
感情を持っている。
来日からの27年間、毎年の大晦日の夜は必ず、こたつの上に
並んでいるおつまみ、ミカンなどを食べながらNHKの紅白歌合戦
を見ていた。暖かいこたつとともに一年を送って、また新しい一年
を迎える。大晦日の夜にこたつに入って紅白歌合戦を見るのは日
本の年末年始の一部分になっているように思う。
留学生時代、こたつは私にとってなくてはならない、とても大
事な存在でもあった。一九八〇年代のはじめ頃同志社大学の初め
ての国際奨学生として来日した。限られた奨学金での留学生活で
はあったが、一生懸命節約し、卒業するとき、できるだけ沢山の
辞書と日本語教科書を買って中国に帰るつもりだった。母校の図
書館では文化大革命の時に日本語の書物、辞書とほかの外国語
の文献資料、書籍は殆ど燃やされていたからだ。
京都の冬はとても寒かった。学校が終わり、アパートに帰ると、
服を脱ぐのではなく、逆にもっと着込んだ。暖を取る道具は、大
學の先輩からもらった古い小さなこたつだけだった。論文や書類
を書くとき、資料を翻訳するとき、食事のとき、よくこの小さなこた
つを使った。
寒い冬の夜、服をきたままこたつの下に潜って寝たこともあった。
こたつをきれいに掃除し、まな板代わりにして何回かギョウザを作り、
ゼミの友人たちを招待したこともあった。こたつは机であり、食卓で
あり、私にとって非常にありがたく、忘れられない大事な物だった。
春、夏、秋、冬、寂しいとき、悲しいとき、うれしいとき、楽しいとき、
こたつは黙々と私の涙と汗を吸い込んで、その無言の温もりで私を
温めてくれた。古い小さなこたつのおかげで私は無事に留学生活を終
え、卒業した。あの暖かいこたつは私の留学生活の証でもあった。
今も街の粗大ごみ捨て場に捨てられた古いこたつを見るたびに、と
ても懷かしい思いに駆られる。と同時に、こたつはもしかしたら将来、
世界文化遺産になるかも知れないと私はひそかに思う。
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北京を訪れる度に、私がよく利用するホテルの反対側に王府井書店がある。滞在中書店で立ち読みすることも幾度となくあった。
今年の10月12日に中国文学史上初のノーベル文学賞受賞者・莫言(ばくげん)さんの『丰乳肥臀』(豊満な乳房肥える臀部の意。1997年作家出版社)という小説と出会ったのはこの書店だった。
2003年の寒い冬の日、ホテルで朝食を済ませ、王府井の辺りを散策した後書店に入った。本棚にずらりと並んだ女流作家たちの新作を見ている時、隣の本棚に表紙がとても鮮やかな一冊の厚い本がふと私の目にとまった。その本は中国の河北や東北地方の農村によく使われる眩しいほどの強烈な赤と緑色の表紙で、本好きな私がこれほど大胆な色使いをした表紙を見るのは初めての事で、好奇心に駆られその本を取ってよく見てみると、表紙の中央部に真っ赤な服をまとって、凛と座す姿の若い農村女性と一羽のカラスが描かれていた。女性はあちこち裂けている赤い大地に座っているようにも見え、血の海に座っているような感じでもあった。タイトルは『丰乳肥臀』という大きい黒文字で書かれていた。これは間違いなく中国のある農村女性の運命や愛情物語だと直感したばかりではなく、内容は「血」と「赤」に大きく関係しているような気もした。そして、作家もきっと農村生活経験が豊富な方だと思った。更に不思議に思ったのは「莫言」というペンネームだった。
もともと中国語の「莫言」(言わざる)は「莫聴」(聞かざる)、「莫看」(見ざる)の中の「言わざる」の意味だが、表紙の女性像と色使いを見てみると、何かを訴えたいとの作家の一念を強く感じさせられたにも関わらず真逆の意味の「莫言」(言わざる)をネームにした作家は一体誰だ?小説の中の物語はどう展開されているのか?もっと知りたくなった私は『丰乳肥臀』という小説を本棚から取り出してレジに向かった。
日本人の食生活によく登場する薬味の一つの生姜(しょうが)は、中国でも昔から美容長寿の薬として、特にせき止め、解毒、風邪などの特効薬として広く使われてきた。生姜に関する伝説もたくさんあった。『漢方の面白い話』という本には次のような記載があった。
・・・生姜は、中国の伝説上の帝王、神農氏ガ発見、命名したとされる。 ある日、神農氏は南山へ薬草を採りに行った時、誤って毒キノコを食べ、お腹の激
痛で倒れて意識不明になった。しばらくして、意識を取り戻した神農氏はふしぎに思い、ゆっくり周りを見ると自分が倒れた場所にとても濃厚な香りの良い植物があったことに気付いた。この植物が発するにおいに救われたに違いないと思い、その葉っぱを取って口に入れてみると、辛くて、
甘い味がしたので、その葉っぱをかんで食べた。するとおなかはぐうぐうと鳴り、汚物を全部排せつした。神農氏は自分が「起死回生」できたのは、この葉っぱの力だと思い、死んだものを生き返らせるほどの力を持っている不思議な葉っぱに良い名前を与えることにした。神農氏の苗字である「姜」に、自分を「起死回生」させた「生」という文字を合わせて「生姜」という名を不思議な葉っぱに名付けた・・・。
生姜は中国人の食生活には不可欠で健康に良い食材である。特に漢方では胆嚢炎と胆結石の予防、降血脂、降血圧、心筋梗塞(しんきんこうそく)の予防等によく使われる。面白いのは、日本の歴史にも生姜を大好きだった将軍がいた、江戸幕府の第11代将軍、徳川家斉(1773~1841)は、50年間、生姜を日常的に食べていた。冬でも、生姜を栽培させ、江戸城に運ばせ、食したという。 徳川家斉は側室40人との間に55人の子どもをもうけている。もしかしたら、家斉が毎日食べた生姜に「起死回生」の力があるだけではなく、思いがけない強壮作用もあったかもしれない。
中国の民間では生姜で病気を治療する物語がたくさんある。しかし、食べ過ぎると、のどは痛くなったり、便秘になるとの指摘もある。