西鶴さんのいう”身を過ぐる種”と”始末の二字”をおしえた松子さん。
(これこそ、世の母親が娘に伝えるべき最高の贈り物、と今、私は確信する )
そしてその薫陶を受けて育った竹子伯母さんと梅子叔母さんは、おかげで驚くほど経済観念の発達した大した生活者になった。
これは梅子オバサンの話。
梅子オバサンは夏の間、菊子ちゃん・百合子ちゃん・杏一郎くんの子供3人を連れて祖母の家に長い間滞在するのが恒例だった。
そんな夏のある日、夕飯はピザを頼もうということになった。その時の会話で強烈に印象に残っているオバサンの言葉。
「うちではね、ピザを頼む時 玄関を暗くしておくのよ。そうしたら、配達の人がなかなか家を見つけられないでしょう!」と、
屈託なく、とても楽しそうにそういった。
つまりこうである。その当時は『ピザを30分以内に届ける事が出来なかったら無料』というサービスがあった。
だから、梅子オバサンはピザを無料でゲットしようと配達の人が家を見つけにくいように玄関の明かりを暗くしたというわけだ。
正直、これを聞いた時にはドン引きした。
一生懸命ピザを届けようと頑張っているバイトの子の気持ちをオバサンは考えた事があるのだろうか?
自分の子供と同じくらいの年齢の子を気の毒だとは思わないのだろうか?
竹子伯母と梅子叔母は陽気で威勢がいいという点では2人とも共通しているが、それぞれ性質は違っている。
さて、そんな梅子叔母の屈託ない身勝手さを、後に身をもって知ることになる。