快読日記

日々の読書記録

「収容所に生まれた僕は愛を知らない」申 東ヒョク

2008年07月24日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《淡々とした筆致が、彼の受けた傷の大きさを物語る》



筆者は、数ある北朝鮮の強制収容所の中でも特に「完全統制区域」と名付けられた地獄から、唯一脱出に成功した1982年生まれの男性です。

そこは巨大な奴隷村で、こうしている今も多くの人が、体が無残に変形するほどの惨い労働を強いられています。
家族や親戚の脱北などを理由に身柄を拘束、「囚人」として隷属させ、さらに「表彰結婚」という制度で「囚人」同士に子供を生ませて新たな労働力を確保するのです。
筆者もこうして生まれた一人です。

その証言はまさに地獄。
あまりの酷い内容に、「これはよその国のことなんだ」と自分に言い聞かせながらでないと読めないほどでした。

筆者は2005年(23歳)にここから脱出しますが、それを決意したのは「抵抗」や「自由を求めて」といったものではなく、ただ過酷な労働が嫌だったからだと言います。
そもそも「自由」や「抵抗」という概念がないからです。
もちろん「愛」も「優しさ」も「不幸」さえも知りません。
この悲惨な23年間の告白の中で、彼が泣く場面が一度だけありましたが、それは食べ物を奪われた涙でした。

心身ともに大きな損傷を受け続ける人々。
核の無力化もいいけど、この人達の一刻も早い解放を祈りたいです。

■7/20 読了 KKベストセラーズ 2008年刊 【ノンフィクション 北朝鮮】申 東赤赤(シン ドンヒョク 「ヒョク」は「赤」偏に「赤」1982~)