every word is just a cliche

聴いた音とか観た映画についての雑文です。
全部決まりきった常套句。

2013年上半期のサンプリング・ヒップホップの空気感

2013-05-03 | HIP HOP
ヒップホップに於けるサンプリングの話をしたい。
というのは2013年に入って毎月のように名盤がリリースされる日本のヒップホップで黄金時代と呼ばれる80年代後半から90年代前半にように煌いたサンプリングによるビートが轟いているからだ。
しかも、それは回顧的ではなくまぎれもなく今の空気感で鳴り響いている。



シーンのベテラン=ライムスターは常に"K.U.F.U"し自分たちのヒップホップを更新してきた。決して後進せず前進し、口唇を震わせ心震わす言葉を発してきた。前々作『マニフェスト』から外部プロデューサーにビートを託しラップに専念することによってよりコンセプチュアルに、ひとつの物語を紡ぐように構成された。前作『Pop Life』でも採用されたこの作り方は今作でも踏襲されている。そういう意味では三部作の完結編と捉えてもいいだろう。しかし、今作を特徴付けているのはこれまでの主流(U.S.)の流れにあった打ち込みによるビートではなく古強者らしいラフでタフなブレイクビーツだ。

ヒップホップが何故サンプリングしたブレイクビーツを使うのか?
「安くてお手軽だから」という理由は著作権意識が高くなった今、通用しないのに。

それは「空気感」が欲しいからだ。
60年代~70年代のソウルやファンク、ジャズのレコードに封じ込められた「空気感」を取り込みたいが故にサンプリングする。ただ「使える」=カッコいいビートであるという理由ではない。そして「空気感」だけではなく時に「文脈」もサンプリングされる。

The Choice Is Yours

この曲はJacson Sistersのカヴァーで有名な「I Belive In Miracle」のオリジナル・ヴァージョンをサンプリングしている。
「震災、閉塞する経済など不安な状況であるけれど、未来を選ぶのは君自身の選択だ」と謳っている。暖かく応援する意味にも突き放すようにも(歌詞の字面では)解釈できる。しかし、「I Belive In Miracle」が引用されていることがライムスターの意図を補完する。ここでやっていることは藤原定家がやった本歌取りに近いだろう。こういった含意のある表現もまたヒップホップなのである。





2013年の日本のヒップホップ最大の収穫は彼らだろう(リリースは2012年末)。
まだ20歳前後の彼らはまるで90年代の若者のようにオーセンティックなサンプリング・ヒップホップをやっている。しかし、まちがいなく2013年の響きだ。

EYESCREAMのDJ MIXでもソウルを中心とした選曲でシブいところ聴かせてくれたし、Kid Fresino:単純にいいソウル・ミュージックがあったら、サンプリングしないわけがないってことですよ。という発言は頼もしいものがある。単純にアンチ流行りもの(Febb)なだけなのかもしれないが(斜体で引用している発言はEYESCREAMでのインタビューより。リンクはココ)。

Fla$hBackS - Fla$hBackS (jjj,Febb As Young Mason&KID FRESINO)


ヒップホップがファンクだけではなくジャズやソウルをサンプリングするようになったのは、それらが持つアーバンな感じを取り入れたかったのだと思う。Fla$hBackSは都市の情景を歌う。ココ何年か日本のヒップホップに顕著だった郊外(ドメスティックでローカルな)風景とは一線を画している感がある。

こういうクールな空気感をもった音楽は実に久しぶりだ。





郊外のヒップホップについてはこちらを。



追記(2013/05/04)
比較するような書き方はどうも……と思って省いたんだけど、やっぱ書く。
ライムスターは語りかけてきているOR煩く言ってきている感じなのに対して、Fla$hBackSは街角でくっちゃべっているのを耳を欹てて聴き入る感じがする。良い悪い出なくてアティチュードとして。
あとFla$hBackS人気あるなぁと思ったのは店から直ぐなくなったんだよね。それとユニオンに中古が入ったんだけど値段が定価とほぼ同じ2000円で、それも直ぐ売れて求められてんだなぁと思った。

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