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言葉る。

言えなかったことを言葉る。伝えたかったことを言葉る。思いついたことを言葉る。

森 6 時間のはじっこと乳首と言い訳について

2008-06-05 | 詩る
「ふーぅむ・・・(ゼーハー)。こんな・・・ところで・・・・(ゼーハー)良いかな・・・。良いよね?」 カマキリ男は、派手に踏み続けてすっかり息が上がってしまったのか、途切れ途切れに言葉を絞り出していた。赤いジャケットの肩が激しく上下している。観客は興奮の絶頂を通り越し幾分熱が冷めたのか、皆陶酔したかのような白い薄ら笑いを浮かべながら、弱々しく拍手をした。 「そうだ、忘れてた。」 カマキリ男は、 . . . 本文を読む

森 5 紳士淑女と回る犬と海の写真について

2008-06-03 | 詩る
目が明かりに慣れてくると、自分が劇場の舞台に立っていることに気づいた。赤い絨毯は引かれたままだが、壁やドアが今まさにスタッフにより撤収されており、黒い天井から吊るされた白熱灯だけがひとつ残されている。奥のほうにあるライトが、舞台上のカマキリ男と僕を白々と照らしていた。 客席では、黒い燕尾服に蝶ネクタイを締めて紳士然としている男達や、照明の光にギラギラと輝く派手なドレスに身を包んだ女達が、やけに白 . . . 本文を読む

森 4 動きまわるカバンとガラスの花と蛾について

2008-05-31 | 詩る
「やあ、フジエタカシ君。」 カマキリ男が再び僕の名前を呼ぶ。こちらの反応を見るようにしばらく黙っていたが、僕が沈黙し、動く気配がないと見て取ると、安心したかのように話し始めた。 「君は驚いている。何でこんなトコにいるのか。そしてこのイカした紳士はだれなのか。何で自分の名前を知っているのか。そうだろう?それは仕方ない。誰だっていきなりこんなトコに連れてこられたら、そりゃあ驚かなきゃいけないだろう . . . 本文を読む

森 3 海辺のホテルとカマキリと閉まるドアについて

2008-05-25 | 詩る
夜気が肌を冷やしていく。 僕は、露に濡れた木の根っこに足を取られたりしながら、月の光を頼りに木々の間を走る。白い道はすでに道ではなくなって、黒い土がヌメヌメと闇を作っていた。深淵に落ちて行くかのように、僕の体は林の奥へと吸い込まれて行く。 いきなり、カバンが木の枝に引っかかって、僕は勢いよく転がり込んでしまった。肩と背中を強く打ち、一瞬、呼吸ができなくなる。引っ張られた肩から腕がジンジンとしび . . . 本文を読む

森 2 海行きの切符と梟と黒く塗られた球体について

2008-05-11 | 詩る
暗がり森の駅は、チカチカと煩く瞬く蛍光灯と、2つの暗い街灯に照らされた小さな駅だった。電車が完全に止まり、客車のドアが開く。すこし段差があるホームに降りると、秋の虫の音がアフリカの音楽のように広がっていた。駅の明かりと、電車の窓から漏れる光だけが闇との境界を描き、世界の存在を示している。 車掌が運転席から降り、ハンカチで汗を拭きながら、僕の目の前に来た。 「あれ、君一人なの?お父さんとかお母さ . . . 本文を読む

森 1 ハンカチと温かな時間とスピードについて

2008-05-10 | 詩る
間違った電車に乗ったらしい。 海のほうへ向かうはずが、川の上流に向かっているようだ。 どんどん街が小さくなって、あっという間に川と田んぼしか無くなってしまった。川辺の石達はゴツゴツした険しい表情で空を睨み付けているし、流れだって負けじとガオガオと白い渦を吐き出している。それで僕がどうしたかというと、どうってことはない。さっきから窓に顔を寄せて景色を見ている。元々行く場所なんて何処でも良かったんだ . . . 本文を読む

重層

2008-05-04 | 詩る
人は、別れの数だけ 想いを残せる。 . . . 本文を読む

雪原 その23 やってくる吹雪、赤い耳

2007-03-20 | 詩る
天気予報の通り、次の日は朝から猛吹雪になった。 夜と朝の間が取っ払われ、8時を過ぎても部屋の中は薄暗い。 刺さるような風が、凍りついた窓をガタリガタリと揺らし、 建物自体が老いた獣のように不穏なうなり声を上げていた。 寿屋の朝食は塩鮭、玉子巻、味付海苔、納豆、お新香、味噌汁と、 いかにも日本の朝食という感じで、僕の好みだ。 「橋はどうなんでしょうかね。」 納豆をかき混ぜながら、女将さん . . . 本文を読む

雪原 その22 太陽が300回昇り降りしたら

2007-03-04 | 詩る
5限目が終わり、僕は大きく伸びをすると、すぐに教室を後にした。 学校から家まではそれなりの距離があるため、自転車で通学をしている。 割と大きな橋を渡り、古びれた商店や酒の醸造所のある、 ひなびた直線道路をしばらく走ったあと、公園の脇を上る坂道に出る。 土ぼこりで汚れた車と肌色のバスがゆっくりとすれ違い、 東北の田舎町の春を詠うように、桜の花が軒先から薄桃色の顔を出していた。 日が傾きはじめて . . . 本文を読む

雪原 その21 春、過去から問いかけてくるもの

2007-02-20 | 詩る
その年の春は、いつもより暖かかったことを覚えている。 学年が一年進み、教室が変わった。 それ以外に大きな変化という変化もなく、高校時代は過ぎようとしている。 たぶん、僕らが高校で学んだことと言うのは、 時間通りに始まり、時間通りに終わる規則正しい生活態度や、 学ぶとも無く詰め込まれる機械的な授業でもなく、 社会という、あらゆる場面で破綻した巨大な演劇装置に対して、 自分の役回りを正しく見定め、 . . . 本文を読む

雪原 その20 真夜中、僕の次に雪原から来る者達

2007-02-03 | 詩る
真夜中。 吹雪が世界を風に変える。 雪原の表面を削るように吹く地吹雪に巻き込まれ、 雪はまるで天に向けて降っているようだ。 ゴオォォォォォ。ヒヨゥオォォ。 視界の中には、絶えず抽象的な流動を見せる グレーの点、点、点・・・、無数のうごめく点と、闇のみが存在している。 それは視覚の音楽のように、我々の感覚を徐々に麻痺させていくのだ。 「・・・ン・・・・・・・・セ、・・・・・。」  . . . 本文を読む

雪原 その19 記憶が作り出す肉体、視線、完全な無視

2007-01-30 | 詩る
20歳を超えたぐらいだろうか。 特徴のない顔をしている。 眼が大きいわけでもなく、鼻が高いわけでもない。 頬からあごにかけてのラインがふっくらしており、痩せ型とは言えなそうだ。 髪は、しばらく伸ばしっぱなしらしく、手入れがされている感じではない。 不精ひげが伸びている。 背はだいたい175cm程度、逞しいというほど筋肉質ではない。 男性的な肩の張りや、骨格の頑丈さは一般的なレベルだし、 ペニ . . . 本文を読む

雪原 その18 犯罪心理学者、どこにでもある日常の風景

2007-01-21 | 詩る
コンコンと、襖をたたく音が聞こえた。 「夕食の準備ができましたから、鶴の間に来てください。」 女将さんが呼びにきたということは、18時なのだろう。 部屋はもうすっかり暗くなっている。 「は、あい。」 僕はボーっとした頭でなんとか返事をする。 防寒具すら脱がずに寝てしまったらしい。 眠い目をこすり、あくびをしながらノロノロと脱ぎ捨てる。 手足を伸ばした後、重い足を引きずるようにし . . . 本文を読む

雪原 その17 半透明の僕と、無表情な女の子がいる風景

2007-01-19 | 詩る
自分。 民宿で眠りに付いた僕は、 自分自身が無くなっていくという、不可思議な感覚に襲われた。 僕は、半透明の、かろうじて人型を保っている不定形の存在になり、 日が落ちて暗くなった部屋の、床の間の方をじっと見ている。 半身を起こした状態で必死に体を動かそうとするのだが、うまく動かない。 立とうと努力をしているのだが、体全体が重くて腕さえ上がらない。 何度か努力をした後、 僕は動こうと思う . . . 本文を読む

雪原 その16 雪崩、演歌、現代的で快適な宿泊のために

2007-01-17 | 詩る
僕は「あんまりお勧めできるようなものじゃない」という評価の、 寿屋(ことぶきや)という民宿に泊まることになった。 快適な宿泊施設のある隣街へは、結局行けなかったのである。 こんなことがあった。 雪原から森の中を登る道へ入り、しばらく行ったあたりで、 坂道の上の方から、六、七人がスコップを片手に道を下って来た。 「何かあったんだろうかね。」 軽トラックを運転していた男は、眉間に皺を . . . 本文を読む