V=4/3πr³

詩と物語を紡ぎます

驟雨

2017-07-17 17:45:00 | poem
       驟雨



     声


 降ってくる。
 絶え間なく降ってくる。
 髪を、顔を打ち、衣類を湿して、
 「声」が降ってくる。

 降ってくる。
 重なり合い、干渉し合って、
 雑多で、唸るだけだったものが、
 「意味」を成してゆく。


 (さびしいのでしょう?)

 薄暗い墨色が覆い尽くす空に、
 充満した「声」が溢れて止まず、

 『さびしいのでしょうか?』

 薄暗く俯いて誰も見上げない空で、
 濡れた「声」は答えてはくれない。


 (さびしい…………………………)
 (……………しいので……………)
 (………………………でしょう?)

 それは仄かな唸りに返り、

 (………………………………………)

 やがて消えてしまう。



 俄に雲が切れて、覗く夏空は、
 「蒼く」抜けていて、僕は戦慄する。

 湿りを帯びた大気に、もう「声」はなく、
 日差しが白々しく、空に居座っている。

 途方に暮れる置いてけぼりの、
 狂乱と、狂熱の、盛夏に、


 僕の居場所は、あるのだろうか。



     迷路


 わたしはちっぽけな存在で、
 こころもちっぽけだから、
 すぐ張り裂けてしまいそうになり、
 間違いだらけの迷路を、
 間違いだらけに右往左往している。

 (ひとり、だ)

 わたしは、
 昨日の間違いを引き摺り、
 明け方に生まれ目覚めて、
 日がな一日、迷路をさ迷い、
 今日の間違いをバッグに詰めて、
 日暮れに死に眠る。

 殆どルーティンワークの生涯を繰り返す。

 (わたしは、ひとり、だ)

 外は朝から雨、濃灰色の空、
 大粒の雨、あめ・あめ・あめ。

 (なぜ、雨を厭うのだろう?)

 そのひと粒ひと粒には、
 方舟が漕ぎ出していて、
 それぞれに、
 アララトの頂を目指している。

 四十日四十夜の葛藤は、
 雨に紡がれた預言の在り処で、
 雨は絶望だが、希望でもあり、

 迷路の出口はおろか、
 どうして入り込んでしまったのかすら、
 わからないわたしには、

 希望も絶望も遠い世界なだけでなく、
 アララトも哀しい夢でしかなかった。

 わたしは、
 雨の絶望と希望と、
 アララトの夢を掬って、
 バッグに詰め込んだ。

 きっとこれも、間違いだろうから。

 まもなく、日が暮れて、
 今日のわたしは、死ぬ。

 明日のわたしが生まれるかどうか、
 それは、明日の朝が決めてくれるだろう。



written:2017.07.02.〜17.


**
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする