偏屈ジジイ

　昨年のクリスマスの三連休は、食道楽で楽しく終わ……るはずだった。
　どこで間違ったのか、クリスマス当日の夜更けに、夫と険悪になってしまった。
　先に怒ったのは夫なので、後手の私は冷静に対処すべきだった──と今は思う。

　午後１１時頃、夫が先に休み、私はリビングで一日の締めにスマホを見ていた。
　零時までには寝ようと思っていると、しばらくして夫が起き出してきて、急に不機嫌になった。
　「５０のババアがいい年してスマホでゲームだなんてみっともない」というのだ。
　私がババアなら、私より年上の夫は間違いなくジジイだ、しかも偏屈の。

　ちなみに、昼間はどう過ごしていたかというと、夫はパソコンでオンライン将棋に興じ、私はスマホでゲームをしたり、無料マンガを読んだりしていた。
　私には、オンライン将棋もゲームも大差ないように思える。
　でも、ここ数年間に発生した、犬も食わない夫婦喧嘩のいくつかを振り返ると、夫の不興のおもな原因は、妻が働かずにゲームをしていることにあるようだ（家事は普通にしているつもりだけど）
　高齢ドライバーの事故が話題になった時などは、地方では免許返納するとアシがないから、地域や自治体などでバスやタクシーをうまく活用してフォローできないかな、と話したら、「どこにそんなカネがあるんだよ？　まずは自分が働いて税金を納めてから言えよ」みたいなことを言われて口論になったこともある。

　そんなことになる前に、夫は、私のスマホ（契約者は夫）を２台とも洗面所まで持って行き、水没させた上に破壊した。
　水くらいなら大丈夫かな、とのんきに構えていた私が愚かだった。
　両方とも画面が割られたのはもちろん、３月に買い替えたばかりの端末は、背面も折り曲げられて剥がれかけ、見るも無残な姿にされてしまった。
　小さなＳＩＭカードはあとで無事に取り出したけれど、データをバックアップしていなかったので、１０月の旅行写真などはブログに載せられなくなってしまった。
　ゲームについては、悲しいの一言に尽きる。
　アドベントからコツコツと進めて楽しんでいたクリスマスのイベントや、新年のイベントがプレーできなくなってしまった。

　夫の暴挙は、当然、私から罵詈雑言を引き出したけれど、根本的には無意味な破壊行為だったといえる。
　なぜなら、夫は勘違いをしているからだ。
　私はスマホに依存していたのではない。
　あくまでも趣味の一つとして楽しんでいたに過ぎない。
　スマホがなければ、他の何かがそれに取って代わるだけのこと──例えば、積読本とかに。
　実際、翌日からそうなった。
　私の余暇の過ごし方がゲームから本にシフトしたことについて、夫はしれっと「かえってよかったじゃない」と言ってのけた。
　ゲームでないなら、何に時間を割こうと気にしないのか。
　今後、新しいスマホを手にできたとしても、ゲームだけは夫がいない時にしようと思う。

　結局、私にとってスマホとは、あればとても便利だけれど、なくてもそれほど困らない物、ということで、一晩で怒りは霧散した。
　でも、忘れることはないし、許すこともたぶんない。
　自分が気に入らないからといって、人が大事に使っている物を壊すというのは、野蛮としか思えない。
　いや、許すも何も、夫には謝る気が１ミリもないばかりか、正しいことをしたと思っているようなので、お話にならない。
　夫が偏屈ジジイへの道を歩み始めたのでなければいいけれど……。