Takahiko Shirai Blog

記録「白井喬彦」

連戦・宋楚瑜訪中の意外な効果

2005-05-12 11:39:11 | 国際
台湾の国民党主席・連戦や、親民党主席・宋楚瑜の相次ぐ訪中が、どのような重要な意味を持ち、中台両国にどのような政治的効果を及ぼすのか、私には疑問でもあり、先が読めないところもあった。

ところが、産経新聞北京特派員福島香織記者が今朝(2005年5月12日)伝えてきたところによれば、連戦の4月29日の北京大学講演、宋楚瑜の5月11日の清華大学講演はいずれも、中国の若者たちに予想外の衝撃を与えたという。

今年4月、3週間連続で発生した反日デモでも、参加した若者たちの掛け声ひとつに「愛国無罪」というのがあったが、これは極めて印象的なことだった。いくら中国政府といえども、「愛国無罪」というシュプレヒコールは準備しないだろう。政府がみずから「愛国なら何をやっても無罪だ」と言ってしまえば、暴力化するデモを規制する口実はもはやなくなってしまう。

従って、「愛国無罪」というこのシュプレヒコールは、デモ参加者たちの間で自然生したものと考えたほうがよい。そして、この「愛国無罪」にこそ、自由を束縛された中国の若者たちの鬱積した気持が込められているのを感じざるを得ないのだ。

連戦の北京大学講演は私も新聞で目を通した。だが、さして感銘を受ける内容ではなかった。

しかし、講演を聴いた中国の若者たちは、連戦のこの講演を聴いて、「共産党の指導者の演説よりずっといい。敗者の国民党は反省し続け発展した」、「統一への唯一の道は民主だ。統一を邪魔しているのは台湾ではない」、「国民党は大陸に、共産党は台湾に行き、公平に競争すればいい。中国で二党制ができ統一の大事業が完成する」、「連先生の講演には涙が出た。民主と民意の角度から民族の統一の方法を検討すべきだ」などというような「驚くべき反応」を示している。

なぜ「驚くべき反応」かといえば、これら一連のコメントはいずれも、共産党一党独裁に対する痛烈な批判だからだ。共産党一党独裁に対する批判を口にしていることに私は改めて驚かされ、現在の中国国家が抱えている問題の大きさに思い至った。

今回の連戦と宋楚瑜の訪中は、先の中国全人代における「反国家分裂法」の可決成立が台湾に与えた衝撃が引き出したものだ。だが、その衝撃波は、台湾側から反射されて再び大陸側に押し寄せ、中国の政府と中国共産党そのものに多大な衝撃を及ぼすことになりはしないか。

連戦は始皇帝陵を詣でた。宋楚瑜は黄帝陵を詣でた。ふたりはともに漢民族の栄光を讃えるシーンを旅の出発点として演出した。

私にはこのような演出もまた、中国の政府と共産党に負の結果をもたらすのではなかろうかと感じる。中華人民共和国とは漢民族のみの国家ではない。昨今の愛国主義が嵩じていき、民族主義的要素を含むものへと変貌を遂げていけば、多民族国家中国は砂のようにばらならとならざるを得ない。中国が強引な台湾政策を進めていくなら、漢民族という民族主義に訴えていかざるを得ないだろう。そうすれば、逆に社会主義国家としては危機に曝されるのではなかろうか。

中華人民共和国(中国)が漢民族による民族国家ではなく、多民族から構成される社会主義国家、言い換えれば一種の「政治的結合状態」であることは、下にリンクを掲げる「中国の言語分布」を拡げてみれば改めてよくわかる。

少数民族の居住地域のひとつに、戦前の日本が植民地的関与をして歴史的責任を将来問われかねない「延辺朝鮮族自治州」という存在もある。なにしろ、当時の朝鮮半島は旧大日本帝国の一部だったし、現在の延辺朝鮮族自治州は日本の傀儡国家であった旧満州帝国の一部だった。さまざまなことが彼らのいう歴史認識問題の背後には絡んでいる。

一方、この言語分布図を見ると、中国北辺国境には大きな凹みがあることに気付く。そのくぼみには「モンゴル国」という国家が占めている。モンゴル国は以前は「モンゴル共和国」と称しており、旧ソ連の後楯で独立を維持してきた。

先日のデモでは反日プラカードに混じって「外蒙古を併合せよ!」と書かれたプラカードがあったことを見逃すわけにはいかなかった。内モンゴルばかりか、外モンゴルをも中国領土だとするのが愛国主義教育を受けた現代中国人の心情なのだろうか。それとも、中国共産党はかつてコミンテルンが打ち出した国際共産主義のドグマにまだ捉われていて、若者たちをその方向に煽動しているのだろうか。

モンゴル問題ばかりではない。私たちは、「英蔵条約」に基づくイギリスの実質庇護が喪われたまさにそのときに実行された、チベット併合(1951)という中国の手口を忘れることはできない。また、小平が始めた中越戦争(1979)の外交動機にも深い疑惑の眼差しを向けざるを得ない。


中国の言語分布



産経新聞
中国誤算、「民主化」若者に衝撃 連戦・宋楚瑜氏の講演
2005年5月12日 08:25)

 【北京=福島香織】台湾野党の連戦・国民党主席、宋楚瑜・親民党主席が十一日までに相次いで北京の名門大学で講演を行った。自由主義、民主化の賛美や台湾意識を訴える内容は、学生らから強い支持があり、ネットには「国民党が中国に来て二大政党になればいい」といった反応も。陳水扁政権への揺さぶりが狙いの中国の筋書きによる台湾野党の北京詣でだが、中国若者の政治意識に意外なインパクトも与えているようだ。

 4月29日に北京大学で行われた連氏の講演は入場券の抽選が数十倍の争奪戦で、テレビ生中継には、多くの学生がくぎ付けになった。中国では国民党へのイメージは「内戦で戦った敵」「搾取で民を苦しめた」など極めて悪い。

 ところがその悪の権化が35分の講演で少なくとも14回「自由」という言葉を使い、「大陸(中国)には政治改革の発展余地が相当ある」と中国の政治改革の必要性を訴え「一党独裁、報道統制をやめ、戒厳令を解いた」と蒋経国・元台湾総統の民主化への取り組みを評価。昨年の台湾立法委員選挙が民意を示した、と民主選挙の重みにも触れた。学生らは興奮し、拍手は16回以上にも及んだ。

 ある北京大学生は「共産党の指導者の演説よりずっといい。敗者の国民党は反省し続け発展した」という。また、ネット上のブログでは「統一への唯一の道は民主だ。統一を邪魔しているのは台湾ではない」「国民党は大陸に、共産党は台湾に行き、公平に競争すればいい。中国で二党制ができ統一の大事業が完成する」「連先生の講演には涙が出た。民主と民意の角度から民族の統一の方法を検討すべきだ」などのコメントが寄せられていた。

 一方、宋氏が11日に清華大学で行った講演では「台湾には特有の台湾意識というものがある」と説明。台湾独立意識とは別ものだとしつつも「台湾意識は長期の歴史的文脈のなかで自然に形成された土地に根付いた感情である」と訴えた。連氏に比べると中国寄りの内容だが、聴講していた化学部1年の男子学生は「台湾意識の話が印象に残った。中国は台湾の民意を尊重しないといけない」と述べていた。

 在北京の台湾系米国人記者は「学生たちは初めて台湾政治家の話をナマで聴き、相当刺激を受けたはず。台独派封じ込めを目的とした中台接近だが、中国の政治改革意識を高める思わぬ作用もありそうだ」と注目している。


■陳総統の支持率急落/連・宋氏は上昇

 【台北=河崎真澄】台湾紙、中国時報が十一日に公表した支持率調査によると、陳水扁総統に対し「満足」との回答は39%と二月時点の調査に比べ5ポイント下降する一方で、「不満」は4ポイント上昇して43%となり、支持と不支持が数字の上で逆転した。

 先に訪中した最大野党、中国国民党の連戦主席は「満足」が47%と同16ポイントも上昇。また十二日に中国共産党の胡錦濤総書記と会談する第二野党、親民党の宋楚瑜主席も「満足」が35%で6ポイントアップした。訪中による中台関係の改善努力に、台湾住民が期待感を示したと受け止められる。【2005/05/12 東京朝刊から】

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