人はエレンタールのみで生きるのではない

ドクター(博士)だけどドクター(医師)ではないクローン病患者の日記、思うこと

ω-3系脂肪酸はクローン病に効果あり?~その2~

2006年04月29日 19時30分22秒 | クローン病情報

ω-3系脂肪酸はクローン病に効果あり?の後編です。前編はこちら
前回に引き続きいくつか論文を紹介します。

Nielsen et al. (2005) Omega-3 fatty acids inhibit an increase of proinflammatory cytokines in patients with active Crohn's disease compared with omega-6 fatty acids. Aliment Pharmacol Ther. 22:1121-8. [Summary]

この論文はクローン病患者を2つのグループに分け、一方にはω-3系脂肪酸を、もう一方にはω-6系脂肪酸を与え、5週間後と9週間後における炎症促進性のサイトカイン及び抗炎症性のサイトカインの変動について調べた論文です。結果、ω-3系脂肪酸を与えたグループでは、ω-6系脂肪酸を与えたグループよりも治験治療中いくつかの炎症性サイトカインの上昇を抑えることがわかりました。

ちょっとここで今までの報告をまとめてみましょう。一見、ω-3系脂肪酸はクローン病に効果があるのではないかと期待させてくれる報告ばかりです。ω-3系脂肪酸にはいくつかの炎症促進性のサイトカインの上昇を抑える働きがありそうですし(Meister et al. 2005, Nielsen et al. 2005)、実際にクローン病再発の抑制効果があることが統計的に示されました(Romano et al. 2005)。しかしながらω-3系脂肪酸を与えても1年後の再発率が61%と依然高く、画期的な抑制効果があるとは言い切れませんし(これが10~20%、せめて50%以下であったのなら嬉しいのですが)、実験の標本数が少なく感じる論文もあり、果たして個人差の大きいクローン病に対して統計的に意味のあるデータが取れているのか個人的に疑問を感じます。そんな疑心暗鬼の中飛び込んできたレビューがこちら。

MacLean et al. (2005) Systematic review of the effects of n-3 fatty acids in inflammatory bowel disease.Am J Clin Nutr. 82:611-9. [Review]

このレビューはω-3系脂肪酸のIBDに対する効果について調べた1966~2003年までの論文、及び栄養食品会社の専門家たちにおける未発表データを総合的に評価した報告です。その結果、13ある報告のうち、臨床学的、内視鏡学的、組織学的スコア、及び緩解、再発率のいずれかに対してω-3系脂肪酸がIBDに有効に働いた結果が得れたのは6報未満でした。そのうち3つの報告でω-3系脂肪酸がステロイド剤の必要量を抑制させるという結果が得れましたが、統計的違いが見られたのは僅か一報だけでした。以上、現段階ではIBDに対するω-3系脂肪酸の有効性を立証するにはまだまだデータが不十分であるといえます。

*補足リンク:オメガ-3脂肪酸にはがん予防効果なし

ここまで読んで、「なんだよ、ω-3系脂肪酸って効果ないじゃん!」と思われた方もいると思います。しかし物は考えよう。確かに現時点ではω-3系脂肪酸はクローン病抑制に効果ありとは言い切れませんが、少なくとも危険因子ではないといえます。魚料理を楽しもうではありませんか、和食万歳!

*ただし食べすぎには注意しましょう。

追加:「健康効果に疑問と英研究班 魚のオメガ3脂肪酸」原文はこちら



最新の画像もっと見る