このタイトルを見て「ん……踊っても発電可能?」と考えた人……
挙手(^^)/
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以下、元記事(
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0902/19/news002.html)です。
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If you can take one step, you can take one more.(一歩踏み出せるなら、もう一歩踏み出せる)
これはロッククライミングの第一人者、2006年に米ヨセミテ国立公園で転落死したTodd Skinner(トッド・スキナー)氏が遺した言葉。目前の10フィートがどんなに困難な道であったとしても、それを克服できたならきっと頂上まで登りきれる。登頂不可能だとあきらめる前に、一歩を踏み出そう。踏み出せば次の一歩につながる。
アパラチア山脈を山行していた起業家Aaron P. LeMieux(アーロン・リミュウ)さんを突き動かしたのも、おそらくそんな衝動だった。彼は山登りで一歩一歩踏み出すうちに、その運動エネルギーを回収する仕組みを作れないだろうかと考えたのだ。
nPower PEGの製品概要
リミュウさんの発明した携帯型発電機「nPower PEG(Personal Energy Generator)」は、バックパックやスーツケースの中に入れて歩くだけで、歩行時の運動エネルギーを回収して内部で発電を行える無電源の発電機だ。携帯電話やiPhone、iPod、ニンテンドーDSやPSP、デジカメなど現在発売中の携帯機器の90%に対応。これらのデバイスとnPower PEGとをケーブルでつないで充電する。
風力発電は風力エネルギーを回収し、ソーラーパネルは光の放射エネルギーを回収する。それと同じようにnPower PEGは、歩行の上下動と前後動で生じる運動エネルギーを回収する。
運動エネルギーが100ワット発生すると、nPower PEGは約2.5ワットを回収できる。サイズは長さ22センチメートル、最も太い部分で直径3.8センチメートル、重さは約250グラム。姿形はLEDの小型懐中電灯に似ている。
すべての携帯機器ユーザーがターゲットであるばかりでなく、山行のバックパッカーやセールスパーソン、ジョガー、メッセンジャーなど、自転車乗りや軍隊、警察官やセキュリティスタッフなどにもいいだろう。
nPower PEGは、2009年7月に米国でリミュウさんの会社Tremont Electric社が発売、価格は149ドルを予定している。先進国だけではなく、発展途上国での発電事情まで考えると、相当大きな市場が見込める。
約10年の山行中の思案を経て、リミュウさんは起業を決意。2006年に仕事を辞め、フルタイムで開発に没頭した。「なぜ思い切れたのですか?」と聞いてみた。
「それはボクの代わりに働いてくれる妻がいたからさ」
妻だけではなく、彼の母も会社に出資している。周りの温かいサポートを得て、生活費を切り詰めながら、最初は地元の図書館でファラデーの法則などの勉強をした。そして自宅のキッチンで、運動エネルギーを回収する知識を考えた。
そこから分かったのは、人間の動きは身長や体重、BMI※に関わらず、ほとんど一定していること。人は誰でもだいたい同じ動きをするのだ。そのメカニズムを解明して、いかに効率よく運動エネルギーを回収するか、そのエネルギー回収技術は新しい開発テーマだった。
※BMI……Body Mass Index。体重と身長から算出した肥満度を表す指数のこと。
仕事を辞めてから数カ月後、自宅の地下室(築150年、6メートル四方のサイズ)にワークベンチ、試験用具、工具類をそろえて開発をスピードアップさせた。近所の地元の工場でパーツを作ってもらい、組み立てて試作品を作る。それを持ち歩いて、バックパックに入れて市中を歩く。現実の状況で発電テストを繰り返して修正を重ねた。地元(クリーブランド)だけではなく、ニューヨークやサンフランシスコを旅した時もテスト品を持ち歩いた。
テストに次ぐテストを繰り返し、製品化のメドがついた2008年の春、自宅から数ブロック離れた場所に小さなオフィスを構えた。そのオフィスで市場に受け入れられるデザインを詰めて、ついに最終試作品が完成した。
2009年1月、ラスベガスで開かれたCESにnPower PEGを出展すると、大きな注目が集まった。日本企業を含む多くの販売代理店候補を獲得し、2010年からは米国外での発売も予定している。10年をかけての開発という登山、いよいよ頂上に到達しようとしている。
起業家を突き動かすもの
何がリミュウさんを起業へと突き動かしたのだろうか?
もちろん多くの人が身体の動きで発電できるデバイスを利用すれば、電力消費が抑えられて地球温暖化防止に役立つ。だがそんなお題目だけではない。彼はこう言う。
「私の夢は、誰もがどこにいても、愛する人と連絡を取れないことがないようにすること。危機的な状況に陥った時、携帯電話の電池が切れて連絡ができないのはつらいから」
再びロッククライマーのトッド・スキナー氏の話に戻る。ヨセミテで転落死する直前、リーニングタワーと呼ばれる山壁から彼は登山家の友人に携帯電話で連絡をとり、こう言ったという。
「Stuck on ice slope ... crampons failing ... send Pop Tarts.(氷壁で身動きできない。アイゼンがだめだ。ポップ・タート(ケロッグのトースト状のお菓子)を送ってくれ)」
人類のため。大げさではなく、そんな使命感があるからこそ、起業家は最初の一歩を踏み出せる。そしてその一歩が、次の一歩のエネルギーとなる。携帯発電というリミュウさんの山行は10年の苦難を経て、間もなくゴールにたどり着こうとしている。