World of delight

好きな本、好きなドラマ、好きな映画、好きな人。

箱の中/木原音瀬

2014-12-31 18:27:37 | 日記
誰か、誰かあの男を愛してやってくれないだろうかと堂野は思った。うんざりするほど愛して、そして二度と死ぬなんて言葉を口にできないように、愛情と責任でがんじがらめにしてくれないだろうかと、そう思った。

箱の中/木原音瀬 -檻の外-

木原音瀬さん遂に三作目。本作で木原さんは終了しようと思っています。

以下ネタバレ。

こいつ、喜多川と堂野をうまくいかせようとするために、子ども殺したんじゃないよね?

と、作者を問い詰めたくなる急展開でした。

堂野の奥さんが浮気をしているのはまだ許せる。浮気が発覚して信じられなくなって、やっぱり俺には喜多川しかいないよー!ってなるのはいいんだよ別に。木原さんは男同士で絶対うまくまとめるんだろうと思ったし、それ以外の結末は考えられなかったし。

いやいや、罪のない子どもは殺すなよ。と、言いたいんだよ私は、作者に。

子どもに何の罪もないって堂野が言ってたけど、そっくりそのまま作者に返したいよその言葉。

子どもも死んで?原因は奥さんの浮気で?そりゃ万々歳ですよね、だって堂野は何にも悪くなく喜多川と一緒になれるんだもん。

だからってこの展開はちょっとひどいんじゃないの。"秘密"と同じような無理やり感が否めない。

私としては、第一章の"箱の中"で完結していた方がよっぽど面白かったと思う。

堂野が孤独な喜多川をどうにかしてあげたかったこと、だけどそれが愛情ではなかったこと、だから迎えに行けなかったこと、痛いほどよく分かった。友達でいられたらよかったのに。

あのぶつ切り感、これで終わりの?もうだめなの?ハッピーエンドじゃないけど、あの終わりの方が納得はできた気がする。

それにしても、喜多川と一緒に橋から落ちた堂野を見たら、少し安心したよ。なんだ、堂野、喜多川のことちゃんと好きなんじゃん。

前半の喜多川の愛が木原さんらしくいつも通り重たかった。だけど喜多川は本当に大きな子どもみたいで、なんだかかわいいというか、情のようなものがわいてくる堂野の気持ちが分かった。

うまくいってよかったねとは言いにくい終わりだったけど、これから喜多川が思い描くあたたかい家族が出来ればいいなと思いました。

木原音瀬さんの作品は三作読ませていただきましたが、やはり最初に読んだ"美しいこと"が一番好きでした。あれは歴代読んできた本の中でも傑作だと思います。

今年ももう終わりですが、来年はもっと沢山の本を読んで、もっとこのブログを更新したいと思います。ここは私の心を映す鏡みたいなものなので、大切にしたいと思う。

きょうは会社休みます。/ドラマ

2014-12-22 22:48:45 | 日記
録画していた最終回を本日やっと見終わることができました。決まりきった結末へ、いざ。

以下ネタバレ。

田之倉くんが最初から最後までこれっぽっちもイケメンに見えなかった。

まず、花笑ちゃんが田之倉くんを好きになったきっかけってさ、恋愛に飢えてたところにイケメンが優しくしてくれたからだよね?それって別に田之倉くんである必要全くなかったよね。

逆も然り。田之倉くんが花笑ちゃんを好きになったきっかけってあった?むしろなかったよね?(笑)一人寂しく誕生日を迎えることになってしまった哀れな30歳に気まぐれで優しくしてあげただけなんじゃないの。

なのに、結婚?同棲?笑わせるなよ。てめーら付き合って何週目よ。

最初は田之倉くんはイエスマンなのかと思ったんですよね。なら良いかなと。こっちとしても付き合うメリットはある。

でも後半になるにつれてどんどんイエスマンじゃなくなっていく。田之倉くんのことを好きだという女の子が現れた時、その女の子に花笑ちゃんが「自分が彼女だ」と言えなかった時。田之倉くんははじめて花笑ちゃんに対して怒りましたよね。

あの時本当にいらっときました。怒る必要がどこにある?自分が彼女だと主張できない優しさにあんたは惚れたんじゃないのか。本当のことを言えなくて一番傷ついている花笑ちゃんを何も言わずにそばで支えてあげるのが優しさなんじゃないの。

そして、極めつけは結婚しようと言って花笑ちゃんを追いつめたところ。大学院を辞めて就職することを、「花笑ちゃんが望むから」と言ったところ!本当に許せない。

大学院辞めて就職するのはあんたの勝手だよ。それを人のせいにするな。自分の目標のためにやったと言え。花笑ちゃんに心配させるな。

なに?アメリカに旅立つ時の台詞は。「最初から言ってるでしょ?花笑さん、俺のこと好きだって。」だと?なにを今更言ってるんだ、逆だよ逆!あんたがうじうじ花笑ちゃんのこと好きだから、花笑ちゃんも忘れられないんじゃないの。

後半は田之倉くんを好きだ好きだと言う花笑ちゃんにもイライラした。こんな男の何が好きなんだ。あなたには朝尾さんがいるじゃない。

そう、朝尾さんが!(笑)

本当格好良かった。朝尾さんが花笑ちゃんを好きな理由はよく分かった。不器用だけど真っ直ぐな花笑ちゃんに惚れたんだよね。

朝尾さんと花笑ちゃんの関係、すごく好きだったな。犬猿の仲とか言っちゃって、どっちが犬でどっちが猿なのか揉めちゃうところ。二人とも大人とは思えない子供っぽさで、楽しそうで。

飢えそうで震えてる時、ピザまんが出てきたら、食べるでしょう?一人で生きていくと決めても、ピザまんがそばにいることは出来たんじゃないの。隣で支えることは出来たんじゃないの?諦めるのはまだ早かったよ朝尾さん。

アメリカから帰ってきた田之倉くんと手を繋いで幸せそうな花笑ちゃん。うーん、見ている側としては素直に喜べない。だって年齢差が埋まったわけでもないし、田之倉くんの将来が確定したわけでもない。むしろ花笑ちゃんは総合職で着々とキャリアを積んでいるわけだし、差は開く一方じゃない。

それこそまた結婚はいつになるんだっていう解決できない問題に着面する羽目になる。31歳って言ったら結婚どころか出産についても考えなきゃいけない年齢でしょう。いくら幸せそうなラストでも、現実ではハッピーエンドとは限らない。

きょうは会社休みます。か。何度本作を見て会社休みたくなっただろうか。こんな簡単に休めたらいいのに、と新人の私が思うのだから、先輩方は一層メラメラしたんじゃないかな。

大穴だったのは大城くん。花笑ちゃんのこと好きだったのか。全然分からなかったな。実はああいうタイプこそ昔から付き合ってる本命の彼女がいて~というオチじゃないのか。

大城くんや朝尾さん、課長、お父さん、お母さん、彼らがいなかったら花笑ちゃんは田之倉くんを好きでいられなかったと思う。そこんとこ、分かった上で好きだって、言ってるのかな?花笑ちゃん。まさか自分の意志で決断したとか思ってないよね。

ところで、好きってどういうことだろう?という難問が最終回には多く見受けられました。そして花笑ちゃんが出した答えは、"忘れようとしても忘れられない気持ち"でした。

だとすると、好きかそうじゃないかは、失ってはじめて気付くということになる。

そんな切ないことを言うのはやめてほしい。私は早く忘れたいんだから。

ごめんね青春!/ドラマ

2014-12-21 21:59:27 | 日記
本日最終回を迎えた本作品。宮藤官九郎さんの脚本ということで気になって見ていました。仕事前の日曜日、憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれる本作はなかなかのお気に入りでした。

以下ネタバレ。

んーもうベタ!ベタな展開だから気軽に見れたし好きだった。ただちょっとドタバタしてたかな。それが視聴者離れを招いたのかも。

訳の分からないところも含めて私個人としては好きだったんですけどね。でもナレーターのマシンガントークや、行き過ぎた演出など、ちょっとしつこかった。見ていて飽きるというか、本筋からずれていくというか。

宮藤官九郎さんらしかったですけど、今回はシリアスが少なかったのかな。最後まで同じテンションで貫いていた感じ。

中高生は好きそうなんですけどねぇ。こういう面白さが理解できない大人は多い。こういう中高生にしか理解されなさそうで、実は真理をついている感じはすごく良かったんだけどな。

さて、肝心の内容ですが。

青春か、いいな。と、純粋に思う。

しかし思い返すほど素敵な青春なんて実際は送ってないんですよね。多分ほとんどの人が本当はそうなんじゃないですか。"オレンジデイズ"のような大学生活を夢見て送っていないように(笑)

けれど本作を見ていると、まるで自分もそんな楽しい文化祭をしたような錯覚に陥る。そしてそんな錯覚に浸って、ああもうあの頃には戻れないのか、なんてしみじみしたり。戻れないもなにも、はじめからそんな青春は送っていないのに。

それ位うらやましかった、楽しそうだった。高校生活、良いことばっかだったわけじゃないけど、もう一度やり直したい、そんな風に思った。

くだらなすぎて笑えるレベルの恋愛も、なんだか微笑ましくて。好きって言うだけが愛情だと思っているような、目の前の人なら誰でも好きになるような、そんな幼すぎる恋愛。だけどそれすら可愛くて、馬鹿だななんて思いながら見守っていた。

みんな何かしらの正義感を持ってて、当たり前だけどそれが高校生らしい、中途半端な正義で。守れないから誰かを傷付けたり、独りよがりに怒ったりして、周りに迷惑をかける。

だけどきっとそういう正義はすごく真っ直ぐで、私たち大人にはもうないもので、自分たちの正義のために負け勝負にも挑む姿は格好良いと思った。

個々のエピソードに触れると、中井さん、好きだったなー。

中井さんが転校する時、本当に誰にも言わないんだと思ったら、なんかすごい、格好良いなって。原先生も中井さんが転校しちゃうこと分かってるのに、"言わない優しさ"って良いなって。

こういうのって、最後の最後で実は原先生がクラスのみんなに話してて、「なんで言ってくれなかったの?」「言わないで転校するなんて卑怯だよ!」なんて涙目でお別れする、そんな定番な話が多いと思う。

だけど、あえて最後まで本当に言わなかったし、伝えなかった。そして歩道橋の上から中井さんを見送るみんなの姿。「なんで言ってくれなかったの」なんてマイナスなことは誰も言わないのよね。ただ中井さんのこれからをみんなで応援する。そのスタンスに友情を感じた。

そして、原先生のお父さんとお母さんのエピソードも好きだったな。「面白かった」って言える人生、最高だよね。そういう人生を送らせてあげたお父さん、素敵だと思うよ。面白かったって思える人生を、私も送りたい。

原先生は結局教師を辞めたけど、その時ボソッと「あー面白かったなー」って言ったよね。辞めることにはなったけど、そう思えたってことは幸せだったってことなのかな。

ところで原先生の罪に関してですが。

どうなんだろう、やっぱり原先生が放火の犯人だったんですよね。0.01%でも、やはりそういうことなんだと思う。

だけど原先生の罪を原先生だけに押しつけて、被害者ぶる裕子やサトシはなんか違うよなー、と。

別に原先生が犯人だと名乗り出たところで、学校に居にくかったのは変わらなかったと思いますよ。原先生のせいで人生めちゃくちゃになったと言わんばかりの涙目でしたが、結局原先生が名乗り出てもいなくても同じ結末になったんじゃない?

それに裕子のお父さんも言ってたけど、原先生の気持ち、分かるもん(笑)そりゃロケット花火ぶち込みたくなるでしょうよ。先に裏切ったのどっちだよって本当その通り。私だって同じ立場だったらやってたと思う。

それにしてもあの時原先生が打ち明けてたとしたら、一体どの程度の罪になってたんでしょうね。事情が事情だし、高校生だし、誰も死んでないし。まあそれで借金抱えたわけだから、そんなに軽い罪ではないのかな。

どっちにしてももう時効が過ぎているわけだし、償う罪もないんじゃないの?教師辞めてDJか。現実的な終わりではないよな。

蜂矢先生が私的にはすごくツボでした。良い意味で満島ひかりさんらしくなくて好きだった。暗い影のある役がよく似合う彼女ですが、今回の吹っ切れたような演技はさすがだなと思いました。あんな謎な格好してるのに、結構可愛いなんて思えて(笑)

しかも原先生のことが好きって!その理由あんなのでいいの!?でも顔とか声のトーンが恋する乙女みたいでなんかきゅんきゅんしたなー。

海老沢くんとあまりんとか、本当最初から最後までお前らアホだなって思って何度も笑ってしまった。むしろそのままでいてくれ。

その他のカップルも微笑ましくて可愛らしいのでもはやずっとうまくいってほしいと思う。

低視聴率とか言われてたけど私は好きだったよ、クドカン。くだらねー!ってくすくす笑えてる限りは明日も会社に行けるなって思えた。その"くだらなさ"を愛せる人って良いよな。

Nのために/ドラマ

2014-12-19 22:53:37 | 日記
たった今終わった最終回。終わった後に涙がこぼれる作品は良作だと思うのですが、本作品はまさにそれに匹敵しました。悔しい、切ない、やるせない。心が痛くて、だけどあたたかい。そんなラストでした。

以下ネタバレ。

本当に、愛に溢れてる。
誰かのために行動すること、そんな風に人を愛すること、簡単には出来ないことも彼らには出来てしまった。

そう、すべてはNのためにー

杉下を殺さないでよ。
原作を読んだ時からずっと思ってた。どうして杉下が死ぬ必要があるの?こんな悲しいラスト、一体誰が救われるっていうの。

病気になったと泣きながらお母さんに告白する杉下を見て、私は泣きたくなった。こんなのひどいよ。やっと10年終わったのに。これからマイナスがゼロになってプラスになるのに。

だけど、もし。
杉下が病気にならなかったら。

杉下は安藤を選んだのだろうか。

最後の安藤との別れの電話、あれが全て物語っていたと思う。誰にも邪魔されず、生きたいように生きてほしい。杉下にとって安藤は、光なんだ。前を照らしてくれる光。

もし杉下が病気だと知ったら、助けてと言ったら、安藤は必ず助けに来る。だけど、杉下はそんなこと望んでない。安藤が生きる未来を、悲しいものにしたくない。

そうだ、安藤は言っていた。「杉下はそう簡単に助けを求めない。」だけど助けてと言われたら「必ず行く」と。杉下は安藤のためを思ってる。思ってるから、なにも言わなかった。助けを求めなかった。

それが愛だと気付いているかな、安藤。あなたは選ばれなかったわけじゃない。あなたを救うために、ついた嘘。

だから唯一杉下が甘えられるのは、やっぱり成瀬くんだった。

何もしなくていい、「ただそばにいて。」成瀬くんらしいと思った。病気を抱える彼女と一緒に生きていくことはとても難しい。それは杉下のことが好きだとか嫌いだとかとは全くの別問題。愛があっても、愛があるから、余計に難しい。

だけどあのラストシーンがあたたかったのは、そばにいるのが成瀬くんだからだ。

安藤は行く道を照らして引っ張ってくれるけれど、成瀬くんはきっと手を取って一緒に歩いてくれる。同じ速度で、止まったり、戻ったりしながら、それでも一歩ずつ、前に進んでいく。

二人の未来は簡単じゃない、だけどきっと、暗くなんてない。そう信じたい、エンディング。

本作品は本当に好きなシーンが多かった。がんばれー!とお互いに叫ぶシーンや、野ばらのおじいちゃんが杉下を撫でるシーンなど、何度見ても心を強くしてくれる。

こんな風には生きられないけど、こんな風に生きてみたい。そう強く思う作品です。

一方で原作との違いですが。

私が原作を読んだ時は、杉下にとっての"最後のN"は西崎さんだったのではないかと予想したけれど、ドラマには一切そんな雰囲気はありませんでしたね。安藤と成瀬くんでお腹いっぱいでしたもんね(笑)

原作では杉下にとっての安藤は"単なる光"であって、自分も一緒にその光へ連れて行ってほしいというよりは、その光を見ていたいというような印象でした。好意はうっすらあったのでしょうが、それも明確ではなかったと思います。西崎さんが安藤のことを"好き"な気持ちと同じような"好き"だったと思う。

それにしても安藤が女性だとミスリードさせる原作の伏線を、うまくドラマに入れ込んできましたね。成瀬くんが安藤のことを女性だと思っていたというところに繋がるとは。

西崎さんが釈放されてからの現在はほとんど描かれていませんが、どれも納得いくというか、腑に落ちたという感じ。

原作には刑事はおらず、放火の犯人も描かれていません。放火の犯人はてっきり刑事の奥さんかと思っていたら、違ったんですね。刑事の奥さんが実は成瀬くんの父親と浮気していて、成瀬くんの父親の複雑な思いを知った彼女が代わりに放火したのかと。原作に犯人が描かれていないので、犯人も原作には出てこない人物かと思ったんです。

それにしても、父親だったのか。自分の家放火しておいて、よくもまああんなケロッと生きていましたね。おかげで刑事の奥さんは声を失ったんですよ。亡くなっていたんでうまく丸め込まれてたけど、人を巻き込んで死のうとするのは最低だと思いました。

刑事に関しては、良い意味で三浦友和さんらしくなくて良かった。しつこくないというか、原作にはないキャラクターなので味が強すぎると嫌だなとは思っていたのですが。10年後の今の廃れている感じも良いと思いました。

奈央子と西崎さんに関しても、原作とは少し違った印象を受けました。原作では奈央子は完全なる気狂いにしか見えなかったのですが、ドラマでは分かっているけど止められない、止められなくてごめん、そんな印象を受けました。あと数針違えたら、するすると糸が解けたはずなのに。その数針の掛け違いが、とてつもなく難しかった。

ところで、奈央子が自殺であったことに気付けなかった当時の警察は無能なのかと思ってしまう。自殺と他殺では明らかに刺した時の傷跡が違うのではないか。いくら西崎さんの供述があったとはいえ、きちんと調べれば分かったかもしれないのに。

だけど西崎さんにとっての刑期は、彼がマイナスからゼロになるまでに必要なものだったのかな。

安藤がいつか杉下の病気を知ったら、彼はどうするだろう。怒り狂う安藤を、なだめて慰める西崎さんが目に浮かぶ。だけどそんな未来、一生来なければいい。

それにしても脚本家はすごいと思います。あの原作で、まさかこんな大作が出来るなんて。確かに膨らませようは多分にあったと思いますが、すごく綺麗にまとめましたよね。ボリュームを上げるところは最大まで上げる。

また本作は曲も良かった。家入レオさんの主題歌も素敵でしたし、挿入歌も良かった。それに伴う演出も良かった。映像がとても綺麗。シャッター音も最初は多すぎないかと思ったけれど、最後はしっくりきた。私もこの光景を脳裏に焼き付けておきたいと思う。

キャストについて。

榮倉奈々さん、本当に演技がお上手でした。泣き笑いがよく似合う。榮倉奈々さんを見て、私は何度泣いたことか。

窪田正孝さん、格好よかった。安藤よりも成瀬くんを応援したいと思えたのはひとえに窪田正孝さんの演技に惹かれたからだと思う。

賀来賢人さん、初めて本作できちんと見たけれど、一番人間らしくて好きになった。純粋に杉下のことが好きで、だからあのチェーンを掛けてしまったこと、安藤だから許せた。

小出恵介さん、私が想像していたよりもずっと西崎さんにぴったりだった。西崎さんの哲学的で文学的なよく分からない思考を見事に体現していたと思います。

小西真奈美さん、あの鼻につくしゃべり方がこんなに上手く活用されるとは。こちらもはまり役でした。

徳井義実さん、なんで徳井さんが野口さんを演じることになったのかさっぱり分かりませんでしたが(笑)違和感なかったと思います。

兎にも角にもキャストも完璧だったんです。みんな好きになった。

みんながみんな、こんな風に生きているわけじゃない。だけど、彼らの100分の1でもいい。誰かのためを思って行動できたら。それを愛と呼んでもいいだろうか。

好きだ好きだと言ってばかりで押しつけて跳ね返されたらやけになって、本当はもうそんなことはしたくない。

思いが通じ合うことだけが愛とは限らない。罪の共有、自己犠牲、私はどんな愛情を与えられるだろうか。

秘密/木原音瀬

2014-12-14 19:48:54 | 日記
"美しいこと"に続けて木原音瀬さん二作品目。

以下ネタバレ。

私は"美しいこと"の方が好きだった。理由は二つ。

一つ目は消化不良だったから。

啓太の罪を杉浦が庇うところまではすごく良かった。正義を貫く杉浦が啓太のためを思って出頭する気持ち、痛いほどよく分かる。だけど、だからこそ。

実は殺してなかったっていうのは、ハッピーエンドではなくて、拍子抜けじゃないか。

ハッピーエンドは好きですよ。本当に殺していたとして、啓太が捕まって何年も離れ離れになる結末は辛いし悲しい。だけど、実は殺してなかったなんて、逃げじゃないの。それで読者が納得すると思うの。

百歩譲って啓太の妄想でしたってことは許しましょう。その後の流れるような終わり方は一体なんなの。啓太には妄想癖がある、ってだけじゃ納得できない。病気か何かなんだとしたらそう明記して欲しいし、今回の事件のことだけじゃなくてもっと過去に遡って妄想癖だったっていう事実が欲しい。

そしてじゃあ今柳沢はどうしているのか、っていう、そこが一番大事なところでしょうよ。どこまでが妄想だったっていうの。

妄想を許したら全部が妄想で片付けられるから嫌い。妄想で終わらせるなら、妄想で終わらせなければならない明確な理由が欲しい。じゃないとただの逃げに見えてしまう。

二つ目は最初から同性愛だったから。

"美しいこと"の彼らは同性愛から始まったわけじゃない。好きになったのが、たまたま同性だった、同性になってしまった。今まではそうじゃなかった、だけどあなただから好きになってしまった。そんな風に始まった二人の恋愛だから好きになった。

けれど今回はお互いが同性を好きという設定から始まっている。もちろん他の同性とは違うからお互いにこんなにも愛せたのだろう。けれど"美しいこと"とはスタートラインが全く異なる。

最初から同性を好きな人が同性を好きになることと、異性を好きな人が同性を好きになることとでは、距離が違う。気持ちが通じ合っても、もっともっと遠い。

さて、全体的な感想。

杉浦の舌足らずな愛が、重くて痛くて切なくて、最後には好きだと思った。あんなに真っ直ぐな愛を、私は受け止められる自信はないけれど。

啓太の方が、最後には杉浦のことを好きになってたように思う。それは最初は人を殺した罪悪感から逃れるためだったかも知れないけど、「俺のこと好き?」と必死に聞く啓太は杉浦のことを本気で好きになっていたのだと思う。

杉浦は啓太が死んだら後を追うと言った。だけど啓太の言う通り、もうしばらくしたらそんなことは言わなくなるだろう。杉浦はこれからの未来が明るくなる人だ。もし杉浦が啓太の後を追ったら啓太が悲しむことを、杉浦はきっと理解できるようになる。だから私は啓太の方が後を追ってしまう気がしてならない。依存度でいったら、イーブンに見えて啓太の方が上。

こんな愛情、あり得ない。あり得たとしても、私には受け止めきれない。そう思う一方で、羨ましい、こんな風に愛されてみたい。

前作を読んだ時も思ったけれど、こんな風にストレートな愛を描けるのってなかなかない。口にすると陳腐で嘘みたいな"好き"って言葉を何度も何度も重ねるなんて。そんな上辺だけの言葉、信じられないのにいつの間にかこっちも求めてる。もっと言って、私を好きだと言って、強く抱きしめて。

心の内を洗いざらい吐き出して、私の醜い部分まで愛して受け入れてーそんな人いるはずないのに、いないから口に出さないのに。

こんなの声に出せない、それ位心の奥底に眠っている"愛して欲しい"欲望がここにはある。