Intermission

古装劇場 別館

METライブビューイング「パルシファル」

2013年04月11日 01時04分22秒 | オペラ
凄かった。
圧倒されっぱなしの5時間半。

「パルジファル」(ジなのシなの? ドイツ語わかんなーい。今までジ派だったので、とりあえずそう書く)って、
難解というか、正直、内容はよく分からない。
人に「どんなお話?」ときかれても、必ず「うーん、うまく説明できない……」と答えてしまう私です。
そのせいもあって、ワーグナーの作品中、聴いた回数が最も少ない作品。
それでも昨年、今シーズンのラインナップが発表されてからずっと楽しみで楽しみで。
それなのに、前日は就寝が遅くなってしまい、そのうえ頭の中をパルジファルの音楽がぐるぐる回って寝付けず、
当日は完璧に寝不足。
途中で寝てしまい、1年以上待ったこの日を無駄にするのではないかと本気で心配していたが、杞憂だった。

内容とか、思想とか、
そんなこたーどーでもいい。
あの神々しい音楽に身をゆだねるだけで至福。
歌手陣も最強。(たぶん。あんまり知らないから。)

タイトルロールのヨナス・カウフマンは、昨年の「ファウスト」の時よりずいぶん痩せましたね。
おかげでビジュアル的にも二重マルです。
もちろん、歌が素晴らしかったから、こんなことを書いちゃうんですよ。
第2幕のクンドリのキス以降の表現はもう圧巻だった。

グルネマンツのルネ・パーペ、この人はもう素晴らしくて当然みたいなイメージになっているが、
よく考えてみると、全体の半分を一人で歌ってるんじゃと思ってしまうような長大な歌を
破綻なく歌いきってしまうだけでも、ものすごいことなのではないだろうか。
説明的な台詞が多くて動きが少ない役だが、その中に見せる細やかな表現とか、
何度でも聴いて味わいたいと思った。

アンフォルタスのペーター・マッテイ、すみません、初めて聴きました。
有名な歌手だとは知ってたけれど、「今まで聴いたことなかったなんて人生損した!うわー!」と思った。
生じゃないから確実ではないが、声量が他の出演者と比べてとっても豊かなような。

で、私の注目は、クリングゾルのエフゲニー・ニキーチン。
(私は、ニキティンじゃなくて、ニキーチンと書きます。)
上映前、お隣のおばさまがたのおしゃべりが耳に入ったのだが、
「私が注目してるのは、このエフゲニー・ニキティンって人なの」
おお! ここにもファンが!! メジャーになったのね~。
と思ったら、昨年の例の事件のせいでしたよ……ちぇっ。
ま、かえって名前が売れたってこと? ぜんぜん嬉しくないけど。
見て聴いての感想は、クリングゾルってこんなに出番少なかったっけ。
え、もう引っ込んじゃうの! やだー! って歌の感想じゃないな。
いえ、歌も演技も文句のつけどころはないですよ。
でもどうだろう、彼に特に合う役ってわけでもないんじゃないかな。
次はもっとニキーチンらしさ、特に美しい声を堪能できる役で聴きたい!
なぜ彼のインタビューがなかったのだろう。ちょっとがっかり。
やはり例の事件のせいなのか。

クンドリのカタリーナ・ダライマンは、悪くないけど、他の主役陣ほどのインパクトはなかった。
ごめん。

演出は説明過多にならず、比較的シンプルな舞台で好印象。
近未来という設定だそうだが、舞台に無機物があまりないせいか、
そしてもともと抽象的な物語のせいか、違和感がない。

舞台の中央に溝があって、世界を二つに分けているところなど、視覚的に分かりやすい。
一方が聖杯の城に象徴される聖なる領域、
もう一方が邪の領域ということなのだろう。
人々は常にどちらか一方にいて、決してもう一方の世界に足を踏み入れない。
二つの世界を隔てる溝に水が流れているのだが、1幕の途中で水が赤く(血?)変わった?
いつ変わったのか見逃したのが残念。
1幕のラスト、城を追い出されたパルジファルの前で溝が大きく広がって
大きな大地の裂け目となる。その底は血のように真っ赤。
このシーンは何を意味するのかとずっと考えているんですが、どなたか解釈してくれませんか。

第2幕は一面が血の海?
足下が水でびしょびしょの舞台に立つ歌手の皆さん、体が冷えないんだろうか、
風邪でも引いたらどうするんだ、と気になって仕方なかった。
舞台監督のインタビューで、水温調節をしていると知ってほっとした。

大地は荒れ果て流れも枯れていた第3幕。
クンドリは初めて中央の溝を越えて聖なる世界へ足を踏み入れる。
パルジファルは逆に聖なる世界からもう一方の世界へと入り、歩き回る。
ここで聖邪の境界が取り払われたということなのだろう。
パルジファルがクンドリに洗礼を授けると同時に水が再び流れ出すシーンに感動した。

舞台全体が暗いせいか、カメラワークのせいか、
舞台の大きな動き、人々の動きがよく分からないところがあったのが、少し残念だった。

その他、気になったところとしては、
聖杯の騎士たちが音楽に合わせてさまざまな意味ありげなポーズを取るのだが、
仏像みたいなポージングは何だろうか。

騎士の一人の中国人らしいテノールが、眼鏡はないけど胡錦濤にそっくり!
いや、そんなに似てないか? とにかく出てくるたびに気になってしまった。

花の乙女たちが東洋人ばっかりだったのは、何か意味があるのだろうか。

よく分からないシーンや見逃した動きもあったし、
何より歌手陣がみな素晴らしかったので、是非ともまた見たい聴きたい。
DVD化されたら、どんなに高くても買うぞ!と決心した。

上演中は眠らなかったが、疲労と寝不足のせいで3幕前のインタビューの最中に突然睡魔が。
おかげで演出家のインタビューを逃したのは不覚だった。 

ヴォルフガング・サヴァリッシュ死去

2013年02月26日 20時18分20秒 | オペラ
 指揮者のヴォルフガング・サヴァリッシュが、22日、89歳で亡くなった。

 NHK交響楽団と縁が深く、そのためNHKとも縁が深かったのだろう、テレビでよく見たような気がする。クラシック音楽初心者の私が、カラヤンの次くらいに認識した指揮者だったと思う。カラヤンと違って、人柄の温かそうな親しみやすい風貌でもあり、音楽のことは何にも分からなくても、なんとなく好きだった。
 オペラに興味を持つようになってしばらくして、私はワーグナーにはまってしまい、イタリアオペラよりドイツオペラの気分だった。そのため、サヴァリッシュ率いるバイエルン国立歌劇場の来日公演は、もう私のためにあるかのようにさえ思えた。1988年の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の公演は、今でも忘れられない。リヒャルト・シュトラウスの2作品、88年の「アラベラ」、92年の「影のない女」などは、サヴァリッシュがいなかったら私は見ることも聴くこともなかったかもしれない。この2公演をNHKが収録、放送してくれたのもサヴァリッシュの尽力があってのこととか。(『マイスタージンガー』も収録してほしかった!!) さらに、ミュンヘンでの「ニーベルングの指環」をNHKがハイビジョン収録、放送してくれたことなど、もうありがたすぎて今思い出しても涙が出そうだ。サヴァリッシュ様様である。当時のオペラブームの立役者の一人だったかもしれない。

 というわけで、サヴァリッシュには大変お世話になった。彼の死によって、私の青春の一ページが閉じられたような気さえする。

 ご冥福をお祈りいたします。

ニキーチン、バイロイトのオランダ人を降板

2012年07月24日 23時03分48秒 | オペラ
ちょっと留守にして3日ぶりにネットを見たら、ショッキングなニュースが飛び込んできた。

エフゲニー・ニキーチン、バイロイト音楽祭の「さまよえるオランダ人」を開幕直前に降板。
降板したのではなく、させられたらしい。
理由は、ナチスのかぎ十字の刺青をしていたことが公になったからとのこと。

私も刺青は好きではないし、
全身刺青だらけだなんて舞台人として間違っているとは思っていたし、
しかもかぎ十字とか…まあ自業自得なのだろう。

でも私は、彼が刺青男だと知る前に歌声に惚れてファンになってしまったので、
もう仕方ない、後は実力で納得させてくれと思っていた。

これからが不安になる。
本人もバイロイト出演をあれほど喜んでいたのだから相当ショックだろうし、
理由が理由なので、今後ドイツの舞台に出演できなくなってしまうのではないかと心配だ。

以上、22日以降、突然アクセス数が跳ね上がっていて、このニュースのせいとしか思えないので、
何か書かなければ悪い気がして書いてみたが、
ショックのあまり何をどう考えればいいのか、まだ気持ちの整理がつかない。

とにかく、これからもニキーチンの歌声を聴きたい。今はそれだけだ。

ZHENGZHONG ZHOU

2012年04月16日 23時30分42秒 | オペラ
昨年のロイヤルオペラ公演、ゲオルギューとカウフマンの「トスカ」をyoutubeにて鑑賞。
今月、N○K-BSで放送されるが、我が家はBSは視聴できないのだ。

途中、あれっと思ったのが、シャルローネが東洋人顔なこと。
しかも、ずいぶん若くて可愛らしい。

歌手名を確認すると、ZHENGZHONG ZHOU。
名前からして明らかに大陸出身の中国人だ。
気になったので調べてみた。

漢字で書くと、周正中(ZHOU ZHENGZHONG)。

ロイヤルオペラハウスのサイトに紹介があった。
http://www.roh.org.uk/discover/artistdetail.aspx?id=2540

こんな記事も発見。
http://www.operatoday.com/content/2011/07/opera_is_like_a.php

中国語では、2007年の記事をひとつ見つけた。
http://ygb.xinmin.cn/2007/09/30/911133.html

2007年の記事で23歳、ということは単純計算すると今年で28歳? 道理で若いはずだ。
二つの記事を総合すると、周正中は武漢出身で、ご両親はごく普通の勤め人。
幼い頃、パヴァロッティの中国公演時の歌唱がラジオ等でよく流れているのを聴いて、すっかり夢中になった。
イタリア語で(たぶん意味も分からないまま)「オー・ソレ・ミオ」を歌っていたとか。
お隣の子が弾くピアノをいつもじっと聴いている息子のために、
両親は必死に節約し、4000元のヤマハの電子ピアノを購入。
しかし、小学校入学時に900元の賛助費を工面できなかったため、小学校に物納することに。
周くんは音楽の授業でしかピアノに触れることができなくなった。
彼が声楽を選んだ理由の一つは、高価な楽器を買う必要がないから……泣かせるエピだ。
高校までは普通の学校に通っていたが、詳しい経緯は不明ながら
国家一級合唱指揮者の朱権維教授に認められ、上海音楽学院に入学。
入学当初はテノールだったが、在学中に張仁清教授の指導によってバリトンに転向。
2005年、小澤征爾の音楽塾「セビリアの理髪師」に参加。
歌った役はアンブロージオで、これが記念すべき初舞台。
時期は不明ながら、上海にてカルロ・ベルゴンツィのマスター・クラスに参加し、
ベルゴンツィのお褒めにあずかる。
2007年、マルマンド国際声楽コンクールのオペラ部門一位、フランス歌曲部門で二位に。
(中国の記事はこの時のもの)
マルセイユのオペラハウスに2年ほどいた後に、
2010年9月にロイヤルオペラハウスのYoung Artists Programmeに参加、現在に至る。

武漢か……懐かしい。昔、旅行で行ったけど、いいとこだったよな~。
というだけで、急に周正中くんに親近感が湧く私。

正直、シャルローネでは出番が少なすぎて、
うまいんだか下手なんだか(失礼)よくわからなかったが、
徐々にいい役を歌っているみたいだし、何よりまだ若いし、
これからも頑張ってね!

再びニキーチンについて

2012年04月08日 23時28分23秒 | オペラ
 先日、エフゲニー・ニキーチンの思い出について書いたところ、当時の来日公演の記録についてご質問をいただいた。そのおかげで約10年ぶりに、2000年と2003年のキーロフ・オペラ来日公演のプログラムを開くことになった。プログラムには、来日前の宣伝チラシや、当日のキャスト表はもちろん、「音○の友」の公演レポと新聞の批評の切り抜きまで挟んであり、自分の物持ちの良さに感動。これらはつい先日までゴミ寸前だったはずなのに、何でも大事に保管しておけば資料に化ける日がくるのだな。

 あらためて眺めてみると、2000年の公演前のチラシや前宣伝に、ニキーチンの名は一切なかった。しかも、オランダ人役として発表されていたのは、ニコライ・プチーリンとウラジーミル・ヴァネーエフのみ。プログラムにはニキーチンの名がちゃんと加わっているが、そういえば、当日会場で名前を見た時に「こんな人、予定になかったよー」と思ったのだった。ちょっとだけ記憶が蘇った。なお、ずっと記憶違いをしていたのだが、2000年の来日時には「ニキーティン」と表記されていた。2003年には「ニキーチン」になっており、前宣伝でも目玉歌手扱いをされていた。

 当日のキャスト表は二つ折りになっているのだが、「さまよえるオランダ人」のキャスト表を何気なく広げてみて、驚いた!! なんと白紙の裏面に、私は「エフゲニー・ニキーティン」の印象について、しっかりメモしていたのだった。ついでにゲルギエフや公演全体についても少し。書いたこと自体をすっかり忘れていたとはいえ、私が公演の感想を書いておくなんて、この後にも先にもなかったはずだ。ああ私ってば、こんなに「ニキーティン」に感動してたんだ。忘れないようメモまでしていたなんて。12年前の自分がなんだか愛しい。(バカ)

 読んでみると、ニキーチンについては、記憶にあることがほぼそのまま書いてあったので、なんとなく安心した。忘れていたのは、次のフレーズ。
「これから経験と年齢を重ねて大成して…(中略)…ブー出ししたやつを見返してやれ!!」
 ……そうか、カーテンコールでブーイングも出てたんだっけ……。しかも私は、そのブーイング野郎に怒りすら覚えていたらしい。すっかり忘れていた。ただ、メモによると、ゲルギエフにもブーが出ていたみたいなので、どうか気を落とさないで!(今言ってどうする) 

 ゲルギエフについては、「前回はこんなにハゲてなかった」なんて書いてあった。何メモしてるんだ、私。あと、ラストの演出の意図するところが、私には理解できなかったようだ。