驟雨
声
降ってくる。
絶え間なく降ってくる。
髪を、顔を打ち、衣類を湿して、
「声」が降ってくる。
降ってくる。
重なり合い、干渉し合って、
雑多で、唸るだけだったものが、
「意味」を成してゆく。
(さびしいのでしょう?)
薄暗い墨色が覆い尽くす空に、
充満した「声」が溢れて止まず、
『さびしいのでしょうか?』
薄暗く俯いて誰も見上げない空で、
濡れた「声」は答えてはくれない。
(さびしい…………………………)
(……………しいので……………)
(………………………でしょう?)
それは仄かな唸りに返り、
(………………………………………)
やがて消えてしまう。
俄に雲が切れて、覗く夏空は、
「蒼く」抜けていて、僕は戦慄する。
湿りを帯びた大気に、もう「声」はなく、
日差しが白々しく、空に居座っている。
途方に暮れる置いてけぼりの、
狂乱と、狂熱の、盛夏に、
僕の居場所は、あるのだろうか。
迷路
わたしはちっぽけな存在で、
こころもちっぽけだから、
すぐ張り裂けてしまいそうになり、
間違いだらけの迷路を、
間違いだらけに右往左往している。
(ひとり、だ)
わたしは、
昨日の間違いを引き摺り、
明け方に生まれ目覚めて、
日がな一日、迷路をさ迷い、
今日の間違いをバッグに詰めて、
日暮れに死に眠る。
殆どルーティンワークの生涯を繰り返す。
(わたしは、ひとり、だ)
外は朝から雨、濃灰色の空、
大粒の雨、あめ・あめ・あめ。
(なぜ、雨を厭うのだろう?)
そのひと粒ひと粒には、
方舟が漕ぎ出していて、
それぞれに、
アララトの頂を目指している。
四十日四十夜の葛藤は、
雨に紡がれた預言の在り処で、
雨は絶望だが、希望でもあり、
迷路の出口はおろか、
どうして入り込んでしまったのかすら、
わからないわたしには、
希望も絶望も遠い世界なだけでなく、
アララトも哀しい夢でしかなかった。
わたしは、
雨の絶望と希望と、
アララトの夢を掬って、
バッグに詰め込んだ。
きっとこれも、間違いだろうから。
まもなく、日が暮れて、
今日のわたしは、死ぬ。
明日のわたしが生まれるかどうか、
それは、明日の朝が決めてくれるだろう。
written:2017.07.02.〜17.
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声
降ってくる。
絶え間なく降ってくる。
髪を、顔を打ち、衣類を湿して、
「声」が降ってくる。
降ってくる。
重なり合い、干渉し合って、
雑多で、唸るだけだったものが、
「意味」を成してゆく。
(さびしいのでしょう?)
薄暗い墨色が覆い尽くす空に、
充満した「声」が溢れて止まず、
『さびしいのでしょうか?』
薄暗く俯いて誰も見上げない空で、
濡れた「声」は答えてはくれない。
(さびしい…………………………)
(……………しいので……………)
(………………………でしょう?)
それは仄かな唸りに返り、
(………………………………………)
やがて消えてしまう。
俄に雲が切れて、覗く夏空は、
「蒼く」抜けていて、僕は戦慄する。
湿りを帯びた大気に、もう「声」はなく、
日差しが白々しく、空に居座っている。
途方に暮れる置いてけぼりの、
狂乱と、狂熱の、盛夏に、
僕の居場所は、あるのだろうか。
迷路
わたしはちっぽけな存在で、
こころもちっぽけだから、
すぐ張り裂けてしまいそうになり、
間違いだらけの迷路を、
間違いだらけに右往左往している。
(ひとり、だ)
わたしは、
昨日の間違いを引き摺り、
明け方に生まれ目覚めて、
日がな一日、迷路をさ迷い、
今日の間違いをバッグに詰めて、
日暮れに死に眠る。
殆どルーティンワークの生涯を繰り返す。
(わたしは、ひとり、だ)
外は朝から雨、濃灰色の空、
大粒の雨、あめ・あめ・あめ。
(なぜ、雨を厭うのだろう?)
そのひと粒ひと粒には、
方舟が漕ぎ出していて、
それぞれに、
アララトの頂を目指している。
四十日四十夜の葛藤は、
雨に紡がれた預言の在り処で、
雨は絶望だが、希望でもあり、
迷路の出口はおろか、
どうして入り込んでしまったのかすら、
わからないわたしには、
希望も絶望も遠い世界なだけでなく、
アララトも哀しい夢でしかなかった。
わたしは、
雨の絶望と希望と、
アララトの夢を掬って、
バッグに詰め込んだ。
きっとこれも、間違いだろうから。
まもなく、日が暮れて、
今日のわたしは、死ぬ。
明日のわたしが生まれるかどうか、
それは、明日の朝が決めてくれるだろう。
written:2017.07.02.〜17.
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