仕事と生活の授業(続き)

前に作ったホームページは、あまり読まれないようなのでブログで再挑戦です。

7. 『秒速5センチメートル』 その3 「秒速5センチメートル」

2015年01月05日 | 映画の感想文

7. 『秒速5センチメートル -a chain of short stories about their distance-』 その3 「秒速5センチメートル」

    2007年 脚本・監督 新海 誠


 『秒速5センチメートル』の感想の続きです。

 短編第2話『コスモナウト』の感想からずいぶん間が開いてしまったので、同じトーンでは書きにくくなってしまいました。

 短編第3話『秒速5センチメートル』は、後半が山崎まさよしさんの歌『One more time, One more chance』をバックにした回想シーンです。

 いろいろな設定が詰め込まれているのですが、映画を見ただけでは細かい部分は分かりません。それでも映像美と音楽で物語に引き込まれていきます。

 私は、何の予備知識もないまま、この映画を見ていたのですが、小さな音でかかっていた山崎さんの音楽が急に大きな音となり、テーマ曲として始まります。

 そして『秒速5センチメートル』というタイトルのクレジットが現れました。

 一瞬、「えっ、これからはじまるの?」「今まで見てきたのはプロローグ?」「どんなに長い映画なんだ」と驚き、混乱しますが、すぐに「やられた」という感覚とともに事態が理解できました。

 このタイミング(ほぼラスト)でのテーマソングとタイトルのクレジットは、見る人に新鮮な驚きを与える演出です。

 元々この歌のファンだった私にとって、心を奪われる巧みな演出になっていました。

 そして歌をバックに流れるセリフの無い映像が、短編第1話で心を一つにしたはずの二人の間に、その後何があったかを雄弁に語ってくれます。


 しばらく文通を続けていた二人でしたが、それぞれの新しい生活、日常の中で手紙を出さなくなっていく様子が説得力ある形で映し出されます。

 どんなに強い気持ちも飲み込んでいってしまう、平板な日常が...、

 残酷だけれども優しくもある日常が、そこに描かれています。

 二人は、中学生の時、その他の人生の経験全てを足し上げていってもかなわないほど価値ある経験を共有しました。

 その後の人生において二人は、大切な人との関係を守れなかったという、自責の念を引きずったまま暮らしていくことになります。

 隣のホームに昔のままの彼(彼女)を見かけた気がしたのなら、嬉しくなっても良いはずなのに、いるはずの無い場所に相手の影を求めている自分を、否定的に見てしまう。

 自責の念という気持ちが視界を覆っています。


 彼女の方はいち早く、視界を覆っている曇りガラスを払いのける術(すべ)を見つけています。

 素晴らしい経験を(のみならず、彼自身をも)自らを構成する自分自身の一部だと考えることで、その経験との(もしくは彼との)距離をゼロにしようと決めています。

 彼女には、距離をゼロにするにはもう少し時間が必要だということも分かっています。(まだ傷の痛みが癒えないということです。)


 この短編の最初と最後に、二人が小田急線の踏切ですれ違う場面が描かれています。

 すれ違った踏切で彼女は振り向きかけ、けれども、踏切の反対側で上下線が相次いで通り過ぎる電車を彼女が待っていなかったことで、彼には、彼女の決意と今の心が微かに伝わったのだと思います。

 踏切の幅の分の距離以上に近づくことができないということは、彼女もまだ自分と同じ荷物を背負っているということです。

 そして荷物は二人で背負えば軽くなります。

 最後の場面、主人公の足取りが軽くなったように感じられるのはそういうことではないでしょうか。

 もっと、いろいろ書く準備をしていたのですが、どうも理屈っぽくなりすぎるような気がして、少し早足で綴ってみました。


 Fin.







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