(プレジデントオンライン)
PRESIDENT 2014年5月5日号 掲載
睡眠が不足すると、集中力が散漫になり、判断力や記憶力が低下する。睡眠の重要性はわかったが、ではどうしたら充実した睡眠をとれるのか。睡眠障害の診療を行う睡眠総合ケアクリニック代々木の井上雄一氏に聞いた。
■Q. 働き盛りの世代の睡眠には、どんな問題点がありますか?
全体的に日本のビジネスマンは短時間睡眠の傾向にあります。よくビジネス関係の本で「短時間睡眠でも大丈夫」などというものがありますが、あれは絶対に間違い。ちゃんと睡眠時間を確保してください。睡眠が不足すると、レプチンという食欲を抑制するホルモンの分泌が悪くなる一方で、グレリンという食欲を促進するホルモンが分泌されるので、肥満になりやすくなります。これに関連してメタボ、高血圧、糖尿病などになるリスクが高まります。
■Q. 肥満は睡眠時無呼吸症候群(SAS)を引き起こすということも聞きましたが。
その通り。睡眠中は筋肉が弛緩するので、仰向けに寝ていると舌が喉のほうに落ちていくのですが、太った人は気道も狭くなっているため、舌が気道を塞いでしまい呼吸ができなくなってしまう。いびきがうるさいから家族に迷惑だし、本人もそのたびに目を覚ましたり、無意識に寝返りを打ったりするので眠りが浅くなり、結果的に睡眠不足になります。顔面の骨格の奥行きが狭い日本人では、欧米人に比べて軽度の肥満で発症しやすいようです。特に中高年の男性が多いとされています。
■Q. SASは簡単に発見できますか?
寝ている間のことだから、本人はなかなか気づきにくいのですが、家族にいびきを指摘されたり、日中に強い眠気がある場合はSASを疑ってください。また夜間の血圧が下がらない、朝に頭痛がするなどの症状があれば、医師に相談したほうがいいですね。
■Q. 治療法はありますか?
もう確立されています。睡眠中、気道に空気を送り込む呼吸器「CPAP」やマウスピースなどがあります。使い勝手は向上していますので、面倒がらずに使ってください。
■Q. 忙しくて不規則な生活をしているのですが、やはり早寝早起きが理想的ですか?
そうですね。ある調査では、日本人の睡眠時間は世界で2番目に短いという結果が出ました。睡眠不足だとうつ病になりやすいという傾向があります。また生活が夜型化している人が多いのですが、体内リズムが後ろにずれ込んでいくと、これまたうつにはよくないんです。ただ、今流行りの「朝活」をしている人の中には、朝早く起きてはいるけれど、寝る時間が遅い人も多い。睡眠時間を削る朝活はダメですよ。
■Q. 早く寝るのが大事ということですね。でも寝付きが悪くて……。
休みの日でも毎日決まった時間に起きる、それと朝しっかり光を浴びる。これで体内リズムを整えること。それから夜寝る前の行動も大事です。パソコンの画面から出る光は交感神経を緊張させるため、寝る1時間半前にはスイッチを切ったほうがいい。スマホも同じです。どうしても眠れないときは寝床を離れてリラックスし、本当に眠くなってから寝床へ行くようにしてください。眠れないと思い込むと、よけいに不安が高じて眠れなくなります。入眠しやすくするアロマやサプリなどもありますが、これが合う合わないは個人差が大きい。効果が感じられないのに何万円も使っている人もいますが、合わないと思ったら深追いはやめることです。
■Q. 休みの日に寝だめをしてはいけないんですか?
寝不足が蓄積していくことを「睡眠負債」と呼びますが、借金は寝ることで返済できます。しかし、元からない借金を返すことはできない、つまり寝だめはできないんです。また慢性的な寝不足は、1日たくさん寝たくらいでは返しきれません。
■Q. では、どうしても眠いとき、昼寝は効果的ですか?
寝不足はどこかで補う必要がありますから、昼寝をするのもいいでしょう。しかし30分を超えると深い眠りが出てきて、起きたときボーッとすることが多い。夜の快眠のためにも、30分以内にとどめてください。また昼寝をする前にコーヒーを飲んでおくと、カフェインの血中濃度が上がるのに30分ほどかかるので、ちょうど目が覚めたときにすっきりしますよ。
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睡眠総合ケアクリニック代々木理事長 井上雄一 東京医科大学精神医学講座、同睡眠学講座教授。厚生労働省が後援するSAS 睡眠時無呼吸発見プロジェクトの代表顧問を務める。近著に『睡眠障害で眠れない夜の不安をみるみる解消する200%の基本ワザ』。
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(長山清子=文 澁谷高晴=撮影 PIXTA=写真)