うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

なまづま 堀井拓馬  うな

2014年06月15日 | 読書感想
愛する妻を亡くした研究者の主人公は、人に似た姿をもつ不死身の怪生物ヌメリヒトモドキを妻として再生させようとするが……

いいね!とにかく気持ち悪い。
とにかくヌメリヒトモドキという生物の名称、生態、すべてが気持ち悪い。ぬめっていて凄まじく臭くて不死身で粘液まみれで時々巨大な女王と融合して進化して……という、そんな生物が街中にあふれ返っていて日常生活になっている風景が実よく描けている。
そして主人公の妻に対する愛執もまた凄い粘着質に描かれている。妻がどんなに活発で素晴らしい人間だったか、自分がいかに無感動でつまらない人間であるかを何度も何度も様々な方法でくり返し描き、語り手が完全に狂っているということがわかるようになっているし、そのおかげでヌメリヒトモドキに死者の魂を与えるという行為を自然なものとしている。
死んだ妻を蘇らせようとする狂人というのは、ホラーではわりとありふれた題材ではあるが、この主人公の粘着質な描き方とヌメリヒトモドキの生態とが合わさって、引き込む力になっている。二十三歳でこれを書くとかすごい才能。

ただ、それを考えてもさすがにこのネタで200頁超は長い。長すぎる。
同じように妻の自殺以来、軽佻浮薄の仮面をかぶっている警備員山崎との関係や、研究室で作成した研究員とまったくおなじ人格をもつヌメリヒトモドキ・イイジマ個体、無感動な性格ゆえに仕事で成果を残す主人公にぐいぐい迫ってくるカンナミ研究員との男女の関係などを中盤に持ってきているのだが、最終的にこれらのエピソードがあまり有効に働いていないのが無駄に長く感じる原因か。
また、オチ自体も好きなタイプではあるものの、さすがにこのオチだと主人公が今作に描かれていることの内容を記憶しているのは無理がないだろうかという気にもなる。
終盤において発覚する主人公の心理の変化というか、自己の内面の真実に気づくくだりが、もう少し中盤の内容とリンクしていたら文句のない展開だったのだけど。
また、世界的なカタストロフを予感させる世界観でありながら、終始、主人公個人の話に留まってしまっているのも少し物足りない。この辺り、狭い話なのか広い話なのか、作者が話の規模をあまり考えずに描いてしまった感じがして、この辺りが若さかな、という気もする。

粘着質なしつこい言い回しとともに、倒置法の多用や、言葉の途中での句点の多用など、癖のある文体なので、一般的にはもうちょっと抑えたほうが読みやすさも表現の効果も上がると思うのだが、しかしこの作者にはこのまま自分の表現を突き詰めて欲しいなあ、と思わせる文章だった。

今作を「ホラーに見せかけたラブロマンス」と語るのは容易いけど、実際はこれ、主人公の愛は愛なんかではないという話で、ラブからかけ離れた話なんじゃないかなあ。



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