セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

たそがれベス

2014年11月30日 02時32分11秒 | クエスト163以降
相変わらず更新遅くなりましてすみませんですが、短いお話お送りします~。シリアスなんだかお笑いなんだか深いんだか浅いんだかよくわからないヘンな話です。剣のお稽古をするイザヤール様と誰かの相談を淡々と聞くイザヤール様が書きたかっただけなんですが、剣のお稽古シーンはバトル漫画なんかでよくありそうなアレと思ってください・・・。スライムベスって何だかムダに熱そうなイメージですが、それもいいんでないかと思います。

 夕方の東セントシュタインの海岸で、イザヤールは一人、剣の特訓をしていた。仲間たちとの手合わせもいいが、一つの動きを極めようと反復の訓練を繰り返す無心の時間もまたいいものだ。
 打ち寄せる波に向かって垂直に大型の両手剣を構える。つう、と滑るように切っ先が上がり、海を切り裂くように刃が振り下ろされた。一瞬、文字通り海は切り裂かれた。剣から放たれた強烈な波動と風圧の延長線にある水が左右に分かれ、海底の砂が道の如く姿を表す。凄まじい衝撃を起こす程のその力は、線上にまっすぐ集中されることで、無駄なくむしろ澄みきった静を感じさせた。海は、数百の間海底を線状に覗かせてから、また元の姿に戻った。
 同じことをしばらく繰り返し、タイミングと軌道がある程度コントロールできるようになったところで、彼は小休止することにして静かに砂の上に腰を下ろした。両手剣装備の時にしか使えない技だから実用性は薄いだろうが、筋力と体幹を鍛えるのにはちょうどいい。それに、もう少し極めればだいおうクジラも一刀両断できるかもしれない。そんな努力が報われる高揚感で、彼はかすかに不敵な笑みを浮かべた。他の武器も極めているイザヤールだが、やはり剣が一番性に合っているらしいとこんなときにしみじみ感じる。
 と、ここで何者かが座っている彼の隣ににじり寄って来て、呟いた。
「アンタはいいなあ。・・・努力が実ってるみたいで」
 それは、一匹のスライムベスだった。絵面的には一気にシリアス感が吹っ飛ぶ光景となったが、イザヤールはそんなことには頓着しなかった。彼はスライムベスを一瞥してからまた海に視線を戻し、淡々と返した。
「そう見えるか」
「あったりまえだろ!」スライムベスはあからさまにぷうと膨れた。「剣で海を割るなんて、魔神並のチカラじゃあないか!・・・オレなんか、どんなに頑張っても、報われないってのにさ・・・」
「報われないかどうかは、最後までわからないだろう。・・・努力の方向が間違っていれば別だが」
 イザヤールが言うと、スライムベスはしょんぼりと項垂れて力無く呟いた。
「オレ・・・オレたちスライムベスは、努力の方向間違ってたのかなあ・・・」
「何故そう思う?」
「オレたちスライムベスは、頑張りに頑張って、フツーのスライムたちより強くなったんだ。・・・でも、大して変わらないよねーって冒険者たちに言われて、しかもスライムの方が好きとかスライムの方がカワイイとか言われちゃってるしさあ・・・。何か虚しくなっちまったんだよ・・・」
 それを聞いてイザヤールは、モンスター図鑑のスライムベスの項二ページ目に、『ファンの数ではスライムに負けている』というようなことが書いてあったのを思い出した。
「スライムに勝ちたいから努力したのか?それだけではないだろう?」
「そりゃそうだけど・・・でも、ときどき考えちまうんだ。下手に意地張らないで、スライムたちみたいにカワイイぶってたら、何か違ったのかなって」
「それがいいと思ったら、別に今からでもそうすればいいのではないか。だが、誰かの二番煎じをして好かれたところで、さほど楽しいとも思えないが」
「やっぱそうかなあ・・・」
 それからしばらく沈黙が続いた。沈み行く夕日を眺め、やがてイザヤールはかすかに笑って呟いた。
「夕焼け空は、青空の方が人気があるからと言って、妬んだりしないな」
「当たり前だろ!空なんだから!空が妬んだり悔しがったりするかよ!」
 スライムベスはまた膨れた。
「私の大切な人は」イザヤールはそれに構わず続けた。「どちらの空も、綺麗で好きだと言っていた。それぞれ違うから、いい、と」
 奇しくもミミもエルギオス様も同じことを言っていたと、イザヤールはほんの少し遠い目をして思った。エルギオス様に言われた時には、わからなかった。ミミと過ごすようになって、何となくだが、わかってきたような気がした・・・。
 それを聞いたスライムベスは、はっとした顔をした。
「そっか・・・空は気にしないんだよな・・・ただ、どっちもキレイなだけなんだよな・・・でも空は、自分がキレイなこと、なんとも思ってなくて、ただそこにあるだけなんだよな・・・それだけで、いいんだ・・・」
 何やら一人で勝手に悟っているらしいスライムベスは、急に元気になって立ち上がった(ように見えた)。
「ありがとな、オレ、やっぱりカワイイぶるのなんかやめて、今まで通りに頑張る!じゃあな!」
 特に何もしていないがとイザヤールが言う間も無く、スライムベスは勢いよく跳ねて行ってしまった。まあ元気になったのなら結構だと彼は微笑んでから、また夕日に視線を移した。この風景、ミミにも見せてやりたかったな。帰りは夜になると言っていたから、残念だ。

 ルイーダたちとの冒険から帰ってきて、セントシュタインの町に入ろうとしていたミミは、海岸側の方から楽しげに跳ねて移動しているスライムベスに、ふと目を留めた。夕日を透かしたスライムベスは、ますます燃えるような色合いに見えた。
「あのスライムベス、まるで小さな夕日みたいね。綺麗・・・」
 思わずミミはにっこり笑って呟くと、聞こえたのかスライムベスは嬉しそうな照れくさそうな甘酸っぱい表情をして、ますます勢いよく跳ねて去って行った。
 そうだ、急いで荷物を置いて、本物の夕日を海岸に見に行っちゃおうかな。イザヤール様が戻っていたらお誘いしちゃおうと、スライムベスに負けないくらい嬉しそうに、彼女は足を速めた。部屋にこそ彼は居ないが、間もなく海岸で会えるとは、ゆめにも知らずに。〈了〉
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