「メジャーの打法」~ブログ編

野球、ゴルフを中心とするスポーツ動作論
『究極の打法』オースチンからボンズまで
 Amazonにて発売中

続・投球のバイオメカニクス(12)

2011年08月03日 | 投法

 DiGiovine(1992)

 筋電図法による研究だが、被験者を56人に増やしている。そこからこういうものを引き出したとするのだが、FeltnerタイプもJobeタイプも一緒くただから、標準偏差も大きく、説得力を欠いている。偶然とはいえ、F&D(1986)、Jobe(1984)においてふたつのまったく異なる投法を対峙させることに成功し、投法論の足場を固めることができたと思ったら、その足場をわざわざ崩して、混沌の中からあらためて何かを抽出しようというのだから、恐れ入る。

 おもな数値を載せておく。


 内容は惨憺たるもので、加速期の肘伸展に、三頭筋の活動が高い被験者多く含む(89±40%)にもかかわらず、F&D(1986)や例の神経遮断を引き合いに出して論じている。一方Fleisig(1995)は、Jobe(1984)では見られなかった二頭筋の放電が被験者を増やしたDiGiovineで見られたことから(加速期20±16、減速期44±32)、筋電図法の裏づけを得たとばかりにこれを引用している。このようなドタバタ劇を四半世紀にわたって演じてきたのだ。
 

 さて、今回は三角筋後部(棘部)について。

 アメリカン投法にあっては、三角筋後部は広背筋とともに、減速期(フォロースルー前半)に収縮し、前方に振り出した腕を減速する。一方、風井論文の連続型、非連続型では、加速期に活発な活動があり、広背筋とともに上腕を引き下ろす。

ふたつの投法にはクロールと背泳ぎほどにも違うわけで、それをいったんごちゃ混ぜにしておいて、そこから共通部分を引き出そうと努力するのがDiGiovine先生なのだ。

 そこで、もう一度Gowan(1987)の加速期を見ると、


 プロ、アマとも、三角筋後部の収縮がわずかなのだ。アマはアメリカン投法と考えれば問題ない。問題はプロの方で、広背筋を活用して腕を引き下ろす投法でありながら、連続型、非連続型とはやり方が異なるということだ。これはJobeも同じだろう。そこで、

アーム式は、加速期において、広背筋を活用するが、三角筋後部は使わない。
Jobe(1984)およびGowanのプロはアーム式である。

と考えたがどうか? 

この点については(10)でも触れたが、連続型の可能性もあると思っていた。
また、広背筋を活用すると言っても、アメリカン投法に酷似するものもある。宮西論文のデータがそれで、リリース時に肩のトルクが内転値になるのだが、肘伸展トルクがFeltner同様小さく、Jobeとは異なる。


 改めてDiGiovineの三角筋後部を見ると、68±66%となっている。このことから、56人の中には、Jobeのアーム式、Feltnerのアメリカン以外に、連続型、非連続型もかなり多く含むことが窺え、現在のMLBの印象とも一致する。例えば、


遡って、Feltnerの被験者8人が一枚岩というのも多少作為があったと考えるべきだろう。少なくとも現在のMLBの投球技術シーンを正しく反映したものとは言えない。


 アーム式と連続型、非連続型との間に、三角筋後部という比較的小さな筋肉の収縮において差異が生じるとは、これまで考えなかった。見た目に違うのは下半身や体幹の動作によるものだけではかったのだ。

  アーム式のJ・ガーランドと連続型の伊良部秀輝




コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。