藤田洋子/花冠同人

藤田洋子の俳句ブログ

平成25年 花冠創刊号(9月号)

2013-10-14 21:57:09 | Weblog
 桜の実
平らかに田植の前の水明かり
田が植わり雨の水輪の広がりぬ
梅雨晴れの影を広げて丘の木々
青柿の小粒つぶらに空広し
そよぐ葉を透かす日差しに桜の実
山紫陽花空より深き藍色に
新生姜香らせ夕餉整いぬ
食卓に薔薇一輪の香りくる
ざっくりと夏蜜柑剥き香り立つ
まるまると瓶に青梅粒揃う


★平らかに田植の前の水明かり
田植前の田に水が満たされている。風が渡り、漣が寄せて、水が光を放つ静かな景色。「田水」に「水明かり」を見たのが新鮮。(高橋正子)

★梅雨晴れの影を広げて丘の木々
梅雨が晴れて、うれしいのは人々だけだはない。丘の木々もその影を自由に広げて、梅雨晴れの太陽を浴びている。快く、のびのびする風景だ。(高橋正子)



平成25年花冠8月号

2013-10-14 21:46:21 | Weblog
 富士五合目
さらさらと田水引く音足もとに
蕾ふくらむ母の日の胡蝶蘭
若楓そよぎの中の忌日かな
紫陽花に山のきれいな風が吹く
風薫る富士へと続く中央道
峰雲のほぐれ始めて初夏の富士
初夏の富士五合目に降り立てる

★さらさらと田水引く音足もとに
さらさらが淀みもなく流れていく水の気持ちよさをあらわしてくれていて、これからの田植えを待つ季節の嬉しさも強調してくれています。 (高橋秀之)

★紫陽花にきれいな山の風が吹く
梅雨入りしたばかり。ときに、山には涼しく透明な、さらっとした風が吹く。それが「きれいな風。」紫陽花をさわやかに、軽やかにしている。(高橋正子)


平成25年花冠7月号

2013-05-31 12:17:58 | Weblog
 実梅の青
芝青む丘ふくらみて子ら遊ぶ
真っ直ぐな銀杏並木のみな若葉
山晴れて筍掘りの鍬の音
朝毎に松は芯立て空へ伸ぶ
一面に風音しきり麦畑
麦の穂の揺れはそれぞれ風の中
葉の下に実梅の青のつぶらなる

★芝青む丘ふくらみて子ら遊ぶ
丘の芝も青く伸びてきて春の光景を見せてくれます。冬の間、家の中で遊ぶことの多かった子どもたちも、外へ出て遊んでおります。自然の中で元気に遊ぶ子供達を優しく見つめられています。(藤田裕子)

★真っ直ぐな銀杏並木のみな若葉
真っ直ぐな銀杏並木の整然とした若葉に、気持ちが爽やかになる。「真っ直ぐな」に読み手の背筋も伸びる思いだ。整然としたなかにも「みな」という柔らかな音の語があって、若葉の柔らかさを感じさせてくれる。(高橋正子)

★朝毎に松は芯立て空へ伸ぶ
松の芯は、20センチも、30センチも伸びてその生命力には目を見張る。朝毎にその勢いを見せてくれて、清々しい元気をもらう。(高橋正子)

★麦の穂の揺れはそれぞれ風の中
それほど強くない風。麦畑の麦の穂は、それぞれに揺れる。穂が透けて緑の色が爽やか。(高橋正子)

平成25年花冠6月号

2013-05-05 16:36:50 | Weblog
 柳青みて
ひと雨に山がふくらむ彼岸明け
咲き満ちて濠に撓める花の枝
柳青みて水に照り水に垂る
両手広げて幼ら落花浴ぶ
売り声の丘を巡れり植木市
さわさわと和紙の音して雛納む
 (香川善通寺)
大寺の蘇鉄の艶も春めける

★ひと雨に山がふくらむ彼岸明け
彼岸が明けると、寒さから解放されたように、ひと雨に足りて木々が芽吹き、山がふくらむ。「ひと雨」「彼岸明け」の季節の微妙な変化をよく捉えて秀句となった。(高橋正子)

★柳青みて水に照り水に垂る
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。(高橋正子)

★さわさわと和紙の音して雛納む
雛納めんは、幾分寂しさがつきまとうが、この句はそうではなく、「さわさわと」した気持ちで雛を納めている。雛は美しいままに、次に飾られる日を待つであろう。(高橋正子)

平成25年花冠5月号

2013-05-05 16:29:13 | Weblog
 下萌に
下萌に自転車を立て岸の風
音立てて洗う蜆の黒き艶
盛り上る土に並ぶ芽チューリップ
水一つ提げて囀りの山に入る
囀りの木々の名札のそれぞれに
春禽の丘広々と子ら駆ける
 (坊ちゃん劇場)
観劇のロビー窓より二月光

★水一つ提げて囀りの山に入る
「水一つ」は、お墓参りのバケツの水か、または山歩きのための水筒かと思うのだが、大切な「水一つ」なのである。囀りの聞こえる山は、世を離れた明るい世界。柔らかな水、囀りの山に洋子さんらしい抒情がある。(高橋正子)

★盛り上る土に並ぶ芽チューリップ
可愛い花を咲かせてくれるチューリップをお庭で育てていらっしゃるのでしょうか。球根を植える際、つちを耕したり、施肥をしたり、水やりをしたりと手を加え、次第に土が盛り上がって芽が出始めると花の咲く日が待たれます。(佃 康水)

平成25年花冠4月号

2013-05-05 16:10:24 | Weblog
 寒禽の丘
一月におろす俎板木の香り
寒禽の丘高々と広々と
梅早し街空広く澄みいたる
客を待つ椅子に水仙よく匂う
こぼれては板間を弾む年の豆
家中の灯りをつけて豆を撒く
春立ちてとんとん刻む菜のみどり

★寒禽の丘高々と広々と
高々と、また広々としているのは、寒禽の丘。寒禽がよく鳴き、自由に飛ぶ丘が想像できる。鳥たちの自由な世界は、作者ののびやかな心の証と言える。(高橋正子)

★梅早し街空広く澄みいたる
生活する街に、青空が広がる暖かい日だったのだろう。早くも梅がほころんだ。澄んだ空の色と真っ白な梅の花がきよらかな風景となっている。(高橋正子)

★春立ちてとんとん刻む菜のみどり
寒も明けて、いよいよ立春。作者のうきうきとした気持ちが、菜を刻むとんとんと小気味よいリズムに現れているようです。(安藤 智久)

漸く立春を迎え、日常の厨事の何気ない所作にも、これからは少しづつ暖かくなって来るのだ・・との隠し切れない喜びの心情が窺えて素晴らしい。みどり色の菜を「とんとん刻む」との措辞が効果的である。(桑本 栄太郎)

寒気の中にもかすかな春の兆しが感じられる立春の朝、新鮮なみどりの菜の葉をリズム良く刻む軽快な音も春めいて来ている。春を迎えるうれしさが素晴らしいです。(小口泰與)
春らしいみどりの葉を音たてて刻んでいる。春が来た喜びが一杯です。みどりの葉も嬉しいですね。(迫田 和代)


平成25年花冠3月号

2013-01-14 16:34:40 | Weblog
 初みくじ
極月の手帳に余白まだありぬ
居間隅々に新年の日が届く
実千両松の根締に深く挿し
シャンパンの気泡次々年新た
初みくじ結ぶ小枝に風そよぐ
川浅く水の寒さの透けている
雨溜めて葉牡丹の渦幾重にも

★極月の手帳に余白まだありぬ
極月も今日は半ば。手帳はまだ書き込む余白を残している。手帳の余白は大晦日までの残る日数。それを余白という白で表わした清潔感が好ましい。(高橋正子)

★初みくじ結ぶ小枝に風そよぐ
初詣で引いたおみくじは、なんと出たのであろうか。そっと見て折りたたんで小枝に結ぶ。境内には風がそよぎ、穏やかないいお正月である。(高橋正子)

平成25年花冠2月号

2013-01-14 01:00:13 | Weblog
 水仙の芽
みどり濃く水仙の芽の伸び出せり
ビルの間の落葉掃くより街動く
軒深く夜風に締まる吊るし柿
 双海町
海光に石蕗の花弁のくっきりと
幾株の石蕗連なりし海岸線
 柳井市
店々に金魚提灯旅小春
白壁の小路ひっそり冬紅葉

★みどり濃く水仙の芽の伸び出せり
芽を出すものはみんな可愛いが、水仙は「みどり濃く」芽を伸ばし始めた。真冬の花の水仙らしく、濃いみどりが生き生きとして、幸先のよさを感じる。(高橋正子)

★ビルの間の落葉掃くより街動く
寒い朝、 ビルの間に舞い散った落葉をきれいに掃くことから、街がだんだん活気づいてきます。早朝の街の一こまが、生き生きと詠まれています。 (藤田裕子)

平成25年花冠1月号

2013-01-14 00:57:29 | Weblog
 鵙高音
濯ぐ衣に金木犀の風が来る
新米の粒々うれし手に掬う
事一つ為し終えし朝鵙高音
鳩寄せて銀杏黄葉は日の中に
 考古館
秋澄める土師器一片籾のあと
古代蓮枯れて水面に立ち上がる
 石鎚スカイライン
先々に雑木紅葉の山路行く

平成24年花冠12月号

2013-01-14 00:55:20 | Weblog
 レモンの輪
レモンの輪一つ新涼のティーカップ
漂白の布巾干す窓秋の星
迎え出てともに仰ぎし十六夜
御神灯戸毎に吊るし秋澄める
 高縄山
目の高さ峰連なりて秋高し
秋晴れの嶺より瀬戸の海を指し
登り来て野萩の風のひとしきり

★レモンの輪一つ新涼のティーカップ
ティーカップに添えられた輪切りのレモン、涼しくなったこの時季、一層爽やかさを覚えます。 (藤田裕子)
新涼の日の爽やかな気分が嬉しいです。テイーカップの中に浮かべた薄切りのレモンが目に浮ぶようです。(河野啓一)