立禅を組む事により、人は自分の持つ内的な力を より強力にすることができ、瞬間的な爆発力を養成できる。
この内部から発する瞬間的な爆発力は、一般に「気」と呼ばれている。立禅は気功法としてのこの気を養うために行うのである。
さて、気であるが、気は説明によって理解することはほとんど不可能である。もし、気を教えるものがいたとしても、それは本当の気ではなく、恐らく言葉上の気に過ぎないであろう。
中略・・
前にも述べたが、私が気の説明を王郷斉先生から受けたとき、理解できなかった。
しかし、先生が言われた通り禅の稽古を 何年も積んで後、それも中国から日本に帰り、いろいろな人との立合の中で、ある日突然「これが気だ!」と悟ったのである。
王郷斉先生は気の説明でつぎのように言われた。「気というものの雰囲気をつかむのに例を挙てみると、水の中に魚がゆっくり泳いでいる。そこに小石をポンと投げ入れると、魚はさっと泳ぎ去る。
一瞬のできごと、一瞬の速さ。 気はそれに似ている。それは一般にいう運動神経ではなくそれ以上のものである」と。
王郷斉先生が言われたことは真実であった。そして、私も弟子に同じことを言っているのである。
気が会得でき、相手との立合において気が発揮できれば、相手が攻撃してきたとき、自然な自分の体の動きに自分自身をまかせることができる。
ところが、気の会得がなければ、筋肉の鍛錬をどれだけしても、相手が攻撃してくるときに、自分も一緒に相手の方へ出ていくことはできないであろう。
勿論、玉砕覚悟で相手に突っ込んでいくことは考えられるが、そのようなことは若い一時期はできるかも知れないが、武道家のやることではない。
また、突きや蹴り技を速くするための稽古を何年しても、その速さは二倍になることはなく、あとは齢をとるにつれて遅くなる一方である。
しかし、気が会得できれば、誰でも効果的な速い突き、速い蹴り技を出すことができるであろう。
このように、相手が攻撃してくるとき、自然に無理なく無意識に相手の中に入り、しかも相手と交差するとき、常に自分の体が防御されているというのは、攻撃の速さの問題ではなく、気が会得できているか否かの問題である。
太気拳が行う立禅の姿勢は、単なる「立った姿勢」ではなく、その立ち方そのものが内臓諸器官や足・腰を鍛錬する具体的な方法であること、それ故に立禅を長く組む事が、足・腰をより強靭にすることにつながる。
立禅は、早朝、野外で組むのが最も良い。人間は自然の中で初めて新しい気力というものが湧き出るものだ。
まして、一生、武術家として歩むつもりがあれば、どこででも稽古できなければならない。
同じ場所、同じ道場で、さらに相手がいなければ練習できないというのでは「武術家」としては程遠く、単なる一人の「武術に興味ある人間」でしかない。
自然の木立に囲まれた所で禅を組むと、たとえようのないほど良い気分になり、自分も自然の一部分となる。気はこうした自然の中で禅を組むことによって生まれるのである。
「実戦中国拳法太気拳」 澤井健一著より
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