田所永世のPTAブログ

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PTA紹介シリーズその3~一人の退会者をきっかけに入会届ができたPTA

2015-05-22 17:02:33 | 日記
―今回、紹介するのは都内公立小学校のPTAです。このPTAは、一人の退会者が出たことをきっかけとして、その年度末の総会で会則を改訂し「入退会規定」を作成し、「入会届」、「退会届」まで作ってしまいました。
 若い人の使うネットスラングでいうなら「神対応キタコレ」ですし、年配の世代の言葉でいうなら「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」でしょうか。「軽率なことを」と苦々しく感じる人もいるでしょう。
 今回はきっかけになった退会者であるYさんにインタビューしてみました。Yさんは子どもが小学校に入学した年の4月からPTAの役員(ベルマーク係)になって、7月に退会を申し出たそうです。いったい何が理由だったのでしょうか?

 子どもが入学した当初、私はPTAも、やる気満々でした。
 というのも、我が子が通っていた保育園のPTA(保護者と先生の会)で役員をやっていて、それがとても望ましいものだったからです。先生、保護者の親睦と、子どものたちのためのささやかな行事のために活動することはやりがいがあって、忙しいながらも楽しくやっていました。
 それと同じように考えていたので、小学校のPTAにも悪い印象は持っていませんでした。よく言われる「やってみたら楽しい」を、私も信じていました。
 たまたま育休中だったので、時間も取れましたし、せっかくなので積極的に活動しようと思っていました。「やってみたら楽しいはず」と思っていましたから。
 ですので、委員・係り決めのアンケートでは、大変と言われる広報委員を第一希望にしました。本部役員はすでに決まっていたようですし、パソコン仕事は得意なので。
 ところが同じ登校班の方にそのことを言うと、「Yさんは下の子がまだ小さい(0歳)でしょう。小さい子どもがいる人がなると嫌がられるよ」と言われてしまいました。
 仕事をしている身としては、子どもが小さいからこそ育休が取得できて、活動時間が取れるのに、それを嫌がられるってどういう意味だか分かりませんでした。
 小さい子がいるなんて、小学生の親なら当たり前だし、その人達を排除したら誰がやるの? と。
 ここで初めて、どうもPTAはちょっと面倒くさいもののようだと気がつきました。

―補足します。一昔前のPTAでは、年度初めの学級保護者会のときにPTAの役員や委員を決めることが多かったのですが、それではなかなか決まらないし、欠席する人が多くなるので、最近は事前に書面でアンケートを取る方式が多くなっているようです。
 ちなみに、「小さい子どもがいると嫌がられる」というのは、じゃんけんやくじびきなどで半強制的に役員にさせられた人の場合、小さい子がいることを理由に、PTAの活動を休むことが多いからでしょう。
せっかくやる気があったのに、悲劇ですね。それで、どうしたのですか?

 連絡帳を通して希望を訂正させてもらい、その後の保護者会の後の係り決めでベルマークの係りになりました。
 子どもの調子が悪い時などに、ベルマークなら家でもできるだろうと考えたからです。フルタイムで働いている友人も、同じ考えでベルマーク係りを選んだようです。妊娠中の方もいました。同じように、家でもできると思ったのではないでしょうか。
 ところが、これも私の勘違いでした。
 後に、活動日を指定したプリントが配られ、それを見ると、年間に一人当たり6日、全て平日の10時〜12時、出席できない時は必ず代理を立てるか、別の日に出席とのことでした。このプリントを見て私はかなり驚きました。
 フルタイムで働いている友人はどうするつもりなのだろうと思って聞くと、全ての日を祖母に出てもらうことにしたとのことでした。
 第一回目の活動に参加してみると、そこでも理解に苦しむことがありました。
 まず、委員長が、妊娠中の方には出産予定日を聞き、「その月は無理だろうから代わりはいつできる?」「出産の翌月からは来られますよね」などという確認をしたからです。
 私は非常に驚き、口を挟むのもどうかと思いながらも「ベルマークなら家でも集計できるからそういうやり方も検討してみたらどうか」と言ってしまいました。ところが、委員長さんは「こういうものは集まってやるものです」「他の係りでも祖父母が来て義務を果たしています」などと言うので、全く話し合いになりませんでした。
 また、活動自体も納得できないことがありました。
 実は、ベルマークはその年に新設された初めての係りでした。
 ですから、各クラスにベルマークを集めに行っても、担任の先生がベルマークを集めることになったことを知らないクラスもあり、子どもたちにも周知していないので、ベルマークがほとんど集まってないのです。
 肝心のベルマークがほとんどないのに、ただ、人だけが集まっていました。
 そんな感じなので各クラスに行って集める時間を含めても1時間ほどで終わってしまうのですが、活動時間は2時間と決められているので、その後も帰れず、かたい雰囲気の中でお茶を飲み、決まった時間まで滞在するというのが常でした。
 育休中だったのでそれでも参加しようと思えばできたのですが、2時間赤ちゃんをおんぶし、お腹が空いたりして泣き止まずにいる状態に耐えながら、そのような活動に参加する意義が見いだせなくなりました。

―それはなかなか辛い状況ですね。それにしても、いまさらベルマーク係が新設される学校があるなんて思いませんでした。

 以前から有志が集まって、その人たちだけでベルマークを集めていたようで、昨年度から委員会として立ち上げることになったとのことでした。その有志の一人が、新しい委員長になったようです。
 有志が集まってやることまでは否定しませんが、こんなことになるのであれば、そのまま有志だけで活動していればよかったのに、と思います。
 有志でやっている限りは、ありがたいなと思えますが、その活動が仕事を休んでまで来なければならないものとなると、話が変わります。
 子どもたちのために何かを購入することが目的なら、大の大人が時間をかけてベルマークを集めるのは、費用対効果を考えれば合理的ではありません。
 保護者同士の親睦が目的で、そのついでにベルマークを集めるということなら分かりますが、それなら祖父母の代理を立ててまで活動するのはおかしいです。出産後間もない人が無理して来る必要もありません。
 いったい何が目的で活動しているのかさっぱりわかりませんでした。
 また、父子家庭のお父さんがどうもメンバーにいたらしく、その方が全然参加しないという話題になったことがありました。そのときに、委員長が、「来てもらいますよ、義務ですからね」とニヤリと笑ったことも記憶に残っています。これではいじめです。
 このような話を目の前で聞いているので、みんな、自分が言われる立場になりたくないと思い、言いたいことが言えなくなってしまうのだと思います。
 こうして、たった数回の活動ですっかりPTAに対する印象が変わってしまいました。
 私が体験したのは、PTAのごく一部なので、他の係りはうまくいっていたのかもしれません。でも、ベルマーク係りはおかしかったし、そのおかしさを止める術がありませんでした。

―よくわかります。Yさんが退会を考えたのは、それだけが原因ですか?

 登校班に関しても不満がありました。
 登校班は子ども一人につき一回、保護者が登校班の世話人になることになっています。世話人は1年間毎日登校班の集合場所に立ち、見送るというものです。
 昨年度なら育休中なのでできると思い、やりたいと言ったのですが、もう決まっているのでと断られました。
 しかし私は仕事をしているときは、子どもより早く出勤するので、育休期間以外の年には出来ません。今年の方にも、同じような事情があるのでしょうか? なければ代わっていただくことはできませんかと頼んだのですが、もう決まったことなので、来年以降にやってくださいの一点張りでした。
 これも相当悩みました。責任を果たすためには仕事を辞めるか人を雇わなくてはなりません。
 しかし、よく調べてみると他の登校班は当番でやっていたり、学期のはじめの週だけ見送って、あとは子どもだけで登校させたりなど、融通をきかせていました。決まったルールなどはなく、登校班ごとに話し合いで決めていたのです。
 ところが、うちの登校班は話し合いもなく、ただ、これまでのルールに従わせるやり方をとっていました。しかし、誰かが何の責任もなく決めたルールに、合意したわけでもないのに従わせるというやり方には賛成できませんでした。
 我が子が通う学校のPTAにはよく分からない暗黙のルールが沢山あります。
 説明会があるわけでも、会についての紹介の資料があるわけでもなく、問い合わせ先もないので、やり方を知りたければ周囲に聞き回るしかありません。
 でも噂話のようなルールなので統一されていないし、人によって言うことが異なります。それでもなぜか、それぞれの人が自分の信じたルールを絶対に正しいと思っていて、それを守るようにと言うのです。
 なぜそんな現状が放置されているのか、本当に不思議でした。
 このような様々な疑問を抱えるようになり、PTAについてインターネットで調べてみると、ほかにも様々な問題があることを知りました。そして、PTAが任意加入であることを知り、退会を申請して辞めようと決意したのです。

―合理的な考えですね。Yさんのように疑問や不満をもっても、なかなか退会できない人が多いと思うのですが、どうして行動に踏み切ることができたのでしょうか?

 私は、辞めることが問題提起になると思っています。同じように不満を持った人の中には、運営に入って改善しようという人もいると思いますが、私には無理でした。
 我が校のPTAは、平日の昼間に活動していることが多いので、フルタイムで外で働いている人には、参加することからしてかなり困難だと思います。
 困っていて改善したくても、意見を言うチャンスも得られないのです。
 保育園の保護者の友人に「PTAを辞めようと思っている」と相談したときには、「あなた、あんなにやる気があったのにね〜、本当ならいい働きするのにね〜。もったいない」と言われました。わがことながら、本当にそうだと思いました。
 でも、活動に積極的に参加しようと思っていても、平日の昼間、学校限定では参加できません。本来であれば、フルタイムで働いている人でも家でできることはありますし、働いているからこそ持っている特別なスキルやノウハウが、PTAなどの地域活動には活かせるはずです。
 でも、今のやり方では参加できません。これならできますと言っても、そういうやり方はしていませんと拒絶されてしまう。このようなやり方をしていたら、将来的に立ち行かなくなりますよというメッセージとして、思いきってやめようと思いました。

―なるほど。辞めることで不利益をこうむる可能性もありますが、あえて意志表示として退会を選択したわけですね。

 それからもう一つ、今のPTAのルールに則って活動すると、私自身が周りの人の権利を侵害することにもなりかねないし、それは避けたいなと思ったことも辞めた理由の一つです。
 たとえば、どの係りにしようか悩んでいるときに、「選考委員なら、簡単だよ。働いている人でも夜に電話かければいいだけだからできるよ」と言われたことがあるのですが、自分がやったことがない役目を選ぶために、どんな事情を抱えているかもわからない人に電話をかけるなんて、と違和感を覚えました。
 たとえば、「こんな仕事で、これぐらいの時間がかかるんだけど、コレだけやりがいがある。あなたなら適任だと思うからやってほしい」という意味で電話をするのなら分かりますが、「どんな仕事か知りませんし、あなたがどんな人かも知りませんが、とにかく誰かがやらなくちゃいけないし、誰もやりたくないようなのでやってください」という電話をかけることはやりたくありませんでした。

―よくわかりました。では、退会に向けて具体的にどのようなことをしたのか教えてください。

 最初は、すんなり退会できるとは思わず、PTAという組織と話し合いをしなければならないと感じたので、前段階として自分なりにかなり調べて理論武装しました。4月から疑問を抱き始めたので、4月から7月までの三か月間は調査期間にあてました。
 情報源は、インターネット、新聞記事、本、論文などです。具体的には、川端裕人さんの『PTA再活用論』や、シノドスの木村草太さんのインタビュー、岩竹美加子さんの論文『国家の装置としてのPTA』、AERA、朝日新聞の記事などです。
 また、実際に地元の教育委員会に電話し、教育委員会は任意だと認識しているのかどうかなども確認しました(もちろん、認識していました)。
 それらを調べている段階で、夫が、私が何かを調べているのに気がついたので、経緯について話し、あなたも当事者だから一緒に考えてほしいと言いました。夫はかなり合理的に物事を考える人なので、退会については、はじめから賛成でした。
 私は、子どもに影響が出ることが想像できるので、実際に退会するかどうか、かなり慎重に考えていましたが、夫は、とりあえず相手がどう出るか分からないので、退会する方向で動いてみようとの意見でした。
 案外すんなりいくかもしれないし、こじれてどうにもならないのならその時点で退会をあきらめればいい、とにかくやってみないとわからない、という感じでした。
 そこで、最終的に、子どもとも話をしました。
 PTAはそもそもこういうもので、母としてはこのような点で納得できず、辞めようと思う。本来、子どもには関係ないが、学校で差が出てしまう可能性もあると言いました。
 わが子は神経質なタイプなので、おそらく耐えられないだろうと予想したのですが、予想に反して平気で、「学校のお知らせが見られなくて忘れ物にならなければいいよ」「学校は一人で行ってもいいよ、育休中はママといける? それならうれしい」などの反応でした。1年生だから、想像が及ばない面もあるかもしれませんし、親に気を使った可能性もあります。
 このように、さまざまな検討をした末に、私が退会届を書き、夫にも見せて直し、提出しました。
 提出は郵送で、郵便物自体は校長宛。退会届自体は同じものを3つ同封し、校長、副校長、PTA会長宛の文章にしました。

―話を聞いているだけでドキドキしてきますね。それで、どのような反応がありましたか?

 退会届を郵送してから数日後、副校長より電話があり、実際に会って話し合いたいと言われました。文書かメールで返事がほしいと書いたのですが、一度くらいは会って話すことも必要だと思い、時間を調整し、夫と二人で話し合いにのぞみました。夏休み直前のことだったと思います。
 話し合いのメンバーは、校長、副校長、PTA会長、私達夫婦(と乳飲み子の第三子)です。話はトータル2時間程度でしたが、途中で第三子が泣き出し、また第二子の保育園のお迎えもあったので、私は中途退出し、後は夫が話をしました。
 ボイスレコーダーも持参し、録音することも了解していただいてから話をしました。
 話し合いはまず、校長から、なぜ退会しようと思ったのかの経緯を教えてほしいと言われ、さきほどの内容を話しました。
 退会理由を述べた後に、PTAが任意加入の団体であることの確認をしました。みなさん任意加入であることは認めましたが、いままで辞めようとする人はいなかったので、辞める人をどのように扱うかについては考えられていないとのことでした。
 PTA会長は、退会したら子どもも区別されるという考えのようでした。退会したら登校班にも入れなくなるし、PTAからの配布物も渡せないし、PTA主催の行事に子どもが参加できなくなるし、PTAからの入学祝、卒業祝いもあげられなくなると言われました。
 私たちはそれらの点について、自分たちの意見を言い、相手の意見も聞き、食い違う点を洗い出しました。さらに、一つずつ根拠を示しながら意見を言い、相手にも根拠を示してもらいながら意見を言ってもらい、結論を出すということを生真面目にやりました。
 また、そもそも私達は会員なのか、会員だとしたらいったいいつの時点からなのか、などもうかがいました。
 PTA会長の考えでは、入学式でPTAからの入学祝を受け取ったことと、規約を受け取ったことによって入会になるとのことでした。
 規約は子どもが先生を通して受け取りますし、入学祝は入学式後に配られる教科書などと一緒に配布されました。鉛筆と連絡帳です。忙しい入学式後、どれがPTAからのプレゼントなのかも正直理解していませんでした。
 これについては、そのようなやり方が社会通念上ありえるかなどの話をしました。
 また、活動の強制性についても話をしました。
入学式に配られた委員・係の希望調査には、活動に参加できない場合はかならず代理をたてることや、希望の係りになれない場合もあること、係り決めの日にいない場合は、クラスに一任されるなどの記載がありました。これは問題だと思うと伝えたところ、校長は「それは知らなかったですが、代理を立てる必要なんてないです、それはおかしいですよと」本心からおっしゃってくれたようでした。
 そのほか、任意団体なのだから退会者の扱いをどのようにするのかきちんと決めるべきだし、入学説明会で、入会の意思確認をすべきだと伝えました。
退会者の扱いについては、学校を含めて、PTAの役員で話し合う必要があるので、その話し合いをしてからでないと、結論は出せないとのことでしたので、返答の期限を決めて、話し合いは終わりました。

―ちなみに、向こうは、どのような方たちだったのでしょうか?

 校長先生は常に丁寧に親身に話を聞いてくれました。意見の対立はありましたが、信用できる人だと感じました。
 PTA会長は、あまり論理的に話が出来る人ではないように感じました。しかし、たまたまこの年に会長をやっていただけでこのような立場に立たなくてはならなくなり、きのどくに感じるところもありました。
 副校長は典型的な副校長だと思います。いつも無理難題を押し付けられ困っているという雰囲気です。話し合いの場でも「今までこうやってきたからなぁ…」を何度も繰り返されていました。そのたびに「今までやってきたのは知っていますが、おかしいものはおかしいのですからきちんとしてください」と繰り返しました。別のところで会えば、愛すべきおじさんという感じです。

―では、その後の経過について教えてください。

 その後、待てど暮らせど何の連絡もなく、待ちきれなくなり一か月後に再度手紙を送りました。
 内容としては、前回話し合った内容をまとめ、間違いがないか、それについての解答はどのようになっているか、また、前回話をしたときの、私たちの主張の根拠となる資料(新聞記事など)も一緒に送りました。
 数日後、副校長から連絡があり、また会って話しをしたいと告げられました。
 しかし、前回と同じになるような気がしたので、意見の対立している点について学校側から返事をもらい、PTAの役員会を開いてからでないと、話し合いには応じないと伝えました。
 あちらは、話し合いの後、ほとんど何も進んでいないにもかかわらず、とにかく会って話しましょうという感じでした。
 相手側が何も進展がないにもかかわらず、乳児を連れての状態で話をしても結果が出ないと思ったからです。この時は何度も話し合いを断りました。

―たしかに、学校の先生方って、すぐに「会って話しましょう」と言いますよね。あれは「教育」現場の神話の一つだと思います。実際に会って話すことにかけがえのない価値を感じているというか。会って話すことの大切さを否定するわけではありませんが、忙しいときにはメールや電話の活用もありだと思います。

 私は非常に身近なところに、公務員の人がいるので、公務員(教員)の対応について、想像できるところがあります。
 公務員は次のように考えることが多いと思います。「とにかくよく話を聞け、不満を言っている人の中には家庭の悩みや仕事の悩みを抱えて、どこにも言えず、捌け口として公務員に不満を言う人もいるといる。不満を聞いて、共感すればそれだけで納得することもある」と。確かにそのようなことも多いようです。だから、教員の中には、話を聞いたり、共感したりするだけで、済ませてしまう人が結構いるのではないかと思います。
 ですから、そうならないように、一つずつ問題点をあげ、きちんと回答をもらえるようにしました。
 今回の話合いではPTAについて根拠が示せなくなったため、仕方なく合意という感じになったのではないかと思っています。また、今まであまり考えたことがなかったのですが、改めて考えると、はじめに期限を決めて、いつまでに誰が何をするか、合意していたことは大きかったと思います。
 最終的に、時間はかかりましたが、新学期の始まる直前に、何とか回答をメールでいただくことができました。短期間に、校長、会長、PTA役員で大急ぎで考えたという印象をうけました。そして、再度対面で話し合い、その後はメールで確認して全ての項目について合意しました。
 合意した項目は、「退会を認める」「親がPTA非会員でも、学校において子どもは何も区別されない」「非会員の子どもでも登校班に参加できる」「PTA会員が活動に参加できないときに代理を立てる必要はない」「来年度以降は入学説明会でPTAについて説明し、加入の意思がない場合は申し出てもらうようにする」「学校での配布物は全員に配布。しかし、プレゼントに関してはPTAは非会員に実費を請求することが出来る」「PTA主催行事に、子どもは実費を払えば参加することができる」などです。

―話を聞いていると、Yさん夫妻が非常に論理的であったと感じます。そのような経歴があるのでしょうか?

 私たち夫婦は、ごく普通の保護者だと思います。けれど、二人ともコテコテの理系なので、説明が合理的であったことは事実だと思います。特に夫は、話し合いの場では感情があるのかと思うほどです。「なるほど、おっしゃる意味は非常に良くわかりました。全く同意できませんが。」など、普通の表情で淡々と言うタイプです。
 ただ、学校はこのような意思決定のプロセスには慣れていないように思います。教育の場とは一般社会とは違い合理的であることが間違いになる場合があります。
 市場の原理をそのまま適用できるものではない。そうはいっても、合理的であることが必要な場合もあるのですが、こういった考え方に慣れていないため、情緒的、感情的なことのほうが重要視されてしまうのではないかと想像します。

―9月からPTA非会員になったわけですが、何かそれで生活が変わったことはありましたか? 周囲の人の反応はどうですか?

 私の知り合いはPTAをやめても今までと変わりなく付き合ってくれています。共感もしてくれます。仲の良い人からは、PTAの不満について聞く、愚痴係りのようになっています。
 仲の良い人以外にはPTA退会の話はしていません。たぶん、周りで「誰が辞めてるんだろうね~」という話になれば「え、私だよ」と言いますが、いまのところそんな話にはなっていないので、それをわざわざ言うのもおかしいなと思ってしていないというところです。
 私は保育園の保護者つながりで知り合いになる人が多いので、話をする保護者は仕事を持っている人がほとんどです。そうなると、PTA活動に積極的でない人が多いので、私を非難する人も少ないのかもしれません。
 だからといって、私の周りの友人は今のところ退会はしていません。でも私といるとき「今年は○○係をやろうと思うんだ」などの話も私もいる場で普通にしています。それも特に違和感はないですね。
 今のところ、子どももいたって平和に学校に通っていますし、私も特にいやな思いはしていません。辞めてよかったと思っています。
 でも、やはり退会者の仲間がいるわけではない。完全にマイノリティです。マイノリティでいることがいやな訳ではないけれど、私が今回このインタビューを受けることにしたのは、誰かにPTA退会の話を聞いてほしかったからだと思います。誰かに話して、どこかにいる仲間にお互い頑張ったねと言い合いたいのだと思います。

―そして年度末のPTA総会で会則が変更されて「入会届」「退会届」の導入と、入退会規定の整備がなされたわけですが、それはどのようにして知ったのでしょうか?

 事前に児童を通して、改定案が配られましたので、よほどお知らせを読まない家庭以外はみんな知ることができたはずです。PTAだよりは、非会員の私にも配られるので、私もおたよりで知りました。
 退会規定の件では、臨時総会も開かれました。私も、あんなにきっちりやるなんてと、驚きました。意見はしましたが、退会時にそこまで求めたわけではありません。
PTAだよりに書かれた副校長からのコメントには「PTAはそもそも任意と知らせることが今回の総会の目的…」「どれくらい退会者が出るか見極めてから来年度の活動を…」などの文もありました。
 総会の議事の中にも「そもそも、なぜこんな話になっているのか」「退会者は少数なのに、その人たちの意向で会則まで変える必要があるのか」「入退会が自由になってしまったら、退会者が多くなってしまうのではないか」などの意見もありました。
 でも、結局、退会したのは、私を含めて2名だけとのことでした。もう一人の退会者が誰かはわかりません。
 誰が辞めたのかということで騒がれるかと思ったのですが、それよりもPTA会長が2年任期の途中なのに辞めるといったとかの噂話でもちきりで、退会規定はあまり話題に上がっていません。
 正直、もっと話題になると思っていましたし、それを知ってもらって、退会者が沢山出て活動が改善されるといいなと思っていました。
 しかし、役員会の内紛の話ばかりが話題になっていて、退会規定のほうは影が薄いのです。退会規定はかなり画期的だと思うので私としては非常に残念です。
 知り合いの中には、退会したらどうなるのか聞いてきた人もいます。その人はその後、退会届を取りに言ったのですが、副校長に引き止められたとのことでした。それほど強い引止めではなかったようですが、退会を思いとどまったそうです。
 PTAは新入生だけでなく在校生家庭のすべてに入会届けの提出を求めましたが、実際に退会する人はほとんどいなかったということです。退会するとどうなるか説明していないので、退会すると大変なことになるのかもしれないと思っている人もいると思います。
 入退会届け、規定について、特に学校からも、PTAからも、私には何の連絡もありませんでした。非会員ですから、総会にも出ていません。ですから、どのような経緯で会則の変更にまで至ったのかは、よくわかりません。

―私の想像ですが、話を聞く限りでは、入退会届や入退会規定について、PTAの役員会よりも、学校側が積極的に主導したような気がします。自主独立の組織であるべきPTAに対して学校の影響が強いのはあまりよいことではないのですが、現実には学校の下請けになっているPTAはとても多いと思います。ですから、PTAよりも学校を説得する方が早いこともあります。Yさんも途中から学校を交渉の主体に据えているように見えますが、それは戦略的なものだったのでしょうか?

 するどいですね。一回目の話し合いの時に、PTA会長はほとんど発言しませんでした。校長から「どうですか会長さん」と振られたときに発言したり、書いてあるものを読み上げたりする程度です。それでも退会者は当然排除するという意思だけは強固だったという印象です。
 話し合いの後に、学校が味方になってくれれば全て解決するのだと気がついたので、その後は主に学校(校長)を相手にすることにしました。配布物など、PTA退会にまつわるほとんどの懸念点は、学校が「全児童を平等に扱う」と言えば解決できる問題だったからです。
 また、失礼かもしれませんが、PTA会長は、臨時役員会を開いて退会者の扱いを決めるにしても、その会議自体を仕切れるようには見えなかったのです。実際、臨時役員会では、校長から役員に話をして理解を得ましたと言っていました。
 後日、役員会でごたごたがあったと聞いたので、やはりこの戦略は正しかったと思います。

―仮定の話ですが、もしPTAに対する不満(参加の強制など)がすべて話し合いの時点で解決されていたとしたら、退会せずにそのまま残るという選択肢はあったのでしょうか? また、今後YさんがPTAに復帰することはあるのでしょうか?

 それはとても難しい質問です。はじめに結論を言えば、今の時点ではそのまま残るという選択肢はありません。非常に大きな話になってしまいますが、私はPTAの問題はPTAだけでなく、日本人の考え方が象徴されている大きな問題だと思っているからです。
 まずは話をPTAに限ると、PTAの不満は大きなものから小さなものまで沢山あるので、それら全部が解決されることはないと思います。現状は、入退会の規約はできましたが、「一人一役」はそのままなので、活動の強制性はあると言えます。また、小さなところでは、PTAのお知らせに学校の校章を使用していて、学校の組織ではないのに違和感があります。
 その違和感は重要なポイントだと思います。他の場で同様のことをしたら奇妙なのにPTAではそれで良いとされるし、誰も変だと言わない。言えない。
 入退会の規約があるかなどはもちろん大切です。でも、規約にならない不文律の部分も多くの団体にあります。例えば「一人一役」について、ほとんどのPTAでは特に規約には書いていないけれど、制度として運用している。役員や係りの免除についても規約には書かれていない。ですから規約は大事ですが、規約に書かれていない「そのPTA固有の文化」も非常に重要なポイントです。
 私が、「事実上活動が強制されていることが良くない」と言い、校長もPTA会長も同意し、来年からやり方を変えたとしても、校長も会長も変わってしまう可能性がありますから、再来年からどうなるかは誰にも保証できません。「今年の会長や校長がそう言ったから強制がないように変わったけど、今まで私たちは強制されてきたのに、今年から入ってきた人はやらないなんてずるいよね」という文化が根強いものであれば、和を乱さないために事実上強制されて、不満を言えなくなる人も多いと思います。
 そのときは一時的に改善されても「PTA固有の文化」が変わらない限り、強力な改革をする人が現れても、数年後には簡単に元に戻ってしまうでしょう。
 会員がおかしいと思うことに対してその都度意見を言える雰囲気、また、それを聞いて話し合える空気などの「新しい文化」が築かれるかどうかが大切だと思いますし、それを見極めなければ再入会はないと思います。

―なるほどですね。実は私はPTAの問題とは人間関係に起因するものがほとんどではないかと考えています。人間関係がよければ、ルールの不備は乗り越えられると思うのですが、それはたまたま、そのときの人が良かっただけであって、1年後や2年後はわからない。そのためにもきっちりしたルールで「文化」をも統制できるようにしておく必要があると思います。

 私はPTAに限らず、「みんなで協力」、「みんな平等」のためになら、「多様性な考え方や個人の意見が尊重されないことは仕方がない」という考え方は良くないと思っています。
 今の小学生が大人になって働くときには、ごく普通に世界中の人たちと一緒に働く時代が来ると思っています。そうなれば、文化や価値観や意見が違うことが当たり前という前提で、話し合い、合意するということが必要になるでしょう。
 でも、その子どもの親や教職員が、「子どものためなら全員がPTAに入るのが当たり前」「PTA活動をしない親は子育てにおいての責任を果たしていない」、「みんながやっているのにやらないなんて和を乱すことは良くない」などと考えていては子どもも変わりません。「みんなと違うことは良くない」という考えに何の抵抗も感じなかったり、抵抗を感じても反対意見を言わなかったりすることは、いじめにもつながりかねなくて、問題だと感じています。
 親が少数派になることを恐れて黙っているようであれば、子どもはたとえ自分の意見も正しいと思っていても、自信を持って主張することをしなくなるでしょう。
 親がPTAのやり方に不満を持っているのに、仕方がないからと活動し、「私はやったのにあの人はやらない」と不満を言っていたら、なぜ根本的な解決をしないのだろうと子どもは疑問に思うでしょう。
 そして子供は、そのように波風を立てないやり方が賢い生き方だと学習するかもしれません。私は、自分自身が子どもを相手にする仕事をしていることもあり、そのことに危機感を覚えます。これから世界で活躍する子ども達に、そのようになって欲しくないのです。
 PTAが、自由に意見が言える雰囲気になり、それをみんなが感じられる団体になればそのときはまた入会すると思います。

―ありがとうございます。入退会届や、入退会規定の整備が本当に良かったかどうかは、今後数年間の帰趨を見る必要があるかもしれません。とはいえ、とりあえずの試みとしては評価されるべきだと思います。最後に、一連の件を振り返ってみての感想を教えてください。

 PTAを辞めるのには本当に勇気もパワーも必要です。無関心なら会員でいて、活動をサボるほうが楽でしょう。
 PTAを退会した人は非常にPTAに関心がある人なので、ちょっとしたきっかけがあればかなり協力的になるのではないかと私は想像しています。
 私自身も、保育園の保護者会が好きでした。いろいろな人がいて、楽しかった。だからあまりのギャップに余計に不満を持ってしまったのかもしれません。
 保育園は色々な事情の保護者がいることを先生も保護者も分かっています。
 大学教授同士の夫婦もいれば、精神疾患を抱えた人も、生活保護をうけている人も、10代の未婚の母も、芸能活動をしている保護者も…。
 それを分かった上でできる範囲でやっていて問題なかった。
 それなのにどうして学校に入った途端にそれができなくなってしまうのか、本当に不思議です。
 同じ地域の保護者なのに。なぜなのか知りたいです。
 きっと、うまくいっているPTAは私が経験した保育園保護者会と同じような感じなんだろうなと思うと羨ましいです。


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