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「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル
平成19年3月
平成18年度厚生労働科学研究
「医薬品等の安全管理体制の確立に関する研究」主任研究者 北澤式文
第1章 医薬品の採用
【医療安全の確保へ向けた視点】
医療機関において使用する医薬品は、医師の判断や診療各科の特徴に応じて決定されるべきものであるが、その採用に際しては、医薬品の安全性に加え、取り間違い防止の観点からも検討が行われ、採用の可否が決定される必要がある。
【手順書を定めるべき事項】
1.採用医薬品の選定
2.採用医薬品情報の作成・提供
〔解説〕
医療機関における医薬品の採用申請手順が適切に定められ、薬事委員会等で同種同効薬の比較検討が行われ、医薬品の採否が決定されることが必要である。安全面に配慮された医薬品を積極的に採用することが望ましい。また、製剤見本等を用い、取り間違い防止について客観的な評価を行うことが重要である。
さらに、採用医薬品に関する情報が薬剤部等で作成され、院内の各部門・各職種へ提供されることが重要である。
【手順書の具体的項目例】
1.採用医薬品の選定
(1)採用可否の検討・決定
①安全性に関する検討
○薬剤の特性に関する検討
・用法・用避、禁忌、相互作用、副作用、保管・管理上の注意、使用上の注意に関する問題点
○安全上の対策の必要性に関する検討
・安全上の対策の必要性とその具体的内容(使用マニュアル、注意事項の作成等)
②取り間違い防止に関する検討
○採用規格に関する検討
・一成分一品目(一規格)を原則とし、採用医薬品数は最低限とする
・同種同効薬との比較検討
・一成分一品目(一規格)の原則に外れる場合の採用の可否と対応策の検討
○名称類似品、外観類似品に関する検討(後発医薬品も含む)
・名称類似品、外観類似品の採用の回避
・頭文字3文字、語尾2文字あるいは頭文字と語尾の一致する採用医薬品の有無の確認
・包装や容器、薬剤本体(色調、形、識別記号等)の類似した既採用医薬品の有無の確認
・採用医薬品の他製品への切り替えの検討
○小包装品等の採用
・充填ミスを防止するため、充填の必要のない包装品を採用(散剤・注射剤等)
2.採用医薬品情報の作成・提供
(1)採用医薬品集の作成と定期的な見直し
○医薬品集の作成
○定期的な改定・増補
(2)新規採用医薬品に関する情報提供
→「第9章 医薬品情報の収集・管理・提供」の2.を参照
第2章医薬品の購入
【医療安全の確保へ向けた視点】
医薬品の発注、納品ミスが医療事故の原因となっているケースも見受けられる。
正確な発注と納品を確保するため、医薬品の品目・規格などの確潔手順を定め、記録の管理を行うことが必要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.医薬品の発注
2.入庫管理と伝票管理
〔解説〕
医薬品の発注に際しては、発注品目の間違いを防ぐため、発注した品目が文書等で確認できる方法で行う。
また、医薬品の納品に関しては、発注した医薬品がその品目や規格が間違いなく納品されたか検品を行う。
規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)及び特定生物由来製品については特に注意を払い、購入記録の保管を行う。特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については、検品時に名称類似、外観類似、規格違いに注意する。
【手順書の具体的項目例】
1.医薬品の発注
○医薬品の正確な発注
・商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名
○発注した品目と発注内容の記録
2.入庫管理と伝票管理
○発注した医薬品の検品
・商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名、使用期限年月日
・発注記録との照合(JANコードの照合等)
○規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)の管理
・薬事法並びに麻薬及び向騎神薬取締法の遵守
・商品名、数量、製造番号と現品との照合を行い、納品伝票等を保管
・麻薬、覚せい剤原料については譲渡証の記戦事項及び押印を確認し、2年間保管
○特定生物由来製品の管理
・納品書を保管し、製剤ごとに規格単位、製造番号、購入盤、購入年月日を記載して管理
○特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の検品
・医薬品名、名称類似、外観類似、規格違いへの注意
第3章 調剤室における医薬品の管理
【医療安全の確保へ向けた視点】
医薬品の適切な保管管理は、名称類似・外観類似による医薬品の取り間違い、規格間違い、充填ミスなどを防止する上で非常に重要であり、医薬品関連の事故を防止するための基本となる。
また、有効期間・使用期限を遵守するとともに、医薬品の品質劣化を防止するため、温度、湿度等の保管条件に留意する必要がある。
【手順書を定めるべき事項】
1.保管管理
2.品質管理
〔解説〕
医薬品棚の適切な配置や複数規格がある医薬品等への注意表記は、医薬品の取り間違いを防止する上で最も基本となる。
特に、規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)や特定生物由来製品について関係法規を遵守するとともに、特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)についても、配置のエ夫などの事故防止対策が必要である。
また、医薬品の品質確保の観点からは、有効期間・使用期限を遵守するとともに、温度、湿度、遮光等の医薬品ごとの保管条件に留意する必要がある。
【手順書の具体的項目例】
1.保管管理
(1)医薬品棚の配置
○類似名称、外観類似の医薬品がある場合の取り間違い防止対策
○同一銘柄で複数規格等のある医薬品に対する取り間違い防止対策
・規格濃度、剤形違い、記号違い等
(2)医薬品の充填
○医薬品の補充や充填時の取り間違い防止対策
・注射薬の医薬品棚への補充、散薬瓶、錠剤自動分包機への充填時等
・複数人による確認
(3)規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)
○麻薬及び向精神薬取締法、薬事法等の関係法規の遵守
・法令を遵守した使用記録の作成・保管
○適切な在庫数.種類の設定
○定期的な在庫量の確認
○他の医薬品と区別した保管、施錠管理
○盗難・紛失防止の措置
(4)特定生物由来製品
○使用配録の作成、保管
・患者ID、患者氏名、使用日、医薬品名(規格、血液型も含む)、使用製造番号、使用量
・20年間保存
(5)特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)
○他の医薬品と区別した管理
・注意喚起のための表示、配置場所の区別、取り間違い防止の工夫等
○必要に応じた使用量と在庫量の記録
2.品質管理
(1)品質管理
○有効期間・使用期限の管理
・定期的な有効期間・使用期限の確認(特にワクチン)
・有効期間・使用期限の短い医薬品から先に使用する工夫(先入れ先出し等)
○医薬品ごとの保管条件の確認・管理
・温度、湿度、遮光等に関する医薬品ごとの保管条件の確認(凍結防止など)
・保管場所ごとの温度管理、湿度管理
・可燃性薬剤の転倒防止・火気防止
○必要に応じた品質確認試験の実施
・不良品(異物混入、変色)発見時の対応、回収手順等
(2)処置薬(消毒薬等)
○定期的な有効期間・使用期限の管理
・開封後期限、調製後期限、開封日の記載
○開封後の保管方法
・変質、汚染等の防止対策、定期的な交換、つぎ足しの禁止等
第4章 病棟・各部門への医薬品の供給
【医療安全の確保へ向けた視点】
薬剤部門から病棟・各部門への医薬品の供給について、方法、時間、緊急時の対応等の手順があることは、事故防止の観点から重要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.調剤薬の病棟・各部門への供給
2.定数配置薬の病棟・各部門への供給
3.消毒薬その他処置薬、皮内反応液等の病棟・各部門への供給
〔解説〕
薬剤部門から病棟・各部門へ供給される医薬品は、病棟・各部門での使用を想定し、適切な時間に適切な方法で行われる必要がある。調剤薬はもちろん、定数配置薬、消毒薬その他処置薬や皮内反応液等についても同様である。供給される時間や方法、緊急時の対応等については、薬剤部門と病棟・各部門との合議により定めることが望ましい。
調剤薬については、緊急の場合などやむを得ない場合を除き、処方せんにより、その都度薬剤部門より供給されることが望ましい。また、規制医薬品や特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については、処方せんによりその都度薬剤部門より供給されることを原則とし、病棟への配置は必要最低限とすることが望ましい。
【手順書の具体的項目例】
1.調剤薬の病棟・各部門への供給
2.定数配置薬の病棟・各部門への供給
○供給方法
・セット交換方法または補充方法等
・供給時間
○規制医薬品や特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の供給
・使用に際しては処方せん管理を原則とし、病棟への配極は必要最低限とする
・配置薬を使用した場合は処方せんに使用済みである旨を記戦し、その都度薬剤部門より供給する
○緊急時の供給方法
・薬剤師不在時の医薬品払い出しへの医師の関与など
3.消毒薬その他処置薬、皮内反応液等の病棟・各部門への供給
○供給方法
・セット交換方法または補充方法等
・供給時間
第5章 外来患者への医薬品使用
【医療安全の確保へ向けた視点】
外来に限らず、患者に医薬品を安全に使用するには、患者情報を収集し、処方・調剤に活用することが重要である。
また、外来患者への医薬品使用において間違いを防止するには、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。さらに、医薬品情報を提供することで、患者自身が調剤薬等の間違いに気づくことも少なくない。したがって、適切な服薬指導を行うことは、医薬品に係る事故を防ぐ上でも重要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.患者情報の収集・管理・活用
2.検査・処置における医薬品使用
3.処方
4.調剤
5.調剤薬の交付・服薬指導
6.薬剤交付後の経過観察
〔解説〕
外来患者の薬物治療において安全性を確保するには、患者情報を収集・管理し、処方・調剤に活用することが重要である。また患者情報は、必要に応じて施設間あるいは職種間で共有することが望ましい。
また、検査・処置においても、医師の指示出しから実施まで指示内容が正しく伝達され、医薬品が患者へ適正に使用される体制を整備することが必要である。
外来患者への医薬品使用において間違いを防止する上では、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。調剤者は、「調剤は単なる医薬品の調製ではなく、処方の確認から患者への薬剤交付に至るまでの医薬品の安全性確保に貢献する一連の業務である」ということを認識する必要がある。
さらに、外来患者への適切な医薬品情報の提供は、副作用の防止などの面で重要な役割を担っている。患者に薬効を説明することで処方の間違いや患者の取り違いを防ぐことにつながる場合もあり、事故防止の観点からも服薬指導は大変重要である。
加えて、医薬品の副作用の発現について経過観察を行うことは、医薬品の安全使用の観点から重要である。重篤な副作用が発現した場合に備え、緊急時の体制整備や夜間・休日を含めた患者からの相談窓口を設置することが望ましい。
【手順書の具体的項目例】
1.患者情報の収集・管理・活用
○患者情報の収集・管理
・患者の既往歴、妊娠・授乳、副作用歴・アレルギー歴
・小児、高齢者の年齢、体重
・他科受診、他剤併用(一般用医薬品、健康食品を含む)
・嗜好(たばこ、アルコール等)など
○患者情報の活用
・診療録等への記録
・必要に応じた患者ごとの薬歴管理の実施
・患者情報(禁忌医薬品名等)を施設間あるいは職種間で共有する仕組みの構築(お薬手帳の活用など)
2.検査・処置における医薬品使用
○指示出し.指示受け、実施方法の確立
・緊急の場合以外は口頭指示を避ける
・口頭指示を行った場合、指示した医師は指示簿等に記録を残す
・医薬品の名称、単位、数量を伝える方法の確立(略号を使わない、復唱するなど)
・指示者、指示受け者の明確化
・指示の実施者は必要に応じて署名を行う
○医薬品使用前の確認
・医薬品、対象患者、使用部位
○ショック時の対応
・ショック時に使用する救急医薬品の配備等
3.処方
(1)正確な処方せんの記載
○必要事項の正確な記載
・患者氏名、性別、年齢、医薬品名、剤形、規格単位、分量、用法・用量等
・名称類似等に注意し判読しやすい文字で記載
・オーダリングシステムにおける誤入力の防止(頭三文字入力など)
・処方変更時に医師がコンピュータ印字を手書きで修正する場合の取扱い
○単位等の記載方法の統一
・1日量と1回量
・mgとmL、mLと単位、gとバイアル等
・散剤、水剤、注射剤の処方時は濃度(%)まで記載
・散剤を主薬量(成分量)で妃載する場合はその旨を明記
・1V(バイアル)、lU(単位)、1V(静脈注射)など、誤りやすい記載を避ける
(2)処方変更時の説明
○変更内容の患者への説明
4.調剤
(1)処方鑑査
無理な判読、判読間違いは重大な事故の原因となるため、慎重に確認する。
○処方せんの記載事項の確認
・処方年月日、患者氏名、性別、年齢等
・医薬品名、剤形、規格、含趣、濃度(%)等
・用法・用量(特に小児、高齢者)
・投与期間(特に休薬期間が設けられている医薬品や服薬期間の管理が必要な医薬品、定期的検査が必要な医薬品等)
・重複投与、相互作用、配合変化、医薬品の安定性等
○患者情報・薬歴に基づいた処方内容の確認
・重複投与、投与禁忌、相互作用、アレルギー歴、副作用歴等
(2)疑義照会
処方内容に疑義がある場合には処方医への問い合わせを行い、必ず疑義が解決されてから調剤を行う。
○疑義内容の確認
○疑義照会後の対応と記録
・照会元においては、照会内容、処方変更の内容、照会者及び回答者を調剤録等に記録
・照会先においては、処方変更内容等を診療録に反映
(3)調剤業務
正確な調剤業務は医薬品の適正使用の大前提である。調剤者は調剤過誤がもたらす危険性を常に意織し、必要に応じた業務環境の整備、業務内容の見直しを行うことが重要である。
①患者の安全に視点をおいた調剤業務の実施
○調剤用設備・機器の保守・点検
・使用時の確認(散剤秤量前の計量器のゼロ点調整、水平確認等)
・日常点検、定期点検の実施(分包器等)
○取り間違い防止対策
・外観類似、名称類似、複数規格のある医薬品への対策
○調剤業務に係る環境整備
・コンタミネーション(異物混入、他剤混入)の防止
・調製時の調剤者の被爆防止
②内服薬・外用薬の調剤
○散剤や液剤の調剤間違いの防止対策
・秤量間違いの防止対策(小児用量換算表の活用等)
・散剤計算の再確認、総重量の確認(秤量計算メモの活用等)
○適切な調剤方法の検討
・錠剤やカプセル剤の粉砕の可否、配合変化、製剤の安定性等
○薬袋・薬剤情報提供書の作成
・調剤年月日、患者氏名、用法・用量、保管上の注意、使用上の注意等を適切に記載
③特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の調剤
○患者ごとの薬歴管理
・用法・用量、服薬期間、服薬日等
○病態と処方内容との照合
・患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか
○他薬との取り間違い防止対策
④調剤薬の鑑査
○調剤薬等の確認
・調剤者以外の者による確認(調剤者以外の者がいない場合には、時間をおいて確認するなどの工夫)
・処方鑑査、疑義照会の再確認
・処方せんと調剤薬の照合
・散剤の秤趣、分包の間違え、誤差等の確認、異物混入の確認
・一包化した医薬品の確認・処方せんの記載事項と薬袋・ラベルの記載事項の照合
5.調剤薬の交付・服薬指導
○患者、処方せん、医薬品、薬袋等の照合・確認
・患者氏名の確認方法の確立と周知徹底
・患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか
○調剤薬の交付
・薬剤の実物と薬剤情報提供文書を患者に示しながらの説明
○医薬品情報の提供
・薬効、用法・用遮及び飲み忘れた場合の対処方法等
・処方の変更点
・注意すべき副作用の初期症状及び発現時の対処法
・転倒のリスク(服薬による眠気、筋力低下、意識消失など)
・使用する医療機器、医療材料などの使用方法等
・その他服用に当たっての留意点(注意すべき他の医薬品や食物との相互作用、保管方法等)
・薬剤情報提供文書、パンフレット、使用説明書等の活用
6.薬剤交付後の経過観察
○患者情報の収集と処方医への情報提供
・副作用の初期症状の可能性、コンプライアンス等
○緊急時のための体制整備
・病診連携、薬薬連携等の施般間における協力体制の整備
・対応手順の整備(副作用初期症状の確認、服用薬剤及び医薬品との関連の確認、特定薬剤の血中濃度モニタリング実施等)
○患者等からの相談窓口の設置
・夜間・休日の体制整備
・患者への広報
第6章 在宅患者への医薬品使用
【医療安全の確保へ向けた視点】
在宅患者(施設入所者を含む)の薬物療法の安全性を確保するには、患者の食事、排泄、移動など生活環境を考慮した処方・調剤、投与が行われるとともに、コンプライアンスの確保、飲み間違い防止、副作用の早期発見及び重篤化防止、重複投与
及び相互作用の防止等のために、的確な管理及び服薬指導を行うことが重要である。各医療職が連携し、在宅患者への管理・指導を行うことで、治療効果と安全性の両方の向上が期待できる。
【手順書を定めるべき事項】
1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択
2.患者居宅における医薬品の使用と管理
3.在宅患者または介護者への服薬指導
4.患者容態急変時に対応できる体制の整備
〔解説〕
剤形の選択や調剤方法のエ夫は、在宅患者の薬物療法の安全性を確保する上での重要な要素である。
患者居宅における医薬品の安全を確保するため、患者の状態を踏まえ、医薬品を使用する際の管理者や保管状況等の確認を行う。また必要に応じ、服薬の状況や保管の状況を記録し、連携する医療職が閲覧できるようにすることが望ましい。
【手順書の具体的項目例】
1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択
○剤形の検討と選択
・患者の状態を考慮した服用(使用)しやすい剤形
○用法の検討と選択
・患者の生活環境(食事、排泄、移動など)を踏まえた用法(使用法)
○調剤方法の検討と選択
・一包化、粉砕、簡易懸濁法の可否など患者特性を踏まえた調剤方法
・経管チューブによる投与が可能か否かの確認(例:腸溶製剤は不可)
2.患者居宅における医薬品の使用と管理
○医薬品の管理者及び保管状況の確認
・患者の管理能力、管理者の必要性
・冷所保存、遮光保存等の適正な保管・管理
○副作用及び相互作用等の確認
・副作用の初期症状の観察
・他科受診、一般用医薬品を含む使用医薬品等
・コンブライアンス
○連携する医療職・介護職が閲覧できる記録の作成
・コンブライアンス、保管状況等
3.在宅患者または介護者への服薬指導
○患者の理解度に応じた指導
・表示、表現、記載等の工夫
・服薬カレンダー、点字シール等の活用
○服薬の介助を行っている介護者への指導
・服用上の注意事項、保管・管理上の留意事項、服用後の症状の変化に対する注意等
4.患者容態急変時に対応できる体制の整備
○夜間・休日の対応方法
・緊急連絡先の周知等
第7章 病棟における医薬品の管理
【医療安全の確保へ向けた視点】
病棟においても、調剤室と同様の保管管理、品質管理が必要である。さらに、病棟における医薬品の在庫は、事故防止や品質の確保を考慮し、必要最低限にとどめ、定数管理を行うことが重要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.保管管理
2.品質管理
3.危険物の管理
〔解説〕
病棟においても、調剤室と同様の保管管理及び品質管理を行い、取り間違い防止のためのエ夫を行うことが重要である。さらに、病棟における医薬品の在庫は事故防止や品質確保を考慮し、定数管理を行うことが重要である。病棟に配置する医薬品の品目や数量は、ともすれば現場の利便性を優先して決定されがちであるが、必要最低限にとどめることが望ましい。
また、医療事故の多い消毒薬や、救急カート内の医薬品、輸血用血液製剤についても、適切な保管・管理を行うことが必要である。
【手順書の具体的項目例】
1.保管管理
(1)医薬品棚の配置
(2)医薬品の定数管理
○適正な配置品目・数量の設定
・規制医薬品及び特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については必要最小量に設定
○参照可能な使用配録の作成
・使用日、使用した患者氏名、医薬品名、使用数量
○病棟で使用される医薬品の品目・数量の定期的な見直し
・使用実績、必要性からの定期的見直し
○在庫数の定期的な確認
・在庫数、使用期限の確認、確認頻度(月1回以上実施等)、記録等
(3)規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)
○在庫数の定期的な確認・記録
・1日1回以上
○勤務者の引き継ぎ時の申し送り
(4)特定生物由来製品
「第3章 調剤室における医薬品の管理」の1.の(4)参照
(5)特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)
「第3章 調剤室における医薬品の管理」の1.の(5) 参照
(6)病棟における処置薬(消毒薬等)の管理
「第3章 調剤室における医薬品の管理」の2.の(2)参照
○消毒液(原液)の誤飲防止対策
・患者の手の届く場所に保管しない
○注射薬、吸入薬との取り間違い防止対策
・消毒液と滅菌精製水の容器の類似を避ける
・消毒液を他容器に移し替えて保管しない
・希釈に注射筒を使用しない
(7)救急カート
○救急薬の品目及び数量の設定
・院内の合議により定めることが望ましい
○保守・管理等
・設置場所の決定、遵守
・即時使用可能な状態であるよう、常に保守・点検
・使用後であるか、点検後であって定数補充され便使用可能であるかが一見して判明するような表示方法または点検記録の整備
・目の届かない場所に置かれる場合には、施錠管理
○取り間違い防止のための配置上のエ夫
・レイアウト、表示等
(8)輸血用血液製剤の保管・管理
→「第12章 輸血・血液管理部門」
○輸血関連業務を行う部門との引き継ぎ方法及び管理責任の明確化
・発注、供給、受け渡し、保管、返却、廃棄等
・時間外・休日の責任体制
○保管・管理体制
・各製剤に適した保管・管理体制の整備(輸血用血液製剤の種類によって保管・管理方法が異なる)
・使用した血液の製造番号を患者ごとに記録・保存
2.品質管理
→「第3章」の2を参照
3.危険物の管理
○消毒薬の管理
○患者の持ち込み医薬品等への対応
「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル
平成19年3月
平成18年度厚生労働科学研究
「医薬品等の安全管理体制の確立に関する研究」主任研究者 北澤式文
第1章 医薬品の採用
【医療安全の確保へ向けた視点】
医療機関において使用する医薬品は、医師の判断や診療各科の特徴に応じて決定されるべきものであるが、その採用に際しては、医薬品の安全性に加え、取り間違い防止の観点からも検討が行われ、採用の可否が決定される必要がある。
【手順書を定めるべき事項】
1.採用医薬品の選定
2.採用医薬品情報の作成・提供
〔解説〕
医療機関における医薬品の採用申請手順が適切に定められ、薬事委員会等で同種同効薬の比較検討が行われ、医薬品の採否が決定されることが必要である。安全面に配慮された医薬品を積極的に採用することが望ましい。また、製剤見本等を用い、取り間違い防止について客観的な評価を行うことが重要である。
さらに、採用医薬品に関する情報が薬剤部等で作成され、院内の各部門・各職種へ提供されることが重要である。
【手順書の具体的項目例】
1.採用医薬品の選定
(1)採用可否の検討・決定
①安全性に関する検討
○薬剤の特性に関する検討
・用法・用避、禁忌、相互作用、副作用、保管・管理上の注意、使用上の注意に関する問題点
○安全上の対策の必要性に関する検討
・安全上の対策の必要性とその具体的内容(使用マニュアル、注意事項の作成等)
②取り間違い防止に関する検討
○採用規格に関する検討
・一成分一品目(一規格)を原則とし、採用医薬品数は最低限とする
・同種同効薬との比較検討
・一成分一品目(一規格)の原則に外れる場合の採用の可否と対応策の検討
○名称類似品、外観類似品に関する検討(後発医薬品も含む)
・名称類似品、外観類似品の採用の回避
・頭文字3文字、語尾2文字あるいは頭文字と語尾の一致する採用医薬品の有無の確認
・包装や容器、薬剤本体(色調、形、識別記号等)の類似した既採用医薬品の有無の確認
・採用医薬品の他製品への切り替えの検討
○小包装品等の採用
・充填ミスを防止するため、充填の必要のない包装品を採用(散剤・注射剤等)
2.採用医薬品情報の作成・提供
(1)採用医薬品集の作成と定期的な見直し
○医薬品集の作成
○定期的な改定・増補
(2)新規採用医薬品に関する情報提供
→「第9章 医薬品情報の収集・管理・提供」の2.を参照
第2章医薬品の購入
【医療安全の確保へ向けた視点】
医薬品の発注、納品ミスが医療事故の原因となっているケースも見受けられる。
正確な発注と納品を確保するため、医薬品の品目・規格などの確潔手順を定め、記録の管理を行うことが必要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.医薬品の発注
2.入庫管理と伝票管理
〔解説〕
医薬品の発注に際しては、発注品目の間違いを防ぐため、発注した品目が文書等で確認できる方法で行う。
また、医薬品の納品に関しては、発注した医薬品がその品目や規格が間違いなく納品されたか検品を行う。
規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)及び特定生物由来製品については特に注意を払い、購入記録の保管を行う。特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については、検品時に名称類似、外観類似、規格違いに注意する。
【手順書の具体的項目例】
1.医薬品の発注
○医薬品の正確な発注
・商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名
○発注した品目と発注内容の記録
2.入庫管理と伝票管理
○発注した医薬品の検品
・商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名、使用期限年月日
・発注記録との照合(JANコードの照合等)
○規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)の管理
・薬事法並びに麻薬及び向騎神薬取締法の遵守
・商品名、数量、製造番号と現品との照合を行い、納品伝票等を保管
・麻薬、覚せい剤原料については譲渡証の記戦事項及び押印を確認し、2年間保管
○特定生物由来製品の管理
・納品書を保管し、製剤ごとに規格単位、製造番号、購入盤、購入年月日を記載して管理
○特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の検品
・医薬品名、名称類似、外観類似、規格違いへの注意
第3章 調剤室における医薬品の管理
【医療安全の確保へ向けた視点】
医薬品の適切な保管管理は、名称類似・外観類似による医薬品の取り間違い、規格間違い、充填ミスなどを防止する上で非常に重要であり、医薬品関連の事故を防止するための基本となる。
また、有効期間・使用期限を遵守するとともに、医薬品の品質劣化を防止するため、温度、湿度等の保管条件に留意する必要がある。
【手順書を定めるべき事項】
1.保管管理
2.品質管理
〔解説〕
医薬品棚の適切な配置や複数規格がある医薬品等への注意表記は、医薬品の取り間違いを防止する上で最も基本となる。
特に、規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)や特定生物由来製品について関係法規を遵守するとともに、特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)についても、配置のエ夫などの事故防止対策が必要である。
また、医薬品の品質確保の観点からは、有効期間・使用期限を遵守するとともに、温度、湿度、遮光等の医薬品ごとの保管条件に留意する必要がある。
【手順書の具体的項目例】
1.保管管理
(1)医薬品棚の配置
○類似名称、外観類似の医薬品がある場合の取り間違い防止対策
○同一銘柄で複数規格等のある医薬品に対する取り間違い防止対策
・規格濃度、剤形違い、記号違い等
(2)医薬品の充填
○医薬品の補充や充填時の取り間違い防止対策
・注射薬の医薬品棚への補充、散薬瓶、錠剤自動分包機への充填時等
・複数人による確認
(3)規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)
○麻薬及び向精神薬取締法、薬事法等の関係法規の遵守
・法令を遵守した使用記録の作成・保管
○適切な在庫数.種類の設定
○定期的な在庫量の確認
○他の医薬品と区別した保管、施錠管理
○盗難・紛失防止の措置
(4)特定生物由来製品
○使用配録の作成、保管
・患者ID、患者氏名、使用日、医薬品名(規格、血液型も含む)、使用製造番号、使用量
・20年間保存
(5)特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)
○他の医薬品と区別した管理
・注意喚起のための表示、配置場所の区別、取り間違い防止の工夫等
○必要に応じた使用量と在庫量の記録
2.品質管理
(1)品質管理
○有効期間・使用期限の管理
・定期的な有効期間・使用期限の確認(特にワクチン)
・有効期間・使用期限の短い医薬品から先に使用する工夫(先入れ先出し等)
○医薬品ごとの保管条件の確認・管理
・温度、湿度、遮光等に関する医薬品ごとの保管条件の確認(凍結防止など)
・保管場所ごとの温度管理、湿度管理
・可燃性薬剤の転倒防止・火気防止
○必要に応じた品質確認試験の実施
・不良品(異物混入、変色)発見時の対応、回収手順等
(2)処置薬(消毒薬等)
○定期的な有効期間・使用期限の管理
・開封後期限、調製後期限、開封日の記載
○開封後の保管方法
・変質、汚染等の防止対策、定期的な交換、つぎ足しの禁止等
第4章 病棟・各部門への医薬品の供給
【医療安全の確保へ向けた視点】
薬剤部門から病棟・各部門への医薬品の供給について、方法、時間、緊急時の対応等の手順があることは、事故防止の観点から重要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.調剤薬の病棟・各部門への供給
2.定数配置薬の病棟・各部門への供給
3.消毒薬その他処置薬、皮内反応液等の病棟・各部門への供給
〔解説〕
薬剤部門から病棟・各部門へ供給される医薬品は、病棟・各部門での使用を想定し、適切な時間に適切な方法で行われる必要がある。調剤薬はもちろん、定数配置薬、消毒薬その他処置薬や皮内反応液等についても同様である。供給される時間や方法、緊急時の対応等については、薬剤部門と病棟・各部門との合議により定めることが望ましい。
調剤薬については、緊急の場合などやむを得ない場合を除き、処方せんにより、その都度薬剤部門より供給されることが望ましい。また、規制医薬品や特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については、処方せんによりその都度薬剤部門より供給されることを原則とし、病棟への配置は必要最低限とすることが望ましい。
【手順書の具体的項目例】
1.調剤薬の病棟・各部門への供給
2.定数配置薬の病棟・各部門への供給
○供給方法
・セット交換方法または補充方法等
・供給時間
○規制医薬品や特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の供給
・使用に際しては処方せん管理を原則とし、病棟への配極は必要最低限とする
・配置薬を使用した場合は処方せんに使用済みである旨を記戦し、その都度薬剤部門より供給する
○緊急時の供給方法
・薬剤師不在時の医薬品払い出しへの医師の関与など
3.消毒薬その他処置薬、皮内反応液等の病棟・各部門への供給
○供給方法
・セット交換方法または補充方法等
・供給時間
第5章 外来患者への医薬品使用
【医療安全の確保へ向けた視点】
外来に限らず、患者に医薬品を安全に使用するには、患者情報を収集し、処方・調剤に活用することが重要である。
また、外来患者への医薬品使用において間違いを防止するには、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。さらに、医薬品情報を提供することで、患者自身が調剤薬等の間違いに気づくことも少なくない。したがって、適切な服薬指導を行うことは、医薬品に係る事故を防ぐ上でも重要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.患者情報の収集・管理・活用
2.検査・処置における医薬品使用
3.処方
4.調剤
5.調剤薬の交付・服薬指導
6.薬剤交付後の経過観察
〔解説〕
外来患者の薬物治療において安全性を確保するには、患者情報を収集・管理し、処方・調剤に活用することが重要である。また患者情報は、必要に応じて施設間あるいは職種間で共有することが望ましい。
また、検査・処置においても、医師の指示出しから実施まで指示内容が正しく伝達され、医薬品が患者へ適正に使用される体制を整備することが必要である。
外来患者への医薬品使用において間違いを防止する上では、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。調剤者は、「調剤は単なる医薬品の調製ではなく、処方の確認から患者への薬剤交付に至るまでの医薬品の安全性確保に貢献する一連の業務である」ということを認識する必要がある。
さらに、外来患者への適切な医薬品情報の提供は、副作用の防止などの面で重要な役割を担っている。患者に薬効を説明することで処方の間違いや患者の取り違いを防ぐことにつながる場合もあり、事故防止の観点からも服薬指導は大変重要である。
加えて、医薬品の副作用の発現について経過観察を行うことは、医薬品の安全使用の観点から重要である。重篤な副作用が発現した場合に備え、緊急時の体制整備や夜間・休日を含めた患者からの相談窓口を設置することが望ましい。
【手順書の具体的項目例】
1.患者情報の収集・管理・活用
○患者情報の収集・管理
・患者の既往歴、妊娠・授乳、副作用歴・アレルギー歴
・小児、高齢者の年齢、体重
・他科受診、他剤併用(一般用医薬品、健康食品を含む)
・嗜好(たばこ、アルコール等)など
○患者情報の活用
・診療録等への記録
・必要に応じた患者ごとの薬歴管理の実施
・患者情報(禁忌医薬品名等)を施設間あるいは職種間で共有する仕組みの構築(お薬手帳の活用など)
2.検査・処置における医薬品使用
○指示出し.指示受け、実施方法の確立
・緊急の場合以外は口頭指示を避ける
・口頭指示を行った場合、指示した医師は指示簿等に記録を残す
・医薬品の名称、単位、数量を伝える方法の確立(略号を使わない、復唱するなど)
・指示者、指示受け者の明確化
・指示の実施者は必要に応じて署名を行う
○医薬品使用前の確認
・医薬品、対象患者、使用部位
○ショック時の対応
・ショック時に使用する救急医薬品の配備等
3.処方
(1)正確な処方せんの記載
○必要事項の正確な記載
・患者氏名、性別、年齢、医薬品名、剤形、規格単位、分量、用法・用量等
・名称類似等に注意し判読しやすい文字で記載
・オーダリングシステムにおける誤入力の防止(頭三文字入力など)
・処方変更時に医師がコンピュータ印字を手書きで修正する場合の取扱い
○単位等の記載方法の統一
・1日量と1回量
・mgとmL、mLと単位、gとバイアル等
・散剤、水剤、注射剤の処方時は濃度(%)まで記載
・散剤を主薬量(成分量)で妃載する場合はその旨を明記
・1V(バイアル)、lU(単位)、1V(静脈注射)など、誤りやすい記載を避ける
(2)処方変更時の説明
○変更内容の患者への説明
4.調剤
(1)処方鑑査
無理な判読、判読間違いは重大な事故の原因となるため、慎重に確認する。
○処方せんの記載事項の確認
・処方年月日、患者氏名、性別、年齢等
・医薬品名、剤形、規格、含趣、濃度(%)等
・用法・用量(特に小児、高齢者)
・投与期間(特に休薬期間が設けられている医薬品や服薬期間の管理が必要な医薬品、定期的検査が必要な医薬品等)
・重複投与、相互作用、配合変化、医薬品の安定性等
○患者情報・薬歴に基づいた処方内容の確認
・重複投与、投与禁忌、相互作用、アレルギー歴、副作用歴等
(2)疑義照会
処方内容に疑義がある場合には処方医への問い合わせを行い、必ず疑義が解決されてから調剤を行う。
○疑義内容の確認
○疑義照会後の対応と記録
・照会元においては、照会内容、処方変更の内容、照会者及び回答者を調剤録等に記録
・照会先においては、処方変更内容等を診療録に反映
(3)調剤業務
正確な調剤業務は医薬品の適正使用の大前提である。調剤者は調剤過誤がもたらす危険性を常に意織し、必要に応じた業務環境の整備、業務内容の見直しを行うことが重要である。
①患者の安全に視点をおいた調剤業務の実施
○調剤用設備・機器の保守・点検
・使用時の確認(散剤秤量前の計量器のゼロ点調整、水平確認等)
・日常点検、定期点検の実施(分包器等)
○取り間違い防止対策
・外観類似、名称類似、複数規格のある医薬品への対策
○調剤業務に係る環境整備
・コンタミネーション(異物混入、他剤混入)の防止
・調製時の調剤者の被爆防止
②内服薬・外用薬の調剤
○散剤や液剤の調剤間違いの防止対策
・秤量間違いの防止対策(小児用量換算表の活用等)
・散剤計算の再確認、総重量の確認(秤量計算メモの活用等)
○適切な調剤方法の検討
・錠剤やカプセル剤の粉砕の可否、配合変化、製剤の安定性等
○薬袋・薬剤情報提供書の作成
・調剤年月日、患者氏名、用法・用量、保管上の注意、使用上の注意等を適切に記載
③特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の調剤
○患者ごとの薬歴管理
・用法・用量、服薬期間、服薬日等
○病態と処方内容との照合
・患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか
○他薬との取り間違い防止対策
④調剤薬の鑑査
○調剤薬等の確認
・調剤者以外の者による確認(調剤者以外の者がいない場合には、時間をおいて確認するなどの工夫)
・処方鑑査、疑義照会の再確認
・処方せんと調剤薬の照合
・散剤の秤趣、分包の間違え、誤差等の確認、異物混入の確認
・一包化した医薬品の確認・処方せんの記載事項と薬袋・ラベルの記載事項の照合
5.調剤薬の交付・服薬指導
○患者、処方せん、医薬品、薬袋等の照合・確認
・患者氏名の確認方法の確立と周知徹底
・患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか
○調剤薬の交付
・薬剤の実物と薬剤情報提供文書を患者に示しながらの説明
○医薬品情報の提供
・薬効、用法・用遮及び飲み忘れた場合の対処方法等
・処方の変更点
・注意すべき副作用の初期症状及び発現時の対処法
・転倒のリスク(服薬による眠気、筋力低下、意識消失など)
・使用する医療機器、医療材料などの使用方法等
・その他服用に当たっての留意点(注意すべき他の医薬品や食物との相互作用、保管方法等)
・薬剤情報提供文書、パンフレット、使用説明書等の活用
6.薬剤交付後の経過観察
○患者情報の収集と処方医への情報提供
・副作用の初期症状の可能性、コンプライアンス等
○緊急時のための体制整備
・病診連携、薬薬連携等の施般間における協力体制の整備
・対応手順の整備(副作用初期症状の確認、服用薬剤及び医薬品との関連の確認、特定薬剤の血中濃度モニタリング実施等)
○患者等からの相談窓口の設置
・夜間・休日の体制整備
・患者への広報
第6章 在宅患者への医薬品使用
【医療安全の確保へ向けた視点】
在宅患者(施設入所者を含む)の薬物療法の安全性を確保するには、患者の食事、排泄、移動など生活環境を考慮した処方・調剤、投与が行われるとともに、コンプライアンスの確保、飲み間違い防止、副作用の早期発見及び重篤化防止、重複投与
及び相互作用の防止等のために、的確な管理及び服薬指導を行うことが重要である。各医療職が連携し、在宅患者への管理・指導を行うことで、治療効果と安全性の両方の向上が期待できる。
【手順書を定めるべき事項】
1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択
2.患者居宅における医薬品の使用と管理
3.在宅患者または介護者への服薬指導
4.患者容態急変時に対応できる体制の整備
〔解説〕
剤形の選択や調剤方法のエ夫は、在宅患者の薬物療法の安全性を確保する上での重要な要素である。
患者居宅における医薬品の安全を確保するため、患者の状態を踏まえ、医薬品を使用する際の管理者や保管状況等の確認を行う。また必要に応じ、服薬の状況や保管の状況を記録し、連携する医療職が閲覧できるようにすることが望ましい。
【手順書の具体的項目例】
1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択
○剤形の検討と選択
・患者の状態を考慮した服用(使用)しやすい剤形
○用法の検討と選択
・患者の生活環境(食事、排泄、移動など)を踏まえた用法(使用法)
○調剤方法の検討と選択
・一包化、粉砕、簡易懸濁法の可否など患者特性を踏まえた調剤方法
・経管チューブによる投与が可能か否かの確認(例:腸溶製剤は不可)
2.患者居宅における医薬品の使用と管理
○医薬品の管理者及び保管状況の確認
・患者の管理能力、管理者の必要性
・冷所保存、遮光保存等の適正な保管・管理
○副作用及び相互作用等の確認
・副作用の初期症状の観察
・他科受診、一般用医薬品を含む使用医薬品等
・コンブライアンス
○連携する医療職・介護職が閲覧できる記録の作成
・コンブライアンス、保管状況等
3.在宅患者または介護者への服薬指導
○患者の理解度に応じた指導
・表示、表現、記載等の工夫
・服薬カレンダー、点字シール等の活用
○服薬の介助を行っている介護者への指導
・服用上の注意事項、保管・管理上の留意事項、服用後の症状の変化に対する注意等
4.患者容態急変時に対応できる体制の整備
○夜間・休日の対応方法
・緊急連絡先の周知等
第7章 病棟における医薬品の管理
【医療安全の確保へ向けた視点】
病棟においても、調剤室と同様の保管管理、品質管理が必要である。さらに、病棟における医薬品の在庫は、事故防止や品質の確保を考慮し、必要最低限にとどめ、定数管理を行うことが重要である。
【手順書を定めるべき事項】
1.保管管理
2.品質管理
3.危険物の管理
〔解説〕
病棟においても、調剤室と同様の保管管理及び品質管理を行い、取り間違い防止のためのエ夫を行うことが重要である。さらに、病棟における医薬品の在庫は事故防止や品質確保を考慮し、定数管理を行うことが重要である。病棟に配置する医薬品の品目や数量は、ともすれば現場の利便性を優先して決定されがちであるが、必要最低限にとどめることが望ましい。
また、医療事故の多い消毒薬や、救急カート内の医薬品、輸血用血液製剤についても、適切な保管・管理を行うことが必要である。
【手順書の具体的項目例】
1.保管管理
(1)医薬品棚の配置
(2)医薬品の定数管理
○適正な配置品目・数量の設定
・規制医薬品及び特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については必要最小量に設定
○参照可能な使用配録の作成
・使用日、使用した患者氏名、医薬品名、使用数量
○病棟で使用される医薬品の品目・数量の定期的な見直し
・使用実績、必要性からの定期的見直し
○在庫数の定期的な確認
・在庫数、使用期限の確認、確認頻度(月1回以上実施等)、記録等
(3)規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)
○在庫数の定期的な確認・記録
・1日1回以上
○勤務者の引き継ぎ時の申し送り
(4)特定生物由来製品
「第3章 調剤室における医薬品の管理」の1.の(4)参照
(5)特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)
「第3章 調剤室における医薬品の管理」の1.の(5) 参照
(6)病棟における処置薬(消毒薬等)の管理
「第3章 調剤室における医薬品の管理」の2.の(2)参照
○消毒液(原液)の誤飲防止対策
・患者の手の届く場所に保管しない
○注射薬、吸入薬との取り間違い防止対策
・消毒液と滅菌精製水の容器の類似を避ける
・消毒液を他容器に移し替えて保管しない
・希釈に注射筒を使用しない
(7)救急カート
○救急薬の品目及び数量の設定
・院内の合議により定めることが望ましい
○保守・管理等
・設置場所の決定、遵守
・即時使用可能な状態であるよう、常に保守・点検
・使用後であるか、点検後であって定数補充され便使用可能であるかが一見して判明するような表示方法または点検記録の整備
・目の届かない場所に置かれる場合には、施錠管理
○取り間違い防止のための配置上のエ夫
・レイアウト、表示等
(8)輸血用血液製剤の保管・管理
→「第12章 輸血・血液管理部門」
○輸血関連業務を行う部門との引き継ぎ方法及び管理責任の明確化
・発注、供給、受け渡し、保管、返却、廃棄等
・時間外・休日の責任体制
○保管・管理体制
・各製剤に適した保管・管理体制の整備(輸血用血液製剤の種類によって保管・管理方法が異なる)
・使用した血液の製造番号を患者ごとに記録・保存
2.品質管理
→「第3章」の2を参照
3.危険物の管理
○消毒薬の管理
○患者の持ち込み医薬品等への対応