-FACES OF STRANGERS-

【事実】は、それよりはるかに多い【顔】で覆い隠されている様に感じる。
私の心が【FACE】を捉えた瞬間を書きとめたい。

大人のための創作童話 『幸福な王子』

2012年10月05日 00時42分26秒 | カウンセリングの心と技

昔、ある町外れの丘に、王子の像が立っていました。
像は、体が金箔で覆われ、宝石で装飾が施されていて、町の象徴となっていて、それで『幸福の王子』という名前で呼ばれていました。

『幸福の王子』は、いつもこの丘の上から、町を大切に見守っていました。
でも、王子には、ふたつの不満があったのです。

ひとつは、王子は、銅像であるため、町の人々と同じように動き回ったり、お話をしたり、笑ったりすることができないことでした。
だから、いつも、丘にだれかが来るのを待っていました。
そして丘に来た人たちは、みんなで王子を見上げて、みんなでお話をして、去っていくのでした。
王子は、だからこそ、ひとりぼっちでさみしくてたまりませんでした。

もうひとつの不満は、この町が必ずしも平和ではないことでした。
町長はとてもいい暮らしをしていましたが、市民の生活はさほど裕福ではなく、そして貧しい人もたくさんいました。

王子は、一人で丘から町を眺めては、貧しい町の人たちの暮らしを想像しては心配し、涙を流しました。
「何か力になってあげたい、そうすれば私は町に貢献できる...」1日24時間、王子は涙を流し続けました。


ある日、この王子のもとに、一羽のツバメが飛んできました。

「王子様、こんにちは!」
「こんにちは! 珍しいね、ツバメが僕に声をかけるなんて」

王子は、ツバメに声をかけられ、嬉しくてたまりませんでした。
そして、ツバメに去られるのが怖くて、一生懸命話しました。
なんとか、ツバメに一緒にいて欲しいと思いました。
それで、つい、こんなことを言ってしまったのです。

「ツバメ君、ちょっと見てごらんよ。この町には、貧しい人がたくさんいる。どう思う?」
「うん、僕もさっき飛びながら見てきた。あそこにね、子どもの洋服も買ってやれない人もいたんだ」
「そうか。それじゃ、そこに、私の剣にはまっているサファイヤを届けてあげてくれないか?」

ツバメは、サファイヤをくわえて元気に飛び立っていきました。

ところが、何日経ってもツバメは帰ってきませんでした。
王子は、あのツバメにはもう会えないのだと思うと、悲しくなりました。

何日間待ったでしょうか。
ツバメがようやく帰ってきました。
よく見ると、口にあのサファイヤをくわえたままでした。

そして、こう言ったのです。

「王子様、ごめんなさい。嫌な噂を聞いて、ちょっと隣町に行ってきたんです」
「そうなんだ。隣町はどうだったのかい?」
「それが・・・」

ツバメは、小さくため息をついたあと、こう言ったのでした。

「隣町にも、”幸福の王子”と呼ばれる銅像が建っていたんです。でもね、あれは、もうないの」
「どうして、なくなったんだろう?」
「実はね、隣町の王子もね、毎日立ったまま、ツバメにね、自分の身につけている宝石を貧しい人に送り続けてもらっていたんです。そして、自分の目玉もなくなって、何も見えなくなって、さび付いちゃって、で、それでもツバメは、頑張って、王子の皮膚まで剥がして貧乏人に配っていたんだそうです。そしたらね、何が起きたと思う?」
「何が起きたの?」
「町長がね、こんなさび付いた銅像なんていらないと、王子の像を捨てて、自分の、町長の銅像を建てたんだって」
「へぇ。そんなにいいことをしたのに...」
「そのあと、町はどうなったかわかります?」
「いや。どうなったの?」
「あぶく銭をもらった成金が何人も登場してね、付近の土地を買いあさったの。そしてその土地に、首都圏の大企業がね、リゾート計画を発表して、それで地上げ騒動が起きてさ、町人たちの半数近くは追い出された。みんな逃げるようにこの町に移住してきました。」
「そうなんだ...」
「だけどね、人がいなくなるし、税金は上がるし、治安も悪くなるし。だいたいこんな田舎町に滞在型のリゾートなんて、流行っても最初の1、2年ですよ。その後町は一気に廃れて。。。」
「どうなったの?」
「町長以外ほぼ全員、貧乏人。」
「悲しいね」

ツバメはゆっくりと頷いたあと、言いました。

「さてと。僕はもう冬になるから、次の土地へ渡っていくよ」

ツバメが去った後、王子は、ツバメのことを毎日思いながら、寂しいけどなぜか幸せな気持ちに浸っていました。


それから半年が過ぎたある日のことです。

王子の肩に、一羽のツバメが止まりました。

「王子様、お久しぶりです!」
「あーツバメ君! 来てくれたの?」
「もちろん! 毎年、この時期にはここに来るので、王子様に会いに来たかったんですよ!」

「街はどうだい?」
「あ、こんなポスターが貼ってありましたよ!」

そう言ってツバメは王子様にポスターを見せました。


ポスターにはこう書いてあったのです。

      【町の幸福の象徴を、もっと輝かせよう!】

「幸福の王子像の金箔貼り替えの寄付が、もうすぐ目標額に達するそうですよ!」
「そうか。私は何もしていないのに...」

ツバメは力強く言いました。
「銅像は、動かないで見下ろしているのが役割なんです。町中が、あなたを誇りに思っていますよ!!」


王子は、初めて、一人じゃないことに、気付いたのでした。

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