通常国会が始まり、安倍総理の施政方針演説があった。最重要政策課題が「憲法改正」と「教育再生」なのだそうだが、国民が求めているものとの乖離は埋まりそうにない。しかも、与党や政権内部からも政策についての異論が相次いでいる。
教育3法改正案、国会に 再生会議報告受けて首相表明
2007年1月25日(木)01:02 (朝日新聞から引用)
政府の教育再生会議(野依良治座長)は24日、総会を開き、安倍首相にゆとり教育の見直しなどをうたった第1次報告を提出した。これを受け首相は、教員免許更新制の導入や教育委員会改革などを実現するため、25日召集の通常国会に教員免許法、地方教育行政法、学校教育法の改正案の関連3法案を提出する考えを表明した。教育改革を最重要課題と位置付けることで、支持率回復の切り札にする決意を示したものだ。与党側も首相の意向を受け、3法案の成立に全力を尽くす考えだ。
首相は記者団に法案成立の見通しを問われ、「とにかく法案をつくって、与党との議論を行い、そして提出して、国会において十分な議論をした上で成立をめざしたい」と語った。
安倍首相の内閣支持率が下げ止まらないなか、首相の肝いりで発足した教育再生会議の報告が実現しないとなれば、首相にとっては政権運営の致命傷になりかねない。このため与党としては、「首相の教育再生への並々ならぬ意欲と受け止めた」(与党国対幹部)として、首相の突然の方針表明に戸惑いながらも、国会での成立を目指す構えだ。
ただ、法案作成には時間がかかることも予想され、4月に統一地方選があることや7月には参院選を控えて会期延長が難しいことから、3法案すべてを会期内に成立させるのは「常識的に無理」(伊吹文部科学相)との見方もある。
教育再生国会早くも失速? 副長官ら“弱気”発言
2007年1月28日(日)17:07 ( 共同通信 配信記事から)
安倍晋三首相が自ら今国会への提出方針を決めた教育再生関連3法案について、複数の政府高官が今国会成立に必ずしもこだわらない考えを相次いで表明、首相が掲げる「教育再生国会」は早くもトーンダウン気味だ。
政府の教育再生会議の第1次報告取りまとめをリードした下村博文官房副長官は28日のフジテレビ番組で、3法案に関し「場合によっては夏の参院選を含め国民を巻き込んで徹底的に議論した方がいい。成立は柔軟に考えてもいい」と述べ、夏以降の次期国会での成立も視野に法案審議を進める意向を示した。
その上で特に、不適格教員排除につながる教員免許更新制導入のための教員免許法改正案を「国民的議論」(下村氏)の対象としたい考えを示唆した。
(引用おわり)
▲「教育基本法改正」のときも唐突な印象があったが、いまなぜ教育制度をいじらなければならないのか。野党が追及するように、いま緊急の課題は格差問題であろう。少子化も、年金未納も、給食費不払いも、いじめ問題も、凶悪犯罪の多発も、「教育」が問題なのか?いま起こっている問題の背景には、国民の生活不安と経済格差の拡大があるという指摘もある。宮崎県知事選で「そのまんま東」氏が自民党候補を破って圧勝したのも、既成政党の政治が当てにならないという判断を県民がしたからではないか。
最低賃金制度見直し検討 働く貧困層対策で塩崎長官
2007年1月10日(水)20:47 (共同通信配信記事から)
塩崎恭久官房長官は10日午後、都内で開かれた経済同友会の新年懇談会で講演し「非正規労働者など所得の低い人たちが出ているのは間違いない。最低賃金の問題も考えないといけない」と述べ、ワーキングプア(働く貧困層)対策として、最低賃金制度の見直しを検討する考えを示した。
生活保護についても「保護率が高い地域も、低い地域もある。(本当に)生活保護が必要なのかな、と思われるような人もいる」と見直しの必要性を指摘した。
また「安倍政権は温かみのある経済政策の務めを果たすが、基本は民間が知恵を出して頑張ることで経済を引っ張ることだ。その土俵を政府として整える」と強調。
新たな貧困 「小泉改革が生んだわけではない」
2007年1月27日(土)03:03 (産経新聞記事から)
自民党の中川秀直幹事長は26日の記者会見で、塩崎恭久官房長官が非正規労働者の増加を「新たなる貧困」問題と指摘したことについて、「小泉改革が『新たなる貧困』を生んだわけではない。そういう言葉を使うならば、定義をしっかりすべきだ」と批判した。
塩崎氏は24日の政府・与党協議会で「新たなる貧困」との用語を使用。記者会見でも「小泉構造改革のもとで非正規雇用が増えた。働いてもなかなか報われない『新たなる貧困』問題を我々も正面から受け止めて解決していかなければならない」と述べていた。
(引用おわり)
▼小泉政権と同様に安倍政権になっても政府は「格差の拡大」については公式には認めていない。塩崎官房長官が「新たなる貧困」(つまり「ワーキングプア」)に言及したことは重要であろう。中川自民党幹事長は否定したが、「格差問題」を認めることは、小泉政権の構造改革路線を否定することになる。すでに2年前にOECDのリポートでも日本の格差拡大と貧困率の高さが報告されていた。この問題に本腰を入れるのかどうか重要な政策課題になるだろう。しかし、小泉構造改革を継承する安倍政権にとってはジレンマである。
※ OECDのリポート:「OECD諸国における所得分配と貧困」(Income Distribution and Poverty in OECD Countries)2007.2
この報告書の中で、日本の貧困率は15.3%で、OECD諸国(25カ国)の中で第5位である。日本より貧困率が高い国は、メキシコ(20.3%)、米国(17.1%)、トルコ(15.9%)、アイルランド(15.4%)で、日本はこのあとに続く。(貧困率というのは、所得の中央値の半分以下の所得層の割合。)
しかし、厚労省の平成15年調査だと、年収200万円以下の世帯は18.1%。所得中央値(476万円)の半分(238万円)以下の層、つまり貧困率は、OECD諸国で最も格差が顕著なメキシコの20.3%をしのぐ勢いとなっている。実に5人に1人は貧困層だ。
もちろんこの貧困層にあたる人たちが食うに困るほどの生活状態を強いられているというような絶対的貧困を意味しているわけではない。しかし、年収200万円以下というのは生活保護対象の所得基準である。こうした低所得層が拡大している要因は何か早急に検討されるべきであろう。