快読日記

日々の読書記録

「ワンちゃん」楊 逸

2009年04月20日 | 日本の小説
《4/14読了 文藝春秋 2008年刊 【日本の小説】 Yi Yang(1964~)》

この人が書くものを読んでみたい!と思ったのは、
もっさりした新聞の写真と違い、テレビで見た「動く楊逸」が逞しく堅太りした健康的な人だったから。
「ワンちゃん」も、そんな筋肉質な小説です。
といっても、ボディビルで作り上げたムキムキではなくて、
日々の肉体労働で身に着いたアジア的ガテン系。
主人公ワンちゃんの本名からが「王愛勤」、その名の通りの働き者です。
バツイチで、四国の田舎町に嫁いだワンちゃんが始めたのは、
嫁不足に悩む地方の男性に、日本人との結婚を望む中国人女性を斡旋する仕事。
短い小説の割に大勢な登場人物は、みんなインパクトが強くて鮮やかです。
贅肉がないさっぱりした文章も、粗筋みたいなストーリー運びも好みです。
この竹を割ったような小説の根っこには、文革以降を生きる中国人のしたたかさ、おおらかさがあって、(彼女らに比べてだいぶ)虚弱な日本人への「まあいいんじゃないの?」という優しさも感じられて、「新しい越境文学」との称賛も納得です。

人間を慈しむ目線が嬉しい。

一緒に収められた「老処女」は、45歳で男性と付き合ったことがない中国人女性が主人公。
もしこれが日本人だったら、読者は主人公の「自我」という排泄物を散々ぶつけられ、息苦しい展開になりそうです。
しかし中国人だとこうなるのか~!と妙に感心しました。
「大陸的」ってこういうことかもしれない。

でも制限時間に戸惑う女のトホホなエピソードは滑稽で愛しく切ないです。