快読日記

日々の読書記録

「中島敦『山月記伝説』の真実」島内景二

2010年05月15日 | 言語・文芸評論・古典・詩歌
《5/11読了 文春新書 2009年刊 【文学】 しまうち・けいじ(1955~)》

「山月記」といえば「あ~! 高校時代に国語でやったわ~」という人も多いと思います。
そう、エリートの李徴が虎になる話。
今でも高校2年生の教科書の定番ですが、
そもそも当時無名だった作家のこの作品を教科書に掲載した功労者が親友・釘本久春。
彼こそが他ならぬ袁傪で、本作ではそのページの多くを「李徴と袁傪 = 中島と釘本」の関係分析に割いています。
中島敦とはどんな人だったのか、釘本を始めとする友人たちとの関係、丁寧な「山月記」の読解、種本「人虎伝」について、今東光や佐藤春夫による同じネタでの先行作品と「山月記」との相違などなど、かなり濃い「山月記」本です。
終盤、筆者が自分と袁傪とを重ねるところもじんときます。
明晰なだけの論文ではない、こういう人間臭さも本作の魅力です。

巻末に全文掲載された「山月記」を読み返すと、たった33歳で亡くなった無念さ、突き刺さるような悲しみが改めて伝わります。

これがあんまりよかったので、新潮CDでえもりんが朗読してる「山月記」をさっそく購入、通勤途中の車内で大音量で流し、李徴の独白に号泣です。ううっ。