私のタイムトラベル

ある家の物語・白鷺家の人々
― 道理を破る法あれど法を破る道理なし ―

松子さんの一日

2017年11月25日 | 3. 介護編

祖母・松子さんの一日は大体こんなふうに過ぎて行った。


              ~ 松子さんと母・ユキとの会話から ~


  「お義母さん、起きてくださいよ~」 朝9時半頃である 

  「へぇ、いま何時どす? すんまへんなぁ。 こんなしんきくさい年寄り、相手にしてもろて・・・

   あんたもしんぼうづよいなあ」


いつもの口ぐせを耳に「服はこれにしましょうか。 セーターはこれ、スカートはこれ、それに靴下・・・」 と、

順番に並べていく。 ようやく着替えが終わると

  「次、なにしたらええの?」 

  「次はあたまです」と鏡台を指さす。


松子さんは手すりにすがりながら、よっこらしょと鏡の前に座る。 

髪は松子さん自身に梳いてもらう。それが終るのを待って、ゴムで髪をくくり、うしろで丸く形を整えてピンで止める。

  「次は?」 

  「顔ですよ」 

  「顔洗うとこはどこやったかいなぁ」

  「こっち、こっち 」

  「はい、ありがとう・・・わたしの歯ブラシどれやったかいな・・・どれやわからへん、なさけないなあ・・・。

   これで終わりどすか?」

  「つぎは かみさま、ほら 水、替えないと」

  「あ、そうやった」と、流しに行って水を新しくしてから、神棚にそなえ手を合わせる。

  「おはようさん。・・・・つぎは?」

  「仏壇です、それからお義父さんにお茶上げてくださいね

  「ああそやった ほんま、忘れたらおとうちゃん 怒らはるな・・・」

  「はい、これでお義母さんの朝の仕事はおわり。 じゃあ、パン焼いてきますね」


そしてパン、スープ、コーヒー、プルーン、バナナ、ヨーグルトが並び、朝の食事となる。  

 

この間に血圧測定しノートに記録、食後を待って薬の服用となる。 薬は二錠。

最初の一錠は手のひらにとって飲む。ところが続いて「もう一錠」と渡そうとすると、

条件反射のように口をポカっと開ける。

  (  もしかして竹子オバサンは直接松子さんの口に薬を入れてあげているのかナ・・!? 

 

  「お義母さん、もう一つ」と促して手のひらに薬をのせる。

   「これなんのお薬どす? 消化剤どすか??」

  「いいえ、ロカルトロール、骨を強くするお薬です」

  「へー、こんなことやったら、毒飲まされてもわかりまへんなぁ」 


こうして小1時間の朝食が終わると、一日の大半を寝て過ごした。 



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