って、「転職の元が取れた」と思ったことが何度かある。転職初期の苦労は、しがいのある苦労だということを申し上げておく。

(2)初日は座席表を入手せよ

 身近で具体的なところから始めよう。先ず、転職初日にするべきことは何だろうか。

 職場で関係する人に挨拶するのは当然で、これは、たぶん直属の上司が必要な人に紹介してくれるだろう。それでは、挨拶が終わったらどうするか。

 転職初日に是非やっておきたいことは、周囲の座席表を手に入れることだ。周囲の人の顔と名前を覚えると、ぐっとストレスが減る。逆に、こちら側からは名前を知らない人が自分の名前は知っていて、いつ声を掛けてくるか分からないという状態はストレスを招く。
また、座席表を見ながら、職場で話を聞ける相手に、個々の人がどんな人であるかをヒアリングしよう。仕事の分担、大まかな経歴、性格、職場でのエピソードなどを、いかにも根掘り葉掘りではなく、自然に聞ける分だけ聞いていこう。

 周囲の人の名前を覚えることの他に、電話機の扱い方(特に電話の転送方法をしっかり覚えること)、PCの主な操作とネットワークの設定、コピー・FAXなどの事務機の使い方(紙詰まりの修理が出来るようになると合格)、といったこともなるべく早く集中的に覚えてしまおう。他人に物事を頼んだり、あたりまえのことについて質問したりするのは、精神的な負い目になりやすい。他人に何でも質問できる精神的な強さを持つことが望ましいは当然なのだが、無駄な質問を少なくするための工夫と努力は必要だ。
自分を知らせることよりも先に相手を知ること

(3)自分を知らせることよりも先に相手を知ること

 転職後の人間関係で重要なことは、相手に自分を知って貰うことよりも、自分が相手を知ることを優先するということだ。

 転職者は、自分の性格や仕事に於ける主義・主張などを早く知って欲しいと思うし、早く自分をアピールしたいという気持ちを持ちがちだ。しかし、相手がどんな人柄で、こちらからのメッセージをどのように受け止める人なのか分からない人達に囲まれた中で、いきなり自己主張に走るのは危険だ。

 何を隠そう、筆者も、入社して日が浅い段階で、仕事上の主張や、世間話に対する自分の意見を強く言い過ぎて、周囲に警戒された苦い思い出が一度ならずある。

 先ず、職場の人々の一人一人がどんな人なのかを見極めた上で、徐々に自分について説明していくといいだろう。

 自己主張をするなとか、自説を述べるなと言う積もりは決してない。この点は誤解して欲しくない。しかし、同じ事を伝えるのでも、相手によって適切な伝え方は異なるから、先ず、相手を知る努力を優先したい。転職者は自分から働きかけなくても注目されていることが多いので、特別な努力をしなくても、自分に関する情報は職場の中に伝わっていることが多い。

 先に相手を知ることが大切な理由の一つでもあるのだが、職場の中に「派閥」とでも呼ぶべき、仕事上の組織とは無関係な暗黙のグループが出来上がっていることがある。こうした場合に、職場の前後左右が分からないうちに特定のグループに近づきすぎると、せっかく転職した新職場で働きにくくなることがある。周囲の人々について、ある程度満遍なく分かるまで、特定の人に気を許さない方がいい。

(4)前の職場にこだわらない

 転職者のよくやる失敗で典型的なものは、前の職場を話題にすることだ。「この点については、前の会社では、こうやっていた」という類の話題だ。銀行から別の会社に出向或いは転籍した人は、銀行員時代の事を話して次の職場で「浮く」ことが多いのだが、これと同じパターンだ。基本的には、質問されない限り、自分からは前の職場の話をしないと決めておこう。

 転職者は、単に情報提供の積もりで、純粋な親切心から話していても、受け取る側は、会社同士の優劣を比較されて批判されたような被害者意識を持つことがある。前の会社の話は、転職後一年くらいは、自分からは決してしないと決めておく位でちょうどいい。

 せっかく転職したのだから、前の職場に対するこだわりを捨てて、新しい環境で気持ち良く働こう。
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